日本で日大アメフト問題が騒がれるなか、アメリカではトランプ大統領がアメリカンフットボールのNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)の昨季優勝チームであるフィラデルフィア・イーグルスのホワイトハウスへの招待をとりやめることを発表するなど、両者の対立が激化している。NFLの選手やコーチたちは、トランプの白人至上主義と黒人への社会的な差別抑圧に抗議して、試合前の国旗掲揚への起立を拒否してたたかっている。その姿に、スポーツ界はもとより各界から連帯の感情と支援が寄せられている。
ことの発端は、一昨年夏、サンフランシスコ・フォーティナイナーズのコリン・キャパニック選手(QB=クォーターバック)が、たび重なる警察による黒人射殺など、国家権力による黒人への横暴な振る舞いに抗議して、国旗掲揚のさいに片膝を着いてその意志をあらわしたことである。
これに対し、トランプが「われわれの国旗に不敬な態度をとる奴に、NFLチームのオーナーが“あのクソ野郎をすぐにグラウンドからつまみだせ。出てけ。クビだ”といったら最高じゃないか」と発言。これを機にNFLでは、国旗掲揚時に膝を着く選手が続出した。黒人選手の中心的な存在であるジェームズ選手は「この国を動かしているのは普通の人たちだ。1人の個人じゃないし、もちろん彼でもない」と怒りをあらわに反発。昨季最優秀選手のラッセル・ウエストブルック(サンダー)も「彼の発言は無礼だ」と語るなど、黒人選手を中心に猛烈に批判の声が上がった。
リーグは起立しない選手やスタッフがいるチームに罰金を科す規則を発表したが、選手会が反発し抗議の行動はさらに広がった。全米各地で開かれるNFLの試合では、国家演奏中にグラウンドに出てこなかったり、国歌を歌った歌手が演奏後にこぶしを上に突き上げたり、互いに腕(スクラム)を組んで抗議するチームが続出した。
スポーツ界や退役軍人らも
この抗議行動に連帯する動きはNFL以外のプロ・スポーツ界にも広がっている。米大リーグ・アスレチックスのマックスウェルが試合前の国歌演奏時に抗議の膝をつき、女子サッカーアメリカ代表のミーガン・ラピノーもフィールドにひざまずいた。
昨シーズン、プロ・バスケットボールNBAの優勝者、ウォリアーズのスター選手、スティーブン・カリーは恒例のホワイトハウスの表敬訪問に反対すると発言。チームがミーティングを開いて、全員一致で「大統領訪問を拒否する」との公式声明を発表した。声明は「われわれは自分たちにとって大切な問題に対し、自由にその意見を発言する権利を持つ市民こそがアメリカ国民だと信じている」とのべている。
こうした行動を外から真っ先に支援しているのが、退役軍人たちであった。彼らは「われわれは自由のために兵役に就いたのであって、警官の暴力のためじゃない」などとツイッターで連帯の意志をあらわした。このことは、このたびの黒人への侮蔑と抑圧への抗議の根底に、アメリカ支配層による貧困と戦争政策への歴史的な怒りをこめた深刻な問題が横たわっていることを示している。
アメリカで続く歴史的闘い
プロボクシングヘビー級世界チャンピオンとして有名なモハメド・アリがかつて、ベトナム戦争に反対し、徴兵を拒否し懲役5年、罰金1万㌦の刑を受け、チャンピオンの資格を剥奪されたが、その後復活して王者に返り咲いた。その根底にアマチュア時代、ローマ五輪で獲得した金メダルを持って帰国し、友人とレストランに入ったとき、店員に拒否され金メダルを見せて名乗っても「ここは白人専用、黒人の来るところではない」と追い出され、メダルをオハイオ川に投げ捨てた一件があった。
また、1968年のメキシコ五輪の陸上男子200㍍で19秒83の世界新記録で金メダルを獲得したスミスと、銅メダルのカーロスが表彰台に立ったとき衝撃的な抗議の姿勢を世界に示した。2人は、国歌が流れ国旗が掲揚されると顔をうつ向け、黒い手袋をした拳を高く突き上げて、当時社会を揺るがしていたブラック・パワー(黒人運動)への敬意と黒人差別への怒りを表明した。
リーマンショック以後の10年の間、若者の戦地への動員やハリケーン・カトリーナにみられる災害復興支援などでも、黒人・有色人種への露骨な差別と侮蔑が強まった。そうしたなかで、第一線に立つスポーツ選手の抗議行動は、全米に拡大している。