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アメリカで労組結成やストが拡大 新自由主義への歴史的反撃 20~30代中心にアマゾン、スタバ、医療現場にも波及

 今アメリカでは、スターバックスやアマゾン、アップルなどの大企業で新しく労働組合が組織され、労働者が次々にストライキに立ち上がっている。そしてこうした運動を担っているのが20~30代の若者だ。それだけでなく、ミネソタ州では1万5000人の看護師が医療機関としては米国史上最大規模のストライキに立ち上がり、鉄道労働者は30年ぶりのストライキを準備した。コロナ・パンデミックのなかで新自由主義がもたらした犯罪性が明らかになり、旧来のアメリカ労働総同盟・産別会議(AFL・CIO)の枠をこえて下から若者や労働者たちが自分自身の力で行動を起こし、労働運動のまったく新しい高揚をつくり出している。

 

アマゾン初の労組結成を祝う労働者たち(4月13日、ニューヨーク)

 年間売上高1584億㌦(22兆6000億円)を達成し、「世界小売業ランキング2021」で2位となったアマゾン。現在、米国で50万人以上を雇用するモンスター企業であり、創業者ジェフ・ベゾスは米国でもっとも裕福な3人のうちの1人だといわれる。

 

 そのアマゾンのニューヨーク市スタテン島にある物流倉庫「JFK8」で4月、アマゾン初の労働組合「アマゾン労働組合(ALU)」が結成されたというニュースは世界に衝撃を与えた。労組の代表は33歳、アフリカ系アメリカ人のクリス・スモールズだ。彼らの行動は、「あのアマゾンでできたのだから、どこでもできるはずだ」と、全米の労働者を勇気づけている。

 

 インターネットの小売業から出発したアマゾンは、顧客の注文から出荷、配達まで、大量の従業員を雇用している。そして、パンデミックの最中に企業が記録的な利益をあげる一方、破滅的な作業ペース、懲罰的な監視、高い労働災害率と、その労働条件は劣悪だ。物流倉庫JFK8では毎日約5000人が働いており、その多くが黒人やヒスパニックである。

 

 新型コロナが猛威を振るった2020年春以降、アマゾンの利用者は急増し、JFK8では人手不足となって、毎日大量の労働者が採用され、同時に多くの者がやめていった。とくに企業の感染対策はきわめて不十分で、感染者や濃厚接触者となれば自宅待機となって給料は支払われない。エッセンシャルワーカーと持ち上げながら、労働実態は低賃金の使い捨てであることに、労働者の怒りは爆発した。

 

 しかし、有給休暇や健康管理の改善、危険手当の支給などを企業に要求するために労働組合をつくろうとすると、次の壁が立ちはだかる。米連邦法の規定では、労働組合をつくるにはその職場の全従業員の30%以上の署名(組合授権カードと呼ばれるもので、自身の交渉代表として承認するもの)を得たうえで、全国労働関係委員会に組合結成選挙の申請をおこなわなければならない。その後、全従業員による選挙をおこなって過半数を獲得してはじめて労組結成となる。

 

 JFK8の場合、5000人の30%は1500人だ。それを20~30代の若者たちが、既存の大産別労組の支援をまったく受けないで、自分たち自身の力で一人一人に訴えてやりとげた。

 

 アラバマ州のアマゾンの物流倉庫でも、同時期、組合結成のための従業員投票に向けて動いていた。ここでは小売・卸売・百貨店労働組合がこれを支援した。だが、企業の「労働組合は外部の第三者であり、従業員の苦しみを理解できず、組合費の徴収に関心があるだけだ」という反組合キャンペーンに打ち勝てなかったという。ところが、労組結成のために奮闘しているのが毎日一緒に汗を流している仲間である場合、こうしたキャンペーンは力を持たなかった。

 

 組合結成に対してアマゾンは、25件以上の異議を申し立てており、全国労働関係委員会がアマゾン労組の側に偏っていると非難している。しかし4月の勝利以来、アマゾン労組(組合員約8000人)には全国の100のアマゾン施設の労働者から「組合を結成したい」との声が寄せられている。

 

労働者使い捨てに怒り スターバックス従業員

 

本社のあるシアトルで開催されたスターバックスの組合つぶしに抗議するデモ(4月23日)

 同様の動きになっているのが、米コーヒーチェーン最大手のスターバックスだ。

 

 スターバックスでの労組結成の波は、昨年12月、ニューヨーク州バッファローの店舗で始まった。そこでの従業員投票で19対8で勝利して同社初の労組が誕生し、そこからスターバックス・ワーカーズ・ユナイテッドへの大結集が始まった。労組発足の中心を担ったのは24歳の女性だ。

 

