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イスラエル国内で停戦デモが拡大 孤立するネタニヤフ極右政権 ひたすら戦闘継続し人質殺害も 史上最多の75万人が抗議

(9月11日付掲載)

イスラエルの都市テルアビブで55万人が集まりネタニヤフ政府に早期停戦を求めた(1日)

テルアビブの街頭でおこなわれた大規模なデモ(1日)

 昨年10月7日から始まったイスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への大規模攻撃はまもなく1年を迎えようとしている。すでにガザ地区では1万6000人の子どもを含む4万1000人以上(ガザ保健省発表)の市民がイスラエル軍によって惨殺され、学校、病院、難民キャンプ、さらに国連職員やジャーナリストまでも標的にした殲滅攻撃が現在も続いている。停戦を拒否して一方的に続くイスラエルの民間人殺戮は、戦争犯罪である「ジェノサイド(大量殺戮)」「エスニック・クレンジング(民族浄化)」の最たるものとしてすでに世界的に認知されているが、最大の後ろ盾である米国や欧州諸国はこれを黙認し、ネタニヤフ首相と極右連立政府は戦争継続の姿勢を崩していない。そのなかでイスラエル国内では、ネタニヤフ政府に対して、ハマスとの停戦交渉に合意し、ガザに残る人質の解放を求めて史上最大の抗議デモが連日のようにおこなわれている。

 

 9月2日、推定75万人のイスラエル市民が、ネタニヤフ・極右連立政府に対し、イスラム組織ハマスに捕らえられた人質を解放するためにハマスとの停戦協定に合意するよう求めて街頭にくり出した。

 

 これはイスラエル史上最大規模の抗議行動となり、主催者によれば、イスラエル最大の都市テルアビブで約50万人、他の町で25万人が参加した。ネタニヤフ政府は「人質解放のために軍事制圧」という強硬姿勢を崩していないが、市民の多くは政府の政策を転換させるまで抗議行動を継続する意志を示している。

 

 この抗議行動と連動し、イスラエル国内最大の労組連合体「ヒスタドルート」がゼネストを呼びかけ、イスラエル国内のあらゆる機能が一斉に停止した。ハマスとの停戦交渉が一向に進展せず、ハマス側に拘束されている約100人の人質の解放が進んでいないことから、これまで隔たりがあったユダヤ系・アラブ系の垣根を越えてイスラエル国内の労働者が結束し、ネタニヤフ極右政府に対して怒りの声をあげた。ゼネストは裁判所の指示によって2日間で終了したが、ネタニヤフ政府が停戦に合意しない限り、国内での抗議デモは収まる気配がない。

 

 昨年10月7日以降断続的におこなわれてきたイスラエル国内での抗議行動は、ガザ南部の地下トンネルから6人の人質の遺体が発見された直後から一気に拡大した。

 

 この人質殺害についてイスラエル軍は「ハマスによる残忍な殺害」と強調したが、イスラエルメディアによると、人質家族たちは「恐れていたことが現実になった」と語り、その怒りは人質返還よりも戦果を優先して戦闘を継続するネタニヤフ政府に向いている。遺体で見つかった6人のうち3人はイスラエルが拒否したハマスとの停戦交渉で最初に解放される名簿リストに入っていたという。人質の家族らでつくる団体は1日、ネタニヤフ政府が停戦合意を締結していれば「今朝、死亡が確認された人質たちは生きていたことだろう」と指摘し、「人質を自宅に戻すときが来ている」とSNSで訴えている。

 

ネタニヤフ首相を批判するプラカードを掲げる参加者(1日、テルアビブ)

 一方、ハマス側は6人の人質はイスラエル軍の空爆によって死亡したと主張している。イスラエル政府は、人質の遺体発見前までにハマスに拘束されている人質が107人いるとしていたが、ハマスは連日のイスラエル軍の猛爆撃によってすでに35人の人質が死亡したと発表している。

 

 実際、イスラエル軍は、昨年10月7日のハマスの襲撃に対する報復作戦の当初から、ハマスの人質になることを防ぐために人質ごと殺害することを認める「ハンニバル指令」を発令していたことをイスラエル主要紙『ハアレツ』(7月7日付)が報じている。そのため、その後のガザ爆撃も絨毯爆撃といえる無差別攻撃となり、人質の身を案じるイスラエル側の家族の感情を逆撫でした。とくにイスラエル軍は、地下トンネルを「ハマスの軍事拠点」とし、あらゆる重火器を用いた掃討作戦をおこなっており、今回殺害された人質がどちらの弾に被弾して死亡したのかも定かではない。

 

