いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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ウクライナ危機に国際社会はどう向き合うべきか 緩衝国家・日本も迫られる平和構築の課題 東京外国語大学教授・伊勢崎賢治氏に聞く

 ロシアとの戦闘が続くウクライナの緊迫した情勢は、日本を含む国際社会を巻き込み、さまざまな議論を呼び起こしている。本紙は、かつて国連職員や政府特別代表として世界各地の紛争地で調停役を務めてきた東京外国語大学教授の伊勢崎賢治氏にインタビューをおこない、現在のウクライナ情勢の見方や問題意識について話を聞いた。

 

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いせざき・けんじ 1957年、東京都生まれ。東京外国語大学教授、同大学院教授(紛争予防と平和構築講座)。インド留学中、現地スラム街の居住権をめぐる住民運動にかかわる。国際NGO 職員として、内戦初期のシエラレオネを皮切りにアフリカ3カ国で10年間、開発援助に従事。2000年から国連職員として、インドネシアからの独立運動が起きていた東ティモールに赴き、国連PKO暫定行政府の県知事を務める。2001年からシエラレオネで国連派遣団の武装解除部長を担い、内戦終結に貢献。2003年からは日本政府特別代表としてアフガニスタンの武装解除を担当。著書に『武装解除 紛争屋が見た世界』(講談社現代新書)、『本当の戦争の話をしよう 世界の「対立」を仕切る』(朝日出版社)、『主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿』(共著、集英社クリエイティブ)など多数。

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急がれる停戦合意 懸念される傭兵による無秩序化

 

 ――ロシアのウクライナ侵攻が始まって2週間が経過したが、現状をどう見ていますか?

 

 伊勢崎 ロシアとウクライナの第3回目の停戦交渉がおこなわれた。双方ともどちらかが全滅するまでは戦いたくはない。だから被害が甚大になる前に、お互いが元気なうちに停戦をしようとする。でも、できるだけ交渉で相手より優位に立つために戦局を有利に進めたい。だから戦いが止まらない。そのジレンマだ。それでも1回目から3回目まで、確実に進歩していると思う。

 

プーチン露大統領

 まず第一に、停戦交渉が開かれること自体が進歩だ。プーチンは、売り言葉に買い言葉で、西側社会に対して「ウクライナの存在自体を認めない」「現政権を認めない」というようなことも言っていた。そこで二つの言葉がひとり歩きした。一つは「Demilitarization(非武装化)」だ。それは国全体の軍事力をすべてなくすことなのか、部分的なものなのかには言及せず、とにかく「非武装」だと。これは結構強い言葉だ。もう一つは「非ナチ化」だ。元首としてのキャッチフレーズとしては、そう言わざるを得ないということだろう。だが実際にここまで戦って双方に被害も出るなかで、何が実現可能なのか、現実路線に落としていくのが交渉だ。当初「存在さえ認めない」といっていたものを、認めて対話をしたというのは一つの前進だ。

 

 もう一つは「Corridor(人道回廊)」(民間人の避難ルート)を設けることを合意した。次は部分的な停戦合意だ。

 

 ウクライナ軍とロシア軍では、侵入したロシア軍の方が悪いに決まっている。だがロシア側は、傭兵などの非正規部隊ではなく、予備役を含めて正規軍の軍事侵攻だ。ウクライナのゼレンスキー大統領は世界に向かって「戦闘員来てくれ」と公言している。これは国際法違反だ。国際法には、傭兵の募集や使用を禁止する条約がある。ウクライナはこれに批准している。日本や米国、ロシアは批准していない。

 

ゼレンスキー大統領

 ゼレンスキーは「ボランティア(義勇兵)だ」という。傭兵が報酬目当てであるのに対して、義勇兵は精神に賛同して無償で命を捧げるものといわれるが、その線引きはつかない。それでいうなら、ISIS(イスラム国)もアルカイダもみんな傭兵ではなく義勇兵だ。ムジャヒディーン(イスラム聖戦士)だ。この線引きは、現場で無意味で、そこに条約の限界がある。しかし、傭兵、義勇兵、何と呼ぼうと非正規のものは、国家の指揮命令系統で統率しにくい。正規軍なら軍規があり軍法会議もあるが、外からいきなりやってくる非正規なものを、いかにその強制の下に置くかは、一般論としても、非常にグレーな領域なのだ。

 

 これを話している現在、ロシア側も海外からの傭兵の募集を公式に呼びかけ始めた。このまま行くと、傭兵と傭兵が戦闘する構図になってゆく。これは混乱の極地である。

 

 軍規違反、戦争犯罪、そして停戦合意違反は、正規軍の場合、戦況が長期化して指揮命令系統がズタズタに疲弊して狂い始めたときに起きる。この戦争の場合は、それにプラスして最初から国家の指揮命令系統では掌握しにくい非正規の戦闘員が参戦しているのだ。だから停戦という「政治合意」が現場の戦闘員を制御しづらい戦場であり、違反は、ロシア軍、ウクライナ軍の両方に、その可能性がある。どちらかだけ、というのは絶対にない。私も各地の紛争現場でそれを経験してきた。停戦合意違反はこれから何度でも起きるだろうが、それでもめげず5度、6度と、定着するまで何度でも重ねるしかない。それが停戦だ。

 

 そこで俎上にのぼるものは、今は人道回廊だが、次は原発の管理だろう。そこにIAEA(国際原子力機関)や国際監視団がどうやって入っていくかという話がこれから出てくるだろう。例えば、原発の半径何㌔㍍以内は必ず非武装化することなどを決めなければ、原発災害が起きれば取り返しがつかない大惨事となる。敵味方関係なく被曝するわけだから。

 

 原発の危険性は正規軍であればあるほど染みついている。とくに福島原発事故の後、事故の当事国でありながら戦時における原発対応を考えてこなかったのは日本だけで、国際社会ではこれが常識になっている。直接建屋を攻撃しなくても電源喪失だけで爆発してしまうことが証明されたのが福島事故だ。その危険性は、ロシア、ウクライナを問わず正規軍には十分に刷り込まれている。

 

 だが非正規戦闘員は別だ。だから、それが戦場を混乱させる前に停戦合意を進めなければいけない。そこに「プーチンが悪い(悪いに決まっているが)」とか、「戦争犯罪をどうするか」とか、「クリミアや東部2州の帰属をどうするか」などと外野が不必要に騒ぐのは、これから現れるであろう仲介者にとっては、雑音でしかない。それは次の段階でやればいいことであって、それらを一時的に棚上げにしてでも、まず戦闘を止めることだ。それは確実に前進している。楽観視はまったくできないが、停戦合意違反はどの戦場でも必ず起きるものであり、それを乗り越えて粘り強く交渉を続けていく以外にない。とにかくこれ以上の犠牲者を出さないために、戦況の凍結。その一点のみに国際社会の焦点を絞るべきだ。

 

 ――第三国の仲裁がいないもとで停戦合意が実現する見通しは?

