21世紀第2四半世紀に向けての我々の未来展望は次の三つだ。
1、パレスチナの戦争、ウクライナの戦争の即時停戦。
2、島国思考・衰退する軍事大国アメリカ一辺倒からの決別。
3、日中韓ASEAN、グローバルサウスとの連携。21世紀の新世界秩序を我々の手で!
これについて、この間、中国・韓国を訪問して味わった、強烈な経験から分析したい。
1、パレスチナ、ウクライナ戦争の即時停戦。命をこれ以上犠牲にするな
パレスチナのガザで1万9000人近い人々が亡くなり、うち半数以上が女性や子供、乳幼児とされる。無差別の爆撃が、北部の24の病院すべてを壊し、難民キャンプ、避難する人々、学校、救急車、さらに北部・南部の避難所すべてを、何万発ものミサイルで、殺戮し破壊している。
この非人道的な戦争犯罪に対し、国連と国際社会は繰り返し即時停戦の決議を採択しているが、イスラエルのネタニヤフ首相は、ハマスを壊滅するまで徹底的に戦争を継続することを強調し、アメリカも武器や支援を送り続けている。国連安保理では15カ国中13カ国が即時停戦に賛成したにもかかわらず、アメリカは2度も拒否権を行使して停戦を葬り去った。
この問題は歴史的なもので、解決が極めて難しいと言われる。そうではない。
イギリスの三枚舌外交や戦後のアメリカが作った国連が生み出した結果だ。三枚舌外交とは、イギリスがオスマン帝国崩壊後の国家構想として、1915~1917年に結んだ三つの矛盾する条約を指す。「フセイン・マクマホン協定」でアラブの独立と国家建設を、「サイクス・ピコ条約」でイギリスとフランスのこの地の支配を、「バルフォア宣言」でイスラエル国家の樹立を約束した。これらは、イギリスの植民地政策であり、20世紀初頭においても中東を自分の権益の下、支配を続けようとした結果だ。
1947年、国連総会は米英の支援の下、パレスチナをアラブ国家とユダヤ国家に分裂する決議を採択した。その結果、2国の共存は再び大国の思惑により分断され、以後イスラエルは数次の中東戦争と、継続的なガザへの入植と武力威嚇により、入植地を次々に拡大してきたのである。
ロシア・ウクライナ戦争以上の植民地主義と大殺戮がパレスチナで行われている。本来は21世紀の人権と国民主権の原則に従い、民族平等の原則の下で見直さねばならない。ガザの人々を人と認識せず、残虐な絶滅戦争によって追い出し、イスラエルが占領統治するなどあってはならないことだ。国際社会は強く反対を主張するべきだ。
何より、イスラエルやアメリカの考え方は、今や安保理では米英2カ国でしかない。15カ国中13カ国が即時停戦に賛成する中、アメリカは拒否権で葬り去っている。ガザの人々にとって最も重要なことは、イスラエルの爆撃を止め、子供や乳幼児に対する連日の虐殺を止めることだ。
イスラエル国内ですらネタニヤフの退陣や即時停戦を求める声が高まっている。米英欧州は、国連153カ国が賛成し、安保理15カ国中13カ国が賛成する即時停戦を実行すべきだ。
ウクライナのゼレンスキーは、パレスチナ戦争に対しイスラエル支持を表明し、多くの国から批判を受けた。また米『ワシントンポスト』がノルドストリームの爆破にウクライナが関わったことを暴露し、欧州にも亀裂が走った。さらにゼレンスキーが「武器を、武器を!」と要求しつつ、その半分を他の紛争地域に横流しして儲けていることや政権内部の腐敗が露呈し、欧州の「支援疲れ」に拍車をかけている。
ポーランドなど最もウクライナを支援してきた国もウクライナの穀物輸出をめぐり国境を封鎖するなど、対立は、中東欧全域に広がっている。
ウクライナ国内でも、軍総司令官ザルジニーが、反転攻勢の膠着と失敗から停戦もありうると発言し、ゼレンスキーは慌てて止めたが、国民の間にザルジニーを支持する声が高まっている。国内で戦う男子からも2万人の脱走者がモルドヴァ国境を通り逃亡している。戦争を止めろという動きは、「戦争賛成8割」という世論調査にもかかわらず、事実がそれを裏切っている。
5―6月予定のウクライナ大統領選挙でもゼレンスキーが負けるかもと噂され始め、選挙は延期予定と言われる。アメリカも大統領選挙準備の中、共和党の反対により、ウクライナへの武器支援は閉ざされたままだ。アメリカの武器支援が止まればウクライナは負ける。
パレスチナもウクライナも、国民の多大な犠牲を考え停戦に向かう時期に入っている。ウクライナが停戦を認めないのは、東部の親ロシア派ロシア人マイノリティを殺害・排除しつつ、東部重工業地帯を死守奪還しようとする領土問題であることが明らかだ。