 ところが、米国のバイデン大統領は1日、声明で「ハマスに(人質を殺害した)罪の代償を払わせる」と宣言。イスラエルのネタニヤフ首相も同日、人質死亡についてイスラエル側の責任を否定し、6人の殺害に加担した者たちを捕らえるまで間断なく戦闘を続けるという声明を発出した。これに対して、イスラエル国民の怒りが噴き上がった。

 

 すでに7月の世論調査では、回答したイスラエル人の71%が昨年10月7日のハマスの攻撃を阻止できなかったのはネタニヤフ首相にあるとして辞任を求めており、6月には12万人がネタニヤフ政府の退陣と早期の選挙実施を求めてテルアビブで抗議デモをおこなっている。

 

 イスラエルの『ハアレツ』紙(9月3日付)は「市民のデモは人質が生還するための唯一の方法」とし、「政府が停戦合意に署名する以外に選択肢がなくなるまで、抗議活動を日々継続し、激化させなければならない」とデモ継続を訴える社説を掲載。「国防相も参謀総長も停戦合意に安全保障上の問題はないと明言しているのにもかかわらず、ネタニヤフ首相と政府はガザ南部の境界線での軍の駐留を主張して人質を放棄し続けている」と非難し、「人命軽視をする政府に対して、われわれは政府に人質を見捨て続ける権限はないことをわからせるしかない」とのべている。

 

死者18万人の推計も 戦争犯罪の訴追不可避

 

イスラエル軍の攻撃によって破壊されたガザの居住区(10日、シャティキャンプ)

 すでにイスラエル軍は、ガザ地区で4万1000人以上のパレスチナ人を殺害し、沿岸部の広大な地域を壊滅させた。また、違法に占領しているヨルダン川西岸地区でも600人以上を殺害し、約1万人のパレスチナ人を拘束している。

 

 現在、ガザ地区ではほぼすべての病院がイスラエル軍の標的になって破壊されており、ワクチン接種が滞ったため、子どもの間で、小児麻痺の原因となるポリオ感染が蔓延している。国連の勧告を受けてイスラエル軍は表向き一部休戦に応じたが、国連のワクチン輸送車を拘束している。

 

 国際的な医学雑誌『ランセット』に発表された研究論文(7月)は、イスラエルのガザ攻撃によるパレスチナ人の死者は18万6000人を超える可能性があると指摘しており、インフラが破壊され、食料・水・避難所が不足している現状では戦闘終結後も数カ月から数年にわたって病気などによる間接的な死者が多く出ることは避けられないとみられている。

 

 これらの常軌を逸した殺戮と違法な占領に国際社会の非難が集まるなかで、「ユダヤ人の安寧の地」として建国されたイスラエルは、今やユダヤ人にとって世界で最も危険な地域となり、「ハマス殲滅=パレスチナ人殲滅」を掲げて殺戮を続けるイスラエルの国際的な足場は急速に縮小し、国外に流出するイスラエル人も後を絶たない。

 

 現在、国際司法裁判所(ICJ)は、イスラエルがガザ地区でジェノサイド(大量虐殺)=戦争犯罪をおこなっているとの申し立てを審理中だが、すでに事実上それを認定している。また、国際刑事裁判所(ICC)の検察官は、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント国防相、さらにハマス指導者2人(後にうち1人をイスラエルが暗殺)に対する逮捕状を請求している。

 

米国は軍事支援継続 停戦阻害するのは誰か

 

 昨年11月、ハマスとイスラエルの交渉団は7日間の一時停戦を実現し、イスラエル軍に拘束されていたパレスチナ人捕虜(主に子どもと女性)210人の解放と引き換えにイスラエル側の人質105人が解放された。

 

 その後もハマスは、ガザ地区での戦闘の終結、同地区からのイスラエル軍の撤退、さらにガザ地区住民を含む多数のパレスチナ人捕虜の解放と引き換えにすべての人質の解放を申し出ている。長引く戦争で疲弊するイスラエル国内でも、停戦協定を締結し、残る100人の人質解放を実現すべきとの世論が高まった。

 

 国連安保理では、これまでの決議に「停戦」の二文字を入れることをかたくなに拒んできた米国が、6月にようやく3段階の停戦決議案を提示し、国連安保理はこれを賛成多数で可決した。ハマスはこの提案に合意したが、イスラエルは「ハマス殲滅」のために戦争を継続する声明をくり返し、国際的な停戦世論を無視してガザ南部の都市ラファに侵攻。米国もこれを阻止せず、「すべての進展を妨げているのはハマス側にある」と問題をすり替え、安保理決議をも無視するイスラエルを容認し、軍事援助を続けた。

 