 

 伊勢崎 今回は仲裁役の第三者がいない。停戦調停にはいろんな力学が必要だ。特定国の元首が仲裁者になるケースでいえば、フランスのマクロン大統領がそれを試みたが、今の空気のなかにあってはEUの中で完全に孤立して行き詰まってしまった。この熱狂の中で、フランス世論の支持を得られていない。中国は? ロシアと中国は、歴史上、領土紛争を抱えてきたし、第三国での覇権競合など、側で見るほど“お仲間”ではない。一方で、地球温暖化の影響で激変する北極圏の「一帯一路化」を含め、そして今回の欧米による経済制裁により更に緊密になる両国の経済の一体化が進む中で、プーチンへの影響力を期待されている。

 

 または、ゼレンスキーと深い関係にあるイスラエル。首相のベネットは既にプーチンを訪問している。そして戦時の地中海と黒海の通行の実権を握るトルコだ。ウクライナとロシア双方と深い関係がある。


 トルコはNATOの一員だが、EUの一員にはなれていない。NATOは軍事同盟だが、EUは経済連合だ。加盟には、人権の保護、また、少数派の保護を保障する安定した制度など、厳しい条件がある。それをクリアして初めて、関税の撤廃・規制緩和、移動の自由などが得られる。加盟希望国が、EUが設定する条件を達成するのにだいたい10年くらいかかる。トルコは今も条件を満たせていない。ゼレンスキーもウクライナのEU入りをアピールするが、現状では不可能だろう。

 

 そしてウクライナがNATOに加盟すれば、「米国+欧州vsロシア」が交戦するという構図になる。NATO事務総長は、「NATOはこの紛争の当事者でない」と言い続けるしかない。なぜなら、それは欧州全体が戦場になることだからだ。だから、NATOはウクライナにノーフライゾーン(飛行禁止空域)の設定すらしない。

 

 NATOがロシアと交戦すれば、それは実質的に、軍事力の突出した、米国vsロシアの衝突になる。そうなると今度は欧州全体が米国とロシアに挟まれた緩衝地帯になってしまう。だから、戦場となる緩衝地帯はウクライナだけにとどめておこうというのが現在のNATOの対応だ。卑怯と言えば卑怯である。「自由と民主主義のために戦え!」というだけで、自分は戦わず、ウクライナだけに戦わせている。

 

バイデン米大統領

 いま「ウクライナ頑張れ!」の掛け声で一番元気がいいのが、米国のバイデン大統領とイギリスのジョンソン首相だ。バイデンは、昨年のアフガン敗走の失策で外交政策の評価が地に堕ち、再選は難しい。ジョンソンも、パーティー疑獄(パンデミック対策中に頻繁にパーティーを開いていた問題)で自分の所属政党からも解任を要求されている。2人ともレームダック(死に体)だったのに、ウクライナ危機が起きて一番元気がいい。

 

 2001年9・11テロ事件を契機に、米国+NATOは、勝てると思ってアフガンまで攻めて行って、20年間戦った挙句、敗走したのが昨年8月だ。だから米国民はウクライナに兵を送ることを支持しない。厭(えん)戦気分がまん延している。それでも彼らは「自由と民主主義」の面目躍如のため、ウクライナを利用するしかない。「腰砕けの熱狂」に終始している。

 

 その間、犠牲になるのはウクライナの一般市民だ。アフガンから敗走した米国・NATOが、アフガンに仕掛けたのと同じ「自由と民主主義の戦争」を、今度は、自分たちは戦わず、NATO加盟国でもないウクライナに戦わせている。これが、この戦争の構造だ。

 

喫緊の課題は原発の保全  国際社会の役割

 

 ――国連など国際機関が停戦調停に動く可能性は?

 

 伊勢崎 国連安保理は、常任理事国の利害が絡んだり、そのうちの一つが当事国であると、機能不全となる。「拒否権」の問題だ。だが国連は安保理だけではない。歴史上にその事例が一つだけある。

 

 それは第二次中東戦争(1956年)のスエズ動乱だ。当時、エジプトのナセル大統領のスエズ運河の国有化を宣言したことに対して、イギリスがフランス、イスラエルに働きかけてエジプトに侵攻した。イギリスとフランスは安保理常任理事国なので、この戦争をどうやって止めるかといったときに国連安保理は機能不全だった。そのときに動いたのが国連総会だった。それで停戦監視のための国連緊急軍がつくられた。これが現在の国連PKO(平和維持活動)の元祖だ。国連PKOは国連安保理が発動するミッションだが、その元祖になったのは、国連総会の決議によるものだった。

 

 紛争に関係のないブラジル軍などで構成される多国籍軍として軍を送った。それは紛争当事国と対決するためではなく、あくまで停戦監視のためだ。だから兵士も自己防衛のためだけの軽武装だった。非武装の停戦監視団は、現在は一つのフォーマットだ。だから国連が何もできないということはない。

 

 現在、戦えない欧米諸国はウクライナに武器を送っている最中だが、そのような(停戦監視団の)提案が、拒否権のない国連総会であがったときに反対するのは、ロシアにとっても難しい立場であろう。特に欧米諸国は。武器供与だって、実際にはウクライナの前線に確実に届ける保証が何もない。


 国連の事務局も、既に、停戦ミッション設計について考え始めていると思う。喫緊のもう一つの問題は、原発の保全だ。

 

 ――ロシアが原発を攻撃したとメディアが報じているが、それが本当ならばロシアにとっても被害が出る。なぜそんなことが起きるのだろうか?

 

 伊勢崎 古典的な戦略として、戦争ではまず重要施設を抑える。原発に限らず電力関連施設やテレビ局も含めて、敵が立てこもらないように初期段階で掌握するのが常套手段だ。もちろん戦争は絶対にしてはいけないのが前提だが、それは古典的な戦略としてある。

 

チェルノブイリ原発

 だが、原発だけは、双方が取り返しのつかない被害を受ける。だからロシアもそこは絶対に自制する。原発への攻撃は国際法上、明確な戦争犯罪である。正規軍はそれを理解する。ロシアが軍事戦略としてロシア領内から中短距離ミサイルを原発に撃ち込むことはあり得ない。でも重要施設を制覇しようとする戦闘の中で起きる核施設への被弾が問題なのだ。そして、非正規戦闘員の参戦による戦闘の無秩序化だ。

 

 原発の保全については、今IAEAがなんとかコミュニケーションをとろうと動いている。次はIAEAのエージェントたちが実際に現場に行くことが課題になるだろう。そのためにも停戦が必要だ。今回の人道回廊のように、それが停戦交渉の一つの項目になり得る。これは誰も反対できない。人道の観点からも反対しようがない。

 

 おそらく原発大国で陸上戦が起きた初めての例だ。今後、国際的にも安全保障のあり方はガラッと変わるのではないかと思う。原発が小規模なものでも陸上戦に巻き込まれる壊滅的な状況。電源喪失だけを引き起こす小規模なダメージで引き起こされる原発事故の当事者である日本は、本来なら、その対策を一番先に考え実現しなければならない立場にあるが、3・11の教訓を最も生かしていないのが日本だ。

 

露を挑発し続けたNATO  冷戦後の東方拡大

 

 ――遡って考えてみて、プーチンがこのタイミングでウクライナに侵攻した要因はなんだったと思われるか?

