最近、欧州とくに南欧のスペイン、ポルトガル、イタリア、ギリシャなどで、欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)などが押しつけた緊縮財政政策に反対する斗争が新たな高まりを見せている。ギリシャに端を発し南欧各国に広がった債務・財政危機は、もともと2008年の住宅バブルの崩壊で危機に陥った欧州などの大銀行がつくり出したものだ。それをEUやIMF、欧州中央銀行は、こうした大銀行を救済する一方で、危機の犠牲を緊縮財政政策として労働者や広範な各階層人民に押しつけた。このなかで緊縮政策に反対するストやデモが引きも切らず、大きなうねりとなって発展。欧州各国政府は空前の政治危機に陥り、末期的症状を呈している。
EUやIMFとのたたかい広がる
スペインでは7月11日、ラホイ政府が大銀行救済のために、EUやIMFから1229億㌦(約9兆8300億円)の特別融資を受ける見返りとして、2014年末までに650億(約6兆4000億円)の財政赤字を削減する追加緊縮政策をうち出した。
公務員給与の削減、年末賞与の削減、職員の新規採用中止、生活関連予算の削減、公営企業の統廃合をはじめ、失業手当の支給開始6カ月後に給付額を基本給の60%から50%に引き下げること、付加価値税(消費税)の税率を18%から21%に引き上げることなどが含まれていた。
カタルーニャ自治州のバルセロナで約100万人の住民が9月11日、財政赤字の削減を迫る政府の圧政に立ち向かい、自治権の拡大を求めて壮大なデモ行進をおこなっった。
続いて9月15日には、首都マドリードで労働者、教師、青年学生など約10万人が、緊縮政策反対でデモ。10日後にも、マドリードで労働者、教師、青年学生など約10万人が緊縮政策の是非を問う国民投票の実施を求めてデモ行進した。
それでもラホイ政府は、9月27日に13年度予算案を出した。今後1年間に130億(約1兆3000億円)の歳出を削減するため教育や医療予算の削減、失業手当の引き下げ、公務員・公共部門労働者の賃金削減、物価上昇に連動した年金給付の削減、法人税の減免などを盛り込んだ。
翌28日、看護師や検事、警官も参加してデモ行進がおこなわれ、「なにもしない議員を国会から追い出せ」と抗議した。翌29日には5000人が国会前の広場につめかけ、IMFやEUのいいなりになるラホイ政府の退陣を要求した。
10月7日には、この追い打ち緊縮政策に抗議して全国主要な56都市で、高校生や大学生が教育予算の削減に反対し、「多額の税金を大銀行救済のためにつぎ込むのでなく、公教育や社会保障制度に振り向けよ」と大規模な抗議行動をおこなった。
スペインでは失業率は25・8%に達し、25歳以下の青年に限定すると53%に達している。労働力人口のうち失業者の割合が34%(約125万人)であり、とくに農村地域では40%である。
そんななか、スペイン南部のアンダルシア州では、失業労働者など400人が8月7日、スペイン系やフランス系のスーパーに押しかけ食用油や砂糖、コメ、スパゲッティ、牛乳、ビスケット、野菜などの食料品を数十台の手押し車で持ち出し、そして毎日の食事にも事欠く貧困層に配るということも起きた。
ちなみにアンダルシア労働組合の政府への要求項目には、貧しい人人に基本的な食事を提供することや、深刻な失業問題の解決、公有地の農業生産のための活用、35万人の無収入者への最低限の生活保障が含まれている。
ポルトガルやギリシャでも 抗議行動や大集会
スペインの隣国ポルトガルは、EUの統計でも一人当りの国内総生産(GDP)が約1万6000(約161万円)で、アイルランドの半分足らず、ギリシャよりも低い欧州の最貧国。加えて、失業率は15%をこえる。
そのポルトガルでも、コエリョ政府が13年度予算案を発表、大幅増税や公務員の削減、年金給付の引き下げなど追加の緊縮財政措置を盛り込んだ。10月15日、全国40都市で労働者、青年学生、年金生活者が「IMFやEUは出て行け」と叫び、過酷な緊縮政策の撤回を求めて集会・デモを展開した。同日、政府の退陣を要求して、公共交通機関、港湾、石油精製所、病院などではストライキが決行され、中小零細業者、農民もストに合流した。
ポルトガルは債務不履行(デフォルト)を回避するためとして、EUとIMF、欧州中央銀行から780億(約7兆8000億円)の特別融資の約80%を受けとっている。IMFとEUは、14年7月までに残りの融資をする条件として、GDPに対する財政赤字の比率を13年に4・5%にまで引き下げることを要求している。
公務員や民間労働者、中小零細業者、農民などが団結して、9月15日にも全国40の主要都市で約50万人の抗議行動をおこなった。コエリョ政府は大衆行動の圧力に屈して、追加緊縮策に盛り込んだ労働者の社会保障税の負担分を賃金の11%から18%に引き上げる案を撤回せざるをえなくなった。
