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資本主義の総本山アメリカの没落 相互関税で世界は大揺れ 富の一極集中と総貧困化が生み出す矛盾【記者座談会】

(2025年4月7日付掲載)

トランプ相互関税をうち出すトランプ米大統領(2日)

 米大統領のトランプが4月2日に世界各国に相互関税をかけることを表明したのを受けて、アメリカのみならず各国で経済活動の停滞を懸念して株価が暴落するなど、動揺が広がっている。第2次大戦後にグローバリズムをおし広げてきた張本人のアメリカが、今度は180度方向転換して保護主義に走り、対抗する各国との間で「報復関税」の応酬すら始まる気配となっている。資本主義の総本山たるアメリカが、その矛盾が故に国内回帰に向かわざるを得ないという事情のなかで、世界中が翻弄される事態となっている。様々な論評も飛び交うなかで、一連の方向転換や情勢についてどう見るのか、記者たちで論議してみた。

 

戦後80年でたどり着いた新局面

 

 A 連日、株価の暴落ぶりがすごい。日経平均でいえば元々が円安とも相まって上がりすぎではあったが、数時間でいっきに1600円落ち込むなど激しい変動を見せている。民主党政権時代に8000円台だったのがアベノミクスを経て昨年には4万円をこえるまでに跳ね上がっていたが、その過程で銀行などにそそのかされて「新NISA」を始めた人などは、恐らく元本割れで泣きを見ているのだろう。「否、NISAは10年~20年単位で見るものですよ」などと慰められているのが想像つく。

 

 日本国民の眠っている預金を金融市場、すなわち外資も含めてぶんどり合戦をしている市場にはき出させようというのがNISAで、岸田政権の時期に「NISAで老後の備えを」などといって若年層にまで投資熱を煽った経緯がある。素人が「NISA、NISA」といってもうかるかと思ったら投資は自己責任でカモにされるのだ。まったくひどい話だ。

 

 B 世界中に相互関税を課すということで、日本は24%。中国は34%。ベトナム46%。インド26%。EU20%と国や地域によって差異もある。東南アジアでは中国や韓国、あるいは日本の企業が現地生産してアメリカに輸出している製品などがあり、例えばベトナムなどは電子製品の一大生産基地でもある。故に高関税が課せられたのだろう。カンボジアもしかり。

 

 いまやグローバル化でサプライチェーンは世界に散っており、資本はより安価な労働力を求めて製造拠点を移してきた。安価な労働力こそが搾取の源泉であり、米国のみならず世界中の資本が自国を空洞化させながら製造拠点の海外移転をやってきたわけだ。日本企業を見てもホンダのカブなんてタイで製造するようになったし、カメラや自動車もしかり。政府をしてODAで東南アジア諸国の開発整備をやって企業団地のようなものをこしらえて、そこに数々の企業群が乗り込んできた関係だ。一カ所で一つの製品が完成するというものでもなく、部品生産も世界中に供給網が散っているし、この部品はどこそこの国の工場で生産されたもの、この部品はまた別の国の工場で生産されたものといった風に、分業で成り立っている。アメリカの周辺ではメキシコに自動車会社が生産拠点を設けてきたが、これとて労働力が安価だからにほかならない。

 

 C 各国に高関税を課すことによって、アメリカ国内に流れ込んでいた貿易赤字の元ともなっていた輸入製品・商品はその分高額になって競争性を失い(関税分が上乗せされて高価格を強いられる)、輸入量が制限されることにはなるのだろう。直接には消費者すなわちアメリカ国民がもっともとばっちりを食らう。トランプは安価な輸入物の流入を抑えることでアメリカの製造業を復活させ、また資本投資で製造拠点をアメリカ国内に設けさせるなどして、労働者が十分な収入を得て暮らせるようにする、そして豊かなアメリカをとり戻すのだという。トヨタなどが第一次トランプ政権時期に恫喝されて、アメリカの雇用対策みたく巨額の投資をして現地工場を作ったりしたが、そのように産業空洞化への対策が切実になっているというアメリカの事情がある。国民が食っていけないし、この食い扶持をどうにかしないといけないわけだ。

 

 現状では製造業もアメリカ国内だけでは完結できず、設計だけ国内でやって製造は海外に発注する方式が定着している。iPhoneがそう。フォードとかGMといったアメリカを代表する自動車メーカーですらそうだ。グローバル化をおし進めた過程で国内製造業はすっかり空洞化してしまい、それこそラストベルトといわれるような見捨てられた工業地帯ができてしまった。

