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台湾で軍事緊張を煽る米国 ウクライナと瓜二つな挑発 ペロシ訪台が意図するもの

 ペロシ米下院議長の台湾訪問をきっかけにして、中国と台湾の軍事緊張が激化している。反発した中国が台湾全土をとり囲んだ大規模軍事演習に踏み切り、日本のEEZ(排他的水域)内にミサイルを発射。対抗して台湾が「応戦も辞さない」と重砲射撃訓練を開始し、ウクライナに加えアジアでも一触即発の事態を招きかねない緊張局面が生まれた。この台湾をめぐる軍事緊張は、突発的に起きた問題ではない。中国の内政問題である台湾問題に米国が介入し、執拗に挑発し続けてきたことが最大の原因である。しかも軍事緊張を煽るだけ煽って近隣諸国同士に戦争をさせ、自分だけ高見の見物をしようという手口は、ネオコン勢力がウクライナ戦争を引き起こした手口そのものである。

 

台湾訪問を強行したペロシ米下院議長(3日)

 ペロシ米下院議長の訪台をめぐって中国は最初から猛烈に反発していた。中国外務省は訪問前から「ペロシ氏の訪台は中国内政への干渉であり、中米関係を著しく損なう深刻な結果を招く」「中国軍は断固たる対抗措置をとる」と牽制し、台湾周辺海域で軍事演習を展開した。「台湾問題」をめぐっては「台湾は中国の一地域」との見方が国際的な基本評価であり、国連も「中国の内政問題」として外からの介入は避けるのがこれまでの慣例だったからだ。

 

 ところが米国はウクライナ戦争に続いて、アジアでも軍事緊張を意図的に激化させる行動をエスカレートさせた。アジアで軍事緊張を高めれば、中国周辺各国の防衛予算を大幅に引き上げたり、「国防のため」と称して米国製兵器を売りつけやすくなる。台湾にとどまらず、日本やフィリピンなど周辺の同盟国を対中国戦略に動員しやすくなる。そのため米国は中国の猛反発を承知のうえで、ペロシ訪台を強行した。

 

 加えてペロシ議長が台湾で「“台湾をはじめ世界の民主主義を維持する”米国の決意は固い。台湾は逆境に強い島であり続けたが、今こそ米国と台湾の連携が重要」と表明し、これに蔡英文総統が「ロシアがウクライナを侵攻したことで、台湾海峡を全世界が注目している。この重要な時期に台湾への揺るぎない支持に感謝する」と応じた。米国と台湾が手を組み、中国に対抗する姿勢を国際社会に見せつけるアピールとなった。

 

 これを受けて中国は「レッドラインを踏みこえる行為」と激怒し、台湾をとり囲む6つのエリア【地図参照】で「重要軍事演習」を開始した。中国国防省は報道官談話で「米台共謀に対する厳正な威嚇」と主張。周辺海域に弾道ミサイル11発を発射し、日本のEEZ内にも5発着弾させた。EEZ内の着弾地点は与那国島の北北西約80㌔の場所で、台湾有事になれば米軍空母が展開する区域だった。それは米軍基地や米軍が展開する演習場は、ミサイルの標的になることを避けられない現実を突きつけるものでもあった。

 

 これに対抗し、台湾国防部は台湾軍の戦闘機や軍艦、戦闘車両などが登場する動画を公開し「攻撃されれば応戦をする」と表明。台湾の南部沿岸周辺で「重砲射撃訓練」をおこなうことも発表した。台湾当局は「大国の横暴に立ち向かう小国」といった空気を醸しだし、日本を含めた周辺諸国に「台湾への理解と支援」を呼びかけた。

 

 ペロシ訪台を契機に大規模軍事演習だけをセンセーショナルにとりあげてこれまでの経緯を覆い隠し、「中国がEEZ内にミサイルを撃った!」「やられた!」と危機や憎悪を煽って、「共感」や「支援」を募り、周辺国を巻き込んでいく手口は、ウクライナ戦争を引き起こした戦争勢力が用いた手口と瓜二つといえる。

