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「HANDS OFF!(手を出すな!)」 全米1400カ所で60万人が行動 億万長者の権力掌握終結を トランプの国家破壊に抗議

(2025年4月9日付掲載)

「手を出すな!」のプラカードを掲げて行進する若者たち(5日、ニューヨーク)

 米国全土で5日、150以上の団体とそれに呼応した市民が約1400カ所でトランプ政権への抗議デモや集会をおこなった。行動は全50州でとりくまれ、主催者によると参加登録者だけで約60万人に達したという。トランプは今年1月の大統領就任後、実業家のイーロン・マスクを「政府効率化省」のトップに据え、以来、政府支出の削減と称して国民の生活に直結する福祉や教育、健康、社会保険などに関わる連邦政府機関の職員大量解雇や予算削減を強行してきた。今回の抗議デモは、こうした暴挙に対して全国で「HANDS OFF!(手を出すな!)」をスローガンに人々が集まり、トランプ大統領2期目で最大規模の行動へと発展している。

 

広場を埋め尽くす抗議集会参加者たち(5日、ノースカロライナ州)

「民主主義をもう一度偉大なものに」の横断幕を掲げる人々(5日、ワシントン)

 米国内では5日、各州議事堂や連邦政府の建物、議会事務所、社会保障庁本部、公園、市役所など、1400件をこえる大規模な抗議行動がおこなわれた。抗議者たちは、この間トランプ政府が20万人もの連邦職員を強引に解雇し、社会保障局の地方事務所閉鎖、教育省の解体、移民の国外追放、保健プログラムに対する連邦資金削減措置を進めていることを強く非難した。また、トランプ政府がバイデン政府と同様にイスラエルによるパレスチナ市民虐殺のための資金援助を続けていることに対する抗議の声も多数あがった。

 

 参加者らは「民主主義に手を出すな」「社会保障に手を出すな」「多様性と公平性、包摂性がアメリカを強くする」「分断に手を出すな」などのプラカードを掲げた。医療や公民権、学校といった公共福祉の破壊とともに、世界各国に対する相互関税で米国内の物価高はさらに深刻化し、インフレの加速によってより生活が苦しくなることへの危惧も高まっている。

 

 今回の一斉行動に先立ち、「HANDS OFF!」の主催者は、公式ホームページで以下のように呼びかけている。

 

 4月5日、私たちは立ち上がる。彼らは私たちの国を解体し、政府を略奪している。そして、私たちがただ傍観しているだけだと思っている。

 

 私たちはただ一つの要求を掲げて立ち上がる。「手を出すな!」これは、近代史上もっとも恥知らずな権力掌握を阻止するための全国的な運動だ。トランプ、マスク、そして彼らの億万長者の取り巻きたちは、議会のあらゆる支援の下、私たちの政府、経済、そして基本的権利に対する全面的な攻撃を画策している。

 

 彼らはアメリカからさまざまなものを剥ぎとろうとしている。社会保障事務所を閉鎖し、必要不可欠な労働者を解雇し、消費者保護を排除し、メディケイド(政府による低所得者向けの医療保険制度)を骨抜きにする。すべては億万長者の脱税詐欺に資金を提供するためだ。彼らは私たちの税金、公共サービス、そして民主主義を超富裕層に引き渡そうとしている。

 

 今たたかわなければ、救えるものは何も残らないだろう。

 

 私たちは国家的危機に直面している。トランプとマスクが違法な買収を実行するなか、私たちの民主主義、生活、権利はすべて危険にさらされている。彼らは社会保障制度とメディケアまで解体し、高齢者や障害者のアメリカ人に大変な苦労を強いている。

 

 彼らは億万長者に何兆㌦も渡し、一方で残りの私たちには食料、家賃、医療費の高騰を強いている。彼らは労働者に対する保護を骨抜きにしており、そのためペイデイローン(給料を担保に短期小口融資を高利でおこなう金融業者)、銀行、クレジットカード会社は、何の罰も受けずにアメリカ人を騙すことができる。

 

 彼らは私たちのコミュニティと権利を攻撃しており、退役軍人、子ども、高齢者、農民、移民、トランスジェンダーの人々、そして政敵を標的にしている。

 

 彼らはそこで止まらないだろう。これは単なる汚職でも経営不行き届きでもなく、敵対的買収である。

 