 

 伊勢崎 昨年、北欧のアイスランドとノルウェーの大学に招かれて講演に行ったのだが、この両国はNATO加盟国でありながら、ロシアと国境を一部接している(アイスランドは氷で接しているが、近年その氷が溶け始めている)。この地域でも、冷戦終結直後の1990年代からNATOがこのまま東方拡大すればいつかは破裂する、最初に破裂するのはクリミアではないかと指摘されていた。クリミアは地図を見てもわかるように、黒海に突き出した半島で、その南は地中海、さらにトルコに接するという非常にセンシティブな地域だ。その危険性はずっと言われてきたが、それを冷戦終結後、30年かけてNATO側が挑発しつづけてきた。

 

 僕はその30年のうち前の10年間はアフリカの貧困問題に取り組んでいたが、後の20年はNATOと付き合ってきた。とくに最初の10年間はアフガニスタンでNATOと一緒に仕事をしてきた。

 

 NATOは、もともと東西冷戦の自衛組織だ。だから1991年に敵国のソ連が崩壊してから、アイデンティティー・クライシス(自己喪失)が始まる。その存在意義を自問する自分探しの旅だ。ロシアも1991年にワルシャワ条約機構を解体したのに、今はCSTO(ロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの6カ国が加盟する集団安全保障条約)をつくった。こうして互いにエスカレートし、欧州側では核シェアリングをしたりして刺激し合ってきた。しかし、僕のNATO首脳との付き合いの中でも、NATO東方拡大のリスクを意識するからこそ、アフガニスタンがいかに「渡りに船」になったかを話題にすることが多かった。

 

 それが、2001年に始まる対テロ戦争だ。9・11同時多発テロ後、NATO憲章第五条「ONE FOR ALL ALL FOR ONE(一人はみんなのために、みんなは一人のために)」で、創立して初めてNATOが共に戦い攻め入ったのがアフガニスタンだ。当時は相手が軽武装のタリバンだから楽勝と思っていたのかもしれないが、20年後の昨年、完全撤退した。これは、NATOにとって、その存在の正当性が問われるモラル・クライシス(倫理が失われつつある危機的局面)なのだ。

 

 実は、このモラル・クライシスは昨年始まったことではなく、米国抜きのNATO首脳部が「これってどうなの…?」と懐疑的になり始めたのは、僕の記憶によると2008~2010年だ。この頃、アフガン戦争は米国建国史上最長の戦争になりかけており、誰もが疲れて厭戦気分がまん延していた。だが、無責任に撤退もできない。それでも軍事的勝利はあり得ないことを自覚し始め、どうやってEXIT(退出)するかを考えていた。そしてNATO主戦力の段階的撤退を計画し、実行に移し始めたのが2014年だった。アフガン国軍への戦闘責任を引き継ぎ、NATO軍は国軍兵士の後方支援に回るということだ。

 

 その2014年に、ロシアのクリミア併合が起きたのだ。早速、僕のところに当時のNATO軍・政府関係者の友人からメールが来た。

 

 「クリミア併合が、正当性を失ったNATOに再び結束する機会を与えてくれた」と。NATOにとっては、2回目の「渡りに船」だ。

 

 その後、トランプ政権になってからは米国は、アジア戦略へとピボット(路線変更)した。特に、中国を敵に見据え、世界を分断していく戦略だ。「あいつらは非民主的で、非人権的である(それは本当であるが)」というナラティブ(物語)を作り上げてきた。

 

無惨なアフガン敗走劇が転機に 米欧の弱体化露呈

 

 伊勢崎 なぜ今ウクライナに侵攻したのかは、100万㌦のクエスチョンだ。ただ穿(うが)った見方をすれば、かつてソ連が敗退したアフガニスタンで、NATOと米国が敗退した。それも20年も戦って敗北した。茫然自失だ。どんなにリーダーが呼びかけても世論がついてこない。その象徴が昨年8月15日のアフガンからの敗走だった。

 

カブール空港から米軍輸送機に乗ってアフガン国外に退避する人々(2021年8月15日)

 米国は昨年、NATOにも撤退計画の調整もせずに8月末までの完全撤退を決めた。だから他のNATO諸国は大慌てになった。タリバンの勢力が拡大するなかで、撤退期限の8月31日、NATOが任務を引き継いでいた国軍は全崩壊し、首都カブールは陥落した。ちなみにあのとき、アフガニスタンでの協力者を置き去りにして見捨てたのは日本だけだ。他国はアフガニスタンでの協力者(スタッフ)は、その家族も含めて同胞とみなして命懸けで救出した。韓国も300人以上のアフガン人協力者と家族を助け、手厚く定住させている。日本だけが現地スタッフを見捨てて大使館は全員逃げた。あの混乱は歴史に残る日本の恥だ。

 

 いずれにしてもあのアフガン撤退で、米国とそれ以外のNATO諸国との亀裂が決定的になった。米軍人ですらあれは失敗だと認めているほどだ。この顛末をプーチンは静観していたと思う。つまりウクライナを攻めても誰もこない、と。

 

 そもそもNATO諸国がウクライナに軍備を送るといっても、確実に届けるのは難しい。今はウクライナ西側国境までにはロシア軍の実効支配は及んでいない。ロシア軍は最初から西側まで攻め込むつもりがない。あの広大なウクライナ全土を実効支配・占領統治するためにはどれほどの兵力が必要になるかわかっている。

 

 その西側から隣国ポーランドへの避難ルートを逆流してウクライナ軍に合流する非正規戦闘員が入ってくる。そこから運べる武器といえば個人携帯武器で、小銃、弾薬の他、大きいものはスティンガーミサイル(携帯式ミサイル)のタイプのものだろう。ウクライナ正規軍が一番激しい戦闘をしているのは「東部戦線」であり、陸路で運べば、当然、制空権を握るロシア軍に叩かれる。だから戦後初というほどの規模で各国がポーランド国境に軍備を集結させたところで、届ける確証がない。NATOが代替輸送し、それをロシアが叩けば、それはNATOとの開戦になってしまう。

 

 また、ロシアは必ずしも追い詰められて行動に出たわけではないと思う。


 例えば、ウクライナにはあのチェルノブイリがある。ウクライナはその他に15基の原発が稼働する原発大国だ。日本と同じように核廃棄物が出てくる。ロシアの核廃棄産業は世界トップといわれている。その内実はよくわからない。国土が広いからどこかに埋めているだけなのかもしれないが、ウクライナはロシアと核廃棄物リサイクル協定を結び、ロシアに依存して毎年2億㌦ものお金を払って核廃棄物を送っていた。だが2005年、ウクライナはその協定を反古にし、米国の原子力企業の援助を受けてチェルノブイリ原発の敷地内に2億5000万㌦かけて乾式貯蔵施設を設立するという新たな合意を締結したという。

 

 このように、これまでロシアが握っていた産業や利権、エネルギーにかかわるものが奪われることはプーチンとしてはおもしろくない。そして、東部のロシア系の同胞が迫害にあっているという建前で、集団的自衛権を発動するという国連憲章を悪用して攻め込んだ。非常に冷徹な指導者だし、僕もこんな人に自分の国のリーダーにはなってもらいたくない。だが、侵攻の背景にはさまざまな理由があることは確かだろうと思う。

 

 ――プーチンはNATOが1991年の東西ドイツ統一時にロシアと交わした東方不拡大の約束を破っていることを問題視していたが。

 