 それから8カ月経った今年8月末には、新しい組合は全米225店舗で組合選挙に勝利し、6000人以上が新規に加盟した。その多くが高校生や大学生、大学卒業したての若者だ。そしてこれらの店舗の3分の1がストライキに突入し、さらに数百の店舗が組合結成を準備しているという。スターバックスは全米に9000店舗を展開している。

 

 スターバックスの従業員が問題にしているのは、パンデミックで客や従業員のなかで感染者が急増し、身の危険を感じて保護シールドなどを求めているのに、企業側が安全対策としてなにもしなかったこと、対応しきれないほど多くの客が来ているのに、人員が十分確保されていなかったことなどだ。「エッセンシャルワーカー」といわれながら消耗品にされている現実に皆が怒り、そこから組合結成に動いたという。

 

 一方、CEOのハワード・シュルツは大規模な反組合キャンペーンを開始し、組合を結成した数十の店舗を閉鎖し、全国80人以上の組合指導者を解雇した。また、監視や脅迫をおこない、さらには全国労働関係委員会が組合と共謀して詐欺をおこなっているといって訴訟まで起こすという、労働法違反を含むなりふり構わない労組つぶしを仕掛けている。しかも解雇理由を見てみると、出勤中にたまたま食器洗いシンクが壁から落ちたのを「会社の財産の悪用」としたり、なかには「出勤が早い」というものまであった。スターバックスは組合つぶしのために、CIAのエージェントを雇ったことも暴露されている。

 

 これに対して各地のスターバックス労組は、組合活動家の解雇、人員不足、労働時間(シフト)の削減、企業による組合支持者のスパイ行為などに対して抗議するストライキをおこなって反撃している。

 

 南部のサウスカロライナ州コロンビアでは5月、スターバックスのバリスタたちが店舗前で「組合つぶしをやめろ」と書かれた看板を掲げ、3日間のストライキをたたかった。ストライキには他の店舗の従業員や同州の他の労働組合、劇場・舞台従業員らも参加し、地元ミルウッド・アベニューの店舗が全員一致でストを支持した。住民たちはアイスキャンディーやドーナツの差し入れで応援した。スト基金の訴えがオンラインニュースで広がり、すぐに目標を達成した。バリスタのほとんどは高校生と大学生で、数週間前までは組合についての知識はほとんどなかったが、士気は高く、ストの経験を通して学んだという。

 

 マサチューセッツ州ボストンのコモンウェルス・アベニュー店では、7月から8月にかけて、スターバックス史上最長の5週間のストライキをたたかった。店の入り口には24時間無休のテント野営地がつくられ、若い労働者や支援者数千人を引き込んだ。近くのディスカウントスーパー・ターゲットやアマゾン、ファストフード・タコベルの店舗の労働者たちは、ボストン労働評議会の構成組合とともに、食料や水などの物資を提供した。ストに参加した労働者は、コミュニティの大切さを実感したとのべている。

 

 スターバックスは、テネシー州メンフィスのポプラ・アンド・ハイランド店で、今年2月、組合組織委員会の7人全員(黒人とヒスパニック)を報復解雇した。これはもっとも悪質な人種差別的組合つぶしだとして、地域住民の憤激を呼び起こした。それから半年後の8月、連邦判事は7人の復職を命じ、企業は彼らを再雇用した。

 

 こうした運動の担い手は、プロの労働組合活動家とは無縁の、労働運動の経験がほとんどない、有名な大学などに通う高学歴の若者たちだ。彼らが義憤と賢さを発揮して、大規模な組合攻撃を跳ね返し、その経験を「Zoom」などを使ったオンライン会議で全米の店舗に広げることで同僚に手を差し伸べ、それが労組の急増につながっている。これに対して企業側は組合つぶしのプロを雇って各店舗に派遣し、従業員たちを拘束して組合から脱退するよう説得しているが、若者たちはそのマニュアルを分析して撃退法を編み出し、それを各店舗で共有しており、組合つぶしの側が彼らにいい負かされてすごすごと帰って行くのだという。今では組合つぶしが来るのを楽しみに待つまでに若者たちが労働運動の組織者として成長しているのだと、現地に詳しい専門家が報告している。

 

 このなかで、SDGsやブラック・ライブズ・マター(BLM、黒人の命を守る)運動、セクシャル・マイノリティの権利に賛同する「リベラル」な姿勢を売りにしてきたスターバックスのインチキを暴き出している。

 

 その他、その企業で初の労働組合を結成する運動は、メリーランド州のアップルストア、グーグルファイバーの請負業者、米国最大のアウトドアショップ・REI、食料品スーパーマーケットチェーンのトレーダー・ジョーズなどで勝利している。また、ウーバーとリフトのドライバーで組織するライドシェア・ドライバーズ・ユナイテッドのメンバーは、2018年設立時の400人から、今年は2万人にまで増加した。大企業の経営者はアマゾンやスターバックスで起きていることに恐怖を感じていると報道されている。

