いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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65年経て民族の悲願を実現 南北が主導し朝鮮戦争終結へ 

金正恩と文在寅(27日、板門店)

 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と韓国の軍事境界線上にある板門店で27日、11年ぶり3回目となる南北首脳会談がおこなわれた。65年間停戦状態にある朝鮮戦争を終結させ、あらゆる敵対的な行為を中止・撤廃し、朝鮮半島の非核化と平和体制の実現に向けて関係を改善することで合意した。第二次大戦中の日本軍国主義による植民地支配、朝鮮戦争から続く米国による介入など長い苦難の歴史を経て、同じ民族またアジア人同士が血を流しあう戦争の歴史に終止符を打ち、民族の命運を他国にゆだねることなく、みずからの手で平和な未来を切り拓く道筋をつけた。民族の歴史と未来を背負った当事者同士の結束は、いかなる国際的な権威も後戻りさせることはできない。隣人である日本人民にとって、この東アジアの戦後史を画する動きにどのように向き合い、新たな国際関係を切り結ぶかが問われている。記者座談会で論議した。

 

覇権変化し激変する東アジア情勢


  今回の南北会談の成功は、南北朝鮮国内をはじめ、アジア諸国、世界に大きな衝撃を広げている。朝鮮半島では、第二次世界大戦の延長線上で引き起こされた朝鮮戦争が65年間終結することなく、米ソ二極構造の崩壊後も「北朝鮮の体制転覆」を政治目標にするアメリカの軍事介入(進駐)のもとで対立を深め、北朝鮮の核開発やミサイル発射実験へと発展し、昨年には「一触即発の危機」といわれるまでに緊張感を高めた。


 日本では安倍政府が「存立危機」を叫んで安保法制を強行採決し、Jアラートを鳴らして、核ミサイルに備えた避難訓練、巨額なミサイル迎撃システムの導入などに躍起になっていたが、今年1月の南北会談から一気に和平交渉へと急展開し、わずか4カ月足らずで南北首脳会談が実現した。メインプレイヤーは米国でも中国でもなく、北朝鮮と韓国であり、まさに同じ民族同士の努力によって民族の命運を決する動きが水面下で一気に動いていった。「想定外」の連続にうろたえ、慌ててアメリカに飛んでいった安倍政府やメディアの姿は、いかに国際社会の流れを把握できず、情勢認識が遅れているかを露呈している。


  それにしても南北首脳会談をめぐる日本の商業メディアや評論家の評価・見識があまりにも浅ましいことに唖然とする。「非核化の具体的なプロセスがない政治ショー」「金正恩のシナリオに文在寅が屈した」「北朝鮮の微笑み外交への迎合」という野次馬並みの冷やかしや、日本との関係においては「非核化の具体的な措置がない」「拉致問題に言及がない」「日本がカヤの外に置かれている」など、南北和解を冷淡に眺めながら酷評している。日朝関係においても、まるで非核化と拉致問題しかないかのような愚にもつかない論評が覆っている。

 「アメリカの核の傘」という名の内政干渉を是認し、万事アメリカに忖度することに慣れきってしまって、アジア隣国の平和への努力に冷や水をかけることを恥とも思っていない性根があらわれている。トランプの一挙手一投足には大騒ぎする一方で、そのような朝鮮民族に対する蔑視、かつての植民地宗主国としてのオーナー意識から脱却できないこと自体が、この歴史的な転換に対応できずとり残されている根拠だろう。その古びた認識では今後のアジアで居場所を失ってしまうことは歴然としている。


  今回の南北首脳会談で強調された最大の意義は、「民族の運命をみずから決定する」という点だ。その原則に則り、朝鮮戦争の終結、南北の和解と統一に向けた具体的な措置、非核化にいたるまで当事者の意志として世界に宣言した。早くて来月中にもおこなわれる米朝首脳会談への交渉の道筋をみても、南北が主導してお膳立てしており、「当事者がリードする」ことを行動上も貫いている。まるで旧知の仲のようにさえみえた首脳会談の光景は、そこにいたる過程で相当に綿密な協議がおこなわれていたことがわかる。


