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「友人や敵はなく、利益だけがある」 キッシンジャーが語った行動哲学 ウクライナ情勢から見える米国の本性

 アメリカとNATOがウクライナ大統領を前面に立ててロシアにさんざん軍事挑発させた末、いざ戦闘が始まるや安全地帯に引き下がってしまった。ウクライナの平和をとり戻すうえで、「こうしたやり方がアメリカ外交の基本であることを、同盟国は認識すべきだ」との発言が国際的に広がっている。イランの新聞『テヘランタイムズ』は「またもや同盟国を見捨てる米国」の見出しで、アフガニスタンからの米軍撤退とタリバンとの交渉のさいに20年間も支援をし続けたアフガニスタン政府を排除してしまったことなど、近年のいくつかの事例をあげて論じている。そこで、1960年代末から70年代にかけてニクソン、フォード政府の大統領補佐官・国務長官として外交政策をとりしきったヘンリー・キッシンジャーの発言を引用していることが論議を呼んでいる。

 

またも同盟国見捨てる米国

 

ニクソンとキッシンジャー(右)

 キッシンジャーの発言とは「アメリカの敵になることは危険かもしれないが、友人になることは致命的である」というものだ。これは、ベトナム戦争の敗北過程で、南ベトナムの傀儡政府を見捨てて撤退することを正当化するための言葉であった。


 そこには「アメリカには恒久的な友人や敵はなく、利益だけがある」という彼(アメリカ)の行動哲学が表現されていた。


 キッシンジャーがニクソン訪中、中国との国交正常化に向けた秘密交渉を担ったのも、敵や友はいつでも替わりうるという理念に貫かれたものであった。それが、アメリカに従って「中国封じ込め政策」に腐心していた日本政府の頭越しにやられ大きな衝撃を与えたことを、国民は肌身で覚えている。それが尖閣諸島をめぐって中国と対話の道ではなく軍事的緊張を煽ることで自衛隊を米軍の下請軍隊に組み込む現在の懸念につながっている。


 キッシンジャーのこの言葉は、今世紀に入ってアメリカが「対テロ戦争」に乗り出す一方で「世界の警察官」としての力を衰退させるなかで、アナリストやジャーナリストらによってしばしば引用されてきた。


 中東政策をめぐっては、アメリカがシリア政府転覆のためにCIAの手で自由シリア軍を訓練し、資金を提供し支援したが、うまくいかずにその秘密プログラムを停止したときがそうだった。このとき、「同じ運命が、シリアに不法に駐留する米軍と一緒に戦っていたシリアのクルド人にも待っている」との発言があいついだ。

 

中東・シリア転覆の時も

 

 イランとイラクの間で8年におよぶ戦争があったとき、アメリカはフセインを支持し蜜月の関係を結んでいた。だが、敵対するイランとの戦争が終結し、フセインが必要でなくなったと見たアメリカは、フセインのクウェートへの侵攻に当初の「干渉しない」という約束をホゴにして、多国籍軍を率いて湾岸戦争を引き起こした。今、サウジアラビアがイエメンでの7年間の戦争を経て同じような目にあうかもしれないという見方が強まっている。同国がイランの支援を受けたイエメンの反政府武装組織の攻撃に直面し支援を求めているが、アメリカが徐々に手を引いているからだ。


 ジャーナリストのジョン・ラフランドは、アメリカのCIAやジョージ・ソロスらのNGO団体が支援する初期のカラー革命が旧ソ連諸国で広がったときに、次のように書いている。


 「アメリカの敵になるのは、彼らの友になるよりも良いことだ。もし、あなたが彼らの敵なら、彼らはあなたを買収しようとするかもしれない。しかし、あなたが彼らの友人なら、彼らは間違いなくあなたを売るだろう」と。


 この指摘は、その後エジプトで親米路線をとっていたムバラク大統領が見捨てられ、リビアでは指導者カダフィが西側との関係改善に舵をとったばかりに打倒の対象となったことからも、きわめて教訓的に受けとめられている。


 また、トランプ政府が「アメリカファースト」を叫んで同盟国に米軍駐留の負担加重を叫び、米軍撤退をほのめかしたときも、アメリカの国益を守るための「同盟」であることを正直に示したことが話題になった。


 コロナ禍で一国の安全保障の根幹にかかわる食料やエネルギー自給の重要性が浮かび上がるなかで、キッシンジャー流の「敵・味方」論が露骨な形であらわれるようになっている。


 米中の緊張が激化し、オーストラリアがアメリカのお先棒を担いで中国を挑発すると、中国がオーストラリアからの小麦の輸入を禁止する対抗措置をとった。しかし、アメリカは同盟国を守るのではなく、中国の小麦の爆買いにあずかりほくほく顔をしているのが現実だ。


 ウクライナ危機は、小麦などの穀物価格とともに原油など原料価格をさらに高騰させ、食料や生産資材の調達への不安が高まっている。鈴木宣弘・東京大学大学院教授は、日本はすでに中国の購買力に圧倒的な差をつけられ、「買い負け」の状況にあると指摘している。


 今後、予想される日本の食料危機を打開するカギは、「アメリカの友人になることは致命的だ」という国際的な教訓を踏まえた、独立と平和に向けた国づくりにあるだろう。

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