新型コロナウイルスの本格的な「第三波」が到来するなかで、防疫対策や経済措置を「自助」に丸投げする新自由主義的な政策と、公による検査の徹底や経済支援の拡大を図る国との違いが鮮明にあらわれている。パンデミックの発生から1年が経過するなかで、検査から生活支援まで頑なに「公助」の拡充を拒みつづける日本では、新規感染者数が過去最多を更新し続け、経済活動にも深刻な打撃を与えている。収束のためには感染拡大の封じ込めに成功している各国事例に学ぶ以外になく、一刻も早い方向転換が求められている。
厚生労働省によると、日本国内における新型コロナ感染にかかるPCR検査の1日あたりの最大能力は、8万5680件(11月27日時点)。だが、実際の1日あたりの検査実施数は4万3351件(同)にとどまる。依然として、無症状者や軽症者のPCR検査は保険適用外であることに加え、検査で陽性になっても軽症者以下は隔離病棟すら確保されていない。
英オックスフォード大学が運営するコロナ情報統計サイト「アワー・ワールド・イン・データ」によると、人口1000人あたりのPCR検査数(11月28日時点累計数)は、アメリカ548・35件、イギリス539・69件、ロシア512・66件、オーストラリア387件、スペイン368・94件、イタリア350・45件、カナダ295・95件、トルコ212・26件、サウジアラビア272件、チリ270・28件、ニュージーランド262・73件、ギリシャ223・82件、インド98件……そして日本が24・8件だ。日本の検査実施数は、アメリカの22分の1以下、モロッコ(103・86件)の4分の1以下、イラク(82・53件)の3分の1以下であり、いかに検査を抑制しているかがわかる。
大規模検査を徹底して封じ込めた中国 1日数百万規模
新型コロナウイルスの最初の発症地とされる中国は、現在では徹底的な検査によって国内のコロナ感染拡大を抑制している。14億人という世界最大の人口を抱えながら11月28日現在から過去14日間の新規感染者数は174人に抑えており、アメリカの234万人、イギリスの27万人、インドの57万人と比べても極端に少ない。人海戦術やIT技術を駆使して接触者を割り出しつつ、一日数百万件規模のPCR検査を徹底し、周辺地区を固く封鎖してウイルスの根絶を図っている。
感染が最初に確認された武漢市では2月、工期わずか10日間で1000床のコロナ専門病棟を備えた「火神山病院」を建設して感染者を隔離し、1月末からは武漢市など4都市に対して強制的なロックダウン(都市封鎖)を実施。それ以後、クラスターや有症状者はなくなったものの断続的に無症状の陽性者が出ていたため、5月には全住民約1100万人以上を対象にPCR検査をおこなった。人口1400万人である東京都の累計検査数が81万3789人(11月26日現在)であるのと比べても差は歴然としている。
路上や空き地など街中に設置された検査場は、無償で所要時間も数十秒で検査が受けられるため長蛇の列ができた。1日あたり最大147万件の検査がおこなわれ、一時は5万人の感染者がいた武漢市では新規感染者が確認されなくなった。全員検査によって感染不安を払拭したことで経済活動も通常通りに再開している。
それ以降、中国ではクラスター(感染者集団)が発生した都市の住民を対象に、大規模なPCR検査を実施することが一般化しており、「第二波」の到来が危惧された7月には、北京で1000万件、大連で350万件、ウルムチでは230万件という大規模なPCR検査を実施。大連では全額無償でおこなわれ、北京では中心部から郊外の小さな診療所に至るまで一回120元(約1600円)で検査を受けることができる。二波は抑止され、7月4日に政府は感染拡大の収束宣言を出した。
また10月半ばに12人のクラスターが発生した山東省青島市でも、わずか4日間で全市民約1000万人のPCR検査を実施した。また同月28日までに計183人の陽性が確認された新疆ウイグル自治区カシュガルでも住民450万人に検査をおこなっている。