 さらにネタニヤフ首相は、イスラエル軍がガザを南北に分断するために建設した「ネツァリム回廊」(ガザ地区中央の東西横断道路)や「フィラデルフィ回廊」(ガザ地区とエジプトの境界に沿った緩衝帯)にイスラエル軍が駐留し続けること、そこにガザ北部の自宅に戻ろうとする人々を「審査」するための検問所を設けること、ハマスが拘束している人質の完全なリストを提供することを要求。軍駐留はガザの武力占領の継続であり、到底ハマス側が呑める内容ではない。

 

 しかも、フィラデルフィ回廊からの軍撤退は、イスラエル国防相も参謀総長もハマスとの停戦の条件として受け入れることを表明していた。そのためイスラエルの停戦交渉団が、「ネタニヤフ首相の要求は停戦交渉を妨害している」と非難する異例の事態ともなった。

 

 エジプト政府も、この緩衝地帯へのイスラエル軍駐留は、1978年に米国、イスラエル、エジプト間で結んだ「キャンプ・デーヴィット合意」に違反するとして拒否している。

 

 それでも停戦を拒否するネタニヤフ首相は7月31日、諜報機関モサドを使って、停戦交渉の相手であるハマス政治部門トップのイスマイル・ハニヤ氏を訪問先のイランで殺害。ハマス内部で穏健派指導者として知られる重要人物を殺すことによって停戦交渉の進展を妨げ、人質解放を遠ざけた。

 

 イスラエル国内では、あえて実現不可能な要求を掲げてハマスとの停戦交渉を拒み、人質の命よりも、あくまで戦争を継続して極右との連立体制を維持するというネタニヤフ首相の政治的都合が優先されているとの見方が大勢を占めている。ネタニヤフ首相自身、ガザ戦争前には数々の汚職疑惑で訴追されており、停戦によって極右勢力との連立が崩壊すると首相の座を失い、たちまち罪人として処罰されることが濃厚だからだ。

 

 ネタニヤフと極右連立政府は、ガザ攻撃にあたり「人質解放」「イスラエルの自衛権」を口実としてきたが、人質の家族をはじめイスラエル国民の大多数からも追い詰められる趨勢にあり、孤立の一途をたどっている。

 

バイデン米大統領とネタニヤフ首相(2023年12月18日)

 今や「戦争犯罪人」として裁かれることが避けられなくなったネタニヤフ政府にとって唯一の後ろ盾は米国政府であり、「米国からの全面的な援助と擁護なしにイスラエルのガザ戦争は不可能だった」とさえ指摘されている。

 

 バイデン政府はイスラエルに対する毎年38億㌦の軍事支援に加え、ガザ戦争後には140億㌦以上の軍事資金を供与した。イスラエルはこの軍事援助の資金を使って米国製兵器を買う義務を負っており、その兵器によって数万人の子どもや女性たちが殺される一方で、ロッキード・マーチン、RTX(旧レイセオン)、ボーイング、ゼネラル・ダイナミクス社など米国の大手軍需産業がいずれも株価を急騰させ、これらの軍産複合体が莫大な利潤を得ていることが米国社会でも問題視されている。米国が軍事支援を止めさえすればガザでの大規模な虐殺は終わるからだ。

 

 米国内だけでなく、イギリス、イタリア、ドイツなどのイスラエルへの軍事支援国家でも学生をはじめとする抗議行動が拡大し、欧米諸国でも足並みは崩れつつある。

 

 バイデン政府がレームダックに陥るなかで、ネタニヤフ政府はイスラエルのエルサレムへの首都移転を支持したトランプ前大統領に接近しているが、大統領選を意識するトランプ陣営も「早期停戦」を表明するなど、国内世論とのせめぎ合いのなかでネタニヤフとの距離を取らざるを得ない。

 

 日本においても、8月9日の長崎原爆犠牲者慰霊式典に長崎市がイスラエルへの招待状送付を見送ったことから、イスラエル大使館は「反ユダヤ主義」などと長崎市を非難し、それになびいて日本を除くG7各国の大使が出席を拒否するという横暴極まりない態度を見せた。日本政府は抗議すらしていない。

 

 これら米国を中心に日頃から「人権と民主主義の普遍的価値観を共有する」云々と自称してきた主要先進国(G7)が、国際人道法をもないがしろにするイスラエルの野蛮極まりないパレスチナ人虐殺を容認し、支援していることも、今後、ジェノサイドへの協力=戦争犯罪との関連で問われることになることは避けられない。

 

 その外側でパレスチナの国家承認とその自決権を擁護する国際的合意がグローバル・サウスを中心に広がっており、イスラエル国内の地殻変動は、そのような世界の市民社会からの圧力と連動して起きているといえる。

 

人質の写真を掲げ「この戦争を終わらせろ」と訴えるイスラエルの市民(2日、テルアビブ)

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