イラクにおける日本人人質問題をめぐって、小泉首相は「テロの脅しには屈さぬ」「自衛隊は撤退しない」と強弁しつづけている。この問題をみるうえでは、現在ファルージャでおこなわれている米軍による住民の大虐殺と切り離してみることはできない。小泉は大虐殺を支援することを「人道支援」といっている。自衛隊のみならず米軍のイラク撤退、イラク国民の主権回復を支持することが、まさに人道にかなうことである。
ファルージャの街中に累累と重なる遺体
イラクの首都バグダッド西方のファルージャは、5日からの米海兵隊による、包囲攻撃によって、婦人や子どもをふくむイラク人880人が殺害され、1800人余りが負傷した。AP通信が米軍とイラクの医療当局の情報として伝えた。かつて米軍がベトナムで起こしたソンミ村虐殺、旧日本軍が中国侵略で犯した南京大虐殺を想起させる罪のない平和な住民の殺りくである。
米軍当局は、ファルージャで3月31日に米「民間人」4人が惨殺されたことへの報復だとしている。だが、実際は4日以降、イスラム教シーア派の住民がイラク中南部の各都市で武装蜂起し、スンニ派住民と共同してすでに9つの都市で反米の民族解放戦争を開始したことで、ブッシュ政府が最大の危機に立たされ、凶暴化したためである。
ファルージャで血祭りに上げられた米「民間人」も実は、民間軍事会社に雇われた元特殊部隊員で、この日も武器を積んでスパイしていた、いわば米軍の“雇い兵”をつとめていた。このたぐいの“雇い兵”一万人余りがイラクに派遣されており、正規軍の受ける国際法などの制約をいっさい受けず、悪事のかぎりを尽くしている。
「脅しには屈しない」というブッシュの命令一下、イラク駐留の米海兵隊1200人は5日、ファルージャ全市を封鎖したのち、南北から攻撃をかけたが、反米武装勢力の頑強な抵抗にあった。米軍はA―130攻撃機、武装ヘリ「コブラ」、F―16戦斗機で空から反米武装勢力の陣地とおぼしき洞くつにたいし、連日くり返しロケット弾を投げつけた。
一方、海兵隊は戦車、装甲車を市中心部にすすめ、一般住民に無差別発砲をくり返しながら、「民間人」殺しの「容疑者」拘束と称して街中で家宅捜査をおこなった。いっせい射撃や手りゅう弾を投げつけて、家を破壊し、米兵が寝室まで踏みこみ、家族全員を後ろ手にして床に伏せさせ、男性だけをどことも知れずトラックに押しこんで連れ去っていった。
米軍の圧倒的な火力攻撃によって、市街地の建物の多くは破壊され、「市街にるいるいと積み重なる遺体のなかには女性や幼い子どもの姿も」あったと共同通信が伝えている。
非政府組織(NGO)五団体が九日発表した声明によると、「街は遺体だらけ。負傷者を運ぼうとする救急車は狙撃され、医療支援物資補給は米占領軍が停止させている」。
また、AP通信は「陸の孤島」と化したファルージャでは、「人人は遺体をサッカー場に集め、グラウンドを掘って埋めている。米軍の包囲で郊外にある墓地に運びこめないためだ」と報じている。新華社通信は目撃者の話として、市内2つのサッカー場は墓場となり、墓石に書かれた名前から被害者の多くが婦人や子どもであったと報じた。また、墓掘人の証言として、1つのサッカー場だけで、300体余りの遺体を埋めたと伝えている。
米軍は七日、イスラム教徒の礼拝所モスクまで空爆した。米軍は500(227㌔)爆弾2発をモスク敷地内に投下し、少なくとも約40人を殺した。だが米軍側は「武装勢力の1人が死亡し、一般人に犠牲者はない」と声明。キミット准将にいたっては、「モスクは神聖な場所でありジュネーブ条約では攻撃することはできないが、敵が軍事的に利用すれば今後も攻撃できる」と開きなおった。
10日には米海兵隊の増援部隊をファルージャに投入した。そして11日から一時停戦をしているが、その間にさらに部隊の増派と武器・弾薬の補給、より大規模な「掃討」作戦を準備している。また、停戦中にも武装ヘリによる攻撃をあちこちで仕かけ、市民60人を殺害している。
全土で民衆が蜂起 米軍への怒りが沸騰
米軍によるファルージャ攻撃、住民虐殺は、イラク全土の反米感情をいやがうえにも高めた。中南部で武装決起したシーア派の住民は、「ファルージャの同胞を見殺しにするな」と、各地で米軍やその下請軍隊への攻撃を強め、ナジャフ、クート、クーファを制圧、占領軍をたたき出した。首都バグダッド近郊の住民は、スンニ派、シーア派を問わず協力し、モスクなどを拠点に水や食料、医薬品を集めている。そして8日からトラックでファルージャに運びはじめた。荷台では「スンニ派とシーア派は兄弟だ」「われわれは祖国を売り渡しはしない」などのシュプレをくり返している。ファルージャの入口で、米軍は装甲車で道路を封鎖し、人道的援助を阻止しようとしたが、石や空きビンを激しく投げつける住民の迫力に圧倒され、道をあけざるをえなかったと伝えられている。
さらに、米軍のファルージャ攻撃は、米海兵隊支援にむかった新生イラク軍部隊が同胞とたたかうことを拒否して引き返すような事態をつくっている。11日付の米紙『ワシントンポスト』が報じている。
米英占領当局のかいらいである統治評議会にも動揺と亀裂を生み出し、崩壊の危機にひんしている。人権相や内相がファルージャでの住民殺害に抗議して閣僚を辞任したのにつづき、同評議会の安全保障委員長も辞任したほか、シーア派やスンニ派の評議会メンバーも職務を放棄している。これによって、同評議会を拡大して、6月末にイラク人への主権移譲をもくろんだブッシュの芝居もうてなくなった。
イラク全土で民族解放戦争の火が燃え上がったために、アメリカ主導の「有志連合」もガタがきている。ホンジュラス、シンガポールがイラクから撤兵したほか、スペイン、タイ、ブルガリア、ノルウェー、カザフスタンなども撤兵を表明し、イタリア、ウクライナ、ポルトガル、オランダなども衝突地帯から遠く離れた基地に撤退している。小泉首相は13日、チェイニー米副大統領にも「自衛隊は撤退しない」と約束、アメリカの下請戦争にどこまでも協力する姿勢を示した。イギリスのブレア首相につぐ親米ぶりを見せ、イラク侵略占領にあくまで日本人民を動員し、イラク人民に敵対する道を突っ走ろうとしているのである。