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全米はストライキの嵐 医療、自動車、ハリウッド…社会の機能破壊した金融資本に反旗 「社会を支えているのは労働者だ!」

ストライキを実施したカイザー・パーマネンテで働く医療従事者たち(サンフランシスコ)

 米国内では現在、医療、自動車製造、運送、教育、食品、映画・脚本など、あらゆる業種でストライキの波が広がっている。資本側が金融資本を中心にして統合・寡占化を進め、デジタル分野などの革新技術を独占してより多くの利益を上げるビジネスモデルを構築するなか、労働者の側は個々バラバラに切り離され、労働組合の企業とのパートナーシップ路線によって労働運動は停滞を強いられてきたが、近年、大手労組でも改革派が権限を握り、労組の有無や企業・産業の違いをこえた下からの連帯意識の高まりとともにストライキが各地で頻発している。

 

 米国では4日、米3大医療・保険グループの「カイザー・パーマネンテ」で働く医療労働者7万5000人が3日間のストライキに突入した。カイザー社はカリフォルニア州、コロラド州、オレゴン州、ハワイ州、メリーランド州、バージニア州、ワシントン州で事業を展開し、6万8000人の看護師、21万3000人の技術者、事務職員、管理スタッフ、2万4000人の医師を雇用する米国最大の医療・保険グループだ。

 

 これら複数の州にまたがって同時におこなわれたストライキには、看護師、検査技師、歯科助手、セラピスト、薬剤師、栄養士、受付係などあらゆる部門の労働者が参加し、カイザー社で働く従業員の40%が職場前でピケライン(封鎖線)を張った。米国労働統計局によると過去最大の医療ストライキは2018年の5万3000人で、今回のストはその記録を塗り替えるものとなった。

 

 同社に限らず米国内の医療業界では以前から人手不足が深刻化し、2020年に始まった新型コロナ・パンデミックがその矛盾を一気に激化させた。看護師や医療スタッフたちは、ひっ迫した医療の最前線に駆り出され、心身のストレスに耐えながらキャパシティをはるかにこえる患者のケアにあたった。その献身的な働きに対して、当初は政府やメディアは「英雄に感謝を!」と賞賛したが抜本的な解決策はとられず、現場ではトリアージが常態化し、十分な治療ができない患者や、治療を受けられずに亡くなる患者も増加した。

 

 カイザー・パーマネンテ社の労働組合連合がおこなった調査では、3分の2の労働者が人員不足による治療の遅れや治療拒否に遭遇したと回答している。医療従事者たちのあいだでは、過労と無力感から「燃え尽き症候群」とよばれる精神疾患が社会現象化した。過重労働、低賃金、低評価を理由にした離職が加速し、現場はさらに疲弊する悪循環となった。

 

 燃え尽き症候群とは、「極度の肉体的、精神的ストレスと離人感(意識と体が分離されて自動的に動かされている感覚)、仕事における達成感の低さを特徴とする職業病」(米医務総監諮問報告書)と定義され、鬱状態となって意欲や熱意が喪失する病だ。米医学専門誌『メイヨー・クリニック紀要』に掲載された研究では、米国では2021年に医師の5人に3人がこの症状が一つ以上あると回答している。全米医学アカデミーによると、2019年だけで看護師の35~54%が同様の症状を訴えていた。

 

 米国の医療制度では、各病院に対して患者1人当りに対する看護師数の配置基準が法的に定められていない。各病棟の看護師の配置比率を規制しているのはカリフォルニア州だけだ。そのため医療機関の集中治療室や緊急治療室などの部門で働く看護師たちは、推奨される適正基準とはかけ離れた環境で、多くの患者をケアすることが日常茶飯事となっている。ストに参加した看護師たちは「1日に1人で20人以上看るのが当たり前になっている」「空きベッドがないため、助けを求める多くの患者を見捨てなければならなかった」「患者を救う看護師さえ自分の命が守れない」と窮状を訴えている。

 

 米国では、大手医療機関が投資会社などと統合したコンソーシアム(共同企業体)となり、大手IT企業と提携した最先端医療システムの構築や利益率の高い高度医療には力を注ぐ一方、一般的な病気(喘息、糖尿病、心臓病)に関する対応は先進国の中で最下位レベルにあるといわれる。