 D 朝鮮半島の近代史は、1905年の日露戦争後、「日韓議定書」によって日本が朝鮮を保護国にし、1910年の「日韓併合」から35年間に及ぶ植民地統治をへて、1945年の第二次世界大戦の終結によって解放された後も、5年後には朝鮮戦争が勃発するなど「戦後」といえる時代はなかった。その過程で国連軍(米軍)が侵攻し、社会主義中国との代理戦争の場となり、3年間で300万人とも500万人ともいわれる膨大な犠牲者を出した。


 休戦協定を結んだ後も、韓国には米軍が駐留した。戦争状態がつづくことによって南北関係は断絶されたまま、北は金日成体制、南ではアメリカによる実質上の統治のもとで軍事独裁体制が敷かれて反目がつづいた。それ以来65年間、南北問題は朝鮮民族の問題でありながら当事者以外の駆け引きに左右されてきた。民主化にともなってはじまった南北交流も、保守政権への回帰や、米朝関係が悪化するたびに中断されて危機を深めた。それだけに南北当事者同士による和平の実現は、南北朝鮮の人民にとって歴史的悲願であったし、底深い感動をもって歓迎されている。


  北の指導者が軍事境界線をこえて南に入ったのは史上初のことだ。これまでは考えられなかったことだ。今回、それが韓国の人人も驚くほど和やかな雰囲気のなかで円満におこなわれた。軍事境界線を歩いてこえた金正恩と出迎えた文在寅が握手を交わすと、各国の報道機関が集まるプレスセンターでは拍手喝采が起こった。日本のメディアが「韓国は冷静さを欠いている」「無条件に信用できるのか」と戸惑っていたが、それほど認識にズレがある。


 テレビ中継で会談の様子を見た韓国の人が、「これほど簡単なことが、なぜこれまでできなかったのか?」と感慨を込めて語っていたが、当事者同士がリードすることではじめてそれが可能になったことへの感動がある。日本に住む韓国人の話では、韓国では、1231年のモンゴル(蒙古)の高麗侵攻からの侵略の歴史をふり返り、「500年以上にわたる異民族支配から主権をとり戻した」との評価があるほどで、外国列強によって奪われ続けた民族の主権をとり戻したことへの底深い感慨が根底にあるという。

 

  一方の軍事恫喝に一方が屈したわけでもない。韓国がアメリカの調停に頼って実現したわけでもない。むしろ相互利益に立てばもっと早く実現できていたはずの当然の選択が、外部介入によって65年間できなかったということだ。「異民族支配」というのは65年続いてきた米国の進駐と介入にほかならない。米国が3発目の原爆を投下しようとしたのも朝鮮民族に対してだった。日本民族への殺戮作戦の延長でアジアに乗り込んだ米国の一方的な軍事的圧力が弱体化し、両国民の主権回復と和平要求が強まるなかで「民族の悲願」が実現した。それは、米朝対立による軍事衝突の危機にさらされてきた日本を含むアジア近隣国の人民にとっても歴史的な朗報といえる。

 

効力失った軍事圧力
桎梏になっていた米国の存在

 

朝鮮戦争での爆撃で亡くなった子どもたち

  南北首脳会談後に発表した「板門店(パンムンジョム)宣言」では、「韓国と北朝鮮は、南北関係の全面的で画期的な改善と発展を成し遂げ、断絶した民族の血脈をつなぎ共同繁栄と自主統一の未来を早めていく」とし、「わが民族の運命は自ら決定するという民族自主の原則を確認し、すでに採択された南北宣言とすべての合意を徹底的に履行することで、関係改善と発展の転換的局面を切り開いていく」と強調した。


 さらに、高官級会談などの各分野の対話と交渉を早期に開催すること、民間交流と協力を円満に保障するため、双方の当局者が常駐する「南北共同連絡事務所」を開城(ケソン)地域に設置すること、8月15日(独立記念日)を機に南北の離散家族・親戚の再開事業をおこなうこと、南北を結ぶ東海(トンヘ)線と京義(キョンウィ)線鉄道と道路の連結などの共同事業を進める。


