アメリカ政府は7日、ロシアとの戦争が続くウクライナの支援としてクラスター爆弾の供与を発表した。軍よりも民間人に致命的な被害をもたらすクラスター爆弾は、無差別殺戮などの戦争犯罪を生む兵器として世界100カ国以上で使用が禁止されており、ウクライナへの供与にはNATO内部からも反対の声が上がっている。だが、バイデン大統領は、ウクライナの要求に応える形で新たな包括的軍事支援にそれを盛り込んだ。無差別殺戮兵器の供与は、戦争をさらに長期化・拡大させることに繋がり、外側から兵器を送って代理戦争を継続させる米国政府への非難は高まる趨勢にある。
クラスター爆弾は、集束爆弾ともよばれ、航空機や地上ロケットから発射する親爆弾の中に大量の子爆弾(小型爆弾)を内蔵したもの。発射後に親爆弾が空中で破裂すると同時に子爆弾が飛散するため、一度で広範囲を爆撃することができる。子爆弾の中には、金属片や爆薬が仕掛けられ、建物や人間を貫通して破壊する。
米報道によると、アメリカ政府が供与するクラスター弾は一発に小型爆弾88個が含まれる。発射には、すでにウクライナ軍へ供与済みの榴(りゅう)弾砲を使うという。
広範囲を瞬時に爆撃するために開発されたクラスター爆弾は、特定の目標物(軍施設や軍隊)よりも、その周辺にいる民間人や居住区にも深刻な被害を与える。さらに30~40%が不発弾として地上や建物などの残骸の中に残るため、戦争が終わった後も子どもなどが触って爆発するなどの二次被害を長期にもたらすことが問題視されてきた。
使用そのものが民間人の殺戮を禁じたジュネーブ諸条約が定める戦争犯罪であり、核兵器に次ぐ残虐兵器であるとして国際的な規制世論が高まり、2007年にノルウェー・オスロで開かれた国際会議で禁止条約の作成が開始された。
翌08年には『クラスター爆弾禁止条約』(クラスター弾に関する条約、オスロ条約)が完成し、現在までに日本をはじめ、イギリス、フランス、ドイツなど18カ国のNATO加盟国を含む123カ国が署名し、110カ国が批准している。一方、米国、ロシア、中国、イスラエルなどは条約に署名しておらず、なかでも米国は、アフガニスタン戦争やイラク戦争で使用するとともに、中東サウジアラビアなど関係国に輸出してきた。
クラスター爆弾についての情報を公表している「Cluster Munition Monitor」によると、1960年代から2021年末までに、5万6500~8万6500人がクラスター爆弾の被害にあったと推測されており、近年でも年間被害者の97%が一般市民であり、年齢が判明している被害者の66%が子どもとされている。
昨年2月から全面的に始まったロシア・ウクライナ戦争では、すでにロシア、ウクライナ双方がクラスター爆弾を使用した形跡があると国連が発表している。
ロシアが使用した可能性が報じられたさいには、米国政府や西側メディアは「戦争犯罪」として問題視したが、今回は「米国防総省は、米国製のクラスター弾の不発率は3%未満と推計」「ロシア製の不発率は40%とされる」などとして、後に残される不発弾の被害について自身への非難を免れるために予防線を敷くダブルスタンダードを見せている。
先に英国と米国が供与した劣化ウラン弾と同様、一度バラ撒かれたクラスター爆弾による被害は、他の通常兵器や地雷などの被害と区別は難しく、どちらの戦局が優位になるにせよ、ウクライナに暮らす一般市民の被害が拡大し、それが長期に続くことだけは確実といえる。
バイデンは「ウクライナの砲弾が不足している」と提供理由をのべているが、NATO加盟国との歩調を乱しても無差別殺戮兵器の提供にこだわるのは、ウクライナが米国の代理戦争をたたかっているからであり、米国製兵器の一大消費地となっているからにほかならない。今回の武器支援には、クラスター爆弾のほかにブラッドリー歩兵戦闘車やストライカー装甲車、対空ミサイルや対地雷装備など8億㌦相当が盛り込まれた。
戦況が硬直した現在も一向に停戦調停には動かず、無差別兵器にまで軍事支援の範囲を拡大する米国の目的は、ウクライナの主権や人命保護よりもロシアの弱体化であり、そのためにはウクライナ民間人の犠牲は問題にしないという態度を露骨に示している。
米紙『THE HELL』によると、この米国政府の決定に対して、少なくとも38の人権団体が公に反対を表明している。日本はクラスター爆弾の使用を禁じる条約に批准しているが、自民党政府は米国政府の動きを追認している。