尖閣諸島(中国名は釣魚諸島)周辺海域での海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件を契機にして、日本では右翼勢力のデモ、中国ではいくつかの都市での対日抗議デモが起こり、マスメディアが盛んに「中国脅威論」を振りまいている。もともと領土問題はどこの国にもあることであり、長期の粘り強い話し合いで解決するのが常道である。そうならないのは、戦後六五年、アメリカに占領された日本の政府が、中国を「仮想敵国」とするアメリカに基地を提供し、自衛隊をその下請軍隊とし、その尻馬に乗って、中国を含むアジアで戦争を仕かける先兵になっているからである。それは、日本全土がミサイル攻撃の標的となり、原水爆戦争の戦場となって破滅する道であり、日本の命運にかかわる重大な問題である。
尖閣諸島の周辺海域に中国漁船が大挙出漁し、海上保安庁が阻止行動に出た事件は、32年前の1978年にも起こっている。ちょうど「日中平和友好条約」締結交渉が大詰めの段階で、自民党の「タカ派」と呼ばれる連中は「尖閣の日本領有権を中国が認めることを条件とすべきだ」と主張したが、当時の福田内閣と中国政府は友好条約締結が将来にとって重要であることで一致し、尖閣諸島の領有権問題は後生に託して双方が受け入れられる方式を見つけようとなった。
領土問題では一方的な主張を押し通せば、衝突や戦争にもつながる。菅政府が「尖閣は日本の領土」を盾に中国漁船を拿捕、船長を拘留したことは、あの中国嫌いの小泉首相すらしなかったことである。アメリカからたしなめられて慌てて船長を釈放したが、今度は自民党や右翼勢力から「弱腰外交だ」となじられた。すると、「戦略的互恵関係を築く」としていた菅政府の前原外相が、「中国のとってきた措置はきわめてヒステリックなもの」と国会で答弁。「尖閣諸島の実効支配権を捨て身で守る」よう議員らに呼びかけた。また、自民党が「米グーグルの地図から中国側の呼称(釣魚諸島)を削除するよう要請した」ことを「正当な行動だ」と支持した。
またテレビや商業新聞が「弱腰外交」を叫ぶなかで、一部の親米右翼の民主党議員らもそれに輪をかけて「尖閣諸島に自衛隊を常駐させろ」「日米共同演習を実施しろ」などと軍事的緊張を煽った。
国会で「共産党」をかたる修正主義集団の志位委員長も、「中国政府や国際社会に尖閣諸島の領有権が日本にあることを主張すべきだ」と発言した。
そうした中国敵視の排外主義の風潮が強まるなかで、九月末には長崎市にある中国総領事館に発煙筒が投げ込まれたり、福岡市で中国の観光客を乗せたバスが右翼の街宣車にとりかこまれたりする事件が続発した。10月2日には、東京、札幌、京都など全国18の都市で、「中国の尖閣諸島侵略を糾弾する全国統一行動」がおこなわれた。16日には、元航空幕僚長・田母神俊雄が組織する「がんばれ、日本」と称する右翼団体など7団体計1800人が反中国の集会を開き、中国大使館にデモをかけた。
これらに触発されたように、16日から18日にかけて中国の西安、鄭州、寧波、成都、綿陽、武漢などの都市で、青年学生を中心にした対日抗議デモがおこなわれた。スローガンは「尖閣は中国の領土だ」に始まり、「国辱を忘れるな」「軍国主義反対」「打倒! 小日本(日本の蔑称)」などさまざまであった。青年らの一部は日本系のデパートやスーパー、日本料理店などのガラスを破ったり、日本車を転覆させるなどの過激な行動に走った。中国政府は「日本側の誤った言動への義憤表明は理解できるが、愛国の情熱は理性的に表現すべきだ」と求めた。
一貫した対中戦争体制 中国市場狙う米国
日本ではなぜ親米右翼が反中国を叫ぶのか、アメリカからどんなに屈辱的な扱いを受けても文句の一つもいわない連中がなぜ騒ぎ出すのか。戦後日本を単独占領したアメリカが、「冷戦」前後を問わず、一貫して中国を「仮想敵国」に仕立て、「日米安保条約」で日本を前線基地にして戦争態勢をとってきたことに根拠がある。
中国市場をめぐる争奪戦が第二次大戦における日米戦争の最大の要因であった。戦後、アメリカは100年来の野望であった世界支配、とくにアジアでの覇権確立をめざした。アメリカは日本を要石にして東南アジアに至る米軍基地網を張りめぐらし、中国など革命に勝利した国国に戦争を仕かける布陣を敷いた。1950年には朝鮮戦争をひき起こし中国にも侵攻しようとした。1960年代にはベトナム戦争をひき起こし、あわよくば中国にも拡大しようとしたが、インドシナ3国人民にうちのめされた。
中国に対しては、当時の指導部にあった自国利益第一の民族主義を利用して、反米から親米へと転換させ、社会主義を資本主義に変質させた。しかし、アメリカは中国への軍事包囲網を一刻も緩めなかった。中国が経済の急成長を遂げ、アジア諸国をはじめ影響力を拡大するなかで、アメリカはその中国がアメリカに対抗し、アジアで覇権を争う大国となることを警戒し、「軍事的に最大の潜在的競争国」と位置付けた。現在、米中の経済関係は中国にアメリカが助けられるようになっているが、それをアメリカの思い通りにするにはときに戦争をしてでも中国を屈服させる必要があるからだ。