 今こそ私たちが「ノー」を示すときだ。労働者が生き残るために苦労している間に、億万長者が政府から金を略奪し、盗み、巻き上げるのをやめさせなければならない。

 

 4月5日、私たちは行動を起こす。全国で何千人もの人々がデモ行進し、集会を開き、混乱を招き、億万長者による権力掌握の終結を要求する。州都、連邦政府の建物、議会事務所、市の中心部など、私たちの声が確実に届く場所ならどこでも。

 

教育や社会保障壊すな 全50州で行動

 

 抗議活動は米国内全50州でおこなわれた。集まった人々はトランプ政府による大規模な行政措置の強行と、イーロン・マスクの政府効率化省(DOGE)が主導する再編に怒りの声をあげた。

 

 米国公務員連合(AFGE)の会長は、ワシントンDCでの集会でマイクを握り、以下のようにのべた。

 

 今、私たちの国は岐路に立たされている。ここ数日、私たちは民主主義、法の支配、アメリカの退役軍人、アメリカの労働者、公務員、政府、地域社会、組合、そして憲法で保障されている自由そのものに対する前例のない攻撃に晒されている。だから私たちは“ノー”といっている。

 

 私たちは沈黙しないし屈しない。私たちは立ち上がって「私たちの組合に手を出すな」「私たちの契約に手を出すな」といい続ける。そして立ち上がって権力に真実を語り、われわれ自身の立場を守る。強欲な億万長者や企業からアメリカの労働者を守っている機関が解体されるのを黙って見過ごすつもりはない。

 

 社会保障を解体させるな。アメリカ人が一生をかけて退職金のために積み立てたお金を盗ませるな。退役軍人省の職員八万人を削減させるな。退役軍人給付を奪わせるな。汚染や病気からわれわれを守っている機関を骨抜きにさせるな。

 

 トランプやイーロン・マスク、さらに「政府効率化省」やその周囲の億万長者の仲間たちは、本当は効率化や国家安全保障のために行動するつもりなどない。これはただの悪だ。きれいな水と食べ物を保障するシステムそのものを破壊する悪だ。彼らはあなたたちから権力を奪い、自分たちのものにしたいのだ。このショックとキャンペーンは、私たちの決意を弱めて黙らせ、一般のアメリカ人を「選挙で選ばれてすらいない大物たち」の足枷にし、二世紀半も続いてきたアメリカの自由と民主主義を破壊するためのものだ。

 

 だからこそ、AFGEは法廷で、メディアで、議会で、そしてこの路上で、あなたたちと一緒にたたかってきた。私たちは不当な扱いを受けたすべての連邦職員のために立ち上がり、反撃を続ける。今日、アメリカ全土で集まった人々に告ぐ。今日はこの運動の始まりだ。私たちは、全国各地でこれらのイベントを開催し、組織化を続けなければならない。

 

 組合として、運動として、国家として私たちはこれまでに経験したことのないような困難な課題に直面しているが、協力すれば克服できる。われわれは沈黙しない。われわれはたたかい、共に信念を貫いて勝利する。われわれはあらゆる攻撃に対して断固として立ち向かう。君たちの言葉を聞かせてくれ。そして共に、われわれはすべてのアメリカ人の権利と自由を守る。なぜならわれわれには力があるからだ。君も知っているように、われわれには力がある。

 

ガザでの虐殺を止めよ 拘束学生の釈放を

 

ミネソタ州セントポールでの抗議行動に詰めかけた人々(5日)

 シカゴでは、数千人のデモ参加者がダウンタウン地区に集結した。デモ参加者の中心を担ったのは、多くの労働組合員だった。参加者は「私たちは自分たちの仕事について心配している。参加者はほとんどが市民であり、シカゴの住民だ。トランプ政府とイーロン・マスクはこれ以上手を出すな」と訴えた。

 

 ニューヨークでは、デモ参加者が公園に集まり、「イーロンのプラグを抜け」や「かつて教育省があったからこそ、これを書ける」と書かれたプラカードを掲げ、公共部門への予算削減に対して怒りの声を上げた。

 

 ボルチモアでは、DOGEが最大の標的としている社会保障局本部前に数百人が集まり、高齢者や障害者に給付金を支給している同局に対する人員・予算削減に抗議の声をあげた。

