米ブッシュ政府がイラク復興事業の受注先について、米国のイラク戦争に協力しなかった仏・独・露などの国を排除する方針を決定した。対象は186億㌦(約2兆円)にのぼる電気、水道、交通など26件の復興事業。すでに米軍需大手は攻撃による軍需景気だが、復興事業でも米企業はボロもうけしている。しかしイラク国内は米占領軍が主導する連合国暫定当局(CPA)による国営企業の100%民営化、関税撤廃、「利益の無制限国外移転」など、アメリカがイラクの富を好き放題に強奪できるようにする体制をつくるなかで矛盾は激化し、イラク国内の反発は強まっている。それはアメリカのイラク戦争の目的が世界第2位の埋蔵量を誇るイラクの豊富な石油資源を強奪し、軍事力で市場を開放させる泥棒戦争であったことを如実に示している。
強奪も合法化 米大統領命令布告
ブッシュ米大統領は5月に「終結宣言」をし、その月末に「大統領命令1303」を布告した。それはイラクの石油資源から生ずる利益問題について「いかなる差し押さえ令状、判例、布告、先取特権、執行、債権差し押さえ通知、その他訴訟手続きは無効」と明記。労働者の権利を踏みにじり、環境を破壊するなどどんなことをしても石油採掘や取引にかかわる米国企業は法律の枠外におかれ、免責するとの内容だった。
したがって米国企業がタンカーからの原油流出や油田火災などの事故を発生させても、今後誕生するイラク新政府は訴訟も起こせない。火災が鎮火したイラク国内最大のルメイラ油田は、チェイニー副大統領が就任まえまで最高経営責任者(CEO)を務めていた米石油サービス大手・ハリバートンに奪われてしまった。また97年にイラク政府より石油採掘権を得たロシアの石油企業・ルコイル社は「大統領命令」を口実に別の米国企業に採掘権を奪われかねない状態にある。
さらにCPAは9月「フセイン時代は外資をしめ出して国営企業が支配していた。それを180度転換して“自由化”をすすめる」として新外国投資法を発表。国営企業約200社をすべて「民営化」し外国企業の100%所有を認める。「利益は無制限、非課税で送金できる」とし資本の国外流出を「自由化」。所得税と法人税は最高15%にとどめる。さらに輸入関税を5%と中東では際立って低く設定し2006年1月1日までに関税を廃止する。そのほか今後5年間に外国銀行六行の業務を認める、などが盛りこまれ、露骨な植民地経済とする方向であった。
今後の石油企業の「民営化」は「石油省」のP・キャロル顧問団長が推進する予定。同氏は90年代にロイヤルダッチシェル米国法人の最高経営責任者であり、イラクの石油が米独占企業に支配されるのは必至である。米占領軍がイラク国内で真先にしたことは600億㌦以上とされるイラク侵略戦争の戦費を早急に回収できる体制をつくったことである。
民営化や軍解体で失業激増
また「官僚機構のスリム化」もおこない、商業省では3万5000人の職員を5000人に削減。約40万人いた旧イラク軍も解体し失業者はあふれている。イラクではほとんどが国営工場や事業所の労働者であるため「民営化」で失業者は増加する。自衛隊派兵地とされるサマワの失業率は60~80%にのぼり失業者の抗議デモがひん発している。そのなかでイラク商工会議所のバルダウィ会長も「復興を口実に資源や富を奪おうとしている国がある」と指摘。経済専門家で組織する「イラク・エコノミスト協会」も「イラクを略奪の対象にしている」と非難するなどイラク国内では「盗賊(アリババ)行為だ」との怒りが渦巻いている。だがアメリカはこれを「中東の民主化モデル」だけでなく「経済改革の手本」といっている。
欧州や国連の資金も横取り
他方、アメリカはイラク国内にとどまらず、国連や欧州などが押さえていた資金も横どりする体制をつくった。10年以上にわたる経済制裁のもとでは石油収入が国連管理で米国の好き勝手にできない。そのため「イラク国民の利益のため」と主張し制裁解除を要求。そして「イラク開発基金」に石油収入を繰り入れ、米軍主導の「復興資金」の原資にすると決めた。
