フランスでは、労働者と青年・学生の団結したねばり強い大衆運動で、青年労働者の首切りを資本が好き勝手にすすめる「初期雇用契約(CPE)」を撤回させる勝利を勝ちとった。そして、雇用や労働条件を全面的に改悪する新雇用機会均等法を廃案にする斗争へと進んでいる。フランスの斗争は、1990年代に入って、欧州各国の独占資本と政府が規制緩和、構造改革の名ですすめてきた市場原理主義、新自由主義の攻撃に大打撃を与えたものとして、ドイツ、イギリス、イタリアなど同様の攻撃とたたかう労働者や青年、勤労人民に勝利の展望を示している。それはまた、中南米からまき起こった新自由主義、グローバル化反対の潮流が欧州、アジアそして日本へと広がる確かなすう勢を示している。
規制緩和反対の行動拡大
フランスでは、シラク大統領が2002年に民営化による「産業の活性化」を重点政策としてうち出し、「改革の断行」を宣言してから、新自由主義推進に拍車がかかった。ラファラン政府は「国際競争力強化」を掲げて国鉄、郵便、電力、ガスなどの民営化計画をうち出した。郵便のラ・ポストでは、それまで全国132局あった区分センターを80局に統廃合し、人員削減と労働者の非正規化をすすめてきたうえに、数千の郵便局を閉鎖して数万人の労働者を削減する法案を提出した。
民営化と並行して、03年から04年にかけて年金制度や医療保険制度を改悪した。労働者が勝ちとっていた週35時間労働制が、「経済成長を阻害する」として労働時間を民間企業では最大48時間まで延長できる法案も提出した。公共部門の労働者・職員にたいしても、歳出削減による賃金引き下げ、人員削減、労働強化が押しつけられた。
こうした一連の攻撃にたいし労働者はストやデモでたたかい、昨年1月には港湾サービス自由化法案に反対する、欧州規模の抗議行動に合流し、欧州議会で同法案の否決に追い込んだ。
規制緩和、民営化などに反対する労働者を中心にした斗争の積み重ねが、同年5月の国民投票で新自由主義をうたった欧州憲法を大差で否決する勝利をもたらした。労組、民主組織、市民団体はこの日を記念して「5・29連合」を結成、全欧州で新自由主義に反対する斗争をいっそう強化し、世界中で高まるグローバル化反対斗争との連帯を強めることを宣言した。
欧州憲法否決でラファラン政府は退陣し、かわってドビルパン政府が発足。雇用政策を重視するとして新雇用契約(CNE)をうち出した。それは失業対策の装いをとりながら、「労働力の柔軟化」という方向で労働法を改悪し、労働者の解雇を容易にして社外工など非正規労働者を増やし、東欧などの低賃金労働者の雇用に道を開くものであった。
昨年10月、外国移民出身の若者による暴動が起こったことを機に、ドビルパン政府は若年層の失業問題への対策と称して、職業訓練開始年齢の引き下げ、移民審査の厳格化、雇用差別にたいする罰則の強化、親の監督責任の明確化などを盛りこんだ新雇用機会均等法を議会に提出した。そして今年1月、その第八条として初期雇用契約を発表、青年労働者を雇用した企業が2年間の試用期間中は、いつでも理由なしに解雇できることを法制化しようとした。
青年・学生たちが若者を「使い捨てにするもの」と反撃に立ち、労働者も労働既得権をことごとく奪い、労働条件の改悪、首切り自由の攻撃と受けとめ、2月初めから4月4日まで6次に及ぶ労働者と学生の共同斗争を展開した。その規模は回を追うごとに拡大し、圧倒的世論の支持を受けて全労働組合が2回のゼネストを決行した。シラク大統領は新雇用機会均等法を承認し、CPEについては一部修正で逃げようとしたものの、ゼネストに止めを刺されて撤回せざるをえなくなった。労働者と学生はいま、この勝利を土台に新雇用機会均等法の廃案をめざして斗争を堅持していくことを宣言している。
