日朝首脳による9月の「平壌宣言」で国交正常化の道が開け、両国民に歓迎された。戦後半世紀以上もつづいた敵対的な交戦状態を終結して国交を正常化するのは、日朝両国とアジアの平和にとってきわめて重要である。ところが2カ月たった今日、国交正常化のぶちこわしがすすんでいる。商業マスメディアは拉致問題だけを一方的に騒ぎ、アメリカが核開発の放棄が先決といい出して、小泉首相は当初いっていた「正常化交渉の場で議論したい」とする立場を投げ捨てて、正常化交渉は暗礁に乗りあげてしまった。日朝間の平和と友好関係をすすめるようなふりをして、実際には朝鮮敵視をあおる材料にし、戦争の方向に利用しているのである。それは拉致被害にとどまるだけでなく、すべての日朝両国民をもっと大規模な不幸に導こうとする危険性をもっていることをみないわけにはいかない。
拉致問題を戦争に利用する本末転倒
拉致被害にあった人人とその家族の悲しみや痛みは察するにあまりある。日朝首脳会談で朝鮮側が認めた、なんの罪もない人人の拉致は、断じてあってはならない犯罪である。それは徹底的調査と解明を求めるのも当然である。
ここで、今回の日本の家族の痛みを理解するものは、戦前の朝鮮人の拉致・連行と、それによって残虐なあつかいを受け、どことも知れずに殺されていった朝鮮人家族の痛みと同じであることを理解せざるをえない。日本人も朝鮮人も肉親を思う心は同じである。
戦前、100万をこえる朝鮮人が拉致・連行されて、炭鉱などで奴隷労働を強いられ、いずことも知れず数十万人が死んだり、徴兵されて戦場に倒れたりした。何百万という朝鮮人家族が味わった苦しみ、悲しみに思いを寄せずに、相手の拉致問題だけを騒ぎたて、敵対感情をあおることは、両国の歴史を直視し、国交正常化で新しい信頼関係をうち立てることに逆行するものである。それは誇りある日本民族としては恥ずかしいことである。
「平壌宣言」では、日本が朝鮮の植民地支配で「多大の苦痛と損害を与えたことに、痛切な反省と心からのおわび」をし、国交の正常化交渉を約束した。だが、テレビ、新聞はそのような問題には一つもふれずに、「家族の心情」を思いやるふりをして、明けても暮れても拉致問題を感情的にあおるばかりであった。商業マスメディアの意図的な騒動を「世論の力」などといって、外務省も小泉首相も自分がやった北朝鮮との約束を破り、国際的な信用も投げ捨てて、正常化交渉のぶちこわしに動いている。
拉致被害者5人の一時帰国は、家族はもとよりみなの喜びであった。家族との24年ぶりの再会場面に涙した人も少なくなかった。だが、政府が「5人は帰さない。子どもたちを帰せ」といい出して、事態は暗転した。それも、5人が一度帰って子どもたちを説得したいという気持ちを無視したものであった。事件は不幸であるが、24年の歳月がたち、子どもたちは朝鮮で生活しているなかで、その事情も無視して、朝鮮が子どもたちを帰さないならば、正常化交渉はできないというのは乱暴きわまりないことである。
だれが考えても、5人が永住帰国を選ぼうが、朝鮮在住を選ぼうが、国交を回復して自由に行き来ができるようになればわけなく解決することである。政府はさらに、死亡したとされる8人の真相解明に加え、最近では行方不明者70~80人がいる、これも朝鮮側が明らかにしなければ交渉に応じられないといい出している。
商業マスメディアの異常な騒ぎと小泉政府の強硬姿勢への転換は、日本の国益を考えたものではなくアメリカ政府の態度におもねたものである。アメリカは、日朝会談の評価をひかえていたが、朝鮮の核開発問題を持ちこんだ。小泉政府はそれに飛びつき、「核開発計画を放棄しなければ正常化交渉に応じない」といい出した。
緊張の原因は米国 「脅威」騒ぎ核で恫喝
もともと核問題は米朝間の問題である。1994年に朝鮮が核開発を放棄する見返りとして、アメリカ政府が朝鮮に軽水炉2基を建設し、代替エネルギーとして年間50万㌧の重油を供給するという米朝合意が生まれた。だが、アメリカは2003年の軽水炉建設の約束を守らなかったばかりか、ブッシュ政府は朝鮮を「悪の枢軸」と名指しし、先制核攻撃の対象にあげて緊張を激化させた経過がある。
戦後の歴史は、アメリカが日本を基地にし、朝鮮南部にかいらい政府をおき、朝鮮戦争をひき起こして南北を分断してきた。アメリカは日本と「韓国」に核攻撃基地を配備し、北朝鮮を核攻撃で脅してきた関係である。日朝間の核兵器をめぐる緊張は、朝鮮が核開発をやめれば解決するものではなく、アメリカが核配備をやめなければ解決できない。
北朝鮮の核開発計画についてアメリカ政府は、それが計画段階にすぎず、運搬手段に乏しく、ただちに脅威にならないことをじゅうぶん知りながら、自分の約束違反はたなにあげて朝鮮の「脅威」を騒ぎたてた。そして、日本、「韓国」はもとより欧州、ロシア、中国をもまきこんで、「朝鮮包囲網」をつくった。
14日の朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)の理事会では、朝鮮が計画を放棄しないかぎり、重油供給を12月から中止することを決め、軽水炉建設の中止もありうると脅しをかけている。これは事実上、制裁措置の発動であり、1993年と同様に朝鮮の核開発を口実に核攻撃を加える恫喝(どうかつ)である。
さらに現在米軍は朝鮮への軍事恫喝の動きを強めている。島根県隠岐島沖から鹿児島県沖などで突然水中爆破訓練を実施し、ミサイル防衛計画の日米共同技術研究を加速し、開発・配備をすすめようとしていること、今月11日からの日米共同統合実動演習などがそれである。
ミサイル防衛計画の加速化は、朝鮮の核開発や弾道ミサイルへの「日本の抑止力を強める」と公言している。日米両軍約2万人による九州・関東地域を中心にした日米共同統合実動演習は、先制攻撃における両軍の連携強化を眼目にしている。その一環の大分県日出生台での演習であり、抗議した人人にたいし、現地自衛隊指令が「抗議するとはなにごとか。これは北朝鮮の攻撃を抑止するためだ」といいはなつという事件も起きている。
日朝国交正常化は、なによりも日本の独立と平和的発展、アジア諸民族の平和的共存共栄の確立にとって重要である。日朝間の国交が樹立されて、貿易、文化・人事交流が自由におこなわれるようになることは、北東アジアに戦争の原因になるような緊張した空気をなくし、沖縄をはじめ日本全土の米軍基地を核攻撃の基地にしたり、自衛隊をアメリカの戦争に動員する口実がなくなる。
日朝の国交の正常化は、アメリカが日本を従属下におき、日本の政治、経済、文化の全面にわたって思うままに支配している状態をあらため、日本の独立、民主、平和、繁栄という根本的な要求を実現するうえできわめて重要である。
国交正常化交渉をぶちこわし、核攻撃もふくむ戦争動員に利用し、日朝両国民に大きな不幸をもたらすたくらみを容認するわけにはいかない。