 

 そうして中産階級は没落して落ちぶれ、高額な家賃が払えずにホームレスは激増し、ノマドといわれる車上生活で季節労働を転々とする人々なども増えている。薬物に溺れる人々の存在も社会問題になっている。こうした実態はなかなか世界に向かって発信されないが、わたしたちの想像をはるかにこえてアメリカは荒廃している。

 

 イーロンマスクの個人資産300兆円とかが騒がれる一方で貧富の格差はひどいものになり、要は階級矛盾が激化している。そんななかでオキュパイ運動はじめ労働運動もかつてなく熱を帯びているし、一方で「アメリカ・ファースト」を叫ぶトランプの登場にもつながっている。アメリカの資本主義社会の矛盾が今日のアメリカを作り出している。

 

米国製造業の復活? 割を食う米国の消費者

 

ワシントンでのトランプ政策に反対する集会(5日)

  ただ、高関税を課したからといってアメリカの製造業が復活するかというと、そんなに単純なものでもないのが現実ではないか。保護主義政策に走ったからといって簡単に製造業が復活するのかどうかだ。例えばクルマを見ても、アメ車をいくら作ったところでアメリカ国民すら買わないではないか。性能や耐久性で優れているから日本車が売れるわけで、燃費も悪くてすぐに故障するようなクルマなら消費者は誰も魅力を感じない。でかくてごついだけではどうしようもないのだ。

 

 石ころを温めてもひよこは生まれないのと同じで、物事には内因というものがある。仮にアメリカ車が無関税で日本国内で販売されても誰も買わないのではないか。フォードはすでに日本市場から撤退したが、やはり製品としての優れた魅力がないと競争には敗北するほかない。高関税によって価格が高くても優れた製品の方が欲しいと消費者が望めばそっちの方が売れるだろう。優れた製品を生み出す開発力、技術力などがともなわないと「製造業の復活」にはなり得ない。

 

 世界的に見たら、日本のブルーカラー(製造業に従事する労働者)の優秀さは際立っているそうで、緻密で繊細な作業を得意としているという。他方でホンダがアフリカに製造工場を立ち上げてみたものの、きわめていい加減で検査に合格する製品の方が少なくて「こりゃダメだ…」となったとか、労働力にも地域性はあるようだ。これはなにも「ニッポンすごい!」とかの話ではなくて、グローバル化のなかでサプライチェーンを世界各地に設けるといったとき、民族性の違いが当然存在するということだ。

 

 先ほども話になったように、アメリカ一国で一つの製品が部品供給から組み立て製造まで完結するというようなことはまずないし、半導体は台湾や中国に依存しているとか、やはり突出した技術力を有したものが勝ち抜けていくのが製造業だ。自動車産業を復活させたいのなら、世界的にも突出した優れたクルマを作るほかないし、高関税で他国の製品にハンデをつけるというだけではどうしようもない。他の製品とて同じだ。

 

 C 高関税を課すとは、結局のところアメリカの消費者が割を食うわけだ。他国からの安価な輸入製品によって暮らしが成り立ってきた、つまり依存しているのに、これらの値段が跳ね上がることになる。アメリカ社会としては巨大な貿易赤字が示しているように、社会の維持を海外にアウトソーシングして依存している関係だ。一方で、アメリカ市場で利潤を得てきた海外資本にとっても相互依存の関係だったのが、高関税という障壁があらわれて戸惑っている。

 

 A これだけグローバル化が進んだ世界で、果たして世界と切り離れてアメリカの内籠もりというのが成り立つのかだ。中国はじめとした東南アジア諸国が「世界の工場」として様々な製品の製造を担ってきたが、それこそ安価な労働力があるからにほかならない。資本は常に安い労働力を求めて世界を彷徨(さまよ)ってきたし、高い労働力の自国は空洞化させてきた。これをいまさら「アメリカの製造業の復活」といっても矛盾するが、そうでもしないとアメリカ社会の没落が止まらないまでに腐朽・衰退の一途をたどっている。資本主義社会の帰結でもあるのだが、アメリカ国民の食い扶持を確保しないといけないというのがある。

 

 それはきわめて切実なものなのだろう。トランプが大統領選で押し上げられたのも、そういったアメリカの国内矛盾に縛られている関係だ。エスタブリッシュメントといわれるこれまでの既存の権威をぶっ壊していくというプロレス的な振る舞いも、それらの権威がアメリカ国内においてもはや信頼を失い、権威が権威でなくなっていることをあらわしているのだろう。トランプが突如あらわれて好き勝手しているのではなく土壌がある。