 伊勢崎 日本の学者のなかに、ロシアに対してNATO東方不拡大の“約束”などなかったという人がいて驚いている。その約束が果たして、国際法上、効力を持つ約束だったのかといえば、僕もクエスチョンマークだ。でも、日本流にいう密約に近いもので、ベルリンの壁崩壊の衝撃の直後の、ゴルバチョフを囲む西側首脳の外交交渉の中での覚書、側近たちが本国に向けて打った公電。その記録は残っており、開示されている。日報や公文書が消えたり、改ざんされても、平気な日本とは違う。

 

 そこでは西側の首脳は明確に東方不拡大を表明していた。それは外交文書ではないから拘束力はないかもしれないが、それをプーチンは約束といい、西側は約束ではないといっている。それだけの話だ。プーチンは嘘つき、で済ます問題ではない。そして、上述のように、NATO自身のアイデンティティ・クライシス問題への思考停止にしかならない。

 

 ――ウクライナがどの軍事同盟を選ぶかはウクライナの主権であり、NATO加盟についてロシアがとやかく口を出す問題ではないという主張もある。

 

 伊勢崎 そもそも紛争問題を抱える国をNATOは入れない。NATOは自衛の組織だ。交戦状態に入っている国をNATO加盟国にすると、即座にNATO憲章第五条(集団的自衛権の行使)を発動して加盟国は戦争に参加しなければならなくなる。NATOは相互軍事同盟だから間口は広げ、民主的な主権国家であれば、厳格な審査プロセスがあるので自動的でないが、間口をオープンにしている。でも、それは、主権国家にNATOに入れる権利を保証するものでもなく、入る義務を要請しているわけではない。決めるのは主権国家であって、例えその国がNATOに入りたいと要請しても、条件を満たさない限り受け入れないというのもNATOの立場だ。条件とは、民主主義や自由経済社会である他に、国内の少数派の問題を公正に処し、平和的に解決していることが加わる。ウクライナに加えて、ジョージアの加盟もずっと据え置きにされてきた。

 

 NATOは、非加盟国とは「PfP(平和のためのパートナーシップ協定)」を結んでおり、驚くことにNATO地位協定をそのまま適用することもやっている。そこに軍事基地を置くこととは別だ。そこにはロシアもウクライナも入っている。このPfPは、NATO側の首脳が冷戦後に描いていた「母なるヨーロッパ」という政治フォーラム構想に一番近かったのだろうと思う。しかし、PfPは、実質、絵に描いた餅になってきた。バルト三国やポーランドがNATO加盟国になり、特に2014年のクリミア併合の後に、それらの国にNATO有志軍を駐留させ、「トリップワイヤー(仕掛け線)化」することは、ロシア側からみれば、時間を掛けたNATOの武力による威嚇行為にもとれる。

 

戦前回帰の異常な熱狂  冷静さを奪う同調圧力

 

 ――市民にも戦闘参加を呼びかけるゼレンスキー政権を応援する空気が、日本をはじめ国際社会全体で煽られている。日本でも右から左まで同じ方向を向いた熱狂が作り出され、このようにして戦争になっていくんだな…と痛感させるものがある。

 

 伊勢崎 まさにその通りだ。他人のことでこれだけ扇情的になるのだから、自分たちの身近で、例えば台湾有事などで自衛隊が戦闘するはめになったら、この国はどうなっていくのか。本当に恐ろしいものを感じる。

 

ウクライナの国家親衛隊がおこなっている民間人のための軍事演習

 ゼレンスキーは市民にも戦闘を呼びかけ、成人男性の国外退避を禁じ、希望者には無差別に武器を配っている。これを第二次大戦中にナチスドイツと戦った「パルチザン」のイメージと重ね、欧州でも戦前回帰の大熱狂になっている。パルチザンというのは、非正規戦闘員だ。大戦後、人類はその反省からジュネーブ諸条約をつくり、戦闘員と非戦闘員は区別しなければいけないと、戦前より更に厳密に定義した。非戦闘員は保護しなければならない。だが、非戦闘員(つまり民間人)と非正規戦闘員を、実際の戦場でどう区別するのか。これが、米国がテロとの戦いを始めてから加速的に難しくなっている。つまり民間人が武装すれば戦闘員と見なせるが、事後の検死が困難な戦況を利用して、武装していなくても民間人を攻撃し、戦争犯罪の誹りを回避するという運用の実績を積んでいったのだ。その一方で、民間軍事会社という非正規戦闘員を戦場に送る業界が拡大していった。ロシアもそうだ。

 

 国家が扇動して「市民よ銃をとれ」というのは、現代ではやってはいけないことだ。敵から見れば「国家が戦闘員といっているのだから誰でも容赦なく撃てる」となる。プーチンも狂っているかもしれないが、ゼレンスキーはもっと狂っている。それをヒーローといっている。

 

 なぜ先の大戦で国家のために一般市民があれほど犠牲になった日本国民がそれを応援するのか?「市民は死ぬな」という応援ならいいが、「市民よ、銃を取れ」という国家をなぜ応援するのか?

 

 こういう話をすると「ロシアのいいなりになれというのか?」「ウクライナの主権はどうなる?」という人がいる。だが国家主権が、西側につくか、東側につくかというだけで市民を犠牲にするようなことはしてはいけない。これは二択問題ではない。その他の緩衝国家がやってきたように中立という主権国家の選択肢もあるのだ。

 

 緩衝国家には、東西いずれかの陣営を攻撃するような他国軍の基地をつくらないというのも一つの国家の意志だ。主権の放棄ではなく、主権の意志だ。それがウクライナをめぐって欧米側につくか、ロシア側につくかで二極化され、そのように世論が形成されている。

 

 中立国としての生き方の話をすれば、例えばフィンランドは、ロシア寄りの中立国だったが、自由と民主主義を重んじる西側陣営にいる。NATOの加盟国ではないが、EUの加盟国である。ロシアとの長い国境線を共有しているからこその選択だ。でも、今回の騒動が起きてからフィンランドも武器の供与をし始めたということで、「もはや中立というスタンスはない」という言われ方をする。だが、フィンランドとロシアは友好条約を結んでいる。その内容を簡単にいえば、フィンランドをNATO側の軍事基地にせず、ロシアに脅威を及ばさない、というものだ。今回の騒動でその国是まで廃棄するだろうか? 僕はないと思う。「スイスも軍備を供与しているから中立などあり得ない」という人もいるが、国是としての中立までかなぐり捨てるということにはならないと思う。

 

 二択にするから緊張が健在化しているのに、二択の片方(NATO)は戦う気がない。これほど緩衝国家の悲劇的な運命を代表する例はおそらく他にない。少し熱が冷めれば、米国でもNATOの東方拡大主義が原因であり、米国の責任こそ問われるのだという論調が必ず出てくる。すでに民主党のバーニー・サンダース上院議員や、オカシオ・コルテス下院議員などを擁する民主社会主義グループが言い始めている。

 