都市封鎖や隔離などの強硬策には批判もあるものの、結果的に中国は爆発的な感染流行を短期に収束させ、世界で初めて一日当たりの感染者・死者をゼロにし、ロックダウンの有効性を世界に実証して見せた。
医療資源を有効活用し、感染拡大と死亡率を減らすために軽症の感染者専用の施設「方舟病院」を作ったことも注目された。中国の初期調査でクラスターの8割以上は家庭内感染といわれていたが、重症ではない感染者を医療機関に入院させれば満床になり、重症患者が入院できなくなる。だが自宅隔離に委ねれば謹慎が守れずに外出したり、自宅で容態が急変して重症化することに対応できない。そのため国際会議場などの大規模施設を転用して専門病院を作り、軽症者を効率よく隔離・療養し、重症化した場合は迅速に治療や転院を促した。これが先進例となり、他国でも同様の隔離施設が設置されている。
住民の日常生活には、感染者でないことを示す健康証明書(QRコード)が必須となり、交通機関や施設などを利用するさいは提示を義務づけている。中国への渡航者は搭乗前5日以内に中国の在外公館が指定もしくは認定した機関でPCR検査を実施し、感染対策用健康コードをプログラムにアップし、現地で証明書を提出しなければならない。国際通貨基金(IMF)が10月上旬に発表した5年先までの国内総生産(GDP)予測では、コロナ対策に失敗した米国の今年のGDPはマイナス4・27%であるのに対し、感染制御で成果を挙げた中国のGDP(ドル換算)は1・85%のプラス成長となっている。
専門医師が防疫対策のトップに 台湾・韓国
中国から150㌔しか離れておらず、年間200万人が渡航してくる台湾(人口240万人)もコロナ封じ込めの「成功例」として挙げられている。4月末からは新規感染者ゼロが3カ月以上続き、現在も過去14日間での新規感染者は42人にとどまっている。
台湾の副総統は米公衆衛生大学院で博士号を取得した医師で、日本の内閣にあたる行政院の副院長や台湾の「疾病管理予防センター(CDC)」のトップも医師であるため、科学的見地からの判断で政治的な思惑や圧力に左右されない政策が可能となったといわれる。2月には大陸からの入境を禁止し、人の移動を制限。不足が予測されたマスクについては、生産と供給の両面で官民一体の量産・供給体制を作り、通常半年以上かかる60基のマスク生産ラインの製造を1カ月で築いた。行政当局が約10億円の費用を投じて生産ラインを拡大し、当初一日あたり190万枚だったマスクの国内生産能力は、8月までに2000万枚(世界第2位)にまで達した。医療用の高性能マスクも含めて国内需要は確保しつつ、日本にも200万枚提供している。
そのうえで新型コロナの感染者には無症状者が多く、発症2日前に他人に感染するという特性を鑑みて、無症状者の隔離と自宅待機を徹底した。
2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の経験に学び、昨年の年末段階で政府内に「中央感染症指揮センター」を設置し、各省庁を指揮監督できる権限を持たせ、軍や事業者、民間団体との連携・協力できる一元的な仕組みを作った。また地方に管制センターをもうけて、ITソフト開発によって情報管理と物流管理を整備している。
韓国は都市封鎖や外出禁止といった強硬な措置をとらずに、感染流行を抑え込んだことが注目され、その対策は「韓国モデル」として世界的に普及した。背景にあったのは、MERS(中東呼吸器症候群)の教訓があったからだといわれる。
MERSの教訓とは、感染者隔離や接触者調査・追跡が不十分で、検査キットの承認が滞っている間に、隔離されずにいた感染者がウイルスを拡散していたことであり、そのため韓国では2016年の段階で「感染病検査緊急導入制度」を施行し、政府の疾病管理本部が認めた民間セクターで新たな感染症の検査ができる体制を作っていた。これによって、新型コロナ流行時には100をこえる施設で検査協力体制が整っていた。