 

台湾問題の経緯 中国の内政問題の扱い

 

 台湾問題をめぐっては1945年に、当時台湾を占領・統治していた大日本帝国が第二次世界大戦で無条件降伏して以後、一貫して「中国の問題」として扱われてきた経緯がある。中国革命をへて1949年に中華人民共和国が成立したが、旧中華民国政府が米国の後押しを受けて台湾に立てこもり「こちらが本当の中国だ」と主張したため、何度も中台間で軍事緊張の危機に至った。だが中国側の主張、台湾側の主張の違いは、当事者間で解決する以外になく、国際社会は中国の内政問題として処理してきた。

 

 国連は1971年の国連総会で「中国招請・台湾追放」を可決し、中華人民共和国を中国として認め、国連復帰を決定。日本は1972年に中国と国交を正常化し、台湾と断交した。米国はベトナム侵略戦争に敗北するなか、中国封じ込めから「関与政策」に転じ、1979年には「一つの中国」を承認し、中国と国交を正常化している。

 

 こうした経緯から、日本が1972年に中国と国交を正常化して以後の日米首脳間文書は、台湾問題には言及してこなかった。2005年の日米安全保障協議委員会による共同発表で「台湾海峡を巡る問題の対話を通じた平和的解決を促す」と記述したが、このときも「対話」による解決を促すとの表現にとどめ「抑止」力の行使には言及しなかった。

 

 ところがバイデン政府は昨年4月の日米首脳会談で菅首相(当時)と「台湾海峡の平和と安定の重要性」を明記した共同声明を発表。声明では「国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有した」「日米両国はまた、地域の平和及び安定を維持するための抑止の重要性も認識する」とのべ、中国を名指しで非難し「抑止」力の行使に言及した。さらに「日米両国は台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」とし、「台湾有事」に日米が軍事介入する意図も明らかにした。

 

 さらにウクライナ戦争勃発後の今年5月の日米首脳会談では、バイデン大統領が共同記者会見で「中国が台湾に侵攻したとき、米国が台湾防衛で軍事的に関与する用意があるか?」と問われると「イエス、それがわれわれのコミットメント(誓約)だ」と明言。しかも「われわれは“一つの中国”政策を支持している。だが中国が台湾を武力で奪う権限を持っているという意味ではない」とのべ、もし中国が台湾に侵攻すれば「ウクライナで起きたのと同じようなことが起きる」と恫喝した。

 

 同会談で岸田首相は「ロシアによるウクライナ侵略のような力による一方的な現状変更の試みを、インド太平洋、とりわけアジア、東アジアで許さぬよう日米同盟の強化が不可欠」と共同会見で表明。共同声明では「ミサイルの脅威に対抗する能力(敵基地攻撃能力)を含め国家の防衛に必要なあらゆる選択肢を検討する決意」と「日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する決意」を表明した。これは「台湾有事」に備えるため「敵基地攻撃能力の保有」や「防衛費大幅増額」を具体化し、日本が対中戦争の「火付け役」を買って出るという内容にほかならない。

 

 同時に米軍主導で6月末から対中国を想定した大規模軍事演習をエスカレート。26カ国の軍隊を動員する米海軍最大規模の多国間演習「リムパック」をハワイ沖で実施し、その後も「パシフィック・ドラゴン」(日・米・韓)、「ガルーダ・シールド」(日・米・インドネシア)など大規模かつ攻撃的な軍事演習を連続しておこなった。今月14日からは陸上自衛隊と米陸軍が日米共同訓練「オリエント・シールド22」(8月14日~9月9日)をおこない、米陸軍の高機動ロケット砲システム「ハイマース」と電子戦部隊を初めて奄美大島に展開する予定になっている。

 

