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米国の戦争政策の破綻と拡大するグローバルサウスの役割 青山学院大学名誉教授・羽場久美子

2024年12月16日、第7回「今こそ停戦を」シンポジウムでの発言より)

 

羽場久美子氏

 この間の情勢の変化となぜ戦争が過激化しているのかを考えるうえで重要なことが4点ある。

 

 一つ目は、アメリカ大統領選でアメリカ国民自身がトランプを選択したということ。ただし、現在から来年1月20日の大統領就任式までバイデン政権による戦争継続のためのさまざまな動きが続くとみられる。すでにバイデンがウクライナ戦争継続のための追加支援を訴え、あるいはアメリカの武器によってロシア国内が攻撃されているという状況がある。アメリカ自体が二つに分かれているということだ。

 

 二つ目は、日本の石破政権誕生の背景に国民民主党と維新の裏切りがあったということだ。自民・公明の与党が過半数割れしたにもかかわらず、政権交代が実現できなかったことは非常に大きな問題だ。とくに国民民主党の玉木代表が不倫問題で役職停止期間でありながら“103万円の壁”引き上げをめぐってテレビに出演し続けていることには非常に問題を感じる。これで自民党の政策活動費やパーティー券問題はうやむやにされている。

 

 アメリカ自体は二つに割れているが、日本はアメリカ以上にバイデンの戦争政策から抜け出せていない。

 

 三つ目は、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領のクーデター失敗と弾劾の成功だ。その前に北朝鮮と韓国の緊張が非常に高まり、その緊張を煽って戦争対立を激化させる形でクーデターの実現が目論まれたが、それが失敗に終わり、それに対して韓国の人々や議員の行動、民主主義と議会制民主主義を守る力はすごいものだった。

 

 このクーデターの動き自体、戦争戦略の一環であったと私は考えている。その直後にシリアのアサド政権が崩壊し、イスラエルの無差別空爆があった。イスラエルの行為に対してはICC(国際刑事裁判所)やICJ(国際司法裁判所)がジェノサイドと認定し、ネタニヤフらの逮捕が訴えられているにもかかわらず、今回のイスラエルによる無差別空爆は「(シリアの)民主化のための支援だった」という報道がなされており、ここでも日本のマスコミの問題点を論じざるを得ない。

 

 四つ目は、中国やインド、グローバルサウスの役割が極めて拡大しているということだ。アメリカ自体も変わりつつあるが、カタールや南アフリカなどがICC、ICJなどに訴え、国際法を使ってイスラエルのジェノサイドを批判し、それに応えてICCはネタニヤフの逮捕状を発行した。

 

 非常に重要なことは、平和と秩序を守ろうとしているのが旧来の欧米先進国ではなく、グローバルサウスの国々であるということだ。中国やインドを含むグローバルサウスの平和会議が9月に中国で開かれたが、そこでは「平和を守っているのはわれわれであり、戦争の悲劇を被ってきたのもわれわれだ」「平和を実現できるのはグローバルサウスだ」ということをキューバ、南アフリカ、ラテンアメリカの国々から口々に語られた。

 

 私自身は日本が停戦を仲介できるか否かについては懐疑的だが、もし日本が本当に仲介を望むのであれば、中国、インド、グローバルサウスと結び、平和を守っているのは誰かということを考えなければならない。

 

CIA元幹部の告白

 

 こうしたなかでのウクライナの即時停戦は残念ながら容易とはいえない。ウクライナ、イギリス、アメリカは、ウクライナのNATO加盟が絶対条件であるとし、東部はロシアの占領下でもいいというようなことをいっている。他方、ロシアはウクライナの「中立」を要求し、領土問題については住民選挙でよいとするトルコの中立政策と近い方向性を打ち出している。これに対して必ずしもトランプが停戦を実現できるとは限らない。

 

 アメリカの国際会議でも今、米欧の白人至上主義ということがアメリカ人によっても問題視されている。「東アジアでの戦争はガザよりも酷いものになるだろう」ということがイスラエルに武器を輸出する米AI企業のCEOからも語られており、そうしたなかでわれわれはどこと結ぶべきかを本気で考えなければならないときに来ている。

 

 最後にCIA元幹部の告白について触れたい。以下は、元CIA役員のジョン・ストックウェル氏がこの秋に告白したことだ。動画が『X』でも拡散され、今後本にもなるということだ。

 

 アメリカは20カ国以上で民主主義を転覆させようとした。数十カ国で選挙を操作した。常備軍を創設し、少数民族の反乱を促した。アメリカがどれほど暴力的な国か考えてみてほしい。自分たちに直接反撃できない国に膨大な資金と武器を送って入り込み、少数民族を武装化させ、公然と暴力行為をおこなわせた。これはニカラグア、ベトナム、ラオス、コンゴ、イラン、イラクなど世界各地でわれわれ(CIA)が使ってきた手法だ。

 

 1963年に暗殺されたアメリカ大統領(JFK)を含む世界中の指導者を暗殺した。1973年、CIAはチリで民主的に選ばれたアジェンデ政権の転覆を組織し、その過程で彼は殺された。さらにチリの憲法擁護者であったシュナイダー将軍を殺害し、CIAの代理人であるピノチェトを政権の座に就かせた。

 

 中国に対する長い不安定化とプロパガンダのキャンペーンもあった。そのプロパガンダはアメリカだけでなく、中国や世界の他の国にも向けられたもので、最終的に朝鮮戦争に突入し、100万人が犠牲になった。

 

 ベトナムに対してもCIAによる長い不安定化とプロパガンダキャンペーンがあり、最終的にベトナム戦争で200万人が犠牲になった。このように戦後だけで全体で数百万人が戦争の犠牲になっている。

 

 イギリス、フランス、スウェーデン、ノルウェー、ベルギー、スイスなどでは、このようなことはアメリカはおこなわない。これらのことはすべて、米国による国の不安定化と国民の残虐化を止めさせる力を持たない脆弱な政府を持つ第三世界、つまりグローバルサウスの国々でおこなわれているのだ。  (引用終わり)

 

 ストックウェルはこれを本にした。多くのCIA元職員がトランプ再選後に、アメリカの戦争について本を書いているという。ぜひこれらに耳を傾けていただきたい。

 

 日本が和平仲介を実現できるとするなら、これらグローバルサウスの国々の平和を求める動きと連帯していくことが最も重要ではないかと思う。

 

(世界国際関係学会ISAアジア太平洋会長)

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