イラク人民の斗争軸に 朝鮮政策も手直し
イラク人民の反米抵抗斗争は、ブッシュ米政府の力にまかせて刃むかうものをたたきつぶすという1国覇権主義の政策を破たんさせている。それは世界の5大陸にアメリカ帝国主義の軍事侵略やグローバル化に反対し、イラク人民に連帯する斬新な人民運動の台頭と結びついている。米ソ2極構造崩壊後、欺まん的な「自由」と「民主」をとなえて、唯一の超大国として軍事力で「世界1極支配」をめざし、勝手気ままにふるまってきたアメリカ支配層であるが、いまやアメリカ国内でも「帝国の終えん」「アメリカ時代の終わり」といわれるまでになった。ブッシュとともに居丈高にふるまってきた小泉首相も、訪朝する羽目となったが、世界の情勢は、世界人民の力が独裁者、戦争放火者どもを追いこんでいる。
イラク人民の全土におよぶ反米の武装蜂起は、凶暴きわまるアメリカの軍事覇権主義をわずか1年で打ち砕き、世界的範囲での帝国主義と人民勢力との力関係を変化させている。
ブッシュ政府がイラク侵略の口実とした「大量破壊兵器」や「テロ支援国家」のウソはあばかれ、石油泥棒のために人殺しをする強盗戦争であったことがだれの目にも明らかとなった。「解放」とか「民主化」の欺まんも、1万人をこえる平和な住民の殺りく、ファルージャでのみな殺し作戦、「捕虜」へのおぞましい虐待などによって、すっかりあばかれた。
そのなかで、イラク占領支配の下請にかり出された日本をふくむ30数カ国の「有志連合」は、音を立てて瓦解をはじめた。スペインが撤兵したのにつづいて中米4カ国も撤兵、ノルウェー、デンマークなども六月末の撤兵を表明、米英と並んでイラク中部地区の下請軍隊を統括・指揮していたポーランド軍も来年はじめに大幅縮小する。300人の追加派兵を決めていた「韓国」軍は、2度3度と派遣を引きのばし、「固い盟友」であったイギリスも部隊増派をしぶっている。
ブッシュは24日、6月末のイラク人への「主権移譲」をかならずやると演説したが、それでイラク人民の反米決起が抑えられると信じるものはいない。米英軍のかいらいにしかなりえない暫定政府でっちあげにたいし、イラク人民が拒否するなかで、米英占領当局と国連特使の対立も激化し、アメリカは子飼いのチャラビすら切り捨てざるをえなくなるなど、先行きは闇のなかである。
米英にとってイラク全土の民衆レベルに広がった武力抵抗斗争を鎮圧できるかが最大の難関である。そのために、新しい国連決議で多国籍軍派遣を画策しているが、フランス、ドイツ、ロシアなどはアメリカの石油権益のために派兵する気はさらさらない。米軍を増派する以外にないが、それも目いっぱいで在「韓」米軍の主力から約4000人を引きぬくことになった。50年来朝鮮攻撃の部隊として配備してきた米軍をタブーを破って移動せざるをえなくなったのは、イラク、朝鮮にたいする2正面作戦ができなくなったからである。
こうしたブッシュ政府の対朝鮮政策の手直しもあって、小泉首相は先日、2度目の訪朝をし、日朝平壌宣言に反した行為があったことをわびて、今後制裁を発動せず国交正常化交渉再開に努力するといわざるをえなかった。ブッシュ自身も当初反対していた六者協議の場で核問題を協議することを受け入れ、竜川での列車爆破事件に人道支援を送った。対朝鮮の軍事包囲を解いたわけではないが、イラクに足をとられて動きがつかず、緩和策をとらざるをえない羽目となっているのである。
アメリカ国内世論が変化 ブッシュ大統領支持率が低下
