収賄や職権乱用の罪で起訴された韓国の朴槿恵前大統領に対し、ソウル中央地裁は6日、懲役24年、罰金180億ウォン(約18億円)の実刑判決を下した。憲法に反して「国民から委任された権限を私的に濫用した」ことを明確にし、「二度と大統領がこの国の主人である国民から与えられた権限をむやみに濫用して国政を混乱に陥れることがくり返されないよう、厳重な責任を問わざるを得ない」とした。
判決文を読み上げた法廷内の様子は、その関心の高さから異例にも実況中継され、全国民の監視のもとでおこなわれた。朴前大統領は、審問も「(文在寅政府による)政治的な報復であり、中立性がない」と拒否しており、この日も出廷を拒否した。
判決は、収賄や強要についての18件の罪状のうち16件を有罪とし、朴前大統領と「お友だち」の崔順実(チェ・スンシル)が共謀して、電機大手のサムスンや小売り大手のロッテなどの財閥企業との取引で、崔氏が運営する財団が232億ウォン(約23億3000万円)もの賄賂を受けとったり、同氏が所有する会社に利益誘導を図るように強要したことを断罪。また朴前大統領が「お友だち」に公務上の機密情報を漏洩して国政に介入させる一方で、政権に批判的な芸術家や俳優など文化人9400人分のブラックリスト(政府の支援対象から排除)の作成を指示していたことについても言及し、民主主義の根幹である表現の自由を抑圧した責任を厳しく非難した。
国政を混乱させた「国政壟(ろう)断」と大統領罷免の主な責任が朴前大統領と崔氏にあるとのべ、「にもかかわらず、過ちを反省する姿勢を示さず、納得できないいい訳を並べ、責任を周辺(秘書官など)に転嫁した」と指摘した。
量刑理由として「被告人には、国民から委任された権限を憲法と法律に基づき、国民全体の自由と幸福、福利増進に向けて行使しなければならない義務があった。にもかかわらず、崔氏と共謀して大統領の地位と権限を濫用し、企業の財産権と企業経営の自由を深刻に侵害した」と明らかにした。憲法裁判所が「国民から委任された権限を濫用し、私益の追求を手助けし、その事実を隠蔽したことは、大統領としての公益実現の義務を重大に違反したもの」とした弾劾理由に通じる判決となった。
韓国の大統領への有罪判決は、クーデターにより軍事政権を敷いた全斗煥(反乱事件を首謀した罪や不正蓄財により死刑判決)、盧泰愚(不正政治献金により懲役17年、後に恩赦)に続き3人目となった。
また、朴槿恵と同じく保守党大統領だった李明博(イ・ミョンバク)も100億ウォン(約10億円)の収賄や350億ウォン(約35億1000万円)の横領、数十億ウォンの租税逃れの容疑で先月22日に拘束され、9日から裁判がおこなわれている。
歴史的にこれら軍事独裁や腐敗政治の清算が不徹底に終わったことによって民主化の成果が覆され、時代の逆流を経験してきた韓国では、国民や社会を蝕んできた腐敗政治の芽を摘む「積弊清算」が合い言葉となり、南北関係の正常化とあわせて国政の透明化を求める世論が高まっている。日本社会における憲政史上かつてない国家の私物化疑惑の動向についても、国際的な注目が集まっている。