アメリカの高校でまたもや銃乱射事件が起こり、高校生ら17人が殺害された。今年に入って米国の学校での発砲事件はすでに18件目で、ほぼ3日に1件が起こっている計算になる。1999年のコロンバイン高校での事件以来、銃乱射事件のたびに銃規制をめぐる論議がくり返されるが何も解決されたためしはない。そのなかで問題の根源である米国社会のあり方、軍産複合体の存在に鋭い視線が向けられている。日本の研究者の意見を参考に考えてみた。
海を隔ててキューバと向きあう米南東部フロリダ州のマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校(生徒数約3000人)で14日、同高校を退学処分になっていた19歳の少年が銃を乱射し、生徒ら17人を殺害した。少年は、半自動ライフル銃AR15と複数の弾倉を持ち、発煙筒に火を付けて火災報知器を鳴らし、生徒が逃げるところを狙い撃ったという。
報道によれば、同校は武器を持ち込ませないために所持品は透明なビニール袋に入れるよう決めており、校舎によって違う色の通行証を持たせるなど、安全対策を万全にしていることで知られる。発砲事件を想定して、教室内に逃げ込んでドアにカギをかけ、電灯を消すなどの訓練を最近おこなったばかりだったという。他の学校でも、金属探知機を設置したり、スクールポリスを配置するところもある。それでも銃乱射事件は後を絶たない。
今、同校の生徒たちは、銃乱射事件が起きるたびに政治家は学校の安全対策強化を語ることでお茶を濁していると見抜き、銃規制にとりくもうとしない政治のあり方に強い怒りをぶつけているという。高校生たちは「酒は21歳まで飲めないのに、18歳で自動小銃が合法的に買えるなんて狂っている」「2度と他の学校で起こらないよう、銃規制が実現できるまで声を上げ続ける」と決意を語り、現場の生生しい映像を拡散し世論を喚起している。17日に開かれた銃規制を訴える住民集会では、同校の女子高生が「全米ライフル協会から資金援助を受けているすべての政治家たちよ、恥を知れ!」と訴えた。
銃により毎年3万5000人が死亡
銃乱射事件が起きるたび、マスメディアは、それが自分の身を守るのに銃が手放せない開拓時代からの伝統であり、合衆国憲法にも保証されているとしたり顔で解説する。しかし、昨年10月、ラスベガスで銃乱射事件が起こり史上最悪の58人が死亡した直後、銃器関連株が大幅上昇したことはあまり知られていない。弾薬メーカーのオーリンは6・8%高で史上最高値となり、銃器メーカーのアメリカン・アウトドア・ブランズ(旧スミス&ウェッソン・ホールディングス)は8・2%高、スターム・ルーガーは6・6%高となった。昨年、朝鮮半島情勢が緊迫するたびに、ロッキード・マーチンやボーイングなどの軍需関連株が急上昇したのと同じである。また、銃の売上が一番伸びるのも銃乱射事件の後だという。
米国内には3億2000万丁の銃が出回っているといわれる。全世界の銃の半分をアメリカ人が持っていることになる。そして、毎年3万5000人が銃による殺人や自殺で命を落としており、その割合は先進国で最高だ。
国内市場だけではない。スイスの調査機関スチール・アームズ・サーベイの調査によると、世界の銃器市場は少なくとも60億㌦(6400億円)規模であり、そのうち輸出トップはアメリカで、各国に銃を売りつけて年間11億㌦(1200億円)を稼いでいる。ベトナム戦争で拳銃・ライフル部門が異常な活況となったコルト・インダストリーズは、銃乱射事件への批判世論の高まりから1999年には護身用拳銃の製造ラインを停止するまでになったが、その裏でコルト製M16マシンガンを韓国、シンガポール、フィリピンの工場で製造し、インドネシアやグアテマラ、カンボジア、ハイチ、レバノン、スリランカ、コンゴなどに大量に輸出して、それが国民の虐殺に使われた。
つまり、米国政府がかたくなに銃規制強化を拒むのも、戦争を最大のビジネスチャンスとする軍産複合体の存在があるからであり、だからこそどんなに銃乱射事件が起ころうと米国は銃を放棄できないのである。それはイスラエルやサウジアラビアなど中東の親米諸国に最新鋭の武器を売りつけ、中東で戦争の火を付けることと表裏一体のものである。
政治家操るライフル協会
2012年12月、コネティカット州で20歳の男がサンディーフック小学校の校舎に侵入し、児童を含む26人を殺害した事件があった。凶器は自動小銃ブッシュマスター223で、このような殺傷能力の高い銃器への規制が緩和されたのは、ジョージ・W・ブッシュ政府時代に銃器関連企業が活発なロビー活動をおこなった結果であった。このブッシュマスター社に投資するのはサーベラス・キャピタル・マネジメントで、レミントン社やDPRM社などの銃器製造会社を傘下に収めている。
また、事件の翌年3月、米上院は提出されていた銃規制法案を否決した。反対票を投じた議員たちは、銃規制に反対する全米ライフル協会(NRA)の潤沢な資金で買収され、その意向に沿う投票活動をおこなったといわれる。NRAには銃器メーカーが多額の資金援助をしており、歴代の大統領の多くが会員や名誉会員になっている。中東研究者の宮田律氏は、こうした銃規制に反対する動きが、米国独特の政治・経済・社会の構造から説明できることは明らかだとのべている。
度重なる銃乱射事件とそのたびにくり返される政治家のごまかしに対して、軍産複合体の存在そのものに矛先を向ける論議は高まらざるをえない。銃規制を求めて高校生たちが声を上げ、全米を巻き込んで動き始めていることが注目されている。