いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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唯一の被爆国が米国に同調 核兵器禁止条約に反対した日本

世界に恥を晒す

 ニューヨークの国連本部(国連総会第1委員会)で27日、2017年から核兵器禁止条約に向けた交渉開始を定める決議が、123カ国の賛成多数で採択された。米ロなどの核保有国が反対し、唯一の被爆国である日本もそれに追随して反対を投じた。

 

 非核保有国が主導する核兵器廃絶世論の高まりは、広島・長崎市民の凄惨な体験を根底にして、核保有国がその軍事的な威力を振り回して他国を恫喝、支配してきたことへの国際的な批判の高まり、「核なき世界」を掲げながら一向に具体的な動きを見せないどころか、新型核兵器の開発を進めるアメリカの欺瞞に対する国際世論の追撃といえる。

 そのなかで、世界で唯一核兵器の惨禍を経験した被爆国でありながら、孤立を深める原爆投下者の側に立って核兵器の禁止に反対する日本政府の動きは、被爆地をはじめ全国民的な世論と真っ向から対立し、世界的な潮流とも対立する恥ずべき姿として批判を集めている。

 
 浮き彫りになる核廃絶の妨害者


 この決議は、今年8月に採択された国連核軍縮作業部会の報告書にもとづいて、核兵器を禁止する法的措置(核兵器禁止条約)の制定に向けた交渉を2017年3月から開始するように求めるもので、オーストリアやメキシコ、アイルランド、ナイジェリア、南アフリカ、ブラジルなど50カ国以上が共同提案した。国連加盟国193カ国のなかで、エジプト、南アフリカ、スウェーデン、北朝鮮を含む123カ国が賛成し、アメリカ、イギリス、フランス、ロシアに加え、アメリカが関与して核保有が疑われるイスラエル、日本、韓国、オーストラリアなど38カ国が反対した。中国、インド、パキスタン、オランダなど16カ国は棄権した。


 決議は今後、12月の国連総会本会議で採択され、来年3月と6~7月に、交渉に向けた会議が開催されることになる。核保有国が参加しなくても条約づくりは可能であるため、孤立を恐れるアメリカは、NATO(北大西洋条約機構)加盟国や日本、韓国などの「同盟国」に、棄権ではなく反対するように要求。にもかかわらず、NATO影響下のスウェーデンは賛成に回り、加盟国のオランダも反対でなく棄権するなど影響力の低下を物語った。


 日本政府は、これまでも「すべての核兵器の禁止は、日本の安全保障政策(アメリカの核の傘)に反する」として棄権してきたが、反対に回ったのは異例。今年は、オバマ広島訪問を演出し、「核兵器のない世界を必ず実現する!」と世界に宣言しながら、現実には真反対の動きとなった。岸田文雄外相(広島一区選出)は、「(決議は)核保有国と非核保有国の対立を煽るだけ」「具体的、実践的な措置を積み重ね、核兵器のない世界を目指すという我が国の基本的立場に合致しない」と弁明するが、ただアメリカの要求に従っただけにすぎない。核大国の中国やインド、パキスタンなどは棄権にとどまり、これまで反対していた北朝鮮までが賛成に回るなかで核保有国でもないのに「核保有国の立場」や「核抑止論」を唱えて反対した日本政府の姿は、世界を驚かせている。


 決議を主導したオーストリアのクグリッツ軍縮大使は「核兵器の被害の実態を知る被爆者が訴えてきたことで、核兵器が非人道的だという認識が国際社会の中で広がった」と、広島や長崎の被爆者が果たした役割を強調。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長は、「核兵器の被害を最もよく知る被爆者の声が、決議の採択に至る過程でも非常に重要であり、今後の交渉の過程でも重要になってくる」とのべる一方、日本政府のアメリカに追従する姿勢に「世界が落胆している」とのべている。


 そもそも核兵器の保有によって軍事的な影響力を誇示しようとする核保有国と、その脅威にさらされている非核保有国の利害が一致することなどあり得ず、圧倒的多数の非核保有国や国境をこえた市民が結束して核保有国を縛り上げる以外に、核廃絶を実現する道などない。米軍占領下にあった1950年8月6日の広島で口火を切った原水爆禁止運動は、峠三吉の「原爆詩集」が全世界で感動的な共感を集めると同時に、「原水爆の無条件使用禁止」「原子兵器禁止のための厳格な国際管理の実現」「最初に原子兵器を使用した政府(米国)を人類に対する犯罪者とみなす」と唱うストックホルム・アピール(世界で五億人が署名)とともに世界的な原水爆禁止の世論を醸成した。第2次大戦後、アメリカは「原爆投下は戦争を早く終結させた」と正当化し、謝罪はおろか、核実験と開発によって核軍拡競争を先導し、いまだに世界に存在する核兵器の九割はアメリカとロシアの保有である。近年ふたたび高まる核廃絶世論は、世界を欺いてきたアメリカの欺瞞が剥がれ、広島、長崎市民の声を基礎にした、原爆投下者の犯罪を許さず、その手足を縛る原水爆禁止運動の発展を根底にしたもので、被爆地における世論と運動が国際的な連帯を広げる質を持っていることを示している。


