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インドで農民が大規模抗議 「農家を企業の奴隷にするな!」 市場自由化進める農業新法の撤回求め

 インドでは11月中旬から、モディ政権が農産物取引などの自由化を進める「農産物流通促進法」など3つの農業新法を施行したことに反対し、同法の撤回を求めて農民による抗議行動が全土で巻き起こっている。インド北部の首都デリーから波及した抗議行動は、各地の幹線道路や線路を封鎖して継続されており、8日には全国の農家にゼネストが呼びかけられ、激しさが増している。

 

人口の6割占める農業者が反発

 

首都デリーでの農民の抗議行動(9日)

 インド国内での農民による抗議行動は、首都デリーでは数千台のトラクターに乗った農民たちのデモがおこなわれ、主要道路や線路上に農民たちがバリケードを張り、野営を続けている。抗議行動は全土に広がっており、拡大する農民のデモと警官隊との衝突も起きている。農民たちは「農家を企業の奴隷にするな!」と訴え、農業新法の撤回を要求している。


 9月末に施行された農業新法は、これまで政府管轄の市場に限られていた農産物の販売制度を撤廃し、企業との直接契約やオンライン販売を促進するもので、「農産物取引の規制を緩和し、農民がどこにでも作物を自由に販売できるようにすることで所得増を目指す」との触れ込みで制定された。農家が反発するのは、それが国の食料自給や農家の所得補償にとって欠かせない農作物の最低買入れ価格(MSP)の撤廃や農産品価格の下落に繋がるためだ。


 抗議行動の拡大を恐れた政府は8日、初めて農家との協議に応じ、MSP制度の継続を書面で保証する修正案を申し出た。しかし農家側は、500組合以上からなる農業組合連合会の指導者会議で提案を拒否する決定を下し、「法律の白紙化」の姿勢を貫く構えを見せている。12日には有料道路を占拠し、北部デリーと近隣の州をつなぐ多くの道路を封鎖すると宣言しているほか、14日に大規模なデモを実施するよう呼びかけている。

 

20年来の新自由主義で自殺者が激増

 

北部カンプールでの農民の抗議(9日)

 インドの農業者の割合は全人口(約13億人)の6割を占める。農地面積(耕地)は世界最大の1億5646万㌶を有し、その世界シェアは10・9%に及び、2位の米国(10・3%)、3位の中国(8・6%)を凌ぐ規模を誇る。


 インドは1947年の独立から60年代までは毎年数百万㌧もの穀物を輸入に頼っていたが、60年代半ばの大干ばつによる食糧危機を契機に「緑の革命」がはじまり、国を挙げて穀倉地域の灌漑を整備し、高収量品種や化学肥料を導入したことで70年代末には穀物の国内自給を成し遂げるまでに発展した。90年代半ばからは、世界有数の穀物輸出大国に転換した。しかし、かつては国内総生産の3分の1を担った農業の経済的影響力は、この30年間で縮小しており、現在では2兆9000億㌦規模のGDPに占める割合は15%にとどまっている。


 インドの食料供給政策は、公的分配システム(PDS)を根幹にしており、コメや小麦など必要不可欠な作物は、政府(インド食料公社)が生産者から買い上げ、市場価格よりも低い価格で貧困層に提供する制度がとられてきた。貧困対策や農家の所得問題を解決し、政府が緩衝在庫を保有して食料不足など不測の事態に備えるためだ。公的分配システムに作物を売却するか否かは農家側が選択できるが、インドのコメと小麦の全流通量の約2割がこのシステムを通して流通してきた。


 その他の農作物も、主に州政府管轄の卸売り市場(マンディ)を介して供給されるシステムであったが、2003年からは各州が定めた農産品流通委員会法(APMC)のもとで、マンディを介さない企業と農家との契約農業を認めた。だが、9割近くの農家は経営規模が平均1・08㌶と小さく、企業と対等に交渉することができず、企業との直接契約は低迷。さらなる市場効率化を求める欧米資本や流通・小売り大手は、これらの小規模農家を集約することを政府に要求し続けてきた。


 これに応じてインド政府は新自由主義を導入し、農業補助金の撤廃や融資を縮小させるなど、農業の市場開放を促進。農業予算は種や肥料の企業、農業に参入する民間会社などに重点的に割り当てられ、資金不足に陥った小規模農家は債務が増え、2018~2019年における農家の自殺者数は2万638人にのぼった。


 とくに主力農産物である綿花(生産量世界最大)では遺伝子組み換え(GM)を認め、米モンサント(現バイエル)が国内最大の種子企業を買収し、2001年にGM品種である「BT綿花」をインド政府に認めさせることでインドの綿花市場を独占した。綿花の収穫を脅かす害虫を駆除する毒素を作り出す(農薬が不要)という謳い文句で販売が促進されたBT綿花だが、その種子は通常価格の綿花の2~10倍と高額であるうえに、大量の水を必要とする。約65%の綿花農家は灌漑設備がなく雨水に頼っているため、干ばつによる不作によって多額の借金を抱え、自ら借金で購入した農薬を使って自殺する事例があいついだ。1995~2014年の10年間で、27万人以上の綿花農家が自殺をしたとされている。

 

 モディ首相は、貧困化が進む農家の救済や所得向上を公約にして政権の座に押し上げられてきた経緯があるが、裏切りともいえる農業新法によって他の食料農産物も同じ危機にさらされている。「効率化」「農業所得の向上」という建前で多国籍企業による国内農家の搾取を強める「農業改革」に対する農家の反発は、20年来の新自由主義的政策に対する歴史的な怒りをともなって全土を席巻する趨勢にある。

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