新型コロナの遺伝子情報が公開されたのと同時に、国内のバイオ企業がAI技術を使ってわずか10日間で検査キットを開発し、通常は許可審査に1年半かかる政府承認を2週間でとりつけた。さらに「ドライブスルー」や「ウォークスルー」方式など独自の検査体制を考案・実施し、検査を1日あたり数万人規模にまで拡充。感染者との接触や発熱等の症状がある場合や、感染が疑われるケースは無料とした。
さらに三度の食事付きで医師または看護師が常駐する「生活治療センター」を設置し、3月からは無症状者や軽症者の受け入れを開始。一人暮らしや高齢者がいない家庭の場合は自宅療養も可能とした。そのさい、自宅療養者に対しても、自治体から食料や生活必需品をそろえた「自宅隔離セット」などを無料で支給している。
経済支援策で日本と雲泥の差 欧州
検査や隔離、ロックダウンと同時におこなわれる経済対策や生活支援についても、各国と比べて日本は貧弱極まりない。
イタリアでは、国内総生産(GDP)比の四%に当たる4000億ユーロ(約46兆円)を企業および個人事業主の支援などに投入することを決め、解雇手続きを一時凍結し、売上が減少した企業に対し2カ月の納税支払い延期や、銀行ローンの国家保証を実施。正当な理由なく解雇をおこなった企業を処罰対象とした。フリーランスを含む個人事業主に月600ユーロ(約7万円)を最長3カ月給付しているほか、育児休暇の15日拡張やベビーシッタークーポンも発行している。
感染状況でイタリアの後を追っているといわれていたイギリスでは、ロックダウンとともに一時休業した労働者や個人事業主、フリーランスに対して、給与の8割を月額最大2500ポンド(約33万円)、最長3カ月補償する「雇用維持制度」を施行した。イギリスには失業保険や生活支援金などがセットになった低所得者向け給付制度「ユニバーサル・クレジット」があるため、現在までに数百万人が申請している。
カナダ(人口3800万人)は、新型ウイルスのパンデミックで収入が途絶えたり、減少したすべての人に対し、月々2000カナダドル(約15万2000円)を最長4カ月間支給している。売上が3割減少したすべての企業と非営利団体には、従業員給与の75%を3カ月補償している。また、一人あたり毎月300~400カナダドル(約2~3万円)の子育て給付金を2倍に増額した。
フランスでは、総賃金の84%を補助している。また、最低賃金で働く人については、賃金を最大100%補助し、オランダ政府も対象となる企業の賃金コストを最大90%までの補助を発表している。
世界で最も厳しいロックダウンを実施したといわれるニュージーランドでは、すべての入国を禁止する「鎖国」措置とともに、スーパーなどを除くほぼすべての企業の営業を中止し、公共の場で集まれる人数は2人に制限した。その結果、新規感染者は過去14日間で52人に抑え込んでいる。
観光が主産業であるため経済的打撃は大きく、政府はGDPの4%に相当する121億NZドル(約8000億円)規模の経済支援策を打ち出し、売上が前年比3割減になる企業に3カ月分の給与補助(フリーランスも対象)や、航空業界への支援、社会的弱者への給付金の増額、学生が学業を続けるための費用支援などが国籍やビザの種類に関係なく受けられるようにしている。
各国事情が異なるため単純に比較はできないものの、国から国民個人への直接給付が一回限りの10万円+マスク2枚の日本とは雲泥の差がある。
日本よりも医療資源も経済規模も小さい国々がコロナ感染を封じ込めつつ、公助による人々の生活維持で一定の成果を上げているなかで、日本は感染大国アメリカの後を追って「自助」「自己責任」に丸投げする新自由主義政策を頑なにとり続けている。「やれない」のではなく「やる気がない」のであり、統治者としての義務を放棄しているといわざるを得ない。
各国の成功例を全く参考にさえせず、感染拡大策でしかないGotoを強行し続け、無策の日本はどうかしている。どうしてこんな情けない国になってしまったのだろうか。