20日のイラク開戦5周年にむけて、米欧諸国やアジア各国、豪州など世界数百の都市で、イラクやアフガニスタンからの米軍、外国軍の撤退を求める大規模なデモ行進が展開された。ブッシュ政府が大うその口実で発動したイラク戦争は丸5年を経過して、惨敗したのはアメリカ政府と日本政府を含むその追随者、勝利したのはイラク人民とそれに連帯した世界人民であることがだれの目にも一段と鮮明になっている。
米英政府が開戦の口実としたイラク政府の「大量破壊兵器の保有」「国際テロ組織との関係」は、事実無根のでっちあげであったことを米情報機関すら認めるまでになった。「独裁支配の打倒」による「中東民主化」のペテンもあばかれ、ブッシュも口に出せなくなった。
ブッシュ政府の本当の戦争目的は、イラク占領によって世界有数の中東石油利権を独り占めし、合わせて中東のアメリカ一極支配を実現することであったが、それも破産した。イラクでは人民の反抗によってぬきさしならない泥沼に陥り、退くに退けなくなった。イスラム世界全体を敵に回したため、中東地域で孤立した。「悪の枢軸」と呼んで武力攻撃も辞さないとしたイランや朝鮮への政策も手直しをせざるをえず、国際外交での孤立もきわだっている。
“冷戦”崩壊で唯一の超大国となったアメリカは、世界無比の軍事力で世界の覇権を確立できると過信した。「9・11事件」を利用し、「反テロ」を掲げてアフガニスタンに侵攻、国連すら無視してイラクに「予防戦争」という名の先制攻撃をかけた。だが、民族独立と自由のために命がけでたたかったイラク人民の頑強な抵抗で一敗地にまみれた。ごう慢不遜な「単独行動主義」は、世界中から糾弾・非難されることとなった。
確かにイラク人民は、貴い犠牲を払わされた。国連機関の発表でも、22万3000人が犠牲となった。イギリスの民間機関の統計では、無実の住民120万人が犠牲となった。国際赤十字委員会の報告は、多くの家庭で少なくとも1人が負傷、失踪、監禁、難民の苦難を強いられた。
それに約200万人が難民として国外に避難し、約250万人が国内で悲惨な難民生活を余儀なくされた。廃虚と化した多くの都市では停電が常態化し、失業率は50%を超えている。産油国であるのに、戦前の日量250万バレルの生産ができなくなり、ガソリンも入手困難となった。しかも人民は赤貧の生活に加えて、四六時中命の危険にさらされている。
侵略者の占領・支配が強まれば強まるほど、イラク人民の反米感情は高まり、抵抗組織の武力斗争は統一司令部のもとに全土に広がった。米軍16万人は今や首都バグダッドの一角で首をすくめ、一歩外に出れば抵抗勢力の爆弾に見舞われ、死者を急増させている。戦場の主導権は完全にイラク人民が握っている。
疲弊したのは米国の側 世界的にも孤立
この5年間に、公式発表でも米兵3987人が戦死し、英兵197人も戦死するなど、多国籍軍は4500人近い戦死者を出した。大義のない戦争で長期駐留を強いられた米軍は、戦意を失い、自殺や逃亡、精神障害、犯罪に走るものが相次いで、文字通り崩壊状況となっている。軍事的敗北は明らかで、イラク駐留の元米軍司令官が「イラク戦争は悪夢だった」と公言する有様である。6割を超える現役・退役軍高官も、覇権確立の主柱である米軍の戦斗実力が極度に低下したことを認めている。
アメリカのイラク戦費は、公式発表では今年九月で6070億㌦(約63兆7350億円)で当初予定の10倍に達している。だが、2001年のノーベル経済学賞受賞者でコロンビア大学の教授であるスティグリッツ氏は、最近の上院での証言で、アメリカのイラク戦費はすでに、3兆㌦(約315兆円)にのぼり、アメリカ1年のGDP(国内総生産)のほぼ5分の1に等しいとのべた。アメリカの4人家族の家庭で平均4万㌦(約480万円)の重い負担である。その戦費は、湾岸戦争の10倍、ベトナム戦争の3倍、第1次大戦の2倍という天文学的数字である。
財政危機のブッシュ政府は巨額の戦費を捻出するため、日本や中国、アラブ産油国に国債を買わせた。そのうえ軍事費だけを聖域にして教育・福祉・医療など民生予算を大幅に削った赤字予算を組み、戦費負担を孫子の代に押しつけている。それと同時に、アフガン戦争の頃から煽ってきた住宅バブルも、昨年夏にサブプライムローンの焦げ付きではじけた。過剰生産危機と金融危機が一挙に爆発、16兆円の危機対策も大幅利下げも役に立たず、新たな経済恐慌を招いている。しかも、アメリカ発の金融・経済恐慌が世界中を席巻しつつある。