労働者と青年学生は9月29日には首都リスボンの財務省前の広場で10万人集会を開き、「われわれはこれ以上1の緊縮措置も認めない」と訴えた。13年度予算案に盛り込まれた追加緊縮措置に反対する行動は、ますますその勢いを増している。
08年のリーマン・ショックで失敗した米欧の巨大銀行を救済するために、ギリシャは真っ先に債務危機に陥った。ギリシャの労働者はIMFやEUの緊縮財政政策に抗議して昨年だけでも六回のゼネストを決行、青年学生や零細業者、農民らと団結して、今年もゼネストをくり返した。
EUを支配するドイツのメルケル首相は10月9日、ギリシャ政府に緊縮策実行の圧力をかけるためギリシャに乗り込んだ。これに抗議して労働者、青年、失業者、年金生活者約八万人が首都でデモを敢行。「ギリシャは独立国だ。ドイツの植民地ではない」「500人のギリシャ人を自殺させたメルケルは即刻帰れ」と書いたプラカードを掲げた。
EUを主導するドイツが315億(約3兆1500億円)の「国際支援」とひきかえに、ギリシャ人民に過酷な緊縮財政政策を押しつけたことに怒りを爆発させた。デモに参加した自営業者は、「緊縮策は怒りの火に油をかけた。ギリシャのたたかいは欧州全域に燃え広がる。ユーロ圏は立ちゆかなくなる」と力を込めて語った。
政府退陣掲げ労働者がデモ イタリアやイギリス
EU統計で失業率が10・8%と、04年以来の最高を記録するなか、イタリアでは9月28日に首都ローマで、労働総同盟傘下のゴミ収集部門の労働者、医療労働者、大学教員など3万人が、公務員の10%削減を盛り込んだモンティ政府の緊縮財政政策に反対してストに入り、デモ行進をおこなった。向こう2年間で260億(約2兆6000億円)の歳出削減、国家公務員の10%削減、増税及び年金制度改悪などの緊縮策の撤回を要求した。
10月5日には、ローマやミラノ市など主要都市で青年学生が、緊縮財政政策による教育予算の大幅削減に反対し、「私たちの学校と街をとりもどそう」と訴えてデモ行進した。
同20日には、労働者がローマの中央広場に結集、緊縮策による民生関連予算の削減、失業者の増大、絶え間ない工場閉鎖に反対し、「モンティ政府は退陣せよ」と大書した横断幕を掲げ壮大なデモ行進をくり広げた。
イタリアでは多数の企業が大幅な人減らし「合理化」をあいついでうち出すなか、131の事業所の労働者が16万3000人にのぼる首切り計画に反対する行動を起こし、政府に労働争議の早期解決を求めている。南部のターラント市にある製鉄会社ILVAやサルデーニャ島にあるアメリカ系アルミニウム生産会社アルコアなどで、首切り反対の争議が起こっている。
北欧のイギリスでも、キャメロン連立政府が財政再建の名目で14年までに810億(約10兆9300億円)にのぼる緊縮財政政策をうち出して、公務員給与昇給の2年間凍結、公共部門労働者約50万人の削減、医療・福祉・教育など人民生活関連予算の削減、郵便事業や国営医療制度(NHI)の民営化、付加価値税(消費税)の現行17・5%から20%への引き上げをごり押ししようとしている。
これに対し、5月10日には公共部門の労働者40万人が緊縮策撤回を要求して24時間ストを決行。6月21日には、一般医や診療所員及び顧問医など10万人が37年ぶりの全国ストをおこなった。
さらに10月20日には主要な労働組合、反戦団体、市民団体などが首都ロンドンやグラスゴー市、ベルファスト市で統一ストや抗議行動をおこなった。ロンドンでは公共交通労働者、消防士、救急車乗務員、看護師、清掃労働者、図書館員など約15万人が、「富裕層の所得税を引き上げよ」「下層階級対富裕階級のたたかいだ」「キャメロン政府はイギリスを破滅させる。即退陣せよ」と書いた横断幕やプラカードを掲げ、官庁街をデモ行進した。
デモに参加した労働者は、「労働者階級が1日間のストライキをおこなえば、だれがイギリス社会を支えているのか一目瞭然だ」と語った。別の労働者は「私たちは一握りの富裕層の利益ではなく大多数の勤労人民の利益を守るため、民主的で繁栄した社会を実現するためにたたかっていく」と語った。
2007年米国サブプライムローン問題に端を発したリーマンショックは、その後ヨーロッパに波及し、ギリシャの債務危機からスペイン、ポルトガル、イタリアといった国国の債務危機、それらの国の国債を引き受けてきた金融機関の危機に発展し、国家破綻の危機をともなって進行しており、30年代世界大恐慌をほうふつとさせる深刻な経済恐慌となっている。
そのなかでアメリカ主導のIMFや独仏主導のEUが緊縮政策を押し付け、大銀行を救済する一方で、働く者から職を奪い、まともに生きていけなくしていることに対して、労働者や青年のゼネストの嵐が欧州全土をおおっている。
その基本は資本主義の末期的な危機であり、小手先で解決できると思う者はだれもいない。そしてこの社会を根本的に変革し新しい社会を建設する力は、生産を担う労働者、勤労人民の団結にある。人人はたたかわなければ生きていけないことをますます痛感している。このすう勢は、アメリカが自国の危機を救うために食い物にし、対中国戦争の盾にしようとしている日本でも、確実に大きなものになっている。