警官による1少年の射殺に抗議するギリシャ青年のたたかいは、首都アテネから全土に拡大し、2大全国労組の労働者がストライキで合流した。1週間を超えて発展する斗争はさらにスペイン、デンマーク、イタリアなど欧州諸国に波及してスペインのネットに「欧州革命発動の好機」との書き込みがあらわれた。長年来、新自由主義の改革で就職難や低賃金に苦しめられてきた労働者とくに青年の怒りが、今回の金融危機を機に爆発したものであり、世界各大陸で恐慌の犠牲転嫁に反対する労働者や勤労人民が国境を越えて共同斗争に立ち上がるすう勢となっている。
ギリシャ青年の抗議行動は12日には、4000人がアテネ中心から議会ビル、そして中央銀行に突入する勢いとなった。一部の学生はアテネ放送局から声明を発表し、政府や政界指導者が国家の危機に対してまったく無能であることを指弾した。抗議行動は全国十数都市に拡大している。
ギリシャの500万労働者を組織する2つの全国労組は10日、24時間全国ストを決行、青少年の斗争に熱い連帯を示した。ストでは、賃上げと低所得家庭優遇を要求し、政府の民営化政策や増税、年金改悪を糾弾した。2大労組は10月にも、同じ要求を掲げて100万人の全国ストをうっている。政府が銀行救済のために280(約3兆6400億円)の公的資金投入を決めたことに対し、「資本家に一も支援するな」「国民全体が貧困化している」と抗議した。
ギリシャ青年の抗議行動に連帯する動きが欧州各国に広がっている。フランス、ドイツ、スペイン、イタリア、デンマーク、オランダ、ロシアなどのギリシャ大使館は、青少年や大学生中心のデモ隊の抗議を受けた。
青年の決起、労働者のストの背景には経済と政治の要因があった。ギリシャでは過去10年、財政赤字削減、民営化推進で欧州連合(EU)に評価されたが、規制緩和で労働者への保護制度が改悪され、貧富の格差は拡大した。加えて長期に失業が解消できず、失業率は現在7%に達し、インフレ率も高止まりしている。
有名大学を出ても就職先がなく、25歳以下の若者の失業率は21%である。
このほか政治的要因として、カラマンリス政府がこうした国民の死活問題を解決しようとしないばかりか、汚職・腐敗にまみれて圧倒的多数の民衆の不満を買っていた。2つの要因の相乗効果によって潜伏していた危機の引き金が引かれ二十数年来もっとも深刻な政治危機に陥ったのである。
政治経済巡る矛盾激化 欧州全域に波及
欧州諸国でも、金融恐慌が引き金となって政治・経済をめぐる矛盾が、爆発点に近づいている。
フランスでは、今年1月から10月までに企業倒産は昨年同期より12%も増加、4万6000社が倒産し、1992年以来の高さを記録した。失業者は200万人を突破、とくに25歳以下の青年の失業率は20%に達した。
自動車メーカーも相次ぎ減産、リストラ計画を発表。ルノーが2、3年以内に世界規模で6000人のリストラ、プジョー・シトロエンがフランスだけで3550人のリストラ、その他2つのメーカーも大量減産を発表している。
自動車メーカーの減産のあおりを受けて、世界の鉄鋼巨頭ミタル・スチール、タイヤ大手のミチリン、化学大手のロティアなども、大幅減産計画を発表。世界第8位の自動車部品メーカー・フォージアも3年以内に1000人超をリストラすると発表した。
フランスのサルコジ政府は大手銀行六行に総額105億(約1兆4000億円)の公的資金投入を決めた。金属・自動車関連の労働者は10月28日、「株主の財産でなく、雇用と賃金を守れ」との横断幕を掲げてデモ行進した。11月中旬から公共部門のストが相次いでいる。エールフランス労働者の48時間ストをはじめ国鉄は18日に、教師は20日に、郵便は22日に部分民営化抗議のストを敢行した。教師は来年の1万3500人という大幅削減計画に反対し、生徒とともに教育省までデモした。
イギリスでは9月までの3カ月間で倒産した企業は4001社にのぼり前年同時期からは26・3%も増えた。金融、建設、不動産業界を中心に30万人以上が解雇された。小売業も売上を大幅に落とした。
小売業不況を象徴するのが、100年の歴史を持つ世界最大のチェーン店ウールウォースがクリスマス前夜に倒産したことである。11月26日のロンドン市場で、株価は1年まえの15から1・22に暴落、万事休した。1で米投資集団に売却、再建をはかったが断られた。同社の百貨店部門に2万5000人、傍系に500人の従業員がいる。