 日本の大手メディアは、中国側がいかに大規模な演習をくり返しているかは事細かに報じるが、日米側がどれだけ大規模な演習を日本近海で展開しているかは一切報道しない。どちらのいい分が正しいかどうかを抜きにして、客観的事実や経緯さえ伝えない恣意的な報道は戦前の「大本営発表」とそっくりである。

 

米中の軍事基地強化 米軍は自衛隊を動員

 

 これまで中国と米国は日本を挟んで主要軍事基地の強化を進めてきた。中国は北から旅順、青島、寧波、福州、湛江、楡林等海岸線の都市に軍事拠点を配置し、米軍はそれに対抗して第一列島線上に岩国、佐世保、沖縄等の軍事拠点を配置し、第二列島線上に三沢、横須賀、厚木、座間、グアム等の軍事拠点を配備してきた。

 

 ところが米軍の地上戦要員はアフガンやイラクへの侵攻等たび重なる戦争で疲弊し、兵員確保が困難になっている。そのため米軍は海外の基地再編に着手し、約30年前に217万人(1987年)いた米軍の総兵力を132万人体制(2021年末)に減らした。このうちアジア太平洋地域に配置している米軍は合計13万人にとどまっている。その一方で中国の総兵力は約204万人に及び、米軍兵力を遥かに上回っている。陸上戦力は兵員約97万人に戦車約6200両を備え、海上戦力(艦艇=750隻、空母等=約90隻、潜水艦=70隻)や航空戦力(作戦機=3030機、近代戦闘機=1270機)の軍備増強も著しい。兵役が2年あるため兵役経験者も多い。中国は最終的な勝敗を決する地上戦要員が圧倒的に多いのが特徴だ。

 

 このなかで米国が進めたのは、地上戦は同盟国の兵員を総動員し、中国に対峙させるシナリオだった。日本では約23万人規模の自衛隊を米軍が直接指揮するため、米軍再編計画で首都圏に陸・海・空軍の米軍司令部を配置し自衛隊と米軍の司令部を一体化した。そして2015年の「日米防衛協力の指針」(ガイドライン)改定で、「切れ目ない日米協力」や「地球規模での日米協力」を可能にし、自衛隊がいつでもどこでも米軍と共同作戦を実施する体制を整えた。

 

 同時に「日本に対する武力攻撃への対処行動」について自衛隊と米軍の役割を定め、①空域防衛作戦、②弾道ミサイル攻撃対処作戦、③海域防衛作戦、④陸上攻撃対処作戦、については自衛隊が「主体的」に軍事作戦を担い、米軍が「支援及び補完する作戦」を担うことを規定した。

 

 この日米ガイドラインに基づき「台湾有事」に向けた軍事配置を本格化させた。ここで最優先したのが第一列島線上の米軍岩国基地~沖縄基地間に位置する九州地域と、沖縄から台湾を結ぶ南西諸島への軍備強化だった。2016年以後の自衛隊新編の動きは次の通りだ。

 

【2016年】
 ▽空自第九航空団新編(那覇)
 ▽陸自与那国沿岸監視隊新編(与那国)
【2017年】
 ▽空自南西航空方面隊新編(那覇)
 ▽空自南西航空警戒管制団新編(那覇)
【2018年】
 ▽陸自水陸機動団新編(長崎・相浦)
【2019年】
 ▽陸自奄美警備隊新編等(奄美)
 ▽陸自宮古警備隊新編(宮古島)
【2020年】
 ▽空自警戒航空団新編(浜松)
 ▽陸自第七高射特科群移駐(宮古島)
 ▽陸自第三〇二地対艦ミサイル中隊新編(宮古島)

 

 台湾や尖閣諸島のすぐそばにある与那国島(沖縄県)では、2016年から陸自沿岸監視隊約170人と空自移動警戒隊がにらみを利かせ、陸自ミサイル部隊を宮古島(沖縄県)に約710人、奄美大島(鹿児島県)に580人配備した。