 さらに「朝鮮半島にこれ以上戦争はない」と明記し、「陸海空すべての空間で、軍事的緊張と衝突の根源となっている相手側に対する一切の敵対行為を全面中止」すること、さしあたって「5月1日から軍事境界線付近で拡声器放送とビラ散布を含むすべての敵対行為を中止し、その手段を撤廃し、今後非武装地帯を実質的な平和地帯に作っていく」とした。この「敵対行為」には、さきに北朝鮮が宣言した核実験やミサイル実験の中止に加え、定例化している米韓共同軍事演習も含まれるとみられ、軍事行動を主導してきた米国の動きも縛るものだ。


 朝鮮戦争の終息と確固たる平和体制を樹立することは、「これ以上先送りできない歴史的課題」と位置づけ、「停戦協定締結65年になる今年、終戦を宣言し、停戦協定を平和協定に転換し、恒久的で堅固な平和体制構築に向けた南・北・米3者、または南・北・米・中4者会談の開催を積極的に推進していく」と明記。南北間では、いかなる武力も互いに使用しないとする不可侵合意を厳守することを確認した。


 非核化については、「完全なる非核化を通じて核のない朝鮮半島を実現するという共通の目標を確認した」とし、それに向け国際社会の支持と協力を得るために積極的に努力するとした。


  核問題は一貫して米朝問題であり、アメリカが韓国に核を持ち込んだことからはじまり、北朝鮮を「悪の枢軸」「テロ支援国家」と名指しし、その体制転覆のために先制攻撃も辞さない構えを明言したことで加速した。北朝鮮の核開発は、それによって韓国や他国の政権を転覆したり、威嚇することを目的としたものではなく、この米国の核に対抗した自衛的なものであり、「北朝鮮に対する軍事的脅威が解消され、北朝鮮の体制安全が保障されれば、核を保有する意味がない」という主張は一貫している。米朝双方が核を放棄しなければ「朝鮮半島の完全な非核化」は実現しようがない。南北会談では、体制を保証したうえで非核化の方針を示しており、あとは朝鮮半島に核攻撃能力を展開するアメリカの出方次第だ。


  1953年に締結した朝鮮戦争の休戦協定も、北朝鮮と米国、中国の調印によるもので、当事者である韓国は入っていない。当時、李承晩(のちにアメリカに亡命)が軍事指揮権をアメリカに委任して調印を拒否したからだ。それ以来、終戦協定の鍵はアメリカが握ってきたが、米朝首脳会談に先んじて、これを年内に終結させることを南北で宣言した。核を含めた軍事行動によって朝鮮半島をコントロールしてきたアメリカの縛りが弱体化し、今後軍事挑発や圧力を続けることを不可能にし、それを前提にして和平交渉が進展したことを意味している。「圧力に屈した結果」などではないのだ。


 D こうしてみるだけでも、これまでアメリカの介入がいかに南北問題解決の桎梏になってきたかがわかる。「検証可能で不可逆的な非核化」とか「今後北朝鮮が具体的な行動をとっていくかどうかだ」といったところで、南北合意の方が先に進んでおり、アメリカを揺さぶっているのがあるがままの姿だ。


 仮に米朝首脳会談が決裂したとしても、この南北合意に沿って、中国、ロシアを含めた極東の枠組みのなかでの和平プロセスへと進み、アメリカ抜きで国際紛争を解決する前例が作られることになる。シリアや中東での大失敗を抱えるトランプはこの流れに乗らなければ、アジアでも存在感を失うだけであり、譲歩する以外にない。

 

問われる独自外交力
極東の勢力再編は必至

 

  朝鮮戦争の終結と南北の関係正常化は、第二次大戦後の東アジアの軍事バランス、国際関係を激変させることになる。北朝鮮を「得体の知れない孤立国家」として、戦争状態を維持することによって、アメリカは「韓国への武力攻撃を撃退する」ためとして3万人の米軍を韓国に駐留させ、安保理決議なしに「国連軍」として軍事行動に踏み切る権限を握ってきた。在韓米軍には国連軍司令部、日本の横田基地には「国連軍後方司令部」を置き、横須賀、座間、佐世保、嘉手納など七つの在日米軍基地は国連軍基地に指定されている。戦争終結によって国連軍の解散は免れず、そして在韓、在日米軍は法的な駐留の根拠を失う。南北の友好関係の進展は、韓国が主権をとり戻していく過程であり、アメリカの要求に従う義理はなくなる。