イギリスは、新自由主義を導入したサッチャー政府が1986年、金融証券制度の自由化を実施。金融部門が拡大して、危機の影響を受けやすい経済構造となった。米サブプライムローン危機の影響もいち早く受け、今年2月には、中堅銀行ノーザンロックが国有化された。
金融恐慌が発生すると、政府は金融機関への公的資金注入を他に先駆けておこなったが、中小企業や雇用などへの抜本的支援はおこなわなかった。
労働組合の連合体である労働組合会議(TUC)は11月19日、財務相に書簡を送り、抜本的な雇用対策を求めた。解雇に直面している労働者の支援体制の強化や、解雇手当・失業手当の増額を要求。また、住宅ローンを払えない人からの担保住宅とりあげの一時停止などを求めた。
欧州ではこのほか、スペインのマドリードで11月13日、公共病院や公衆衛生施設の民営化に反対する2万3000人のデモがおこなわれた。日産バルセロナ工場の労働者は、約2カ月の解雇計画反対斗争を堅持して、12月5日、1680人の解雇とりやめなどを資本に認めさせた。
また、ドイツの金属産業労組(IGメタル、233万人)は11月3日、警告ストをおこない4・2%の賃上げを勝ちとった。
さらに、金融恐慌で国家破産の危機に瀕して国際通貨基金(IMF)融資を申請している東欧のハンガリーでは11月29日、公共部門労働者数千人が来年から計画されている賃金凍結と年金切り下げに抗議して、首都ブダペスト市内をデモ行進した。主催は70万人労働者を代表する約30の労組。4%以上の賃上げ、年末手当復活要求を政府が拒否すれば、来年1月スト突入を宣言した。
東欧ブルガリアでも、首都ソフィア近郊のクレミコフチ製鉄所の2000人の労働者が製鉄所存続と未払い賃金の支給を求めて、集会を開いた。
工場閉鎖に抗議し行動 恐慌の震源地・米国
金融恐慌の震源地アメリカでは、5日の雇用統計で11月1カ月で53万3000人の就業者減となったことが判明した。失業手当受給者は、408万7000人となった。その内訳は、製造業8万5000人減(うち1万3000人が自動車と部品部門)、建設業8万2000人減、サービス業37万人減であった。サービス業の内訳は、商業で13万6000人、金融業で3万2000人、小売業9万1000人で、消費の大幅減退を示した。こうしてリストラ・首切りは、住宅、金融分野を超えて実体経済の各部門に及んでいる。
12月に入ってからも、2日に電話会社AT&Tが1万2000人、5日には、自動車大手のGMが2200人のリストラを発表、これから3年かけてメリルリンチの買収・整理過程で大手銀行バンク・オブ・アメリカは3万から3万5000人を削減するとしており人減らしの流れは止まらない。
11月の失業率は、10月の6・5%から6・7%に上昇し、15年来の最高を記録した。失業者の増加は消費の停滞につながり、実体経済をいっそう弱体化させている。
今年4月の金融危機のあらしが起こって以来、米財務省は1億189億㌦の景気刺激資金を出し、11月には154億6000万円の枠外の景気刺激資金を出した。GMなど自動車ビッグ3の救済も迫られている。しかし、ノーベル経済学賞受賞のクルーグマン氏は、いかなる「救済行動も米自動車産業消滅のすう勢を転換できない」とのべている。
米中西部イリノイ州シカゴでは12月5日、地元の窓・扉製造会社リパブリックによる突然の解雇・工場閉鎖に反対して、労働者260人が工場内で座りこみ、操業再開を求める斗争を起こした。実は同社への融資を停止したのはバンク・オブ・アメリカで、自身は政府から250億㌦の公的資金支援を受けている。労働者らは「銀行は救済されわれわれは投げ出されるのか」と怒って斗争を堅持した。そして同10日、資本側に総額175万㌦(約1億6300万円)の解雇予告手当(8週間分の給与)支払いを約束させ、今後2カ月の医療保険を保障させた。
世界の労働者や青年、広範な勤労人民は、恐慌が世界中に発展したなかで、人間らしい生活を維持するには斗争するほかない。国際労連(ITUC)は先日の声明で、失業者は来年末までに新たに2000万人増えて、世界の失業者は2億1000万人となるとしている。世界各国の労働者や勤労人民は一致団結して、恐慌を招いた責任をとらず、もっぱら犠牲を人民に押しつけるアメリカをはじめとする独占資本財団とその代理人である政府との共同斗争を発展させる時代となっている。