 常任理事国だけに絶対的な力が保障される国連における非核保有国の結束した動きも、核軍事力をバックに「世界の警察官」を自称して侵略をくり返してきたアメリカの影響力の低下と、それを包囲する国際的世論の急速な高まりを示すものといえる。オバマ大統領が唱えた「核なき世界」宣言も史上初の広島訪問も、この世界的な核廃絶の潮流の煽りを受け、それを欺瞞するためであったことを物語っている。

 二重基準のNPT体制 原爆使用を正当化

 国連では、米ロ英仏中などが主導する核拡散防止条約(NPT)が、既存の核保有国だけに保有を認め、それ以外の国への核拡散を禁止するという二重基準であり、核軍縮の進展さえ見られないことから、2010年ごろから「核兵器の非人道性」を共通項に、オーストリアなどの非核保有国を中心とした「核兵器の全面禁止」を求める動きが活発化してきた。


 戦後の国際法では、国連常任理事国5カ国がすべて核保有国であることとかかわって、生物兵器、化学兵器、対人地雷、クラスター爆弾などについては「非人道兵器」として禁止条約が存在する一方で、核兵器を禁止する条約は存在しない。それは唯一の原爆使用国であるアメリカがその過ちを認めず、自国の核使用や開発を正当化し続けてきたからにほかならない。かれらは核兵器の使用を「非人道的」と認めることにすら反発してきた。NPTの条文には「各締結国は、この条約の対象である事項に関連する異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認める場合には、その主権を行使してこの条約から脱退する権利を有する」(第10条)と記しており、「場合によっては核使用を認める」というザル法である。そのもとでイスラエルやインド、パキスタンといったアメリカの影響下にある国には核保有が認められるなどの二重基準が横行し北朝鮮も逆手にとって核開発に踏み切った。


 「核なき世界」を唱えるアメリカの二枚舌は、完全に暴露されている。昨年6月のNPT再検討会議では、エジプトなどアラブ諸国による「中東の非核地帯構想」に向けて中東全体で国際会議を開く提案についても、イスラエルを擁護するアメリカが猛反発。全会一致が崩れて最終文書の採択に至らなかった。同年11月の国連総会でも、144カ国が「いかなる状況下でも核兵器が二度と使用されないことが人類の利益」とする宣言を採択したが、アメリカなど国連安保理五常任理事国は反対し、日本政府は「いかなる状況下でも」という内容が自国の核戦略に反すると主張するアメリカに同調して棄権。口先では「積極的平和主義」とか「世界平和への貢献」と叫ぶ安倍政府だが、あくまでアメリカの戦略的利害に同調し、被爆国としての国際的な信用を失っている。


 今回も、同決議には反対しながら、日本主導で別の「核廃絶に向けた共同行動を求める」決議を提案しているが、オーストリアなどの決議が法的拘束力をもって核兵器そのものを禁止することを主張しているのに対し、日本の決議は、「近年の米大統領の広島訪問を歓迎する」と賛辞を送り、「核兵器の禁止」すら求めず、抽象的に「核保有国と非核保有国の有意義な対話」を呼びかけるだけの空っぽの内容であった。安倍首相は「二三年連続の採択」「アメリカを含め、一六七カ国の賛成を得た」「そのために核兵器禁止条約の決議に反対したのは妥当」と弁解しているが、そこに被爆国として独自性はない。政府は「今後の交渉には参加する」というものの、被爆国の仮面を被ってアメリカの代弁者として横車を押す姿は、世界から完全に見放されている。



全ての核兵器の禁止を 国際的合意広がる

 だが、一部の核保有国の反対のなかで、今年8月に採択された核軍縮作業部会の報告は、アメリカなどの参加ボイコットのためかえって旗幟鮮明な内容になっている。


 報告書では、「核兵器の保有、使用、開発、製造、備蓄、移転の一般的禁止といった“核兵器のない世界”の達成と維持に必要となりうるその他の法的措置がNPTの文脈の中では詳細にわたって検討されておらず、よって緊急性をもって交渉されるべき」とNPT体制に対する国際的な多数意見を紹介し、「過半数の国」(アフリカ五四カ国、東南アジア諸国連合10カ国、ラテンアメリカ・カリブ33カ国、アジア、太平洋、欧州の諸国)や「市民社会の代表」が支持する「核兵器の完全廃棄に繋がる核兵器禁止」を定める拘束力ある法的文書には主として以下の要素を含むことを明記している。