イラクでの軍事的敗北や国内の財政危機が深まるなかで、アメリカ支配層の分裂、政治的危機も空前となっている。イラク戦争の主戦派だったネオコン(新保守主義)族は次次に閣外に去り、ブッシュの側近も次次に逃げた。軍部高官も、先日のファロン中央軍司令官に代表されるように、イラク・イラン政策に反対するものが続出している。多くの外交官もブッシュ政府に見切りをつけて、イラク派遣を拒否するようになった。今でも「イラク戦争は正しかった」というものは、ブッシュとチェイニー副大統領など一握りの戦争屋だけとなった。ブッシュの支持率は下がる一方で、「史上最低の大統領」という汚名を後世に残すことになった。
世界を見ても、イラク戦争が「正しかった」とするものは、日本政府などほんの一握りとなった。ブッシュの忠犬と呼ばれたイギリスのブレア首相をはじめ、イラク戦争に協力したスペインやイタリア、オーストラリアなどの首相は退陣した。「有志連合」として、イラク戦争に協力した39カ国は、現在では21カ国に半減し、その多くも撤退・削減を予定している。「多国籍軍」とは名ばかりで兵力の約93%は米軍となっており、その国際的孤立は歴然である。
ブッシュが「民主化のモデル」をつくるとしてでっちあげたイラクかいらい政府はシーア派、スンニ派、クルド族支配層が石油配分や指導権争奪をめぐって内紛に明け暮れ、閣僚の離脱や審議ボイコットなどで機能不全に陥っている。米軍が治安移譲ができたのはイラク18州のうち9州で、48八万人もの治安部隊も役に立たない。ましてや失業対策や復興事業などは放置したままで、イラク人民からは相手にもされていない。
ブッシュ政府の「反テロ戦争」は、イラク戦争の失敗で中東の政治地図を塗りかえてしまった。イラク人民と呼応して、アフガンではタリバンなど反米勢力が台頭し、米軍やNATO(北大西洋条約機構)軍をきりきり舞させている。4万5000人の兵力でも抑えきれず、NATOに兵力増派を求めるが拒否されるなど亀裂を深めている。「反テロの最前線」とされたパキスタンも、親米政府が倒壊寸前となっている。ブッシュが宿敵としていたイランは、宗派の対立を超えて湾岸諸国などアラブとの関係を強め、イラクかいらい政府に接近している。これらの背景は、イスラム世界に反米機運がかつてなく高まったことである。
ボロ儲けした軍事会社 手助けする自衛隊
こうしてブッシュの「単独行動主義」が完全に破綻するなかで、仏独を中心に欧州連合の国際政治での発言権が強まり、ロシア、中国、インドなどの「多極主義」の勢いも増した。中南米では、イラクやイランと連携し、アメリカの新自由主義を破って地域経済統合をめざす反米左派政府が相次いで誕生し、アメリカの米州自由貿易圏構想は頓挫している。世界でのアメリカの戦略的地位の低下は著しく、一極支配は白日夢となった。
ブッシュ政府の中東戦略は破綻したが、「ブラックウオーター」などの民間軍事会社やハリバートンをはじめとするアメリカの独占企業は、イラク戦争で血にまみれた巨額のドルを稼いだ。
イラクで米軍の下請をした民間軍事会社は300社、計16万人にのぼった。ブラックウオーターなどで要人警護にあたった約5万人は、毎年アメリカの納税者から44万5000㌦をかすめとった。これらの会社は暴利の一部を共和党に政治献金した。イラク復興のコンサルタントに指名された1社は、共和党に10万㌦を献金したが、そのなかにはブッシュの2度の大統領選挙資金として11万7000㌦が含まれていた。同社はイラクで2億4000万㌦もの収益を上げていた。
チェイニー副大統領がかつて最高経営責任者をつとめた石油開発会社ハリバートンは、04年から3年間で160億㌦もの巨額収益を得た。すべての外資系会社の総収益の9倍にあたるものだ。イラク開戦後、ハリバートンのイラク支店(KBR)の収益は、全社総収入の半分を占め、それが3年間続いた。ハリバートンに次いで収益の多かったのはディーンコープで、06年末までの3年間に18億㌦の利益を上げた。
小泉政府が自衛隊を初めてイラク戦場に送り今も航空自衛隊が米軍輸送を続けているのは、米軍のイラク人民殺りく、占領支配を支援するものである。それは、日本の若者の命を差し出してアメリカの戦争の下請をやり、アメリカなどの「死の商人」にばく大な利潤を貢ぐとともに、イラク人民やアラブ人民に敵対して民族の独立と自由を侵害する許し難い犯罪である。この期に及んで、福田政府は「イラク戦争は正しかった」といい、いつでも自衛隊を海外に派兵できる恒久法制定を急ぐなど、どこまでもアメリカに付き従って戦争の下請をやろうとしている。
イラクやインド洋からの自衛隊の即時撤退、米軍など外国軍の即時撤退を要求する大衆的な運動を起こし、日本からも米軍を撤退させて、独立、自由、繁栄の日本を実現することが日本国民の要求となっている。