アメリカは今年2月に発表した「四年ごとの国防政策見直し」(QDR)で、中国を「潜在的仮想敵国」と規定。中国が弾道ミサイルと巡航ミサイル、新型の攻撃型潜水艦、高性能の戦斗機など軍事力増強をはかっていると、「中国の軍事的脅威」を煽り上げた。そしてアメリカは海軍が攻撃型原潜の能力強化や無人戦斗攻撃機の配備、空軍が長距離爆撃機や新たな統合巡航ミサイルの開発など、中国に照準を合わせた前方配備体制を強化すると明言している。
QDRはまた「日韓と緊密に協力し、在日米軍再編で長期駐留を確かにし、アメリカの最西端のグアムをその地域の安全保障活動の中核にする」とうたった。同時期に米軍は中国や朝鮮など五カ国を「潜在的な核攻撃対象」とする作戦計画を発表した。
そして実際に露骨な戦争挑発をおこなった。今年1月、オバマ政府が台湾への武器売却を発表して米中関係が緊張していたさなかに、アメリカは三月に起きた「韓国」哨戒艦沈没事件を「北朝鮮の魚雷攻撃による」とでっち上げ、黄海に米原子力空母ジョージ・ワシントンを派遣して米「韓」合同演習を実施することを画策した。その演習計画は、直接には朝鮮への戦争挑発だが、中国の庭先に乗り込んで首都北京や東北地方なども対象とする文字通りの軍事威嚇であった。
中国の猛反発でジョージ・ワシントンは日本海の演習に参加したが、その後も月に1回の米「韓」合同演習をくり返している。近くは米主導で日本など15カ国が参加する大量破壊兵器拡散阻止構想(PSI)にもとづく海上封鎖訓練を実施することになっている。
オバマ政府は東南アジア地域でも、中国を意識した戦争策動を強めている。南シナ海に浮かぶ南海諸島の領有権をめぐっては早くから中国と東南アジア諸国とのあつれきがあった。今年のASEAN地域フォーラムに出席したクリントン米国務長官は、「南シナ海の自由航行権はアメリカの国益だ」と発言、ASEAN諸国と中国の対立を激化させ、中国の孤立をはかった。そしてその直後に、南シナ海をにらんだ米四軍の合同演習をフィリピン沖で実施した。10月初めには最新鋭の無人大型偵察機グローバルホークをまずグアムに配備し、やがて日本や「韓国」、東南アジア諸国にも配備して、中国の動向を逐一監視するネットワークをつくるとしている。
軍備増強を急ぐ菅政府 中国敵視煽り
菅政府も、アメリカのアジア戦略のお先棒を担いで、中国を仮想敵国とした戦時体制づくりに拍車をかけている。
尖閣諸島事件直後に発表した防衛白書や、11月策定予定の新防衛大綱素案では、中国について「重大な懸念」「直接的な脅威」と明言。沖縄や岩国で米軍再編強行姿勢を強め、沖縄に陸上自衛隊2万人を配備する計画を進め、12月には尖閣諸島を想定した日米共同の離島奪回訓練を計画している。それは、在日米軍再編で全土の基地化を進め、ミサイル防衛網と称する先制攻撃体制をつくり、日本を中国との核戦争で米本土防衛の盾にしようとするものだ。
先ごろ新防衛大綱のたたき台として首相の諮問機関が出した文書は、「受動的な平和国家から能動的な平和創造国家へ」変えるとし、専守防衛の建前すらとり払って先制攻撃体制を敷こうとしている。そして、非核三原則の「核を持ち込ませず」をとり払えと主張。集団的自衛権行使に向けて、「解釈や制度を変える必要」を明記。PKO参加五原則を修正し、戦斗の真っ只中に自衛隊を派遣して武器使用もできるよう求めている。
さらに日米政府は今年12月、陸海空自衛隊による本格的な離島奪回訓練を九州方面を中心に実施すると発表。それは、日米共同統合演習の一環で、米海軍第七艦隊が指揮し、沖縄や南西諸島での戦斗を想定している。「島を奪い返す」訓練は他国の領土を奪う訓練と同じであり、敵地侵攻訓練である。それは、中国近海で軍事衝突が起これば、米軍が参戦し、日本全土が米軍の攻撃基地となること、同盟国軍への義務として日本の自衛隊が参戦すれば、日本全土が相手国の報復攻撃の戦場になることである。それは第二次大戦での敗北とも比較にならない日本破滅の道である。
天皇を頭とする日本の支配者は戦前、「暴支膺懲」(横暴な中国を懲らしめよ)と叫んで中国を侵略し、戦火をアジア全域に拡大して惨敗。日本人320万人、アジア人民数千万人を犠牲にした。今回の尖閣諸島事件に見られるように、今日の支配者もマスメディアを動員し、中国の「軍事的脅威」を叫ぶアメリカの尻馬に乗って、中国を仮想敵とした排外主義の風潮を煽っている。それは「拉致問題」をダシに、朝鮮への敵対感情を煽る手口とうり二つである。
日本人民は二度とだまされるわけにはいかない。アジアの隣国との友好協力関係を築いてアジアの恒久平和を実現し、アメリカへの従属を断ち切ることが、独立と平和を勝ちとる日本人民の重大な責務となっている。