フランスでの新自由主義による規制緩和、自由化、国際化の結果は、連続10%をこえる失業率、26歳以下の青年の23%にのぼる失業率に集中的にあらわれている。政府が失業問題の解決と称してうち出した新雇用機会均等法は、実際にはボロ雑巾のようにいつでも使い捨てできる労働者を増やし、賃金を切り下げて法外な利潤を独占資本や多国籍企業にもたらすものであった。それをフランスの大衆運動が打ち破り、勝利の重要な一歩を築いた意義は大きいものがある。
イギリスでは1980年代のサッチャー政府から、その他欧州各国では1990年代から、旧ソ連の崩壊の条件をも利用して、市場原理主義を追求する新自由主義がすすめられた。それは、公共サービスの民営化、労働の規制緩和、社会的保護の撤廃、柔軟化など欧州連合(EU)の方針として実行された。その方針を盛りこんだ欧州憲法の批准を、昨年フランスとオランダの国民投票で否決し頓挫させたことは、労働者を初め欧州各国人民の意志を代表したものだった。
全欧州でうねりに 全国ストに決起
欧州各国での新自由主義に反対する労働者や学生、勤労人民の斗争は、とくに昨年来大きなうねりとなって発展している。
欧州議会は今年2月、域内のサービス分野の自由化をめざすボルケスタン指令案(EU法案)の可決をめざした。この法案は、運輸、通信、金融などのサービス分野の規制を緩和し、EU各国の企業が域内に自由に進出できるとするもので、東欧など低賃金労働者の西欧への流入拡大をすすめ、西欧諸国でのリストラや賃下げ、社会保障の削減などに拍車をかけるものだった。各国では1月の港湾自由化法案反対のストライキ斗争で欧州議会で同法案を否決させた勢いをかって、ボルケスタン指令案を否決に追い込むため、労働組合を中心に大規模な反対行動がとりくまれた。
ドイツ、フランス、ギリシャなどの主要都市では、数千から数万規模の抗議デモが起こった。参加者は、「同指令案が新自由主義にもとづくもので、東欧の低賃金労働者を導入してこれまでの雇用と労働の条件を破壊するもの」「社会的保護も、労働者への保護もせずにサービス分野に自由市場原理を持ち込むもの」と法案強行に反対した。
2月14日には、欧州労連の呼びかけで、フランスのストラスブールにフランス、イタリア、ドイツ、ポーランド、ルーマニア、スロベニアなど20カ国以上の労働者5万人が結集して全欧州規模のたたかいに発展させた。
ドイツを例にとれば、新自由主義によって企業の25%が生産工場を中・東欧に移転させ、ドイツから中・東欧の近隣国向け輸出も四倍に増やした。そのためドイツの失業者は昨年2月520万人を記録し、失業率は12%以上に達した。
そのなかで、公務員は2月はじめから労働時間延長に反対して、14年ぶりの全国ストに立ち上がり、一週間ほどで全16州のうち10州のストライキに発展した。公共サービス分野の自由化反対と連動した全国ストは、政治斗争の色彩を強め、ついにシュレーダー社民党連立政府を退陣に追い込んだ。
1980年代からアメリカ主導の新自由主義が推進された中南米ではここ数年来、ベネズエラを先頭にブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、ボリビアと、アメリカの植民地化に反対し、民族独立、経済自立を基礎に共同体を構築して平和、民主、繁栄の新大陸を建設する共同の事業が日を追って発展し、押しとどめることのできない大きな潮流となっている。
その潮流は、新自由主義とグローバル化に苦しめられてきたアジアにもひたひたと押し寄せ、「韓国」からタイ、インドネシア、フィリピンなどでも親米の新自由主義政策に反対する斗争がまき起こり、タイではアメリカとの自由貿易協定をすすめたタクシン政府が倒壊した。
日本で小泉政府が規制緩和、構造改革の名目ですすめた新自由主義は、政治、経済、軍事、社会の全面でアメリカの植民地のようにした。日本をアメリカの原子戦争の戦場にする米軍再編や有事立法などに反対する強力な世論が、労働者や農漁民、勤労人民の生活破壊への怒りと結びついて大衆運動に発展する状況となってきている。