ウクライナをめぐって欧米各国とロシアの覇権争いが熾烈を極めるなど、世界の階級矛盾が激化している。90年代初めに二極構造が崩壊したもとで、この20年来は米国が主導する形でグローバル化が一気に進み、金融資本天下をもたらす新自由主義政策が世界中で展開されてきた。しかし2008年のリーマン・ショックまできて金融投機のイカサマ商法は大破綻し、先進国も新興国もみな経済がパンクする状況となった。その後、空前の規模で金融緩和を実施してきたがそれも行き詰まり、米国の影響力が低下したもとで帝国主義間の陣取り合戦が過熱している。株価や通貨、債権の下落、軍事的衝突などさまざまな波乱要因を含みながら、世界が激動情勢に突入している。
米国に運命委ねる安倍政府
今回ロシアと欧米側の対立が激化したのは、直接には昨年12月にウクライナのヤヌコビッチ大統領がEU加盟の協定を締結しなかったことが発端になった。その後、親ロシアと見られたヤヌコビッチ大統領の辞任を求めて大規模な抗議デモが始まり、ソチ五輪でロシア政府が手をとられた2月にはウクライナ国内のデモ隊が武装化して段階を画し、ついにはクーデターによって制圧。暫定政府がヤヌコビッチ大統領の罷免を宣言するなどした。
それに対して間髪入れずにロシアがクリミアに軍隊を派遣して制圧し、クリミアでは3月中旬にロシア編入の是非を問う住民投票が実施された。その結果、投票率83・1%、賛成96%という圧倒的多数で編入が支持され、クリミア自治共和国議会も「新政府を認めない」と実質の独立宣言をやり、ロシアも編入手続きを完了させるところまできた。
経済・軍事的要衝の地 ウクライナの背景
人口約4600万人を有し、西部の穀倉地帯、東部の重工業地帯、さらに黒海に面したクリミア半島を抱える同国をめぐっては、歴史的に欧米側とロシアとの綱引きがくり広げられてきた。ロシアにとっては黒海艦隊が駐屯しているクリミア半島はとりわけ重要なポイントで、ロシアの海運の30%が通過する黒海の制海権は手放すわけにはいかない関係となっている。シリア情勢はじめ欧米に軍事的プレッシャーをかける軍事的要衝でもある。さらにウクライナの重工業(航空宇宙産業など含む)もソ連邦時代から国を代表するほどの存在だ。ロシアから欧州に輸出するためのガスはウクライナ国内にはりめぐらされたパイプラインを通じて輸出されているなど、資源大国としては欧米側に持って行かれては困る要衝となっている。
冷戦終結後、ウクライナだけでなく旧ソ連傘下の各国で、米国CIAやジョージ・ソロスのような投機筋が暗躍して「カラー革命」といわれる体制転覆があいついで起きた。ロシアと切り離して欧米側の市場として獲得していった。ウクライナでもオレンジ革命が起き、親米派が与党ポストを握ったが、如何せん政治腐敗がひどく、また権力者同士の抗争も激化して破綻し、ヤヌコビッチ体制へと切り替わっていた。
EU加盟拒否に激怒した欧米側が、ソチ五輪開催中の隙を狙って親米派を通じた体制転覆をやり、それに激怒したロシアが軍事力を行使して奪い返す。双方ともに奪いあいである。親米派には米国務省関連の組織やジョージ・ソロスが支援する団体から資金援助がおこなわれていたことも取り沙汰され、仕掛け人が誰だったのかを浮き彫りにしている。
ロシアが矢継ぎ早に手を打っていくのに対して、欧米側はプーチン大統領周辺の政治家や軍関係者の海外資産凍結や渡航禁止を打ち出したものの効果がなく、軍事力行使をほのめかした米国も正面からロシアと武力衝突することは避けている。というより、米国に戦争できる体力がないことを示すこととなった。欧米側はウクライナ暫定政府を支援しつつ、G8からのロシア追放を叫んだり、国連でクリミア併合を認めない決議を採決したり、ロシアの国際社会からの孤立化を狙った動きを外側から活発化させている。
ガス依存高い欧州各国 制裁も足並揃わず
ただ、欧州各国のなかではロシアの天然ガスに依存している国国も多く、制裁したつもりが逆に制裁を受けて経済活動が麻痺しかねない関係も明らかになっている。ロシア産のガスをもっとも輸入しているのがEUの経済大国ドイツで、自国で使用しているガスの40%をロシアに依存している。
