新型コロナ危機が始まってからの約3カ月間、米国の富裕層が資産を約5650億㌦(62兆円)増やしていたことがわかった。米国の進歩的な政策研究所(inequality.org)が統計データを集計し、4日に報告書を発表した。過去最大規模の金融緩和の恩恵を受ける1%の富裕層と、コロナ禍で生きる糧を奪われる99%との格差がかつてなく拡大している。
報告書によると、コロナ危機による世界経済の急激な停滞によって、3月18日からの約3カ月間で、新規失業手当を申請した米国人は4300万人(労働統計局)にのぼり、リーマン・ショック不況後に創出された雇用のほとんどが消滅した。これには自営業者として支援を申請した数百万人は含まれておらず、実態はさらに深刻だ。
同じ3カ月間に、富裕層の累計総資産は約5650億㌦増加した。現在、億万長者の資産総額は3・5兆㌦(385兆円)に達しており、新型コロナ流行の開始時に記録された最低水準から19・15%上昇している。一方、米国ではコロナ感染ですでに10万人以上が死亡しており、報告書のなかでは「パンデミックの最中、億万長者の富が急増していると同時に、何百万人もの人々が苦しみ、多くの困難や死に直面している。米国社会の不平等でグロテスクな現実だ」とのべている。
この間、資産を飛躍的に延ばした主な富裕層は以下の通り。IT大手や投資関連の大企業が目立っている。
ジェフ・ベゾス(アマゾンCEO)362億㌦増
マッケンジー・ベゾス(前妻)126億㌦増
マーク・ザッカーバーグ(フェイスブックCEO)300億㌦増
イーロン・マスク(テスラCEO)141億㌦増
セルゲイ・ブリン(グーグル共同創業者)139億㌦増
ラリー・ペイジ(グーグル元CEO)137億㌦増
スティーブ・バルマー(マイクロソフト元CEO)133億㌦増
ビル・ゲイツ(マイクロソフト創業者)118億㌦増
フィル・ナイト(ナイキ創業者)116億㌦増
ラリー・エリソン(オラクル会長)85億㌦増
ウォーレン・バフェット(バークシャー・ハサウェイCEO)77億㌦増
マイケル・デル(デル創業者)76億㌦増など。
富裕層の資産拡大の背景には、株式市場の異常な回復がある。連邦準備制度理事会(FRB)が緊急措置としてゼロ金利、無制限の債券買いとりなど、かつてない規模の金融緩和策を講じ、2月19日をピークに29%減まで急下降していたナスダック指数が史上最高値に迫るなど、株式市場は大幅に値上がりした。実体経済と乖離した市場の活況が富の移動をもたらし、格差拡大を加速させている。
国連は5月末、2020年の世界経済は少なくとも3・2%縮小し、3億人以上が失業し、米国だけで3900万人が失業すると予測したが、実態はそれを上回る。米国内の医療保険未加入者は3000万人をこえ、コロナ禍に見舞われながらも医療の恩恵を受けることができず、多くの死者を出している。米国の失業率は今後20%に達することが予測されており、リーマン・ショック恐慌を上回る深刻さをみせている。
報告書共著者であるチャック・コリンズ氏は「数百万人の苦しみと窮状と引き換えにもたらされた億万長者の富の急増は、私たちが今後数年で社会を回復するために必要な社会的連帯を損なう。これらの統計は、私たちがかつてなく経済的、人種的に分裂していることを示している」と声明でのべている。