 

今の事態どう見るか 歴史的社会的な見方を

 

  歴史的、社会的に今日の情勢を捉えていく必要があるのではないか。第二次大戦から80年を迎えた世界で、米ソ二極構造の崩壊の後にあらわれたアメリカ一極支配が音をたてて崩れ始めている。この覇権主義の行き詰まりを反映して、さまざまな力関係の変化があらわれている。

 

 アメリカではアメリカ・ファーストを叫ぶトランプが再び大統領に就任し、欺瞞に満ちた民主党バイデン政府とは明らかにタイプの異なる政治が始まった。対外政策においてアメリカの利害こそが第一というのは戦後から一貫した戦略でもあるが、ここにきて叫んでいるアメリカ・ファーストが意味するのは、先ほどから話しているように、まず第一に国内へのテコ入れであり、いまや中産階級が没落して貧困が蔓延し、既存の権威に対して民衆の抵抗が強まっていることへの危機感にほかならない。大統領選は民主党の自爆みたいなものだったが、トランプの「アメリカ・ファースト」が受け入れられる素地がある。

 

 軍事力によって引き続き世界覇権を死守しようとする一方で、資本主義の総本山において統治がぐらついているという、米国ののっぴきならない事情を反映しているわけだ。新自由主義政策によって多国籍企業及び金融資本が世界を股にかけて利潤をむさぼってきたが、ウォール街が熱狂している傍らで国内そのものの産業を空洞化させ、窮乏化させたおかげで、オキュパイ(ウォール街を占拠せよ)をはじめとした社会運動が登場し、大衆行動が支配の根幹を揺さぶっている。実は労働運動も熱を帯びているが、あまり世界にはその事実が伝えられていない。

 

 B 衰退著しいアメリカにとって世界覇権は手放したくはないが重荷となり、その立場から引き始めている。中東やウクライナ情勢を見ても歴然としている。バイデン親子がちょっかいをかけたウクライナでも、トランプはスパッと引いていく。斯くしてパクス・アメリカーナの終焉が近づくのに照応して、世界情勢は多極化の兆候がさまざまな形で顕在化している。

 

 資本主義の不均衡発展にともなって、いまや社会帝国主義と化した中国がアメリカを追い抜かんばかりの勢いでグローバリゼーション・自由貿易をおし進める旗手として台頭しているし、「一帯一路」をはじめとしたフロンティアの創出にのめり込んでいる。まるで「資本主義の次男坊」みたいだ。

 

 先行して資本主義体制に突き進んだいわゆる先進国というのが腐朽・衰退していくのに対して、周回遅れで今から資本主義を謳歌しようという共産党一党独裁の社会主義・資本主義のハイブリッドみたいなのが伸びようとしている。マルクスとかレーニンが聞いたらびっくりするような世界があらわれている。一方は没落し、一方は伸びしろ満載というのが現実だろう。なんせ手つかずのフロンティアなのだから。このインフラ投資や市場創出に欧米をはじめとした資本主義各国の金融資本が依存し、あるいは寄生する形で、有り余ったマネーのはけ口を求めている。グローバルサウスはじめドル支配からの離脱を求める新興国の存在感が増し、その流れに乗り遅れまいとする先進国が駆け引きをくり広げるなど、ドル基軸通貨体制を揺さぶる動きが起こっている。BRICSの存在感が高まっているのもそのためだ。「ドル支配からの脱却」が始まろうとしている。

 

 C 第二次大戦後の世界では、西側の資本主義陣営のトップにアメリカが君臨して、一方のソ連、中国をはじめとした社会主義陣営が対抗する形で矛盾を形成してきた。このどちらを支持するかが世界中の国々や政治勢力のなかで激しく問われ、右や左の多種多様なる勢力が論争や抗争等をくり広げてきた。社会主義を標榜する国同士も民族主義や修正主義に侵されたもとで独特の矛盾を形成し、これらが世界中を巻き込んで一種の混乱をつくりだしてきたことも事実だ。

 

