イラクで26日、日本の民間人男性(24歳)が拘束される事件が起きた。拘束したイラクの武装グループは「イラクからの自衛隊即時撤兵」を要求し、「拒否すれば48時間以内に殺害する」と表明した。
「自衛隊即時撤退」を要求
イラクで拘束された邦人男性は映像のなかで「かれら(拘束したグループ)は日本政府がなぜ法を破ってイラクに軍を送ったのか聞いている」「かれらは日本政府に自衛隊の撤退を求めている。さもなくばぼくの首をはねるといっている」と訴えた。その後声明を読みあげたイラクの武装グループは「日本政府に四八時間の猶予を与える。イラクから自衛隊を撤退させなければバーグ(殺された米国人人質)らと同じ運命をたどる」と表明。要求がイラクからの自衛隊即時撤退であることを明確にした。
米英軍のイラク戦争は、イラク人民の英雄的な武装斗争によってすっかり行きづまってしまった。それ自体戦争の理由にならない「大量破壊兵器の存在」も、アメリカ政府自身が、「なかった」といわざるをえなくなり、石油略奪と市場支配のための強奪戦争であり、占領であったことが世界中に暴露されるところとなった。
このなかで、米軍は「選挙をやるために治安をよくする」と全国で掃討作戦を続行し、見境のない空爆をくり返している。7カ月にわたって爆撃を続行しているファルージャでは、「テロ組織の指導者ザルカウィ氏の隠れ家がある」と主張しさらに激しい攻勢をかけイラク住民の民家を破壊している。
自衛隊は人道支援というものではなく、米軍の指揮下に入って、米軍に武器弾薬や兵員をはじめ補給物資を運び、米軍がとおるための幹線道路警備をやり、米軍の占領に加担している。そして小泉政府は、各国があいついでイラクへ派遣した軍を撤退させるなかで、世界でも突出してブッシュのイラク占領への支持を表明し、自衛隊の派遣延長だけではなく、増派までやろうとしている。
それが、自衛隊への攻撃をひん発させ、日本を報復攻撃の標的にさらしている。迫撃砲やロケット弾による自衛隊を狙った攻撃が4月に2回、8月に四回起きている。8月にサマワの宿営地を攻撃した地元有力部族に属する男性は、「自衛隊はイラク占領に協力しているため攻撃した」と動機を語り、「自衛隊は米軍を助けている。サマワ復興のために来たといっているが、実際には軍事基地を建設しに来た」と憤りをあらわした。
10月初旬には陸自がサマワにつくった「日本とイラクの友好の碑」が爆破された。22日には陸自宿営地付近に信管をぬいた107㍉ロケット弾が撃ちこまれている。
今回の人質となった日本青年は、報道によると旅行でイラクに入ったとされており、イラクにことさら敵意がない人物である。このような罪のない青年が殺害されることは、放置できないことである。
イラクの数万という婦女子、子ども、老人までも無差別殺害している米軍の支援のために自衛隊を派遣して、イラク人民殺りくテロの手伝いをしている小泉政府が、「凶悪な人質テロ」と騒ぐことは、イラクの人人から見れば逆なでされるようなことであることを知らなければならない。
また政府は、今回の青年の行動が、「あれだけ退避勧告をしているのに理解できないこと」と青年の自己責任という立場を明らかにしている。しかし「イラクは非戦斗地域」だといいはり、安全だから自衛隊を派遣するといいつづけてきたのは小泉であった。マスメディアもまた、イラクにおいて米軍の占領統治がきかなくなっているという現実はほとんど明らかにしてこなかった。それを信じた国民が被害にあったら、事態を理解しない愚か者で自己責任というのでは、国民は総理大臣はウソをいうものと理解しなければならず、それを信じるものは愚かだといっているのと同じである。
また青年がかりに、軽い気持ちで旅行で行ったのが事実であったとしても、「興味と関心」を教育の基調にしてきたのは文部省であるし、メディアはバカ騒ぎのようにそれをあおってきた。その責任なしに、青年の自己責任というのはインチキである。
人質事件の解決は、不当不法な占領加担をやめ、小泉政府が自衛隊を撤退させることしかない。
日本全土を標的にする意図 小泉政府の対応
米国のイラク侵略戦争は開戦から1年半ですっかり破たんしている。「独裁からの解放」「民主化」「復興支援」などというペテンは、米軍自身の殺りく、捕虜などへの蛮行によって引きはがされ、イラクでの反占領のたたかいは日に日に組織力を増している。米軍が占領していた地域の奪還がすすみ、ファルージャやナジャフなどの六都市や首都バグダッドの3地域をはじめ、20~30にのぼる都市をイラクの反米武装勢力が制圧。いまでは全国各地で米軍への襲撃が毎日100回をこす状況で、米軍司令部のある中枢・グリーンゾーンに迫っている。すでに米兵の死者は1100人をこし、米英軍の敗北は時間の問題となっている。
イラク内で住民と結びついた反米勢力の組織力がますことと並行して外国人の人質事件もひん発。昨年5月からイラクで人質にされた外国人は152人、このうち31人が殺されている。人質事件は昨年3月までは1人だったが、4月にファルージャへの大殺りくを米軍がはじめてから急増し、4月は最多の43人となった。日本人の外交官やフリージャーナリストも犠牲になった。
組織だったイラク人民のたたかいのなかで、フィリピンをはじめ、タイ、スペイン、ドミニカ共和国、ホンジュラス、ニカラグア、シンガポール、ノルウェー、ポルトガル、オランダ、ポーランド、ウクライナ、ニュージーランド、デンマークなど各国がつぎつぎに撤退へ動いている。
こうしたなかで小泉首相は今回の事件について「日米同盟を考えれば、米軍が撤退する場合以外に自衛隊の撤退はありえない」「自衛隊の撤退はしない。テロを許すことはできない。テロに屈することはできない」と即座に言明。すでに自衛隊派遣期間の延長と増派をたくらみ、「専守防衛」のたてまえもかなぐり捨てて、「海外派兵を本来任務」と変える方向を突っ走ろうとしている。
小泉政府の今回の人質事件への対応は、日本人男性を見殺しにすることにとどまらず、イラクに派兵している約600人の自衛隊を攻撃の標的としてさらし、日本全土を報復攻撃の標的にする意図をあらわしている。
小泉政府をして自衛隊の撤退を迫ることは、イラク・中東の人民、アジア・世界の人民との友好連帯の関係をすすめ、日本人民の根本的利益を守ることであり、世界平和にとって重要な課題である。