イラク戦費も、アメリカの財政赤字を激増させている。当初ブッシュ政府は、イラク戦費を500億~600億㌦と見こんでいたが、実際は今年9月までに1000億㌦の支出は必至となり、来年9月末には1500億㌦に達する。ただでさえ今会計年度の財政赤字予測は4800億㌦をこえると見こまれているだけに、イラク侵略・占領は財政面からももたなくなっている。加えて、昨年末から原油価格が上昇をつづけ、先日来、1=40㌦と最高値にはりついている。世界最大の石油消費国アメリカの経済に打撃を与え、電気料金、航空運賃、とくにガソリンの値上げが人民の生活を直撃している。原油高騰のおもな原因も、イラクとその周辺国の油田やパイプラインの爆破で生産に支障をきたしていることで、それに投機取引がつけこんだためである。
イラクでの米兵戦死者は公式発表でも780人をこえた。昨年3月の開戦以来1日当り2人が戦死している。脱走兵、精神異常者、自殺者もあとを絶たない。そのうえに、イラク刑務所でのイラク拘束者にたいする虐待事件が、あいついであばかれた。アメリカ国内の世論は大きく変わり、「われわれの軍隊をもどせ」のスローガンをかかげたデモ行進が日常的に起こるようになった。ブッシュや独占財団などひとにぎりの支配者の利益のための戦争で、息子や夫が殺されるのは許せないと、ブッシュの支持率は日ましに低下している。
最近、米紙『ワシントン・ポスト』とABCテレビの合同世論調査でも、イラク問題でのブッシュ支持率は40%と開戦以来最低を記録、ブッシュの活動に約50%の人が不満を表明、イラクからの撤兵支持は5月に7%ふえて40%に達した。また、イラク戦争で労働者が権利を奪われ、賃金を抑えられ、失業もふえているといった実態を、商業マスコミの『ニューヨーク・タイムズ』や『クリスチャン・サイエンス・モニター』などが、とりあげるようになっている。イラク「捕虜」虐待の第一報も、『ワシントン・ポスト』などがおこなったことも記憶に新しい。
勢い増す反米斗争 世界各国に波及
イラク人民はいま、奪われた民族の独立と主権の回復をめざし、宗教・宗派、思想・信条、政治的立場をこえた全民族的な団結で、米英の占領支配とたたかっている。「親米的」とされてきたイスラム・シーア派の住民が今年4月から反米で武装決起し、スンニ派のファルージャ市民の不屈の斗争に連帯している。5月はじめには、イスラム宗教組織と政党、労組、人権団体など40団体による共同斗争組織「イラク再建国民会議」も発足した。その中心に数十万人規模で組織化がすすむ労働者の隊列が立つようになっている。
イラクでの反米斗争の発展は、世界の各大陸の人民を励まし、国際的に連帯した反米機運を盛り上げている。
アラブをはじめイスラム圏諸国では、ブッシュが今年の主要国首脳会議(サミット)でうち出そうとしている「大中東民主化計画」への反発が、親米国といわれるエジプト、ヨルダン、湾岸諸国に広がっている。その「計画」は、「民主化」の名目でイスラム圏全体に市場経済とアメリカ式民主主義を押しつけ、イスラムの伝統を崩してアメリカの植民地に変えるものであり、その支配の中心にイスラエルを据えようとしている。現在、ブッシュが尻押ししてシャロン・イスラエル首相にやらせているパレスチナ人民への残虐無比な攻撃を、アラブ人民は「中東民主化」の予行演習と見て猛反発し、イラク人民の反米斗争に支持と共感を寄せている。
ラテンアメリカでも、キューバを先頭にアメリカの武力干渉、とりわけ20年来の「新自由主義」と銘打ったグローバル化に反対する波が広がっている。それを背景にブラジル、アルゼンチン、ベネズエラ、エクアドルなどで左翼政権が誕生し、アメリカの経済・政治支配を拒否し、南米共同体をつくって自立経済をめざすたたかいがはじまっており、「革命前の状況」をあらわしている。
