朝鮮半島の非核化を協議する6者協議は9月30日、朝鮮の核施設の無能力化や核計画申告の年内実施を明記し、アメリカによる朝鮮へのテロ支援国家指定解除の方針を盛り込んだ共同声明文書に合意した。ブッシュ政府が発足以来、朝鮮を「悪の枢軸」と呼んで核先制攻撃を準備し、小泉・安倍政府も追随して拉致問題で制裁・圧力に熱を上げ、戦争まで仕かける姿勢をとり、朝鮮も対抗して核実験に踏み切るなど、東北アジアは一触即発の緊張状態にあった。今回の合意は、ブッシュ政府の「反テロ」を掲げた戦争政策がイラク、アフガンをはじめ世界の反米斗争によって破綻し、手直しを余儀なくされた結果である。福田首相は所信表明で「不幸な過去を清算して日朝国交正常化をはかる」とのべたが、朝鮮敵視の圧力一辺倒の戦争政策を転換し、真に国交正常化による諸問題の解決をすすめなければならない。
テロ支援国家指定も解除 共同声明
今回の6者協議の合意内容は、朝鮮の核施設の稼働停止という「初期段階」を核無能力化の「第2の段階」に進めて、保有する核兵器やプルトニウムの廃棄につなげるものだ。対応して5者によるエネルギー支援や、アメリカによるテロ支援国家指定と対敵国通商法の解除方針を盛り込んでいる。こうして信頼関係を構築し、米朝間の交戦状態の終結、平和協定の締結も視野に入れている。2日から始まった南北朝鮮の首脳会談も、「平和体制構築を核心」としている。半世紀をこえる朝鮮半島の緊張状態の解消は、アジアと日本の平和にとってきわめて重要な問題である。
また合意文書には、米朝と並んで日朝関係の正常化の推進も盛り込んでいる。だが、町村官房長官は「基本的に拉致問題でなんら進展がない」として、朝鮮船舶の入港全面停止や全品目の輸入禁止など10月中旬で期限切れとなる日本独自の制裁措置を半年間延長する方針を固めている。東北アジア情勢の変化に対応できず、アジアの孤児になろうとしている。
イラクやアフガン等 各国人民の斗いと運動
ブッシュ政府は2001年に登場、とくに「9・11ニューヨークテロ事件」を契機に「反テロ戦争」を叫んでアフガン侵略を開始した。「テロリストにつくか、アメリカにつくか」と世界各国を脅しあげ、ロシアや中国なども「国際反テロ同盟」に組み込んで、「自由世界を守るのだ」と大変な鼻息であった。あれから6年、ブッシュ政府はイラクやアフガニスタンで深い泥沼にはまり、中南米では市場原理主義のグローバル化に反対する左派政府が相次いで誕生し「反テロ戦争」を掲げた「一極覇権主義」反対が世界の潮流となった。
アメリカ国内でも、イラク戦争反対の大衆世論と運動が高まるなかで、昨年の中間選挙でブッシュ共和党が惨敗し、政府内から好戦的なネオコン(新保守主義)族をはじめ側近が次次に離れ、ブッシュは「死に体」となった。来年秋の大統領選挙を前に、民主党が半年繰り上げて選挙戦を始めるなど、これまでブッシュを支えてきた独占財団など支配層中枢は、ブッシュを見限り次の代理人の物色を始めている。ブッシュ政府が対朝鮮の核先制攻撃政策を「対話」政策に転換したのは、「単独行動主義」の大破綻にほかならない。
6年前の10月、国際テロリストをかくまっているとして米英軍はアフガンを侵略、タリバン政府を転覆した。北大西洋条約機構(NATO)各国も参戦、ロシアも中央アジアの軍事基地を提供した。インド洋で海上自衛隊から給油を受けた米英艦船から、空爆機が飛び立ち、アフガン全土を廃虚とし、罪のない住民を殺しまくった。反米感情が日ごとに強まるなか、旧タリバン勢力などが武装抵抗斗争に決起し、いまでは東南部から西部へ、首都周辺まで広がり、多国籍軍の犠牲者は増える一方となっている。「民主主義のモデル」とされたカルザイかいらい政府は風前の灯火となり、NATO諸国も多国籍軍の増派をしぶり、撤退を表明する国も出始めている。
「大量破壊兵器」とか、「テロ支援」を口実に始めたイラク戦争は、ベトナム戦争の戦費を上回る6000億㌦を投じ、米軍約14万人、「有志連合」36カ国、約3万人を動員し、主権国家のフセイン政府を転覆した。だが、約20万人に達するイラク抵抗勢力は、ゲリラ戦から組織的反撃戦で米英や多国籍軍を打ち負かし、米軍だけでもすでに3800人が死亡、2万人をこえる負傷者を生み出した。「有志連合」から2000人以上の部隊を派遣していたスペインやイタリア、ウクライナなどが撤退、イギリスまでが南部のイラク第2の都市バスラを撤退、ピーク時の8500人から2500人に削減した。残るは数100人、数10人を派遣する20数カ国となった。もはや米軍増派しかできなくなり、今年初め約3万人を増派したが、「掃討作戦」は大失敗した。兵力補給は底をつき、米軍撤退世論を一段と盛り上げることとなっている。