その他のEU加盟国のガス依存度を見てみるとフィンランド、エストニア、リトアニア、スロバキア、チェコが100%、ラトビア74%、ポーランド59%、ハンガリー45%、ルーマニア21%、ブルガリア85%、ギリシャ57%、オーストリア66%、スロベニア46%、クロアチア27%、イタリア25%、フランス15%となっている。イギリスやスペインなどまったく依存していない国もある。
ロシアとの関係ではイギリスの金融業界が深いかかわりを持っているほかに、フランスは武器メーカーがロシア市場に依存して空母の建造を請け負っているなど、それぞれ対ロシアで強硬姿勢を打ち出せない事情を抱えている。利害もバラバラで足並みが揃わない。
さらに、ロシア側からの欧州への直接投資が少ないのに比べて、欧州側の多国籍企業や金融資本によるロシアへの直接投資は活発で、2013年だけでも940億㌦(約10兆円)といわれる投資額のうち75%をEU各国が投下している。ロシア制裁を実行した場合、これら投資してきた経済的な利権はみな没収され、水の泡になる関係で、米国とEUの関係も一筋縄ではない。
G8(日本、アメリカ、ロシア、ドイツ、イギリス、イタリア、フランス、カナダ)からの追放についても、ロシア高官が「欧米各国がこの方式はもう不要だと思うなら、そうなるだけの話だ。しがみつくつもりはないし、もう集まることはないと言っても大したことではない」と述べたり、プーチン大統領も「ソチ(G8開催地)に来たくないのなら来なくてよい」と発言するなど、主要国の枠組みにも縛られない対応を見せている。クリミア併合について認めないとする国連決議では、賛成100に対して反対・棄権が69カ国にのぼるなど、世界的な力関係においても、米国の覇権主義が通用しなくなっていることを伺わせた。
そうしたなかでロシアと中国が接近したり、あるいは朝鮮半島で武力衝突が起きたり、台湾でも中国に対抗する形で学生たちの国会占拠が起き、シリア問題や中東和平をめぐっても代理戦争をくり広げるロシアと欧米各国との矛盾が先鋭化するなど、諸現象が起こっている。国力の衰えを反映して、軍事的にも政治的にも世界的に影響力を失っているのが米国で、帝国主義間の市場争奪が新段階に突入していることを示している。
欧米各国とロシアのどちらが正義で、どちらが悪かという代物ではなく、双方ともに帝国主義的な利害が譲れず、ウクライナやパレスチナ、シリアなどを舞台に、各国を巻き込んで駆け引きを展開する。利害の共有できる時にはくっつき、相反するときには離れたりで、事実、ロシア対応だけ見ても矛盾に満ちている。帝国主義の利害は一致せず市場争奪戦という非和解的な矛盾を抱えているからに他ならない。
世界経済の破綻が接近 新興国バブルも行詰り
こうした情勢の背景にあるのが世界的な経済破綻の接近で、大激動の時代の到来を示している。
07年の米国サブプライムローン破綻の後、翌年にリーマン・ショックとなり、その後は欧州危機へと連鎖し、ギリシャだけでなくポルトガル、スペイン、イタリアといった国国の債務危機に発展。それらの国債を引き受けてきた世界各国の金融機関がのたうち回ることとなった。マネーゲームを謳歌してきた金融機関の損失をFRBやECB、日銀など各国中央銀行が肩代わりしながら目先の危機を回避し、さらに金融資本にマネーを投げ与えることによって新興国にバブルをつくり出してきたが、それも行き詰まった。金融緩和の限界を迎えた米国では緩和縮小が始まり、その結果、中国やロシア、ブラジル、トルコなどから膨大な投機資本が逃げ始めていた。金融危機を封じ込めたつもりが、さらに大きな国家破綻、世界的な危機へとつながった。
量的緩和で発生したマネーは米国や欧州からBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国の新興4カ国)といわれる新興国になだれこんだ。サブプライム破綻のあとは新興国バブルが世界経済を牽引するといわれていた。しかしこれも世界的に貧乏人が増えすぎた結果、経済活動が停滞し、需要が落ち込んでいることで鈍化して行き詰まった。
量的緩和はさらに、各国の通貨戦争を激化させた。自国通貨の切り下げに先進各国は躍起となり、通貨安によって自国産業の競争力を高め、近隣諸国を犠牲にすることによって乗り切ろうとしてきた。TPPをはじめとしたブロック経済のあらわれもその一環で、大恐慌に際して米国本国を防衛するため、つまり産業破綻と失業、貧困を解消するために、日本市場の全面開放を求める動きとなった。