  朝鮮戦争の果実として駐留権を認めさせたアメリカが自分から手放すことは考えにくいが、基地撤去世論は高まらざるを得ない。すでに在韓米軍の司令部はソウルから南西方面へ移転し、北朝鮮からは遠く離れた済州島にも住民の反対を押し切って海軍基地を作っている。短距離ミサイルの防衛にはなんの役にもたたないTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)の配備も含めて、在韓米軍の配置は対北朝鮮から「中国シフト」へと変化していることが問題視されている。「北朝鮮から韓国を守る」という名目で進駐していたものが、対中国の軍事拠点と化している点は在日米軍と同じで、第二次大戦、朝鮮戦争への参戦目的が「アジアの解放」のためでも「安全保障」のためでもなく、自国の覇権のためであったことを暴露している。
 在日米軍も縮小・撤去していくのが筋であり、いまから新基地を建設する必要性などどこにもない。


  日朝関係でいえば、安倍首相が連呼する拉致問題の解決も国交正常化しなければ解決の道筋は立たない。拉致問題の解決に動くこともなく、いつも政治利用するばかりで拉致被害者の家族すら「いまさらなにをいっているのか…」と愛想を尽かしている。


 南北間では、双方で数百万人もの膨大な犠牲者を出した朝鮮戦争の禍根に加え、度重なる軍事衝突、拉致問題など、分断された65年間に起きた未解決の問題など不安定要素はさまざまに抱えている。だが、戦争状態を終わらせて関係を正常化させることなしにそれらは解決できないし、再び戦争の悲劇をくり返すわけにはいかないという共通認識に立ち、それらの問題は棚上げし、それぞれの主権を認めたうえで和解にこぎつけた。そこから離散家族の再会など未解決問題の解決に着手している。


  日朝国交正常化における解決課題は、拉致問題だけにとどまらない。35年に及ぶ植民地統治が終わった後も、日本は北朝鮮を国家として承認していないため、戦後処理すらしていない。拉致被害者どころでない朝鮮人を強制連行した事実、主権を奪い植民地化した誤りを認め、賠償しなければならない。戦後はじめて小泉が訪朝した2002年には、金正日との間で「日朝平壌宣言」を結び、拉致問題の解決と同時に戦後賠償をおこなうことを約束している。これは日本が独自に交渉しなければ進みようがなく、トランプにお願いしてどうこうなるものではない。その過程をへてはじめて新しい日韓、日朝関係がはじまる。「最大限の圧力」などと連呼している限り、その機は遠ざかるばかりだ。


  「日本が蚊帳の外」だというが、安倍政府の姿勢を見る限り、むしろ蚊帳の外だったからこそ南北会談が実現したともいえる。当事者が和平で進む以上、この平和路線を歓迎して、その側に立って戦争回避の努力をすべきだが、いまも「蚊帳の外」にいながら「最大限の圧力を維持する」と圧力外交のこぶしを振り上げている。「日本が主導した圧力の結果」であるなら、トランプに「拉致問題がとり残されてはいけない」などと懇願にいく必要などないし、独自の交渉窓口を作ればいい。相手にされていないし、影響力どころか発言権すらないのが実際だ。


 歴史的に切っても切れぬ隣国として深い関係をもつ朝鮮の人人との連帯は、戦時中の悲劇を経験した日朝両民族にとって歴史的な課題であるし、アジアでの新しい国際関係を切り結ぶためには、平和と主権を脅かす勢力とのたたかいなしには進みようがない。


 朴槿恵を弾劾した韓国では、南北会談を第一歩にして民族の未来を切り拓くたたかいが発展している。日本の植民地支配から米国の軍事統治にいたる支配の鎖を断って、民族の命運をみずからが決め、主権をとり戻さないかぎり平和は勝ち取れないという独立機運の高まりが背景にある。その歴史的な願いを共有し、国民レベルの国際連帯を深めることが日本の平和と展望ある未来をつくるうえでなによりも重要だ。

 

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