 ――だが、現在メディアは欧米側の目線でしかウクライナ情勢を伝えていない。双方の情報戦や現地の混乱状況を考えれば、民家などの被害が実際どちらの攻撃によるものかもわからない。ロシア侵攻前から、ウクライナ軍はロシア系住民の多い東部地域に空爆もしてきた。それらがすべてウクライナ当局の発表だけが検証もなく垂れ流され、あまりにも中立性がない。

 

 伊勢崎 ロシア系の放送はすべて遮断された。ロシアのニュース専門チャンネル「RT(旧称ロシア・トゥデイ)」は、プーチン批判もするような“結構”まともなところもある放送局だったが、それさえも見れなくなった。ロシア政府の公式サイトにも繋がらない。相手の言い分など何も聞かないということだ。ここまでやるのか…と驚いている。

 

 どのメディアも同じ方向を向いている。英BBC放送もかつての9・11後の米国の偏向報道と重なる論調だし、アルジャジーラ(カタールに本社を置くアラビア語圏の衛星放送)も空気を読んでいる。ものすごい同調圧力だ。それでもアルジャジーラは、海外からの傭兵の問題を現場から発信している。ポーランドのウクライナ国境に各地から傭兵が殺到している。現地にある傭兵の斡旋所までちゃんと取材している。そこに外国人が来て、中にはISIS系の傭兵もいることがわかる。ウクライナ政府の出先機関があり、そこで「少なくとも1年は戦え」というような誓約書に署名をさせられる。そこで「長すぎる…」といって諦めて帰る人にインタビューをしている。

 

 私と同じ東京外大の青山弘之教授(現代アラブ政治)は、膨大な量のアラビア語のSNSを定点観測しているが、シリアのISIS支配地域ではすでに月1000~2000㌦を保証するような条件で傭兵の斡旋が始まっているという。問題は、誰がそんなお金を出しているのかだ。それによって、かつてソ連と戦ったアフガニスタンを想起させるような共産主義に対するジハード(聖戦)が形成されてしまう。前述のように、この逆のベクトルでロシアもシリアでISISと戦ってきた戦闘員のリクルートを始めたから、もう無茶苦茶だ。

 

アフリカや中東の反応 見過される「侵略」

 

 ――国連総会では、中国やインドとともに、南アフリカの代表が「対話」の必要性を説いて欧米主導のロシア非難決議を棄権した。アフリカ諸国ではそういう論調が強いのだろうか?

 

 伊勢崎 アフリカ諸国も二分している。どっちかを見ている。アフリカ大陸にとってロシアとウクライナは小麦を主体とした穀物の最大の輸出国だ。やはり価格が安い。ここで貿易が止まれば、アフリカでは食糧危機に陥って飢餓が生まれる。それでもやっぱりロシアと一定の距離を取らなければ、西側の援助も切られてしまうのではないかという恐れを抱くのも当然だ。だから賛成と棄権に分かれてしまう。

 

 それでも反対に近い棄権をしたのが南アフリカだった。それは反植民地運動、反アパルトヘイト(反人種隔離)運動への最大のスポンサーが旧ソ連だったからだ。そのとき西側は、そういう運動をする勢力を「テロリスト」といっていた。援助どころかアパルトヘイトをやる側に味方していたわけだ。ネルソン・マンデラ(反アパルトヘイト運動の指導者で1994年に南アフリカ共和国大統領に就任)が米国のテロリストリストから外れるのは2008年だ。それまで正式にはテロリストに指定されていた。

 

 僕が東ティモール暫定統治機構(国連管轄)の現地で県知事をやっていたのが2000年だった。東ティモールは2002年に正式にインドネシアから独立した。冷戦期を含めてインドネシアの迫害を受けながらずっと独立派は戦ってきた。そのころの東ティモールの独立派は西側から「アカ」と呼ばれていた。米国や日本を含めて西側諸国は、虐殺する側のインドネシア政府を応援していたのだ。冷戦が終わったら、てのひら返しだ。ひどい話だが、そういうものだ。だから南アフリカのように、旧ソ連時代の恩義を国是とする国がある。

 

 ――現在アフリカ諸国に対しては近年、中国や、中国が主導するAIIB(アジアインフラ投資銀行)もかなり援助をしており、欧米の一極状態ではなくなっているようにもみえる。

 

 伊勢崎 特にアフリカ大陸では、中国なしではどこの国もやっていけないのではないか。そこは理解すべきだろう。僕も中国には問題があると思うが、彼らはいい意味でも悪い意味でも援助に条件を付けない。だから悪政が中国の援助によってはびこる。でも、そんなことは西側が植民地時代にやってきたことに比べたらまだましだ。

 

 中国の肩を持つわけではないが、少なくとも中国は人民解放軍を他国に置かない。国連PKO以外は、アフリカ大陸には人民解放軍は一人もいない。フランスとか米国、イギリスはいまだに軍を置いている。中国はジブチを除いてどこにも置いていない。もちろん南沙諸島でサンゴ礁を埋め立てたり、わけの分からないことをしているが、あのミャンマーにさえ軍事支援はするが人民軍は入れていない。ミャンマーの軍事政権に中国が軍事支援している。それを批判する西側は、今ウクライナのゼレンスキーに届くあてのない軍事支援をしている。干渉の形態という意味では、同じだ。ウクライナ自身もこうなる前はミャンマーの軍事政権に軍事供与していた軍事大国なのだ。

 

 とにかく今国際社会が焦点とすべきことは早期停戦だ。それは一人でも多くウクライナの一般市民を助けるためであり、国際社会全体もそこに焦点を絞るべきだろう。

 

 ――本来ならばここで、平和憲法を持つ被爆国であり、原発事故の当事国でもある日本が、原発大国での戦争の危険性を真っ先に指摘し、停戦を呼びかけるべき立場にいるはずでは?

 

 伊勢崎 その通りだ。だが残念ながら今の政権には、たとえ無理なことでも正しいことをやろういう骨のある政治家がいない。外務省から画期的なアイデアが出たとしても、それを実現するために自分が泥を被るというような覚悟をもつ政治家が、かつてはいたが今はダメだ。だから外務省からも元気のある提案がなく、ひたすら守りだけだ。

 

 去年からアフガン難民受け入れ問題についても、外務省に対しては激怒の連続だ。「アフガンでの協力者たちを日本に定住させたら、その煽りを食って他の難民のことも考えなければならなくなって、苦情が来るから」という話になる。そこばかり心配している。何度もいうが、アフガンの協力者については、他の国は同胞として責任を持って扱っている。日本だけが見放した。

 

 とくに日本で教育を受けたアフガン人は、だいたい前政府のときに役人になっている。タリバン政権になっても役人を総入れ替えすることはできない。役人はそのままで、上司がタリバンになる形だ。そのなかで、日本で勉強したことを隠して働いている。密告などもあり、彼らは脅迫も受けながら非常に苦しい状態で働いている。

 

 身勝手に撤退を決めた米国もかなりのものを積み残したが、それでも10万人近い人々を出国させ、今でもビザを発給するなどして救出しつづけている。日本は命のビザすら出さない。現代の杉原千畝はいない。韓国でも国家功労者として手厚く保護して、住居も支給している。かつて正義感に溢れていたはずの日本は、なぜこんな国になってしまったのだろうか。

 

 とにかく、今回のウクライナの件で、この凄惨を極めたアフガン戦争のことも含めてすべて見落とされている。イスラエルによるパレスチナ侵攻もだ。

 