 

 ロサンゼルスのデモに参加した男性は「トランプ大統領が経済を破壊し、政府を破壊している。そしてそれらはイーロン・マスクやすべての億万長者らのためのものであり、私たちや周囲に暮らす人々のためのものではない」と訴えた。

 

 コロラド州のデモに参加した女性は「私は国立公園局の元職員だ。公園を運営することはとても大変だが、連邦政府機関の改革や予算削減によってそれらはさらに難しくなるだろう」と危惧した。

 

 「手を出すな!」のスローガンは、米国の支援により今もパレスチナで続く虐殺行為を阻止するためのメッセージでもある。米国全土での大規模デモに連帯し、各地でガザ虐殺への抗議行動もおこなわれた。

 

 ワシントンでのデモ参加者は、イスラエルに対する武器の禁輸、ガザ虐殺の停止、さらにパレスチナ人権活動への関与を理由に拘束された活動家や学生、教員の釈放を訴えた。

 

 参加した男性は「私が今日ここにいるのは、過去1年半、ガザでアメリカの納税者のお金によって続けられている徹底的な破壊を見てきたからだ。前政権でもそれを見てきたが、トランプ政権がそれを継続し、ガザの人々の状況を悪化させている。ラマダン月の断食の後、ガザの人々が飢餓に苦しんでいるにもかかわらずイスラエルはまたも停戦を破り、虐殺を開始した。アメリカ国民はこれを受け入れないし、大虐殺を支持し続ける私たちの政府に対して、私たちは立ち向かうということをガザの人々に知ってもらいたい」と語った。

 

 トランプ政府は、昨年米国各地の大学キャンパスで学生らが敷地を占拠し、パレスチナ・ガザでの戦争に抗議したことをめぐり、抗議に参加した留学生の査証(ビザ)を取り消すなどしている。ANSWER連合(米反戦団体)に所属する女性は「私たちはガザで大量虐殺の即時停止を求める。米国は虐殺への加担・幇助をやめるために全力を尽くすべきだ。また、私たちはパレスチナ人を支持したというだけで路上から連行され、拉致され、投獄された学生の解放、そしてパレスチナの自決権と解放のために立ち上がったがために抑圧されてきたすべての人々の告訴や訴訟を取り下げ、人々が声を上げて大量虐殺に反対することが許されることを求める」とのべた。

 

 ニューヨークのデモには、雨のなか10万人もの人々がマンハッタンの通りを埋め行進した。米国国立衛生研究所(NIH)の科学者は、「私は試験期間中の職員だが、試験期間中の職員全体の約40%が解雇された。科学者に資金を提供せよ。予算削減をやめ、億万長者への資金提供をやめ、彼らのもう一つの目的でもある“国民への再教育”をやめさせる必要がある。研究への投資を増やし、公衆衛生への投資を増やさなければならない」と語った。

 

生活脅かす政府に怒り 政府効率化省の暴挙

 

それぞれ自作のプラカードを掲げる集会参加者たち(5日、ワシントン)

 政府効率化省(DOGE)は、トランプ大統領が就任初日の1月20日に署名した大統領令によって創設された。「省」とはいうものの、その実態は連邦議会が制定する法律にもとづき創設される連邦政府の「省」ではなく、ホワイトハウス内の既存部門であった「米国デジタルサービス」を改組した期間限定の組織だ。

 

 当初の目的は「連邦政府の技術とソフトウェアを近代化し、政府の効率と生産性を最大化する」ことだった。だが、いまや連邦政府機関を縮小し、予算・人員削減を強行するためにあらゆる政府機関に立ち入り、機密情報の閲覧など、大統領令の範囲を大幅に超越して権限を振るっている。

 

 「特別政府職員」に指定されたイーロン・マスクは、任期が130日以内とされ、DOGEを率いている。だが在任期間は早ければ5月末に終了する可能性がある。

 

 強権的なコストカットを進めるDOGEだが、実際にイーロン・マスクが責任者なのかという点は明確になっていない。ホワイトハウスが提出した訴訟書類のなかでは「DOGEに関する権限がない」とされているが、トランプ大統領は「彼が責任者だ」とのべている。権限が誰にあるのかも曖昧なまま、国民生活に甚大な影響を及ぼす「改革」が進められていることへの不信感が米国全土で渦巻いている。