 

スターバックス本社前で抗議する従業員たち(米シアトル、2月15日)

大多数が願う社会求める若者 行き詰まる資本主義

 

 こうした動きの中心を担っているのが、Z世代(1995年以降生まれ)を初めとする20~30代の若者たちだ。彼らの成長過程を見てみると、2008年のリーマン・ショック以降、「ギグワーク」といわれる不安定雇用が拡大して低賃金や失業に苦しむ者が増え、大学の学費は高騰して奨学金のローン地獄に陥る若者が増大するなど、行き詰まる資本主義の矛盾が若者に集中してあらわれた時期だった。

 

 2011年には「ウォール街を占拠せよ」を掲げたオキュパイ運動が起こり、1%の大企業や富裕層に対する99%の団結を訴えた。2020年にはミネソタ州で黒人のジョージ・フロイド氏が白人警察官に殺害されたことを契機にBLM運動が起こり、米国史上最大規模の2500万人が運動に参加した。

 

 したがってアメリカでは、「スターバックスで働く非常に多くの若者が、BLM運動や銃乱射事件抗議と銃規制強化のために街頭にくり出した経験がある。職場の外で集団行動が起こっているのを見て、職場の中でもできると思っているのだ」という分析もなされている。

 

 現在、アメリカの18歳から29歳の若者の過半数が資本主義に反対しており、33%が社会主義に肯定的だという調査結果も出ている。

 

 振り返ってみると、1980年代にレーガン政権が新自由主義に舵を切って以降、「小さな政府」を掲げた民営化や規制緩和による私的利益追求の結果、経済格差は拡大し大多数の貧困化が進んだ。しかしアメリカの労働運動は、航空管制官組合のストライキが弾圧(1981年)されてからは、新自由主義に対して抵抗力を失って譲歩に次ぐ譲歩を重ねてきた。

 

 現在、アメリカの労働組合組織率は、全労働者のわずか10%程度にとどまっている。労働組合は弁護士とスタッフが年金管理などをおこなう管理会社のようになっており、労組幹部は高い給料を懐に入れていると揶揄されている。

 

 こうした長年の試行錯誤を経て、新自由主義に対する抵抗運動が徐々に表面化してきたのは、リーマン・ショック以降だといわれる。

 

教育予算の増額を求めて全州でストライキに立ち上がった教師たち(2018年2月、ウェストバージニア州)

 最近注目されたのは、2018~19年の教師のたたかいだ。ウェストバージニア州では、教師ですらフードスタンプに頼らねばならないほど教育予算が削られたうえに、州当局が教員の保険料を引き上げようとした。同州では公務員のストは違法だが、教師たちは「子どもたちの教育環境を守るため」にストライキに立ち上がり、当初50人ほどだったストライキは州全体の学校に波及した。一日の食事を給食だけに頼っている子どもも多いため、教師たちはストの間にも給食だけは準備し、保護者や生徒と一緒にたたかった。

 

 そうした蓄積のうえに、昨年から今年にかけての労働運動の劇的な変化がある。全国労働関係委員会によれば、2022年度(2021年10月1日~2022年9月30日)の最初の9カ月間で、労組結成のための選挙申請は1892件であり、前年同期比で58%も増えた。昨年の世論調査では「労働運動を支持する」と答えた人は米国民の68%と、1965年以来最高になった。成績優秀な大学生のなかでも、世界的IT企業で活躍したいという以前の志向は影を潜め、労働運動にかかわる仕事に人生を捧げたいと考える人が増えているそうだ。

 

 今年6月にシカゴで開催されたレイバーノーツの大会も、重要な特徴を示している。レイバーノーツとは、「労働運動のなかに本物を取り戻そう」をスローガンに労働組合の下からの改革をめざした、月刊誌を中心とする運動体で、1979年設立当時は数十人から数百人規模だったのが、今年の大会には約4000人が参加したことで注目された。しかも参加者の中身が、従来の組合専従活動家が中心のものから一変し、今年は多くが現場の労働者であり、スターバックスやアマゾンから10代、20代、30代の労働者がたくさん参加したという。

 

 それと関連して、アレクサンドリア・オカシオ=コルテスを連邦議会に送り込んだアメリカ民主社会主義者(DSA)は、かつて党員が5000人程度、それも60~70代が多かったのが、今では20~30代が中心になり、党員も10万人をこえたといわれる。民主社会主義者の大会では、大会決議はなく、党員はみな平等で自由な立場で参加し、支部をつくるのも党員に任されている。ただ、重要問題については盛んに論議をして一致を勝ちとり、そのなかからすぐれた活動家が次々に生まれている。