アメリカがすすめた「新自由主義」は、外資導入によって民族的経済を突き崩し、金融支配と財政支配をつうじて各国をアメリカの属国に変え、労働者、勤労人民を植民地奴隷とするものであった。それに逆らうベネズエラのチャベス政府にたいしては、軍部クーデターや石油ゼネストで転覆をはかったが、いずれも失敗した。こうした民族独立の機運が強まっていることを背景に、アメリカの属国とされてきたホンジュラスやドミニカ、コスタリカなどがイラクから撤兵した。アメリカはもはや「裏庭」さえ、好き勝手に支配できなくなった。
アジアでも、かつての反共軍事同盟SEATOを解体し、ベトナム包囲のためにつくった東南アジア諸国連合(ASEAN)にも変化があらわれている。アメリカと関係は持つが、支配はされないことをめざした「東アジア共同体」構想がすすみ、東南アジア友好協力条約には中国、インドも参加した。当初「日米安保条約」を理由に参加を拒否した日本も、アメリカの意を受けて遅れて参加した。
アメリカはASEAN諸国を中国包囲網に組みこもうと、「反テロ」を口実に合同軍事演習をくり返し、フィリピンやシンガポールに米艦船寄港地をつくったりしているが、ASEAN全体を思うさまに支配できなくなっている。タイ首相やフィリピン大統領が「危険」を理由に、イラクから撤兵を表明したり、インドネシアとマレーシアが米艦船によるマラッカ海峡「防衛」を主権侵害として拒否する状況が生まれている。
日本においても、原爆展全国キャラバンへの反響が象徴するように、イラクとだぶらせて原爆投下にはじまるアメリカの戦後支配が日本をでたらめな社会として、アメリカの下請として戦争にいく状況としたことから、アメリカの民主主義の欺まん的支配を怒りをこめて糾弾する世論が強まっている。
衰退の姿あらわすアメリカ ソ連解体で拍車
アメリカ帝国主義に反対する人民運動が世界で台頭しているのは、米ソ2極構造崩壊後の新しい特徴であり世界的規模での力関係の変化を反映している。
米ソ2極構造の崩壊は、ソ連の解体と同時にアメリカの衰退をあらわしていた。アメリカは強大な軍事力で逆らうものをねじ伏せ、市場経済とアメリカ式民主主義を世界に広めるグローバル化をすすめてきた。そのために、アメリカのいいなりにならない国国を「ならずもの国家」「テロ支援国家」「悪の枢軸」などと呼んで軍事恫喝(どうかつ)を加え、「9・11事件」を機に「反テロ国際連合」を形成して、アフガニスタン、イラクとつぎつぎに戦争を押しつけ、「世界の1極支配」をめざして突っ走ってきた。しかし、イラクでの大敗北を機にその没落・衰退ぶりをさらけ出し、「アメリカの時代の終わり」といわれることになった。
他方、ソ連の崩壊は、それまでアメリカ帝国主義の社会的支柱となってきた現代修正主義の影響を後退させた。「米ソ支配下の平和」といわれていたものが崩れ、アメリカ主導の戦争の時代に突入した。アメリカが「世界一極支配」の野望から、世界人民全部を敵に回したため、世界各国で反米感情が高まった。金融支配と宇宙や情報通信の優位を道具に経済のグローバル化を推進し、それに刃むかうアラブ・イスラム圏などは軍事力でつぶそうとしてきた。現代修正主義潮流の影響力が後退したため、アメリカの覇権主義に反対する世界の機運は、ストレートにアメリカ帝国主義との激突へとすすむようになった。
「共産主義から自由世界を守る」としたアメリカのベトナム侵略戦争は、ソ連の修正主義指導部の力を借りて、アメリカが決定的に敗北するのに10年以上を要した。だが、今回のイラク侵略戦争はわずか1年でアメリカの敗北が決定的となった。そして、世界で拡大しつつあったグローバル化や「単独行動主義」に反対する反米機運と結びついて、世界人民の反帝平和や解放運動を新しい形で登場させている。