アメリカ発の金融恐慌は今や1930年代恐慌をしのぐ世界恐慌へと進んでいる。米欧日政府は恐慌の張本人である金融巨頭や自動車資本などを救済するために巨額の公的資金(血税)をつぎ込み、労働者の首切り、賃下げ、医療・福祉の切り捨てなどで生き延びることを助けている。世界のとりわけ欧米諸国の労働者や各階層人民は、大規模なゼネストや集会・デモなどを次次に展開している。そのスローガンも、「銀行より人民を救え」から「金融システムが貧富の格差を拡大した」「資本主義は破産したのだ」と、資本主義制度そのものを指弾し、その変革を求めるものへと発展している。
震源地のアメリカでは、ブッシュ前政府の金融機関救済策に続いて、オバマ新政府も2月9日に7870億㌦(約72兆円)の景気刺激策をうち出し翌10日には1兆5000億㌦(約136兆円)の金融安定化策を出し、FRB(中央銀行に相当)も信用収縮緩和策を1兆㌦(約100兆円)に拡大した。景気対策は400万人の雇用創出をうたったが、翌日の株価の暴落がそれができないことを証明した。金融安定化策も、今年過去最高の2兆㌦という財政赤字が予想されるなかで、まだ空手形にすぎない。これから各種債券を発行、とくに国債を発行して日本や中国に購入してもらわない限りどうにもならない。
このほか、政府は最大の保険会社AIGに公的資金1700億㌦(約17兆円)を注入し、最大手銀行シティーグループの優先株を購入して総株式の36%を握る筆頭株主になるなど、事実上の国有化をおこなった。また世界最大の自動車独占GMに対しても、政府が約300億㌦(約3兆円)を投入、その条件として労働者の大量解雇、大幅賃下げの計画を提示することを迫った。
ブッシュ政府の第1次銀行救済策に対してニューヨーク市民は証券取引所前で、「銀行救済でなく、われわれを救え」と叫んで抗議した。労働者に犠牲を押しつけて、金融・産業独占企業だけを生き残らせる政府の景気対策への怒りは、国家管理下のAIGが子会社の幹部社員400人に対して総額2億1800万㌦(約210億円)ものボーナスを支給したことをめぐって爆発した。
本社のあるニューヨークや全米の支店所在地には、「AIGはわが家から泥棒した」と書いたプラカードを掲げた労働者・市民が連日のように押しかけた。国際サービス従業員組合はバンク・オブ・アメリカやAIGに押しかけて「大銀行よ、われわれの税金を何に使ったのか」と血税を首脳陣のボーナスに流用した背信行為を糾弾した。
オバマ政府の経済政策に抗議する第1回目の抗議行動は2月27日、全米40以上の都市でおこなわれた。4月15日、その第2波が全国2000カ所でおこなわれた。アイオワ州デモイン市の抗議行動では、「歴代政府が財政資金を湯水のように使い続け、ばく大な財政赤字を人民に押しかぶせることを許すわけにはいかない。革命的機運が満ちあふれている」と中小業者の1人が語った。その他の都市でも、「ウソつきもののオバマの手足を縛ろう」と書いたプラカードが見られるなど、オバマ政府への幻想はみじんもないことを示した。
GM自動車は2月中旬、世界で4万7000人(うちアメリカ国内で2万1000人)を解雇し、14カ所の生産拠点を閉鎖し、販売店を2146店閉めて、政府から166億㌦の資金支援を得るという「再建計画」を出した。同26日、欧州14カ所で労働者が一斉に抗議行動に決起した。
オペル本社のあるドイツのリュッセルハイムでは1万5000人が解雇反対を訴えてデモ行進。スウェーデンのサーブ工場前では3000人が抗議デモをおこなった。
ボクスホールのあるイギリスや、ブラジルのサン・カエターノ・ド・スールなどでも抗議行動が展開されるなど、斗争は国境を越えた。
欧州諸国の政府も金融機関や独占企業を救済するために、巨額の公的資金を投入した。ドイツが銀行救済のために5000億、景気対策で820億。イギリスが公定金利の1・5%への大幅引き下げ、4000億の金融救済。フランスが3600億の金融救済と260億の景気刺激策、それに50億~60億の自動車資本救済。イタリアも銀行と自動車会社救済で20億。ギリシャも280億の銀行救済などである。
いずれも財政赤字に苦しむなかで、これらの資金は各種債券を発行して集めるほかない。フランスを例にとれば、債務総額は1兆3000億、財政赤字はGDP(国内総生産)の5・4%を占める。GDP成長率は昨年が0・7%、今年は1・9%落ちてマイナス成長となり、現在220万の失業者がさらに増えることは必至となっている。
こうした各国政府の経済政策に抗議する斗争が、大きく盛り上がっている。
フランス・1月と3月にゼネスト
フランスでは今年1月29日と3月19日、八大全国労組の呼びかけに応えて、公共部門と民間部門の労働者がゼネストを決行した。1月には250万人、3月には300万人が全国200カ所以上で集会・デモをおこなった。労働者らは郵政民営化や公務員削減、とくに教師削減の「教育改革」、医療・福祉の切り捨てなどに強く反対した。