 

 米国の妊婦死亡率は、過去30年にわたり増え続け、他の先進国の2倍以上となっている。これには経済格差や人種差別などの多様な要因があるものの、2002年の査読付き論文では、病院の看護師が担当する患者が1人増えるごとに、早期死亡の確率が7%増加すると報告されている。

 

 米国の医療現場では近年、数千~数万人規模のストライキが頻発している。今年1月にはニューヨークでも二つの基幹病院で1万5000人の医療従事者がストライキをおこなった。

 

 彼らの第一の要求は、これまでの一般的な労使交渉と同じような給与や福利厚生の向上ではない。病院や介護施設に対して、看護師を増員して看護師の仕事量を減らし、患者の安全性を高めるために、患者と看護師の適正な比率を設定することを強く求めている。

 

 医療現場でストを起こすことは簡単ではない。病院業務が滞れば、治療を求めている人々の命や健康に直結するためだ。経営陣は「ストライキは多くの人々を危険にさらすものだ」と労働者側を攻撃して現場の声を封じ込めてきたが、複数の労組が横に連携し、より多くの労働者が一斉に立ち上がることで、適切な義務を果たしていない病院経営陣の問題を可視化し、医療現場の疲弊を知っている患者や広範な市民がストを支援する動きへと発展している。

 

患者の命守る体制作れ 医療従事者ら

 

「利益が治療をおこなうのではない。治療をするのは人間だ」と訴える医療労働者たち(6日)

 カイザー社と同社の労働組合連合(8つの組合)との労働協約交渉は2019年から続いてきたが、合意に至らぬまま9月30日に契約切れに達した。

 

 組合連合のキャロライン・ルーカス事務局長は、過去6カ月間の会社幹部らの無策が医療崩壊を招いているとのべ、「この事態は時間内に対処していれば予防できたことだ。会社側が私たち医療従事者の意見に耳を傾けることを拒否し、改善に抵抗したことが、危機の回避を困難にした。私たち最前線の医療従事者は、問題を病院外にエスカレートさせる以外に選択肢がなかった」とのべている。

 

 組合連合は、ストにあたり、声明で次の様にのべている。
 「3日間のストライキは、カイザーの不当労働行為を支持しない私たちの強さを最初に示すものとなる。カイザーが不当労働行為を継続するなら、11月には、さらに長く強力なストライキをおこなう用意がある」
 「これは難しい決断であり、私たち全員の犠牲がともなうことは承知しているが、カイザー幹部は人員不足による危機、患者と従業員の安全と幸福にとって必要不可欠な対策をとらず、悪意のある交渉を続けている。私たちは最前線の医療従事者として、人々を助けるためにこの仕事に携わってきた。だが私たちが皆をケアするため、2人分、場合によっては3人分の仕事をしようとして燃え尽きている間にも、患者が待たされ苦しんでいる姿を見る。こんな苦しみはもうたくさんだ」

 

 国内最大手のカイザー社は、2023年上半期だけで30億㌦(約4480億円)をこえる利益を報告している。21年に同社のグレゴリー・アダムスCEOは、約1560万㌦(約23億3000万円)の報酬を受けとり、数十人の幹部も100万㌦(約1億5000万円)以上の報酬を受けとっている。

 

 組合連合の声明は、「カイザー幹部にはこの問題を解決する力があるが、彼らはそれをおこなわない選択をした。そのうえで悪意を持って私たちとの交渉にのぞみ、分割統治戦略を続けており、誰の生活費にも見合わない攻撃的な昇給案を主張している」「私たちにとって重要な瞬間だ。これは米国史上最大の医療ストライキとなるが、私たちが成功する唯一の方法は、私たちが団結し、団結を維持し、ストライキの現場で互いに支援し合うことだ」と訴えている。

 

全労働者の利益を代表 自動車3社の労働者

 

ストライキに突入した全米自動車組合(UAW)の労働者たち(9月15日、デトロイト)