イラクの「大量破壊兵器保有」の大うそがあばかれ、イラク侵略がもっぱら石油略奪のため、中東支配のためであることを世界中で知らないものはいなくなった。このため、ブッシュに付き従ってイラク戦争に加担したスペインのアスナール、イタリアのベルルスコーニ、イギリスのブレアそして日本の安倍などが相次いで倒れた。
ブッシュ政府内でも、イラク戦争を主導したネオコン族は、ラムズフェルド国防長官をはじめウルフォビッツ、ボルトンと相次いで閣外に去り、最近では大統領補佐官から報道官までブッシュ側近も逃げ出してしまった。「レームダック」と化した息子を見かねて、昨年末には老ブッシュが側近だったベーカー元国務長官をかり出し「イラク研究グループ」の提言まで出させた。だがブッシュはそれにも耳を貸さずに増派に走ったために、イラクで退くに退けない窮地に立たされている。
そのなかで、米上院がイラク3分割法を可決し、永久占領のもくろみを自己暴露したため、かいらい政府からまで反発されるなど醜態をさらしている。共和党の重鎮だったFRB(米中央銀行)の前議長グリーンスパンが先日、イラク戦争は石油のためだったと明言したことは、支配階級中枢がブッシュを見限った証でもある。
中南米でも グローバル化策と対決
中南米では近年、キューバ、ベネズエラ、ボリビア3国を軸にした反米連合が生まれている。南米では2カ国を除いて左派または中道左派政府が相次いで生まれ、中米でもニカラグアに反米政府が復活した。
長年にわたってアメリカが「裏庭」として好き勝手に支配してきた中南米は、いまやアメリカのグローバル化推進のための米州自由貿易圏を打ち砕く最前線となっている。市場原理主義による新自由主義を押しつけられ、国の富を多国籍企業に奪われ、1日1㌦の生活を強いられてきた貧困層を中心とする各階層人民が、もう我慢ならないと立ち上がり、国の主人公となることをめざすようになっている。そして南米共同体を結成し、石油や天然ガスなどをパイプラインで供給するなど、互いに助け合って経済の繁栄、生活の向上をはかっている。ブッシュ政府や多国籍企業はこの事態の発展に地団駄を踏むが、手も足も出ないようになっている。
最近、日本の知識人のあいだで小泉・安倍外交が行き詰まったわけは「9・11シンドローム」で動いているという認識で舵取りをしてきたが、世界の潮流は実は「脱9・11」という状況になっているからだと語られている。
安倍内閣も退陣 戦争政治は行き詰まり
小泉政府は「9・11事件」を機にブッシュが号令した「反テロ戦争」に飛びつき、「テロ特措法」をわずか1週間で強行して、自衛隊を戦後初めて戦場に送った。イラク開戦となれば、陸上自衛隊と航空自衛隊をイラク現地に派遣した。世界規模の米軍再編の一環としての在日米軍再編では、岩国への米艦載機部隊の移転や沖縄・名護への普天間基地の移転強化を強引に進めようとして猛反発を食らっている。
拉致問題では、安倍を先頭に朝鮮との約束をほごにして5人の拉致被害者を人質にとり、朝鮮への排外主義キャンペーンの道具とし、朝鮮がいまにも日本に攻めてくるかのような危機感を煽った。それをテコに防衛庁を「省」に格上げし、自衛隊の海外派兵を本来任務とし、朝鮮のミサイル基地への先制攻撃を公言するまでになった。朝鮮のミサイル実験、核実験に対しては、国連で武力攻撃を容認する決議採択の先頭に立ち、日本独自の制裁まで発動した。在日朝鮮人への弾圧も格段に強化した。
国民保護法を制定し、対テロ訓練を全国各地で実施し、国民を戦争に総動員する訓練までした。まさに拉致問題は戦争をやる体制をつくるために利用したものであった。安倍は憲法改定でアメリカのために戦争のできる国とし、集団的自衛権を行使して米軍を支援し、ミサイル防衛(MD)システムで日本をアメリカ本土を守る盾にしようとした。だが、第2次大戦の経験者をはじめ2度と戦争を許さないとする圧倒的多数の国民は、先の参院選で安倍自民党に鉄槌を下し、安倍を無様な敵前逃亡に追い込んだ。
世界を見ても、日本を見ても、本当に力を持っているのは生産を担い社会を発展させる労働者、農漁民をはじめとする勤労人民である。ブッシュやそのポチとなった小泉、安倍などがいかに権力をかさにごう慢不遜に振る舞い、戦争の道を暴走しても、勤労大衆の力に勝てるものではない。