また4月初めに開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に反対して、フランスのストラスブールで果敢なデモが展開された。NATOが域外派兵を決めて10年がたったが、結局アメリカのイラク、アフガニスタン侵略に加担させられ、多くの犠牲者と財政負担を強いられたということに怒りがぶちまけられた。
ギリシャでは昨年12月、金融機関救済抗議のデモと2つの全国労組の24時間ストがたたかわれた。きっかけは一少年が警察に射殺されたことに青年が決起したことだったが、貧困ライン以下の生活を強いられている人が人口の5分の1もいるなかで、政府が銀行や企業の味方となっていることに対する抗議であった。
イギリス・ロンドンで大抗議行動
主要国20カ国首脳が恐慌対策を協議する金融サミットに対して、イギリス人民は先月末から今月1日にかけて、ロンドンで大規模な抗議行動をおこなった。労働組合、反戦団体、環境保護団体、学生組織など150以上の社会団体でつくられた共同斗争組織「人民を第1に」が呼びかけた。
ロンドンの金融センター・シティ周辺では、1万5000人のデモ隊が「資本主義は破産した」「経済危機の原因は銀行だ」などのプラカードを掲げていた。また中央銀行イングランド銀行前では、「金融システムが貧富の格差を拡大している」とのスローガンが叫ばれた。投機のあげく破たんし、税金を吸いとって生き延びるロイヤル・バンク・オブ・スコットランドにも、「恥を知れ」とのシュプレがくり返し叫ばれた。
ロンドンでの一連の行動のなかで、「企業の利益よりも人民の生活を守れ」「大金持ちのためでなく、人民のために税金を使え」「人民が求めているのは爆弾ではなく雇用だ」などのプラカードがめだった。「人民を第1に」の代表は、「われわれはイギリス政府及び世界各国政府の指導者に対し、人民の利益を第1に守るよう要求していく構えである」とのべた。
この日、イタリアのローマでも、6000人のデモ隊が沿道の銀行や保険会社に抗議のこぶしを突き上げて行進した。ドイツのベルリンや、フランクフルトでは四万人、オーストリアのウィーンで6500人、スペインのマドリードの5000人など、欧州各国で金融サミットに反対する行動がとりくまれた。フランスのパリでは、金融資本の投機の道具である租税回避地「島」を破壊する演出もおこなわれた。
20年前に社会主義が崩壊し、欧米資本の従属国となった中・東欧諸国では、アメリカ発の金融恐慌、西欧諸国の大不況の津波に襲われて株価暴落、通貨下落、景気後退が進んでおり、世界恐慌の第2の発火点になるすう勢となっている。
バルト3国等緊縮政策に 抗議し集会
東欧諸国でももっとも深刻なのは、バルト3国である。ラトビアを例にとれば、欧米銀行が国内融資額の90%に達し、バブル経済を膨張させていたところに金融恐慌が襲いかかった。欧米銀行は一斉に資金を引き揚げ、バブルははじけて実体経済が縮小、今年の成長率予測はマイナス6」・9%と欧州で最悪の見通しとなった。資本は大量の労働者解雇に走り失業率は今年1月8・3%に上がり、今年中に12%となると予測されている。
ラトビア政府が昨年、国際通貨基金(IMF)と欧州連合(EU)から受けた「支援」の条件である賃下げを含む緊縮政策を人民に押しつけようとしたため今年初めから反撃が始まった。1月16日、首都リガで1980年代後半以来最大規模の1万人集会が開かれ、政府の経済政策を非難した。同27日には約4000人の農民がミルクなど、低い農産物価格などへの政府援助を求めて、30都市で行動を起こした。ラトビアの斗争は隣国リトアニアにも広がった。
社会主義体制のもとで一定の産業水準を築き上げ、労働能力も高い中・東欧諸国は、資本主義に逆戻りしたため、EU内の主要国の従属国とされ、労働者はとくに欧州資本から搾取されるようになった。各国は低価格商品の生産基地にされるとともに、金融の自由化がやられ、投機のために株式市場が整備された。
例えばハンガリーの商業銀行は75~80%の資本金を欧米銀行に握られ、子会社にされた。金融恐慌でバブルがはじけたため、総額で1兆7000億㌦に達していた債務残高のうち、少なくとも1000億~3000億㌦が返済不能になると見られている。
また中・東欧諸国の経済は大半が輸出主導型で、スロバキアやハンガリーはGDPに占める輸出比率は85%にのぼる。世界のとくに西欧諸国の消費が停滞し、需要が縮小すれば、実体経済がたちまち大打撃を受ける。輸出関連企業の倒産やリストラ・首切りに始まり、失業者は増大の一途をたどっている。
ブルガリアでは1月なかば以降、首都ソフィアの議会前で連続的に数千人が参加する反政府集会やデモが展開され、政府の退陣を要求した。最近、チェコのトポラーネク首相やハンガリーのジュルチャーニ首相が、相次いで退陣を迫られた。ハンガリーでは経済の破たん、チェコでは主としてアメリカのミサイル防衛(MD)のレーダー基地建設反対の運動がおもな要因となっているが、根本に恐慌の深化があることははっきりしている。