 米国内では現在、米国で15万人の自動車産業労働者が加盟する全米自動車労働組合(UAW)が、自動車産業の「ビッグスリー」と呼ばれるゼネラルモーターズ(GM)、ステランティス(クライスラーを含む多国籍複合企業)、フォードとの労使交渉が決裂したとして、9月15日から複数の工場でストライキを実施している。

 

 米自動車産業では、2019年に労使交渉がもつれたGMの労組約4万8000人が40日間のストライキを決行したが、ビッグスリー(3社)での同時ストライキは史上初で、過去30年で最大規模となる可能性があるといわれている。

 

 UAWは今回のストを「スタンド・アップ・ストライキ」と銘打ち、交渉での会社側の出方を見ながら、ストライキを全面的規模へと拡大していく戦略をとっている。ストライキ開始にあたり、「これは歴史的な契約を勝ちとるために、時間をかけて成長するストライキとなる。全工場でのストライキという選択肢は、まだテーブルの上にある。スタンド・アップ・ストライキは、交渉担当者に最大限の柔軟性を与え、必要であれば全国的なストライキにまでエスカレートさせる権限を組合側交渉者に与える。また、ビッグスリーが私たちにふさわしい協約交渉を拒否した場合、長期的に経済的打撃を高めることができる」とのべている。

 

 UAWは、交渉にあたって「フォード、GM、ステランティスは、この10年間に北米だけで合計4兆㌦(約600兆円)の利益を上げたが、労働者はまったく公平なとり分を得ることができていない」「私たちは社会全体で大規模な不平等に直面している。昔も今も産業が急速に変化するなかで、労働者はとり残されている」とのべ、新たな労働協約では、4年間で40%の賃上げのほか、確定給付年金の再導入や週32時間労働などの待遇改善を要求している。

 

 8月には米貨物運送大手ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)社で働く労働者34万人を含む労組「チームスターズ」が、ストライキ実施の意志を示して圧力をかけ、二段階賃金システムの撤廃、時給の即時2・75㌦(約400円)値上げ、5年間で7・5㌦(約1080円)値上げ、さらにパートタイム労働者も時給21㌦(約3000円)に引き上げ、5年後には時給25・75㌦(約3700円)以上とするなど、非正規雇用労働者も含めた画期的な契約を勝ちとったことも背中を押した。

 

 ここでも、UPSのチームスターズ労組は、「労働組合の役割が試されている」と強調し、「ウォール街が物流業界全体の条件を決定するうえで、チームスターズ労組の労働協約は最大の要になっている。競合するアマゾンの運転手は最低賃金レベルで、1週間、非人道的な作業基準を満たさなければ次週からは労働時間を減らされる。フェデックスはすべての直接雇用を廃止し、100%下請け(個人事業主による請負)のモデルに切り替えようとしている。労働組合がなければ、企業がどのような行動に出るか一目瞭然だ。チームスターズ労組として史上最高の協約を勝ちとることが産業全体の労働者の利益につながる」とし、組合のない企業や未組織の労働者とも合同で集会を開くなど連帯を広げてきた。

 

 その過程で、UAWでも、長年企業側と癒着してきた組合幹部を罷免し、改革派が実権を握り、ストライキ実施へ繋がった。

 

 UAWのストは9月15日朝から、ミシガン州ウェインのミシガン組立工場(フォード)、オハイオ州トレドのトレド組立工場(ステランティス)、ミズーリ州ウェンツビルのウェンツビル組立工場(GM)の3カ所で、約1万2700人によって開始された。

 

 ビッグスリー各社は新たに非組合員を雇用するなどしてストに対抗し、フォードはウェイン工場で従業員600人を解雇。GMも「ストの影響」として、カンザス州フェアファックス工場で2000人を解雇すると脅し、労働協約期限切れのためこれらの労働者に失業手当を支給することはできないなどと圧力をかけた。一方、ステランティスは、組合側が提示する賃金値上げ交渉、工場閉鎖をめぐるストライキの権利を認めるなど譲歩を見せた。

 

 これに対してUAWは、9月29日から新たにフォードのシカゴ組立工場、GMのミシガン組立工場がストに入ることを決定し、ビッグスリーで働くUAW組合員14万6000人のうち2万5000人がピケラインに参加した。ストはさらに広がる趨勢にある。