2003年3月20日、米軍はイラクの首都バグダッドを空爆し、イラク戦争が開戦。「衝撃と畏怖」作戦と呼ばれた

 今回のウクライナで最初にロシア軍の砲撃が始まったとき、アルジャジーラが見出しに使ったのは「ショック&ウォー(SHOCK & AWE)」=「衝撃と畏怖」だ。イラク戦争でやった米軍の戦略だ。まず空爆で重要施設を叩いて恐怖心を与えてから地上軍が乗り込む。「これはかつて米国がイラクにやった戦術だ」という意味合いを込めて報じていた。そこでスタジオのアンカーがムスリム系有識者へのインタビューで「これは第三次世界大戦の始まりではないか?」と口を滑らすと、その識者が「世界大戦とはどういうことですか? 白人が死ななければ世界大戦にはならないんですか?」と怒って答えていた。

 

 アフガニスタン戦争(2001~2021年)は米国史上最長の戦争だ。それに続くイラク戦(2003年~)。犠牲者も数十万人規模だ。これを世界大戦と呼ばないで、なぜウクライナのことだけは世界大戦なのか? その違いは何か?白人が死ななければ世界大戦ではないのか? と。あそこで起きていたことはウクライナどころの話ではない。「戦後最大の人道の危機」と騒いでいるのは、あくまで「欧州で」ということに過ぎない。戦後最大の人道の危機というのなら、もっともひどいのがイエメンだ。現在も悲劇的な状況だが、既に国際メディアから見放されている。

 

米国のいう民主化とは  本当の民主主義か?

 

 ――ウクライナでは2014年のヤヌコヴィッチ政権転覆後、とくに東部では国軍と親ロシア派との内戦が住民を巻き込んだ状態で放置されてきた。ロシアの侵攻はその結果ともいえ、そこに至るまでの問題に光を当てて解決しなければ平和と安定は訪れないのではないか?

 

 伊勢崎 2014年以降、ウクライナ東部の親ロシア派地域で暮らす住民が国軍から攻撃を受け続けていた。通常これだけのことがあれば国際社会は黙っていない。それから8年経っているのに民族和解などはされていない。そのツケが回ってきたとしか考えられない。だが、どんな形であれ、この戦争にいつか決着がついてみんなが冷静になったとき、これだけ分断され、傷つけあった民族がこの後どうなるのか。簡単にウクライナが東部と西部に分かれることは難しい。キエフにもロシア系の人たちはたくさん住んでいるのだ。

 

 だからそれを見越して南アフリカの代表が国連総会で、「対話」の重要性を説いた。人が殺し合えば溝はさらに深まる。だから、できるだけ早期に撃ち合いをやめさせて、未来に向かって、分断された民族和解の道を今のうちから考えるべきであり、それが安定への決定的な課題になる。国際社会はそこに向かって支援をするべきだ。

 

 ――ウクライナの経緯をみると、2004年の「オレンジ革命」に続き、2014年の騒乱(マイダン革命)で親ロシア派政権が転覆され、親欧米政権となった。米国はウクライナの反政府勢力に全米民主主義基金(NED)を通じて反政府側に資金を注いでいたといわれ、当時のオバマ政権の副大統領だったバイデンも政権転覆に深く関与していた。日本ではあまり馴染みのないネオナチやネオコンの介在が指摘されているが、実際は?

 

 伊勢崎 僕は「明るいCIA(米中央情報局)」と呼んでいる。「民主化」という名のもとに明るくレジームチェンジ(体制転換)していくわけだ。ネオコン(新保守主義)という発想があるとすれば、アフガニスタンからの敗走は、誰がどうみても彼らによる「自由と民主化」の敗北だった。その責任がまず米国内から追及されないように、今起きているウクライナの問題で注意を逸らす。でも、それは政治家なら誰でもそうするだろう。脅威が必要な人が脅威を煽るのが戦争であり、その脅威を常に政局化するのが国内政治だ。

 

 米国のNGO全米民主主義基金(NED)がウクライナにテコ入れしている2005年から、ちょうどアフガンでも同じことをやっていた。いわゆる「民主化支援」だ。当時、NHKが東欧やアラブの「カラー革命」(民主化を掲げた政権転覆運動)に資金を提供していたNEDの役割について特集番組を組み、ゲストとして招かれた僕はそこで次の様な指摘をした。

 

 「仮に民主主義を広めることに普遍的な価値があったとしても、対象国のある特定のグループもしくは個人を、資金力をバックにした外部の力が支援することは立派な内政干渉だ。そのなかで“内なる力を支援したのだ”とか、または“彼らに頼まれたからやったのだ”というのは、国際協力全般によく聞かれる詭弁であり、これは本音ではない。民主化支援は、いわゆるレジームチェンジのための内政攪乱工作と紙一重の非常にセンシティブな世界だ」「民主主義を育む土壌や社会システムをつくるという神聖な国際支援そのものが、果たして米国の政権にとって都合のよい政治グループもしくは個人を台頭させるという政治工作行為とどれだけ一線を画するか――。それが民主化支援に課せられた一番大きな問題だ」と。

 

 アフガニスタンでは、同じく民主党系のNGO団体である全米民主国際研究所(NDI)が活動していた。彼らは選挙監視などでアフガンに民主主義を根付かせるうえで一定の役割を果たしはしたが、彼らの資金源の多くは米国の国家予算であり、そうである以上、米国政府の外交政策から独立したものには絶対になりえない。

 

 だが、米国がやっている「民主化支援」は、民主主義の支援ではない。民主主義というのは、多数決でものごとが決まっても少数派の意見を大事にすることだ。それは包括的なものであり、原則は排除しないことだ。米国がやっている民主化支援とは、要するに米国に楯突く勢力を排除した政権をつくることであり、それを民主化と言っているに過ぎない。まさにウクライナがそうであり、アフガニスタンもイラクもそうだった。イラクではサダム・フセインのバアス党を完全に排除した。アフガニスタンでは、米国の掃討作戦のターゲットであったタリバンを民主化プロセスから完全に排除した。本当であれば彼ら敗者も民主化プロセスにとりいれる工夫をするべきだった。彼らも同じアフガン人、イラク人なのだから。


 米国の民主化は、米国のための民主化であって、その国々にとっての民主化ではなかった。

 

ウクライナでの「オレンジ革命」(2004年)。親ロ的な政権を転覆し、親米政権の樹立につながった

「アラブの春」の一つとされるリビア内戦(2011年3月)。NATOと米軍が軍事介入し、カダフィ独裁政権が崩壊するも、その後国内では内戦が激化した

 僕は18年前、NEDの代表が東京に来たときに彼と面談したが、そのとき彼は豪語していた。「オレンジ革命は俺がやった」と――。

 

 彼らがやったことは民主化という名を借りた分断だ。自分たちの利益につながるのなら、それが例えイスラムのジハーディスト(聖戦士)であろうと、分断というもののために金を出す。こういう議論は、一歩間違うと「陰謀説」として片付けられてしまう。しかし、上記のことは、僕が実際に経験したことだ。

 

