国連は11日、一段と深刻になるアフガニスタンの食料危機に対応するため、今年50億㌦(約5770億円)の緊急人道支援をおこなうことを決め、各国に拠出を呼びかけた。1カ国に対する支援額としては国連創設以来最大だという。原因は、過去30年間で最悪の干ばつがアフガニスタンを襲っていることに加えて、タリバンが政権を掌握した後にアメリカがおこなっている経済制裁だ。「アフガニスタンの人権を守る」といいつつ、もっとも弱い子どもや女性、年寄りたちを餓死に追いやるアメリカに対し、「米国はただちに経済制裁をやめよ」の声が高まっている。
国連人道問題調整事務所と国連難民高等弁務官事務所によると、アフガニスタンでは現在、人口の55%に当たる2440万人が人道支援を必要としている。なかでも390万人の子どもを含む470万人が急性の栄養失調となり、今の状態が続くと13万人の子どもたちの命が奪われると警告している。
2001年のアメリカの軍事侵攻で政権を追われたタリバンは、昨年8月16日、再び政権を掌握した。タリバンは全土を制圧すると恩赦を発表し、国民に向けて仕事に戻るよう呼びかけた。一週間後にはバザールも再開され、女性の姿も見られるようになった。
現地を頻繁に訪れている日本人研究者たちは、政変後治安は劇的に改善されたとのべている。2010年以降、内戦によって毎年数万人の命が奪われてきたが、ISによるテロ以外は平穏な日常が帰ってきたという。
だが、かつて農民80%、遊牧民10%で100%に近い食料自給率を誇っていたアフガニスタンは、40年あまり続く戦争で国内経済が疲弊してきた。そこを過去30年間で最悪という干ばつが襲った。
問題はそうした瀕死の状態にあるアフガニスタンに対し、アメリカが経済制裁を続けていることだ。バイデン政府はタリバンをアフガニスタンの正式な政府として承認せず、米国にあるアフガニスタン中央銀行の資産90億㌦を凍結した。また、世界銀行の復興資金やIMFの供与金などもすべて凍結されている。
人々は銀行から現金が下ろせなくなった。企業も事業費がなくなって給与を支払えなくなり、失業者が増えた。病院は薬が手に入らず、食料品価格は高騰して人々は食べ物が手に入りにくくなっている。
多くの餓死者が出る危機に対して国連が人道支援を呼びかけているのに、アメリカは経済制裁をやめようとしない。上智大学教授の東大作氏は「99・9%のアフガン人は祖国に残って生活を続けている。アフガン支援のための国連職員も1300人が従来通り活動を続けている。タリバンも人道支援は歓迎している」といい、現状の打開を訴えている。
「平和と相互扶助の精神」故・中村哲氏の言葉
故・中村哲医師が創設したペシャワール会の現会長でPMS(平和医師団・日本)総院長の村上優氏も、同会のホームページでアフガニスタンの現状を訴えている。
村上氏は、日本の多くのメディアが女性の人権や恐怖政治への懸念ばかり突出させて報道しているが、現実のアフガニスタンでは治安が回復し、人々が普通に移動しており、タリバン政権を多くの国民が受け入れているとのべている。
PMSの活動も、8月21日には診療所、9月2日には農場、10月7日には灌漑用水路事業が活動を再開した。事業再開に現地の長老から感謝のメッセージが寄せられたこと、タリバンも視察にやってきて中村医師とPMSの事業を称え、「あなたがたのような仕事をしていたらこの国はもっとよくなっていた」といい、安全を保障するといってきたことも伝えている。一方、危機にあるアフガニスタンに経済封鎖をするアメリカに対し、「なんという矛盾でしょうか。農業を復興し食料自給率を上げるなど、国としての最低限度の自立を支援するという発想はありません」と厳しく批判している。
最後に村上氏は、2001年に経済封鎖で困窮したタリバンがバーミヤンの仏跡を破壊し、国際的非難が巻き起こったときの中村哲医師の次の言葉を紹介している。「われわれは非難の合唱に加わらない。暴に対して暴をもって報いるのは、われわれのやり方ではない。餓死者100万といわれるこの状態のなかで、今石仏の議論をする暇はないと思う」「真の人類共通の文化遺産は、平和と相互扶助の精神である。それはわれわれの心の中に築かれるべきものである」。
日本が平和国家として役割を果たすことが求められている。