アメリカもロシアも、拒否権を使わず、国際社会4分の3の声に従って、即時停戦を進めるべきだ。
2、島国思考・衰退する軍事大国アメリカからの決別
二つ目は、最も難しいことであるが、アメリカの軍事拡大から足を洗うことだ。これは実は日本の利益にかなっている。
昨年夏以降、アメリカ、タイなどASEAN諸国、韓国、中国を訪れ議論して最も強く感じたことは、アジア諸国の経済発展・地域共同思考と、アメリカ衰退への冷ややかな態度である。
特にアジア各国の密接な地域連携と、日本の島国孤立思考の対比を感じた。隣国の地域共同の動向も知らず、アメリカの軍事化に乗り、自国の利益さえ考えない恐ろしく近視眼的な日本の在り方である。
今回、岸田首相はASEANと共に「自由で民主的なインド太平洋と対等な連携、安全保障の拡大」を掲げて共同を演出した。マレーシアや多くの国が合意しなかった点として、アメリカと結び中国を排するということは受け入れがたい、なぜなら中国資本は自国の発展に重要だからだと、日本が投資を減額しつつ、中国からの離反と軍事化を訴えたことに明確に異を唱えた。
今やアメリカ・日本の投資より中国の投資や支援が重要と考える国が多く「自由で開かれた」という用語が、政権不安定と腐敗に揺れる米日を見ても説得的には受け入れられないことを日本政府は理解すべきであろう。
◆「一帯一路」(中国)
昨年10月の2週間中国を訪れた際、ちょうど「一帯一路」10周年の大会時であった。一帯一路とは、古代・中世・近代にかけシルクロードという道なき道に、道路や鉄道を作り、橋を架け、港を整備し、欧州まで地球を半周する壮大なインフラ・投資100年計画である。
その10年目の成果として、現在150カ国という国連の4分の3の国々が加盟、30国際団体が参加する。中国の西へのインフラ投資の成果が、中国西部、東南アジアの貧しい国々に現れており、平和と経済発展・繁栄のための結束が広がっている。
中国が、サウジアラビアとイランの和解を成立させ、ロシア・ウクライナ戦争でも12項目の停戦と和解を提案したこと、また一帯一路で周りの貧しい国々に、思想や体制に関わらずインフラを整備し、道路・鉄道・港・空港などを作り発展させたことは日本で報道されないため、知らない人がほとんどだろう。しかし150カ国、地球の4分の3の加盟である。
我々の滞在時、世界中から1万人を超える人々が参加し、中国のインフラ・投資に感謝していた。日本では、殆ど報じられなかったが素晴らしいことである。
中国はこの間、積極的に戦争ではなく和平と停戦、経済発展と繁栄を要請し周囲の国々に支持を広げてきた。特にアジア・アフリカ・南欧の貧しい国々で次々に高速道路、高速鉄道、空港を整備し、経済発展やグリーンエネルギー(砂漠に風力発電所など)を実現している功績は無視できない。万里の長城と同様、「中国が滅んでも道は残る」という超歴史的な哲学の下、貧しい地域に道を付け、発展に寄与した功績は限りなく大きい。日本はバブルの時期、周辺の貧しい国々に貢献しただろうか。
日本で参加した一帯一路東京大会では、日本の経団連や三菱UFJ銀行の重役も、日本も一帯一路やAIIB(アジア開発投資銀行)に関与したいと発言している。
AIIBは既に100カ国が加盟する世界金融の60%を占めている。日本が知らない間に、中国・アジア・アフリカの大きな地域連携が始まっている。
◆韓国
昨年8月と12月、2カ所に招聘された韓国での東アジア共同体をめぐる会合での講演、日中韓ロシア・モンゴル5カ国の自治体会合での講演でも、将来北朝鮮をも巻き込み東アジア地域協力を実現しようとする韓国の努力、日中韓露モンゴル5カ国の自治体から121人を呼び地域協力をまとめようとする韓国の重要な役割に敬服した。
これに各国30地域近くが参加する中、日本だけが2自治体しか参加していない島国感覚の孤立に恥ずかしさを覚えた。せめて10自治体増やしたいと強く約束し帰国したのも、日本がアメリカだけを気にして近隣国をあまりに軽視していることが明らかだったからである。
今やアジアのどの国も、米英日が優れ中国が遅れているとは思っていない。むしろ21世紀の第2四半世紀に向かい、衰退するアメリカとそれを追い軍事化する日本を不安な視点で眺めているのだ。
3、日中韓、グローバルサウスとの連携。平和と貧困解決に基づく21世紀の新世界秩序を我々の手で!