自国権益放棄する日本 果ては肉弾も提供か
ウクライナ問題で股割き状態に置かれているのは欧州各国だけでなく、日本政府も変わらない。安倍政府が発足して真っ先に外遊したのがロシアで、北方領土交渉を再スタートさせ、豊富なエネルギー資源を誇っている極東・東シベリア地域の共同開発など経済協力の関係もすすめてきた。
日本の財界や大企業は人口1億4000万人を擁し、資源豊富なロシア市場に目をつけ、あいついで進出してきた。その数は400社ともいわれている。トヨタは150億円を投資してサンプトペテルブルクに工場(年産2万~7万台)を建設し、日産も200億円近くかけて進出(年産五万台)。ロシアでの販売台数が世界全体の約8%を占めている三菱自動車は、590億円を投じて年産12万5000台の大工場をつくっている。その他にも旭硝子、大同メタル工業、横浜ゴム、いすゞ、三菱ふそう、IHIなどが現地で操業している。三井物産はシベリア鉄道利権や港湾開発にも食い込んでいた。丸紅などの商社も食料や資源利権に食い込んで依存を深めている。さらに、天然ガスは2013年に日本国内に輸入したLNGのうち、ロシア産が1割を占めるなど、パイプライン建設の構想も温めてきた。
これらの海外権益を投げ出して米国と心中するのか、対応が迫られている。リーマン・ショック後、世界経済の動向ともかかわってアベノミクスが打ち出され、日銀が異次元の金融緩和を実施することでヘッジファンドの食いつなぎ資金を提供してきた。円高から円安に転じ、大企業は過去最高益を更新したが、世界的に購買力が低下している状況を反映して貿易も伸びず、経常収支は深刻な赤字を記録した。海外移転しているのだから輸出が伸びるわけなどなく、かえって海外移転先からの輸入が増える結果となった。また、市場にしてきた新興国の経済が後退したことも反映した。アベノミクスも浮かれていたのは数カ月で、1年たってみて既に破綻に瀕している。
米国からいわれてすぐに海外権益を投げ出すのは日本政府くらいで、今度はイランのアザガデン油田を手放したのとは比較にならないほど巨大なロシア権益を放棄しようとしている。他の資本主義国でそのようなみっともない真似をする国などおらず、異様な姿をさらしている。米国に日本市場そのものを差し出すTPPをすすめ、外資に牛耳られたなかで大企業天国の強烈な搾取構造をつくり、さらに米軍の身代わりになって世界の紛争地域で肉弾になるために集団的自衛権の行使を叫ぶなど、どこまでも奴隷根性丸出しの姿を問題にしないわけにはいかない。力を失っている米国と一蓮托生の運命に身を委ね、心中しようというのである。
世界経済の状況は80年前の1930年代に起きた世界大恐慌の時とそっくりな様相を呈している。当時も通貨切り下げ競争が起こり、公共投資と称してニューディールをやり、他国による関税引き上げなど輸入を規制する保護主義が台頭して、終いには超インフレとなって、軍事力で市場を奪いあう第二次世界大戦へと突入していった。資本主義の不治の病である過剰生産恐慌を、戦争によって打開した。破壊することによって経済を刺激し、その後の資本主義の相対的安定期をつくり出したが、80年代のプラザ合意まできて破綻し、その後あらわれた新自由主義も擬制経済を拡大して世界を大混乱させたあげく、パンクして現在に至っている。
世界経済はまったくコントロール不能になった姿を露呈している。社会がどうなろうと自分の金もうけしか考えないヘッジファンドなど金融機関が各国政府を支配して、働く者から職を奪い人民生活を窒息させてきた。その結果、失業と貧困がどこでも深刻なものとなり、購買力が低下して経済が循環しない。資源にせよ、市場にせよ、なければ軍事力をかざしてよそから暴力的に奪ってくる。資本主義経済の破綻が、侵略的で強欲きわまりない市場争奪へと駆り立て、軍事衝突の危機をつくり出している。
こうした激動する世界情勢のもとで、人人はたたかわなければ生きていけず、欧州でもアラブでも世界的に大衆斗争の機運が盛り上がり、さまざまな形で各国政府を突き上げる動きが広がっている。日本社会の行方も世界的動向と無関係ではなく、大きな変化を伴う情勢が到来している。