さらにイラクの対外債務は約1250億㌦。主要債権国会議で確定したイラクむけ公的債権は日本が41億㌦、ロシア34億㌦、フランス29億㌦とばく大なものである。しかしアメリカは債権が21億㌦だけであることから「フセイン体制を肥やすだけだった(ブッシュ大統領)」といって帳消しを要求している。アメリカは21億㌦の借金を帳消しにして1250億㌦の借金分の利益も横どりしようというのである。
破産寸前の米企業が大増益
すでに米軍需大手はイラク戦争での約30万人の軍隊が使った装備や弾薬、イラクに撃ちこんだ数千発のトマホーク・ミサイル、1万発をこす精密爆弾による空爆、戦車・装甲車での大破壊で大きな利益を上げている。ブッシュ政府の顔ぶれを見ても、ブッシュ大統領は元ブッシュ探査(石油)やエナジー・インダストリーCEO(エネルギー)、ライス国家安全保障担当補佐官はシェブロン(石油大手)役員、パウエル国務長官は元ゼネラル・ダイナミックス(軍需大手)株主でエアロスペース(軍用機)取締役、アーミテージ国務副長官は元レイセオン(軍需大手)役員、ウルフォビッツ国防副長官はグラマンやBPアモコ(石油)の相談役、ラムズフェルド国防長官はエアロスペース取締役など、軍需大手や石油大手と密接な関係を持っており、破壊すればするほど軍需産業が潤う関係だった。
そうして破壊しあげたうえに「復興事業」と称して米大手企業がまぶりついている。米政府が発注したおもなものを見ると油田消火・修復作業はケロッグ・ブラウン・&・ルート(ハリバートンの子会社)が受注し受注額は70億㌦。道路・学校などはベクテル、パーソンズが受注し額は六億㌦。病院等医療はABTアソシエーツが受注し1000万㌦など。そこでもっとも利益を上げたのがハリバートンであった。
国防省とハリバートンとのイラク戦後復興をめぐる交渉はイラク戦争前の2002年10月からはじまった。当時ハリバートンは数十億㌦ものアスベストの責任負担を科され、石油生産減少の打撃を受けていた。株価は前年の22㌦から12・6㌦に低下し、「もはや破産か」と囁かれていた。ところが11月、米陸軍工兵隊にブラウン・&・ルート社に油田火災消火などの契約を与えるよう勧告し不測事態対応計画を作成させた。すると株価は急上昇し5月には23・9㌦となった。
こうして同社は1年まえの第2四半期は4億9000万㌦の赤字だったが、今年は2600万㌦の黒字。360億㌦の収益のうち30億㌦以上がイラク戦争関連と報じられている。
利権の強奪が目的 分け前狙う小泉政府
米英が今年3月に強行したイラク侵略戦争は「大量破壊兵器」を口実としたが、半年以上たっても大量破壊兵器の証拠は見つからず、戦争目的が別にあったことがだれの目にも明らかとなっている。
イラクの経緯を見ると、フセイン政府は1991年の湾岸戦争を前後して反米姿勢を強めて、イラク内の油田と取引していた米英系石油メジャー(国際石油資本)を排除し、フランスやロシア、中国などの石油資本に切りかえはじめた。油田は国営であるため米民間企業は参入できない。さらに2000年代に入るとドルでの決済がユーロに切りかえられはじめ、イラクの石油権益は欧州に流れるようになった。そのなかでアメリカ自体の財政赤字が拡大し経済危機におちいった。
イラク戦争はその打開のためにフセイン政府を倒し、イラクの石油利権を米英系メジャーが独占する体制をつくるための泥棒戦争であった。そのためフセイン政府の石油省だけは無傷で残された。同時に軍事力で市場を開放させ植民地経済を強要していくブッシュ政府のグローバル戦略の具体化であった。そのためイラク国内がめちゃくちゃに破壊されれば破壊されるほど、米軍需産業や米建設大手などがもうかる一方で、イラク国内の治安は悪化し失業が激増している。小泉政府の自衛隊派兵はそのアメリカの分け前をもらうためであり「イラク復興」とは縁もゆかりもないものである。