 ①核兵器の取得、保有、備蓄、開発、実験、生産の禁止、②核兵器の使用における関与の禁止(核戦争計画への関与、核兵器の目標設定における関与、核兵器の管理要員への訓練を含む)、③国家の領土における核兵器持ち込みの禁止(核兵器搭載船舶が港湾や領海に入ることを認めること、国家の領空を核兵器搭載航空機が飛来することを認めること、国家の領土内における運搬を認めること、国家の領土において核兵器の配置や配備を認めることを含む)、④核兵器活動に対する融資や、IAEA(国際原子力機関)の包括的保障協定が適用されていない国家に対する特殊核分裂性物質の提供の禁止、⑤条約が禁止する活動に対する直接的あるいは間接的な援助、奨励、勧誘の禁止、⑥核兵器の使用及び実験の被害者の権利を認め、被害者への支援提供と環境修復を誓約する。


 また、核兵器の完全廃棄が達成されるまでの間、「事故や間違い、無許可」や、あらゆる意図的な核兵器爆発のリスクを排除するため、配備された戦略核兵器や非配備の核兵器の削減、すべての核搭載巡航ミサイルの制限など、核保有国と関連する国家に対して実践的措置を執ることを要求した。


 さらに、追加措置として、「学校及び大学のカリキュラムの一環として、また、若者の批判的思考を養うことを目的として、平和、軍縮、不拡散、国際人道法を含む国際法に関する教育と訓練を促進すること」「歴史教科書の中に、広島と長崎の原爆に関する情報、そして南太平洋その他を含めた核実験の結末についての情報を含めること」などの教育上の政策、「女性や女児の健康に対し核兵器が特有の影響を与えるという事実を特に重視すること」「核兵器の影響を直接に体験し、被爆者と交流するために、世界の指導者、政策決定者、外交官、学者に広島・長崎を訪問するよう奨励すること」など、「核兵器の人道上の結末」を理解する政策を広げていくことを求めた。


 この報告書は、賛成68票で可決され、2017年までに核兵器禁止条約に向けた交渉を開始するよう国連総会に勧告。アメリカなど22カ国が反対し、日本を含む13カ国は棄権した。過半数による採択が濃厚になるとアメリカは、「第2次世界大戦後の安全保障体制を下支えしてきた長年の戦略的安全性を損ねかねない」「条約に署名すれば、米国から核による防衛の申し出があっても、拒否せざるを得ない」などの恫喝文書を関係国に送付。だが、影響を受けたのはわずか10カ国程度で、むしろ恫喝すればするほど核廃絶の最大の妨害者としての正体を暴露し、孤立を深める力関係となっている。

 「どこの国の政府か」 被爆地の市民世論

 広島、長崎市民の間では、世界的な核廃絶世論の高まりを歓迎する一方で、日本政府の立場を問う声が高まっている。「世界の信用をみずから投げ捨てる行為」「核兵器の禁止も表明できず、どうやって廃絶ができるのか」「北朝鮮や中国の核も脅威だが、アメリカの核も脅威であり、それらすべての禁止を訴えることは日本の安全保障と矛盾するものではないはず」「いったいどこの国の政府か」と憤りが口口に語られている。


 広島市内に住む90歳の男性被爆者は、「夜も眠れないくらいの怒りを感じている。核軍拡競争や新たな核開発は、核保有国が核を手放さないことが最大の原因だし、アメリカの二重基準を追及せずに核廃絶が進むわけがない。アメリカは、広島、長崎に原爆を投下した後も、朝鮮、ベトナム、アフガン、イラクなどあらゆる国に侵攻し、枯れ葉剤などの化学兵器や小型核兵器まで使ってきた。四六時中、核攻撃のスイッチを持ち歩きながら“核なき世界”を説いて回る大統領の姿を見て、“こんなものになんの期待もできない”というのが世界の大多数の実感だろう。日本政府は今年、オバマの広島訪問でお祭り騒ぎを演出したが、核廃絶に踏み込むどころか、逆に反対に回るという恥ずべき姿を世界に晒した。今後、いくら日本が“被爆国”の立場を主張しても、誰も聞く耳を持たなくなるだろう。唯一の被爆国でありながら、原爆を投げつけたアメリカの肩を持つようでは単なる属国でしかない。恥を恥とも思わない安倍首相は、どこの国の首相なのか」と怒りをにじませた。


 別の男性被爆者は、「核抑止力をいう前に、国際法を無視して原爆という大量破壊兵器を最初に使ったのがアメリカではないか。“戦争を早く終わらせる”といいながら、広島と長崎市民を生き地獄に投げ込んだ罪は消えるものではない。その誤りを認めず、謝罪もしない国に媚びて核廃絶が実現するわけがない。まして、核保有国に抗議するのではなく、アメリカの側に立って非核保有国と敵対するという恥知らずな姿勢に怒りを感じる。安倍首相は“自主憲法を”といって憲法改定まで主張しているが、どこに自主性があるのか。広島出身の岸田外相は市民の前に出てきて説明すべきだ」と怒りを込めて語った。

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