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ウクライナへの兵器供与拡大する米国 まるで最新兵器の見本市に 今度は高機動ロケット砲システム

 ウクライナ東部でのロシア軍とウクライナ軍の戦闘が長期化するなか、欧米からのウクライナへの最新兵器の連続的な供与によって、紛争構図はますます「欧米(米国)vsロシア」の代理戦争の様相を深めている。西側報道機関とその影響下にある日本のメディアは、戦闘による被害の責任をロシア側のみに求めているが、武器供与によって戦闘は激化するだけでなく、民間被害は拡大し、停戦交渉は難航する。一向に停戦仲介に動かず、戦争長期化によるウクライナでの被害拡大を政治利用する米国側の意図が露呈しており、ウクライナが「米国製兵器の見本市」と化していることに、米国内をはじめ各国で反発が強まっている。

 

 バイデン米政府は1日、ウクライナに対して高機動ロケット砲システム「ハイマース」(ロッキード・マーチン社製)を提供することを表明した。米政府は、これらを含む7億㌦(約900億円)規模の軍事支援を新たに提供するとしている。バイデン大統領は「最終的に外交的解決しか道はない」「ウクライナがさらなる侵略から自国を防衛できる手段を持ち、民主的で、独立し、繁栄した国にするのが米国の目標だ」などとしながら、「ウクライナに最大限の交渉力を持たせる」として供与する兵器を増加させた。いい換えれば、「ゼレンスキー政権の交渉を有利にするためには、さらなる民間人犠牲も厭わない」という意味となる。また、3月に「プーチンが権力の座に留まってはならない」という本音を吐露して批判を浴びたバイデンは「米国は彼(プーチン)の追放を模索したりはしない」と発言を打ち消しているが、実際行動は逆で、提供する兵器はより強力化している。

 

アメリカ政府がウクライナに提供する「ハイマース」

 ハイマースは射程約80㌔の自走式多連装ロケットで、これまでにアメリカが供与してきたM777榴弾砲の射程25㌔よりはるかに長距離の攻撃ができる。使い方によっては射程は最大300㌔にまで伸び、ロシア領土内への攻撃も可能にする兵器だ。バイデンは「ロシア領土内は攻撃しない」ことを条件としたと宣伝しているが、混乱した国境地帯での戦闘でそれらの約束が守られる保証はない。

 

 過去に米国がおこなったパキスタンへの武器供与では、友好国であるインドとの関係と、印パ間の核戦争を懸念し、あくまで「テロ対策のため」という約束だったが、提供されたF16戦闘機はインドへの攻撃に使われた。IS(イスラム国)が使用した兵器も、米国がイラク治安部隊に提供したものだった。

 

 多くの非正規戦闘員(傭兵や義勇兵)が入り乱れる戦闘現場では、すでにウクライナ軍によるロシア領内への攻撃が始まっているともいわれ、ハイマース導入により戦闘被害が甚大になれば、ロシアが自衛の観点から、武器供与の拠点となっている近隣NATO加盟国への攻撃を正当化する可能性も出てくる。NATO加盟国と交戦状態になれば、戦火はウクライナをこえて欧州全体に拡大する恐れがある。バイデンの「ロシア領への攻撃禁止」発言は、その場合の責任を問われないための逃げ口上とも捉えられる。

 

ウクライナの国防予算に迫る兵器供与

 

 米国からウクライナへの武器支援は、高機動ロケット砲システムのほか、監視レーダーや対戦車ミサイル「ジャベリン」、砲弾、ヘリコプター、戦闘用車両、保守用の予備部品などが含まれている。ロシア軍の侵攻開始以来、米国からの兵器提供の総額は45億㌦(約5800億円)に達しており、支援額は3カ月あまりで、ウクライナの年間国防費である60億㌦(約7800億円)に迫っている。欧州から提供された武器を含めると、ウクライナの軍事力はロシアと非対称とはいえないほど強大になっている。

 

空対地ミサイル搭載が可能なドローン「グレーイーグル」

 また、バイデン政府はウクライナに対し、空対地ミサイル「ヘルファイア」搭載可能なドローン「MQ-1Cグレーイーグル」4機を売却することを計画していることも報じられた(ロイター)。米ゼネラル・アトミックス社製の「プレデーター」ドローンの陸軍版で、30時間の飛行を可能とし、諜報目的のデータを大量に収集できるほか、空対地ミサイルを最大で8発積むこともできる。いまやウクライナは米国製兵器の最大の消費地となっているが、これらの兵器による民間人犠牲について西側メディアが報じることはない。この戦争特需で、軍需関連株は高止まりを続けている。トレーダーの間では「遠くの戦争は“買い”」といわれ、長期化するほど市場は活況する。

 

 ウクライナ戦争は現在、独立(人民共和国)を宣言したドネツクやルガンスクを含む東部ドンバス地方での攻防戦となっており、ロシア軍とウクライナ軍による戦闘の枠をこえて、これら親ロシア派の人民共和国軍(DPR)の戦闘も混在したものとなっている。ロシア語を第一言語とする住民が人口の70%以上おり、親ロシア派住民が多いこれらの地域では、8年前からウクライナ軍が住民への砲撃をくり返しており、彼らにとってはウクライナ軍との戦いは自衛(自決権)の要素を含んでいる。この事実もメディアで報じられることはなく、もっぱら侵略者ロシアに対するウクライナの自衛戦争という構図で描き、西側からすれば、ウクライナ民間人の被害を最大限利用して対ロシア包囲網を強めるという政治的意図が貫かれている。

 

 戦争被害の拡大を止めるために必要なことは一刻も早く戦闘を止め、停戦交渉を前に進めることであり、そのための国際社会の冷静な世論醸成と「第三者」の仲介工作が求められる。

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