 

 すでにDOGEは20以上の政府機関に立ち入り、現・元連邦政府職員だけでなく、何百万人もの米国民に関する個人データを含むコンピューターシステムへのアクセス権を取得している。また、230万人いる連邦職員のうち、すでにこれまで20万人に及ぶ人員削減を強行している。

 

 DOGEは2月、連邦政府の人事部門である人事管理局(OPM)を通じ、連邦政府職員に早期希望退職を促す通知を送り、約7万5000人が応じたという。さらにDOGEはこれ以外に、少なくとも2万5000人の政府職員を解雇または停職処分とした。標的となったのは、法的保護の弱い試用期間中の職員だった。

 

 またトランプ大統領は、連邦省庁トップらに、3月13日までに連邦政府職員を「大幅に削減する」計画に協力するよう求める大統領令を発している。

 

 人員削減はこれだけにとどまらない。世界各地の困窮者にとって生命線となる援助をおこなってきた国際開発局(USAID)は閉鎖され、数千人の職員が休職をよぎなくされた。さらに悪徳金融業者から米国民を保護する消費者金融保護局(CFPB)も閉鎖され、職員の多くが解雇された。CFPBは、テスラ社のローン契約に関する苦情を審査中の機関でもあった。

 

 他にも、定年退職者や障害者への給付を担う社会保障局(SSA)、徴税を担う内国歳入庁、退役軍人への恩給を管理し、医療を提供する退役軍人省といった連邦機関でも、数万人の職員が人員整理の対象となっている。

 

 さらにDOGEは2月と3月に海洋大気局(NOAA)の職員計2500人を削減。同局の人員は今年だけで20%も削減されている。これに加え、国立気象局(NWS)への予算削減もおこなっており、トランプ政府はNOAAとNWSの事務所数十カ所を閉鎖する計画まで進めている。そのため、毎年大規模な被害を及ぼすハリケーンの予報や、人命、インフラを守るための気候変動研究が制限されることへの危惧が米国全土で高まっており、「緊急対応を支援し、人命を救い、悪天候のさいに被害を軽減する重要な機関とサービスを削減することは、異常気象が激化するなかで大きな損失をもたらす過ちだ」との世論が拡大している。

 

 こうした動きは、住宅保険料のさらなる値上げにも繋がると見られている。全米経済研究所の調査によると、平均保険料は2020年から2023年の間に33%も上昇しているという。気象研究に関わる部局が縮小されることにより、今後も保険料の上昇傾向が強まり、住宅所有者の負担増大や、高リスク地域で保険会社のサービス提供停止がよりいっそう進むことも危惧されている。

 

相互関税で経済も打撃 インフレに失業増

 

 政府の大幅なコストカットにより公共福祉サービスが弱体化することへの危惧に加え、トランプが2日に世界各国に対して相互関税をかけると表明したことも、米国全土で大きな衝撃となっている。すでに深刻だった物価高がより加速することは明白であり、経済的な打撃が国民生活を襲うことへの危惧も高まっている。

 

 米国のニュース番組「デモクラシー・ナウ!」にゲスト参加した経済学者リチャード・ウルフ氏は、トランプの貿易戦争と関税について、米国の消費者に深刻な経済的影響を与え、不況にさえ繋がる危険性があると警告した。トランプの相互関税措置は、「米国は過去50年間、とくに上層部の人々が経済的豊かさの受益者であったにもかかわらず、米国を“被害者”とする非歴史的な考え」から生まれたものであると指摘。世界の他の国々の経済的繁栄に反して米国の覇権が低下するなかで、「トランプと同盟国が米国の帝国主義的支配の終焉(えん)を絶望的に否定し、他の人々を攻撃しているが、それらはうまくいかないだろう」と警鐘を鳴らした。

 

 4日の米国市場では、ダウ平均株価が前日比2231㌦低下し、過去3番目に大きい下落幅を記録した。米国が中国に対して34%の相互関税を課すとの決定に対し、中国も同率の報復関税などの措置を打ち出したことなどが引き金となった。こうした動きやその影響について連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は「トランプ大統領の世界的な拡大関税により、米国はインフレと失業増加のリスクが高まっている」と発表している。

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