 

 そこで掲げられている社会主義とは新自由主義反対であり、私益にもとづいた経済政策、疎外された労働、富と権力の不平等、人種・性別・性的志向などあらゆる差別を拒絶し、資源や生産手段の一元的管理、公平な再分配などを主張している。また、政策として国民皆保険、最低賃金の引き上げ、大学の学費の無償化などを掲げ、支持を広げている。

 

看護師1万5000人がスト  “利益より患者の命を”

 

ストライキを決行した医療労働者や看護師たち(米ミネソタ州、9月12日)

 変化が起こっているのは、スターバックスやアマゾンの若い世代だけではない。昨年秋にはジョンディア社(世界最大の農業機械メーカー)、ケロッグ社、ナビスコ社といった大企業でストライキが連続して起こり、「ストライキの10月」と呼ばれた。また昨年11月には、旧来の産別労組の一つ、運輸関係のチームスターズ(組合員130万人)で、レイバーノーツと結びついた改革派グループが新執行部に選出された。

 

 最近注目されているのは、医療労働者のストライキだ。ミネソタ州では民間病院で働く約1万5000人の看護師が、深刻な人員不足のために患者に必要な医療を提供することができないとして、9月12日から3日間のストライキに突入した。これは、民間病院のストライキとして米国史上最大のものとなった。

 

 ストライキに突入したのはミネソタ看護師協会に所属する看護師たちで、同州のミネアポリス、セントポール、同州北部地域などの16の病院でストを決行した。看護師たちは病院前でピケをはり「利益よりも患者」「営利医療に終止符を打つ」「最前線は言い訳にうんざりしている」などのプラカードを掲げ、地域住民にストへの支援を訴えた。
 

 ストライキに当たって看護師協会は、「私たちはミネソタ州の住民を看護するのが役割だ。それが私たちがこの仕事についた理由だ。そしてそれが、私たちがパンデミックの苦しい日々にも耐えてきた理由だ。しかし今、私たちは危機に瀕している。そして私たちはそれに黙っていることはできない。私たちは病院の利益よりも患者を優先するために、交渉のテーブルにつくし、必要に応じて歩道に立つ」と訴えている。

 

 看護師協会の要求は、適切な人員配置、有給休暇、病休、育児休暇の保障である。また、3年間で30%の賃上げを求めている。

 

 ストに入った看護師たちは、「看護師不足は新型コロナ・パンデミックの前からあったが、この3年間でいっそう深刻化した。人員不足と厳しいシフトによる仕事量の増大で、育児や病気などで休みをとることが困難になるため、早期退職が続出している」と訴えている。人員不足のために、患者から呼び出しがあっても即座に対応できなかったり、主任看護師が配置されていない看護ユニットがあったり、普通ベテラン看護師が担当する部署に看護学校を卒業したばかりの看護師が配置されるなどの事態が起こっている。

 

 ミネソタ州の医療現場の実際は、全米の医療現場に共通するものだ。投資ファンドなどが医療機関を買収し、患者に対する責任よりも「利益の最大化」が優先されるようになった。コスト削減のために医療施設は統合され、病床やスタッフは削減され、一方診療費は上がり、十分な利益を生まない医療機関は閉鎖となった。経営陣は防護マスクや人工呼吸器の購入を控え、パンデミックに対する備えは失われた。

 

 コロナ・パンデミックが襲来した時点で、アメリカの総病床数は92万4000床で、1970年代後半から150万床も削られた。アメリカではコロナ感染者が累計9700万人をこえ、死者も100万人をこえるなど、いずれも世界最悪となっている。

 

 こうしたなかで、全米各地で医療従事者がもうけ第一の新自由主義の医療破壊とたたかっている。カリフォルニア州ではカイザーパーマネントの精神医療従事者約2000人が、安全を担保できる人員配置を求めてストライキに入り、現在5週目に入っている。ウィスコンシン大学病院の看護師約2600人は、人員不足や劣悪な労働条件の改善、組合の承認などを求めて、9月13日から3日間のストに突入した。また、ペンシルベニア州の14の介護施設の約700人の看護師とスタッフは、適正な人員配置や賃金引き上げ、労働条件の改善を求めて1週間のストライキをたたかった。ごく最近では、ミシガン医科大学の6200人をこえる看護師がスト権を確立したという。

 

 以上のようなアメリカ労働運動の新たな高揚は、新自由主義に対する歴史的な反撃であり、そこに資本主義にかわる新しい社会への志向を見てとることができる。

 

「医療スタッフを守れ」「利益よりも患者」のプラカードを掲げる看護師たち(9月12日、ミネソタ州)

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