 

 今後は今年度末までに石垣島(沖縄県)にも地対空ミサイル部隊(570人)を配備する計画だ。沖縄には自衛隊を約8000人規模(陸自=2480人、空自=4040人、海自=1450人)で配備しているため、沖縄を含む南西諸島近辺には約1万人規模の自衛隊部隊を配置する計画となっている。

 

米中の覇権争奪 日本をミサイルの標的にするな

 

 同時に米軍岩国基地を軸にした九州全域の軍備増強も動いている。

 

 米軍岩国基地は2010年に「沖合移設」と称して増設した滑走路(2440㍍)の運用が始まり、滑走路2本体制へ移行した。さらに普天間基地からの空中給油機15機移転(2014年)、厚木基地からの空母艦載機59機移駐(2018年)を経て、現在は垂直離着陸可能なステルス戦闘機F35Bを追加配備している。岩国基地は今や、米軍関係者約1万200人、軍用機約120機と2500㍍級滑走路2本を擁する巨大基地となり、原子力空母、大型強襲揚陸艦、ヘリ空母などを本格展開するために欠かせない拠点に変貌している。

 

 この岩国基地増強とセットで米空母艦載機の陸上離着陸訓練(FCLP)基地を馬毛島(鹿児島県西之表市)に建設する計画が地元住民の意志を無視して動いている。馬毛島への基地計画は米軍空母艦載機の訓練場でありながら、自衛隊施設として関連費用はすべて日本側が負担する計画だ。通常滑走路と横風用滑走路2本を備え、多様な訓練施設(模擬艦艇発着艦訓練、エアクッション艇操縦訓練、水陸両用訓練、PAC-3機動展開訓練、空挺降投下訓練等)も完備した大がかりな基地となる予定だ。さらに空自築城基地(福岡県築上町)と空自新田原基地(宮崎県新富町)を「普天間基地並み」に増強する計画も動いている。築城基地は現滑走路(2400㍍)の海側を約25㌶埋め立て、普天間基地の滑走路と同じ2700㍍(約300㍍延伸)にする計画だ。築城も新田原も「いずも」等国産空母との連携を見込んだ基地機能強化が進行している。

 

 あわせて自衛隊の地上戦要員を投入する体制作りも進行している。2018年には、陸自相浦駐屯地(佐世保市)に地上戦専門部隊である水陸機動団(日本版海兵隊)を発足させ、熊本県の陸自健軍基地には電子戦部隊も新設した。電子戦部隊は水陸機動団とともに前線へ緊急展開し、レーダーや情報・通信を妨害する部隊である。この水陸機動団や電子戦専門部隊を迅速に戦地へ送り込むために、佐賀空港へのオスプレイ配備計画も動いている。こうした九州地域や南西諸島一帯の軍事配置を首尾よく進めるために、意図的に軍事緊張を煽り、それを援護射撃しているのが御用メディアにほかならない。

 

 米国と中国の覇権争いが先鋭化するなか、台湾有事の危機が現実味を帯びている。しかしこれは中国側につくか、台湾側につくかというような問題ではない。米国が軍事支援や内政介入して緊張を高めてロシアの侵攻を招き、「米欧vsロシア」の代理戦争を担わされ、いまや米欧の兵器消費地とされているのがウクライナであり、軍事強化は安全保障どころか、国民の生命を脅かすものになった。日本においては、日本を拠点にして他国にミサイルを向けるという軍事配置が国民の意志に反して進行しており、その結果、日本列島がミサイル攻撃の標的として晒されることを許すのかどうかという問題が迫られている。事象を一面的にとりあげて、敵愾(がい)心を煽る米側の扇動を背景にしており、「アジアで軍事緊張を煽るのはやめよ」「台湾や日本を第二のウクライナにするな」の世論を全国的に強め、背後で戦争を煽る勢力をあぶり出すことが待ったなしになっている。

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