我々が国際社会の現実を知るためには、日本にいて政府とアメリカを忖度するメディアから情報を得るだけでは、共に沈没し、歴史に乗り遅れる危険性が強い。
新しい時代はどういう時代か? 少し手を伸ばせば、ネット上にあらゆる情報が掲載されている。日本は、100年に1度の大転換期と言いながら、自分たちが転換せねばならないと思っていない。「専制国家中国」を封じ込めねばならないと考えているなら、転換期と考えていないことと変わりがない。
いくつかのデータをみてみよう。
世界最大の金融会社ゴールドマン・サックスの経済予測が2022年12月に出た。そこでは驚くべき結果が出ている。25年後、日本のGDPは6位に転落(昨年はドイツに抜かれ4位)、50年後、日本は12位に転落する。50年後、中国・インドが1、2位、米国が3位に続き、インドネシア、ナイジェリア、パキスタン、エジプト、ブラジルがトップ8だ。日本はメキシコとロシアの間で12位。これが近未来なのだ。
他方歴史上の2000年の経済変動は、アンガス・マディソンの経済統計(2007年)が、世界最速のメガコンピュータで打ち出し、明らかにしている。それによれば、西暦0年から1820年までの実に1800年間、中国とインドが世界経済の半分を占めている。紀元前を合わせれば、数千年がアジアの時代であった。欧米の時代は19世紀から21世紀のたった200年! それがあと20~50年で、再び中国インドが世界のトップになるのだ。この統計は世界数十カ国に翻訳され流布された。
昨年のGDPでも、中国はすでに日本の4倍、購買力平価ベースのGDPでは中国はアメリカを抜き、インドは日本を抜いている。これは10~20年後の実質GDPだと世銀・IMFが予測している。
アメリカが軍事力によって中国を抑えようとしても後10~20年でその時代は終焉を迎える。
核を使い防御するかもしれないのはロシアでなくアメリカだ。パレスチナ市民に対するイスラエルの無差別爆撃で1万9000人が亡くなり、国連総会で、153カ国が停戦に賛成、安保理で15カ国中13カ国が停戦に賛成する中、拒否権を行使してそれを葬り去っているのがアメリカだ。ハマスはテロリストでなく選挙で選ばれた政体だ。アメリカは、そうした中、子供や乳幼児に対する爆撃を行うイスラエルに武器と支援を与えている。どこが民主主義で、どちらが非難されるべき行動をとっているか。アメリカと政府に追従して何も言えない大手メディアに頼らず、自分の頭で考えてみよう。
誰が、平和のために立ち上がっているのか? 誰が人殺しに加担しているのか? 犠牲になっている人々の真の願いこそ、世界の新国際秩序となっていくであろう。
21世紀の後半には、アメリカ・欧州・日本は少数者に転落する。世界人口1割の限られた人々(G7)が、世界の半数をこえる軍事力で、支配を維持する時代は終わりつつある。世界の8割の人たちが平和と繁栄を望む時代を、私たちは支持するべきだ。
グローバルサウスの人々と結び、平和と繁栄、経済発展と道路や交通網、グリーンエネルギーの成長によって、豊かで平和な地球を作ることに、協力し合おう。
21世紀後半、アジア・アフリカ・ラテンアメリカなど世界の9割の人々が望む、平和と安定と繁栄の時代を、日本も加わり作っていこう。中国が行う、貧しい地域へのインフラ整備と投資、戦争を和解に導き地域共同を実現し、アジアの和と共同を大切にする平和哲学、勤勉な高い文化を持ち、貧しい人たちと地域を助ける共同と繁栄の理念に参加しよう。
米欧G7とグローバルサウスをつなぐ役割。それを日本ができるだろうか。今韓国がそれを実現しようとしている。日本も島国思考を捨て、それに加わるべきだ。アジアの豊かな文明、美味しい食事、勤勉さ、著しい経済力、共同の哲学思想を生かして、我々が新しい世界をアジアから創生しよう!
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はば・くみこ 神戸市生まれ。国際関係学博士。世界国際関係学会(ISA)アジア太平洋会長。ハーバード大学、ソルボンヌ大学、欧州大学研究所(EUI)、ロンドン大学、ハンガリー科学アカデミーの各客員研究員、日本学術会議会員、日本EU学会理事などを歴任。2021年まで青山学院大学大学院国際政治経済学研究科教授。著書に『拡大するヨーロッパ』(岩波書店)、『グローバル時代のアジア地域統合』(岩波ブックレット)、『ヨーロッパの分断と統合―拡大EUのナショナリズムと境界線―包摂か排除か』(中央公論新社)、編著に『ハンガリーを知るための60章』(明石書店)など多数。