 その末に、資本主義よりも先んじて社会主義を標榜する陣営が崩壊するか変質し、各国で「共産党」あるいは「社会党」を名乗っていた勢力のなかでも、資本主義体制の枠内で安住を追い求めるような腐敗と堕落がはびこった。そして、すっかりくたびれて消滅するか、まるで別物としての道を進み始めるなどして、民衆から信頼を失って今日に至っている。未来への展望を指し示す前衛と呼べるようなものがなにもないというのが、今日の混迷を作り出している一つの要因ともいえる。

 

 そして対抗すべき社会主義陣営が変質するか退場した資本主義世界では、むき出しの搾取収奪が強まった。大企業天国、資本家天国と化すと同時に、医療福祉、あるいは教育などそれまで社会主義陣営を意識して実施してきた社会保障政策の切り捨てに拍車がかかり、新自由主義政策をやりまくって社会を崩壊させてきた。社会主義陣営の圧がなくなったおかげで、人間としての最低限の暮らしや尊厳を守ってきた規制が容赦なくとり払われ、圧倒的多数には貧困の自由だけが投げ与えられる社会が到来した。アメリカとて、行き着くところへ行き着いたわけだ。二極構造崩壊の際、「資本主義の永遠の勝利」などといっていたが、四半世紀以上がたってみて資本主義の没落が顕在化している。

 

  中産階級の没落も各国共通したものだ。アメリカだけのことではない。日本とて同じだ。そして、一方では世界中の富裕層や多国籍企業がタックスヘイブンに巨万の富を溜め込むという、盗っ人猛々しい振る舞いが横行しているのだ。社会が生み出した富を上澄みの一部分が強欲に私物化してしまい、共通の隠し場所さえ確保している。まったくひどい話だ。彼らがみずから歪んだ富の分配機能にメスを入れ、退場することなどあり得ない。個人資産300兆円など、それ自体いったい何に使うのかと思うような途方もない金額だが、いまや「億万長者」という表現すら凌駕する人種が出てきている。富の一極集中と総貧困化社会の到来だ。

 

世界の大きな変化 日本はどう向き合うか

 

ロシア・カザンで開催されたBRICS首脳会議(2024年10月24日)

 A アメリカの没落と世界覇権からの離脱――。混沌とする資本主義社会――。事態は単純ではないが、ポストキャピタリズムすなわち資本主義になりかわる次の社会の展望が求められている。強欲資本主義に毒された1%vs99%の社会構造を乗りこえ、人間が人間として生きていける豊かでまっとうな社会をいかにして作り出すかが問われている。資本主義の総本山たるアメリカにおいて、その矛盾がきわめて先鋭化しているといえる。戦後80年でたどりついた事態であり、一周まわった感がある。

 

 こうした世界情勢の変化に対して、日本社会はどう向き合うのかだろう。いまや世界的に見ても他に例がないほどアメリカの隷属国家に成り下がり、その対米従属一辺倒は国際的にも嘲笑されるほど著しいものになっている。関税24%といわれても、石破政権は為す術なしといった感じだ。

 

 日本社会の展望は、この80年にわたって続いてきた隷属構造を断ち切り、植民地的退廃に区切りを付けることによってしか打開できない。米国に隷属してさえいれば地位が安泰というような世界に身を置いて腐敗堕落し、主体性を失った政治家や官僚、経済人に社会の運営を任せていたのでは、衰退国家アメリカとともに世界的に孤立するほかない。それだけでなく、台湾有事にしても、行き詰まった資本主義を振り出しに戻す最終手段たる戦争によって、再び焼け野原にされかねないのが現実だ。米中覇権争奪がますます激化する情勢のなかで、それらは極めて現実的な脅威として迫っている。

 

  BRICSやグローバルサウスが存在感を高めている世界で、一方では発展の余地があるこれらのフロンティアが伸びていく趨勢にある。これは押しとどめることができない流れでもある。アメリカの内籠もりとは対照的に、各国がつながりを深めていくのだろう。国際的にはパワーバランスが流動化するだろうし、そのもとでのあらたな合従連衡などが始まっていく。

 

 日本はこうした世界の変化のなかでどのような位置に立ち、切り結んでいくのかだ。それこそ対米一辺倒でははじき出されるだけだ。主体性を持って各国の輪のなかに入っていかなければならない。

 

 A トランプ大暴れのアメリカと世界の変化――。目前の事態に一喜一憂しても仕方がないが、とりあえず連日の株価大暴落で世界は大揺れだ。なぜそうなっているのか、歴史的、社会的に深掘りしていく視点が必要だろうし、岐路に立たされている世界の変化を捉えていきたい。

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