 ウクライナ危機にあたって、少なくとも今われわれは外野席にいる。だからこそ、多角的に見る、というと安い言葉になってしまうが、西か、東かの二択ではないという視点を持つことが必要だ。それは国際社会全体にもいえることだ。緩衝国家というのはいろいろなタイプがある。最初からNATOの一員である場合もあれば、中立もある。旧ソ連圏の中でも、国民のほとんどの合意で西側についても国が割れなかったバルト3国のような国もあれば、ジョージアやウクライナのように割れた国もある。ただ西側か、東側かのどちらかではない。緩衝国の生存の仕方はいろんな選択肢があるし、それは日本の将来を考えるうえでも問われていることだ。

 

緩衝国家が歩むべき道  二者択一なのか

 

 伊勢崎 先日おこなわれた韓国大統領選では、どちらかといえば北に対する強硬派が大統領になった。緩衝国家のもう一つの問題がここにある。韓国も、歴史的に北朝鮮と中国を見据えた米国の「トリップワイヤー(仕掛け線)国家」といえる。その後ろにいる日本は、後方トリップワイヤー国家といえる。この場合、対ロシアというよりも主には中国だ。だが韓国と日本には決定的な違いがある。韓国には「意思」があるが、日本にはそれがない。

 

 地位協定の問題ひとつとっても、NATOはかつての仇敵である旧ソ連圏の諸国に、米国を含む加盟国と対等な「互恵性」を原則とするNATO地位協定を結んでいる。例え駐留するとしても、お互いの主権を最優先する「自由なき駐留」だ。だが、日本においてはそんな議論が俎上にのぼることもなく、ただ米国に従うだけの意思のない「地雷原」国家というほかない状態だ。

 

 僕はここで緩衝国家という概念を広めたい。日本もその一つであるということを日本人が理解することだ。地政学上の位置づけは、天から与えられたものであり、変えることはできない。中国に「あっちに行け」とはいえない。米国は1万㌔離れた海の彼方だが、中国は目の前にあるわけだ。

 

 僕は、防衛省の統合幕僚学校の教員を15年やっているが、そこで必ず言うことがある。「米国は軍事上の必然性(駐留の必然性)があっても、世論がそれを支援しないと政治が判断したら無責任に退く。それが米国だ。それがアフガンで証明された」と。だから日本もみずからの足でちゃんと立って考えようということだ。

 

 米国がいなくなったらその穴を埋めるのはどうするのか? 残るは自衛隊しかないが、それを5倍くらい増強しなければいけないのか? そうではない。それが緩衝国家を意識するということだ。緩衝国家は隣にいる軍事大国と同じ軍事力を持つ必要はまったくない。よほどの理由がない限り侵略はできない。日本で集団的自衛権を悪用した侵略が起きるとしたら、一つしか考えられない。それは沖縄の独立論みたいな話になる。だから、沖縄の人を大切に扱いましょうということになる。米国はすぐに逃げる。アフガンが一番いい例だ。

 

 ――このロシア侵攻が勃発する直前まで、米国はウクライナを含めた大規模な軍事演習を黒海上でやっていた。ロシアを刺激したことは疑いない。日本周辺でも同じ事が起きる可能性は危惧されないか?

 

 伊勢崎 敵の鼻先で行う軍事演習というのは、国連憲章第二条によって禁止されている「武力による威嚇行為」スレスレの行為だ。30年かけてやってきた東方拡大も軍事演習も含めて、これはロシアに対する威嚇行為だ。それは30年間かけてやっているから、国連憲章二条に引っかかっているという風に意義が唱えられていないだけの話だ。

 

 同じように北朝鮮に対しても、その周辺でずっと軍事演習をやっているのは米国と韓国側だ。この威嚇行為に対して北朝鮮がミサイルを日本海に撃つと、それが威嚇行為といわれて制裁の対象になる。こういう時に、私たちは、すべての国家間の行動はReactionary(反動的)であるということを忘れる。

 

 ――米国が地球の裏側まで出て行って軍事演習をすることが、その地域の安全保障に寄与するのではなく火種になっている。しかも問題解決能力を失っている。そのなかで世界は多極化し、アジア、欧州など地域問題は、その地域を構成する国々で解決するしかない趨勢にある。その意味で日本は全土に米軍基地が配置され、南西諸島では米軍と一体となって自衛隊のミサイル配備が進んでいるが、これは非常に危険なことではないか?

 

 伊勢崎 例えば、われわれと同じようにNATO加盟国でありながら緩衝国家であるノルウェーなどがどうやっているのかは参考になる。そのノルウェーも今の空気を読んで反ロシア世論が増し、ロシアに接する北側と南側とで温度差が広がっている。だが、ノルウェーは、戦後ずっと国是としてロシアと接する北部を非軍事地域と指定している。強い国軍を持っているが、そのノルウェー国軍でも北部では軍事演習をしない。ロシアを刺激しない。そしてNATOの一員でもある。こういうやり方もあるのに、なぜ見習わないのかということだ。沖縄は、緩衝国家日本の国防のために、非軍事化しなければいけない。

 

那覇軍港での米海兵隊による市街戦訓練(2022年2月、沖縄県那覇市)

 南西諸島でのミサイル配備も、時間を掛けた中国への挑発だ。非常に危険な行為だ。なんとか大国と接している緩衝国家がどういう工夫をして生存してきたのか。その苦しみも含めて共有しなければいけないと思う。

 

 僕の家系はサイパン入植者で、「伊勢崎」の一族郎党は、戦前に小笠原からサイパンへ行き、第二次大戦末期、現在観光名所になっている「バンザイ・クリフ」から身を投げて全滅した。一昨年に98歳で他界した僕の母を含め数人を残して。「米国は悪魔だ。捕まれば拷問され、レイプされ、殺される。そうなるくらいなら天皇陛下のために自決せよ」という言説に囚われ、みずから「死の忖度」を選んだのだ。彼らの目の前に現れた悪魔は、本当の悪魔かもしれない。だが、「悪魔化」の犠牲は常に一般市民なのだ。玉砕はまさに「国家のために死ね」といわれた犠牲者だ。なぜその日本人が現在、「国家のために死ね」というゼレンスキーを応援するのか。どう考えてもおかしい。

 

中立選択した北欧諸国に学ぶ  前提は主権の確立

 

 伊勢崎 緩衝国としての日本を再確認するうえで、今回のウクライナのケースを見るべきだと思う。少しでもそこから学んだ教訓を、日本の安全保障に生かさなければいけない。地政学上の位置づけは変えられないのだ。日本は緩衝国家であり続けなければならないが、米国はいつでも身勝手に出て行くのだから。

 

 そこで強調したいのが北欧のアイスランドという国だ。人口は杉並区の半分くらいの島国だが、戦後ずっと米国のための「不沈空母」といわれてきた。ロシアの弾道ミサイルはアイスランドの上空を越えて米国に到達するので、それを調査・観測するためにもアイスランドは米国にとって重要な基地だった。だが2006年に、この小さな国は55年続いてきた米軍を全撤退させた。

 