 

 長年、資本側とパートナーシップ路線を歩んでいた組合幹部に代わり、改革派としてUAW会長に選ばれたショーン・フェイン氏は、「私たちはUAWと労働運動全体にたたかいをとり戻すためにたたかう」と宣言。「勝つためのストライキをする用意のない労働組合は、片手を後ろに縛られた兵士と同じだ。ストライキという武器がなければ、労働者は一方的に負けるほかない。この何十年間も同じことがくり返されてきた。すなわち無制限の企業権力による労働者の力の喪失だ。その結果、社会全体に大きな不平等が生じている。力の均衡をとり戻すためには、ストライキを復活させなければならない」と。

 

 このストの波は、国境をこえてメキシコやブラジルのビッグスリー工場の労働者にも波及し、各地で連帯する同時ストが起きている。

 

俳優組合はスト続行中 教師や現業労働者も

 

米国俳優組合(SAG-AFTLA)のストライキ(7日、ニューヨーク)

 また米国内では、5月からは約1万1500人が所属する全米脚本家組合(WGA)、7月からは約16万人が所属する「米国映画俳優組合―アメリカ・テレビ・ラジオ芸術家連盟(SAG-AFTRA)」もストライキを決行している。

 

 映画や番組製作におけるAI(人工知能)使用を無制限に拡大することで作家や労働者が使い捨てにされたり、大手スタジオや配信企業によるストリーミングの拡大などビジネスモデルが変化するなか、俳優や制作スタッフの権利が著しく損なわれていることへの抗議を含んだもので、脚本家組合は今月、生成AIを使った作品制作の禁止などの合意を勝ちとった。

 

 俳優組合のストは現在も続行中で、全米各地のアマゾン、アップル、ディズニー、NBCユニバーサル、ネットフリックス、パラマウント、ソニー、ワーナー・ブラザース、ディスカバリーを含む大手スタジオや、映画テレビ製作者協会(AMPTP)に加盟するプロダクションで、ストライキや抗議デモが連日くり広げられている。

 

 その他、教職員組合、自治体の現業労働者(衛生部門)、ラスベガスのリゾート施設労働者などでも断続的にストライキが起きており、お互いに支援したり、ピケ(職場封鎖)の方法や教訓を共有し合う関係が生まれている。資本側がウォール街の投資家の利益を代表するなか、労働者側も共通の相手に対する共同のたたかいを形成しつつあり、それが広範な世論の支持を受けながら拡大している。世論調査では、ストライキを支持する声が圧倒している。

 

 現在、象徴的立場にあるUAWのスト現場には、バイデン大統領やトランプ元大統領も、次期大統領選を見据えて姿を見せた。現職の大統領がピケ・ラインに参加するのは史上初だ。

 

 UAWのフェイン会長は9月26日、スト現場を訪れたバイデン大統領を前にして、第二次世界大戦中に戦闘爆撃機B24「リベレーター(解放者)」を製造した自動車労働者と、現在ストライキをたたかう自動車労働者とを比較し、「われわれがたたかっている戦争はかつてと異なる。今日の敵は何マイルも離れた外国ではない。目前の強欲な資本だ。そして、その敵とたたかうためにわれわれが生み出している武器は、真の解放者たち、すなわち労働者階級の人々の力だ」と強調し、次の様にのべた。

 

 「労働歌『ソリダリティー・フォーエバー』の歌詞にあるように、『われわれの頭脳と筋肉なしに、車輪はひとつとして回らない』。それが労働者階級の存在意義だ。自動車やトラックを製造していようが、部品配送センターで働いていようが、映画の脚本を執筆していようが、テレビ番組を放映していようが、スターバックスでコーヒーを淹れていようが、病院で看護していようが、幼稚園から大学までの学生を教育していようが、力仕事をしているのは私たちだ。CEOでも幹部でもない」

 

 「そして、気づいていないかも知れないが、それこそが力なのだ。われわれ労働者には力がある。世界はわれわれがつくっている。経済はわれわれがつくっている。自動車産業はわれわれがつくっている。そして今回示したように、われわれが労働を拒否することにより、それをつくり変えることができるのだ」。

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