 その後、どうやって国防をするのか。若い首相は考えた。アイスランドはNATO加盟国だが、ロシアとうまくやって、ロシアを刺激しなければ、国軍さえもいらないという判断をした。だから米軍を追い出した後、国軍さえも持たないという選択をしたのだ。ここまで大きな組織となった自衛隊を持つ日本がそこまで行くとは思わないが、自分の足で立って考えるということは、軍事力ゼロという選択だってあるということだ。

 

 だから米軍がいなくなった後に、米軍にかわる軍事力として自衛隊を増強させなければいけないという方程式はありえない。つまり敵をどのように捉え、その敵とどう付き合うかという国家の“意気込み”次第で、新しい安全保障体制を築くこともできる。

 

 これは、中国、ロシアのいいなりになることではない。緩衝国家のノルウェーやフィンランドは人権国家だ。緩衝国家としてロシアを刺激はしないが、人権については一切妥協もしない。中国の新疆ウイグル自治区の問題などもちゃんと糾弾すべきだし、不買運動をどの国よりも率先してやるべきだ。僕は、ウイグル、香港、ミャンマー問題等、人権外交を考える超党派の議員連盟の設立にかかわったが、緩衝国家という立場は、大国にすがって主権を捨てることではなく、むしろ主権を確立し、大国との対等なつきあいを土台に築くべきなのだ。 

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この記事へのコメント

  1. 新井美知子 says:

    平和をどう構築するのか、冷静に考えるる大切さを学びました。早期停戦と、世界に誇れる日本の平和憲法が、今こそ何より大切です。あくまでも話し合いでの解決を。愚かな武力競争は今すぐ停止を!

  2. 柳沢一長 says:

    多くのことを学びました。ジャーナリズムなど情報の偏りは恐ろしいです。この戦争が始まったとき何を基準に自分は判断すればよいのかを考えました。市民の命をどう守るか、目の前の現実の中でどういう選択をするか、正邪の判断でなく先ず命。一方の立場で他方をなじっても命は失ってしまっては戻りません。まず停戦、話し合いで妥協点を探す。戦争を緊張を高める政策や行動は排さなければ。正義と公正は人により違います。判断の基準になりません。このインタビューを多くの方が読んでほしいと思います。伊勢崎さん、長周新聞のみなさんありがとうございました。

  3. 京都のジロ- says:

    伊勢崎賢治氏のお話は現場体験が豊富なだけに具体的で分かりやすいです
    一人でも多くの方に読んでいただきたく拡散します。

    下記の伊勢崎氏の対談もお薦めです
    伊勢崎賢治氏の対談,お薦めです。

    「日本が侵略されたら、自衛隊を含めあらゆる手段で日本の主権を
    守ると日本共産党も言っていますので、侵略される側も、
    一発でも反撃した瞬間に、侵略者と同じ「紛争の当事者」になることを
    認識していただきたく、この対談を再掲載します」

    全文:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/79783?fbclid=IwAR3mNkFe0juLk8d4G9S5jTlyVijlZKjzzJZaN6X4lxvSFgmTabtveQ7e8AM

  4. 京都のジロ- says:

    こちらは伊勢崎賢治氏のFB掲載の「経済制裁」に関するコメントです。御参考に…

    地球温暖化の影響を一番受けているのが北極圏です。あと一〇年もすると、北極の氷という自然の壁がなくなり、今までのように原子力潜水艦だけでなく、他の兵器も投入できる状況になる。これは地政学上の大きな変化です。さらに中国経済にとって「北航路」は、マラッカ海峡を通る南航路に代わり、米国から全く干渉を受けないロシア沿岸を通り、行程を3分の2に短縮させるのですから。ロシアの永久凍土の下に眠っていた資源の共同開発も進む。これが、中国の一帯一路構想と同時に進行してきたのです。
    中国は、北極圏の「一帯一路化」に向かって、グリーンランド、アイスランド、ノルウェーへの投資を強化してきました。だから、ロシアと中国を中心として閉じた巨大な経済圏の出現は不可逆的な歴史の流れであり、ウクライナ危機を契機に、その結束はさらに強化されてゆく。

     経済制裁の問題についてお話しします。経済制裁史上最大のものになったのが、現在のこの経済制裁です。プーチン政権をそれなりに弱体化はさせたでしょう。しかし、忘れるべきでないのは、ロシアは2014年のクリミヤ併合からずっと経済制裁下で、民衆は不可避的に耐久性を身につけているという指摘があることです。プーチン政権だけではなくロシア社会が弱体化してしまうと、ロシアの内からの変革の可能性にどういう影響をもたらすのか。ひょっとして、私たちが期待するものと逆方向に向かうのではないか。

     結局、ロシア社会への兵糧攻めなのですが、北朝鮮も、イランもそうされてきました。でも、制裁の最終目的である核は放棄させられていない。ロシアは、これらの国と全然“懐”が違います。巨大な資源国ですから。
    国際社会が行う制裁とは、悪い政権の弱体化を目指すことが目的であり、ただでさえ貧困に喘ぐ民衆をさらに痛めつけないように、どう人道的配慮をするかがいつも問題になります。だから、政権内の加害当事者をピンポイントでターゲットにして、資産凍結や入国拒否などを課す制裁は、「標的制裁」として、一般民衆を困窮させる経済制裁と区別して実施する必要があります。

    なにより、経済制裁によるロシア民衆の窮乏の怒りは、はたしてプーチンに向かい、レジーム・チェンジが達成されるのか。それとも、経済制裁を強いる西側の我々に向かい、逆にプーチンの求心力を高めてしまうのか。これを見極める時期に来ていると思います。
    僕は、前者になる可能性は極めて低い、というか、0であると思います。
     確証のないシナリオを前提に、経済制裁がプーチンに戦争を放棄させる圧になると信じるのは、希望的観測が過ぎます。それが「プーチンを選んだお前たちロシア国民が受けるべき代償だ!」と言えるかもしれませんが、それは非人道です。

    そもそも、【連座Collective Punishment】は、国際人道法の主軸であるジュネーヴ諸条約(#)、そしてハーグ条約(##)でも厳禁されております。宗教や民族、そして国籍などの属性への敵意から個々の人間を守ることが、そういう国際法を貫く保護法益なのです。
    現在、経済制裁への余波として、ロシア国外にいるロシア人コミュニティへの弾圧が始まっていますが、これは国際法が管轄すべき違法行為として認識されるべきです。
    (# ジュネーヴ諸条約第四条約第三十三条)
    (## ハーグ陸戦条約第五十条)

    一方で、経済制裁に対抗する措置として、ロシアは「非友好国」を宣言していますが、それは今のところ日本も含めた四七か国になっています。これは別の視点で見ると、世界の大半はロシアの友好国、つまり経済制裁に加わってないということを意味しています。特に中東とアフリカ諸国です。
    これらの国にとって、ロシアとウクライナは、穀物そして化学肥料の最大の輸入先でした。今回の戦争で、それらの値上がりの皺寄せは、そういう貧困国を直撃します。異常気象、コロナ禍に拍車がかかる打撃です。これは、即、地球規模の飢餓を意味します。もはや、この戦争の被害者はウクライナ市民だけではないのです。

    そのような国々は、当然、「民主主義vs専制主義」のような陳腐なプロパガンダに惑わされることなく、生存のための手段を選択します。中国、そしてインドを経由する巨大な経済圏の一員となってゆくでしょう。

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