米軍に殺害されたソレイマニ司令官の葬儀に集まった人々(テヘラン、youtubeライブ:RTより)
自衛隊の中東派遣を中止せよ
米国政府がイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を空爆で殺害したことが引き金になり、中東地域から第三次世界大戦を引き起こしかねない緊張が走っている。米国は2018年5月のイラン核合意離脱から執拗に経済制裁や軍事挑発をくり返してきたが、昨年5月のタンカー攻撃事件を口実にして対イラン有志連合を募って本格的な戦争準備に乗り出し、安倍政府による自衛隊中東派遣の閣議決定直後に開戦の導火線を引く行為に及んでいる。イラン側は米国への報復を宣言し、米国側は米軍部隊増派の動きを見せている。こうした軍事緊張の渦中であるにもかかわらず、安倍首相はのんびりゴルフを続け「調査・研究のため」といって自衛隊を中東に派遣しようというのである。それはもともと友好関係にあった日本とイランの関係を引き裂き、日本全土を再び戦争に引きずり込む極めて危険な道である。
イラクのバグダッド空港付近で2日(イラン、イラク時間3日)、イラン革命防衛隊の精鋭組織「コッズ部隊」を率いるソレイマニ司令官とイラクのイスラム教シーア派組織「カタイブ・ヒズボラ」のアルムハンディス司令官代理が米軍のミサイル攻撃を受けて死亡した。2人は車で移動しており、同行中の警護員など10人も全員死亡した。
米国防総省はすぐに、この空爆を正当化する声明を発表した。同声明は「大統領の指示を受けて米軍は海外に駐留する人を保護するために防衛的措置をとり、米国がテロ組織に指定したイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害した」「今回の攻撃は、この先のイランによる攻撃を防ぐためだ。米国は、国民と国益を守るために世界のどこでも必要なあらゆる措置をとる」と主張した。
これに対しイランは猛反発している。イランの最高指導者ハメネイ師は3日の声明で「ソレイマニ氏の遺志は途切れることはない。血で汚された犯罪者には厳しい報復が待ち受けている」とのべ、米国に報復措置をとると宣言した。ロウハニ大統領は「勇敢な司令官の死は、イラン国民全体に深い悲しみをもたらし、アメリカに立ち向かうイラン国民の決意を倍増させた。米国による身の毛もよだつ犯罪行為に対しイランは間違いなく報復する」と表明した。イランのアシエナ大統領顧問は「レッドラインをこえた」と認識を示した。
コッズ部隊が所属する革命防衛隊(12万5000人)はイランの正規軍(陸軍=35万人、海軍=1万8000人、空軍=3万人)とは別の精強部隊で、国境警備や対テロ作戦を任務にしている。それは中東地域では米軍を含む他国軍の侵略に体を張って対峙してきた部隊と見なされている。そうした部隊への野蛮な攻撃は他の近隣諸国でも反米気運を高める効果になっている。
イラクのアブドルマハディ暫定首相は声明を発し「空爆はイラクへの攻撃であり主権侵害だ。イラクと地域一帯、そして世界での壊滅的な戦争に発展する導火線に点火するような危険な行為だ」と指摘した。イラクで多数派のイスラム教シーア派の最高権威シスターニ師も声明を出し「イラクの主権と国際的な合意に対する傲慢な侵害だ」とアメリカを非難した。
レバノンのシーア派民兵組織ヒズボラの指導者ナスララ師は「米国がこの大罪によって目的を達することはできない。公正な処罰を受けさせることがすべての戦士の責任だ」とのべている。
国際的にも懸念の声明があいついでいる。トルコ外務省は声明で「アメリカとイランの間で緊張が高まっていることを深く憂慮している。イラクが衝突の舞台となれば地域の平和と安定が損なわれてしまうと、われわれは改めて強く警告する」と指摘した。ドイツのマース外相はツイッターに「状況がさらにエスカレートして地域全体に火がつくのを防ぐことが大事」と書き込んだ。フランスのルドリアン外相は「イランに対して地域の不安定な状況を悪化させたり、核開発で危機をもたらすような行動を避けるよう求める」との声明を発した。
ロシアのラブロフ外相は米国のポンペイオ国務長官と電話会談し「米国のとった対応は地域の平和と安定にとって深刻な結果をもたらし、新しい緊張を生み出す」と発言した。中国の張軍国連大使は「中国は国際関係におけるいかなる武力の行使にも反対する。イラクの主権と領土の保全は完全に尊重されるべきだ」と表明した。国連のハク副報道官は「湾岸で新たな戦争を起こすわけにはいかない」との態度を示している。
だがトランプ大統領は「われわれは戦争を止めるために行動を起こした。戦争を始めるために行動を起こしたのではない」と開き直っている。そしてイラクの首都バグダッドの北部では、イランが支援する現地の民兵組織を標的に新たな空爆を展開した。さらに「地域で高まる脅威に対応するため」と主張して3500人の米兵を増派する方針を示した。すでに米国大使館はイラク国内の米国民に国外退避を求めており、米軍は本格的な軍事作戦を展開する準備を急いでいる。
米国の要求で自衛隊を前線へ 閣議決定のみで
世界を震撼させる事件が起きているなかで、まったく有効な対応をしなかったのが安倍首相だった。年末のイラン・ロウハニ大統領との会談では「中東の安定化へ役割を果たす」と豪語していたが、いざ世界戦争を誘発しかねない事態が起きるなか、言葉を発することもできずゴルフ三昧の日日を送った。安倍首相は4日、「今月、諸般の情勢が許せば中東を訪問する準備を進めたいと思っている」とのべ、イラン司令官殺害事件への態度表明すらできなかった。そして中東情勢が急変したにもかかわらず、イラン司令官殺害事件前に閣議決定した自衛隊中東派遣をいまだにごり押ししようとしている。
昨年の12月27日に閣議決定した自衛隊中東派遣計画は、表向きの自衛隊派遣理由は「調査・研究」である。だが「不測の事態が発生した場合」は「海上警備行動を発令して対応する」とし、いつでも武力行使に踏み込める内容となっている。保護船舶は「個別状況に応じて対応」とし、なし崩し的に外国籍船や米軍艦船を対象に加えることも可能にした。
そこで決まった主な内容は、
①「有志連合」に参加しないが、引き続き米国とは緊密に連携していく。
②新規装備の艦艇(交戦能力を備えたイージス艦等)派遣や既存の海賊対処部隊の活用を検討する。
③派遣先はオマーン湾・アラビア海の北部の公海および、バベルマンデブ海峡の東側の公海を中心に検討する。
の三本柱である。それは最初から、米国の主導する「センチネル(番人)作戦」の側面支援が目的だった。そのためバーレーンにある米海軍第五艦隊司令部に幹部自衛官を連絡員として派遣する準備を進めている。「イランとの関係悪化につながるため、有志連合司令部には連絡員を送らない」という主張は国民の目を欺くための方便で、実態は米軍と直接結びついた「独自派遣」にほかならない。
派遣装備はソマリア沖アデン湾で海賊対処活動にあたるP3C哨戒機2機のうち1機を活用し1月下旬から情報収集活動を開始する。さらにヘリコプター搭載可能な護衛艦「たかなみ」(満載排水量6300㌧)を2月上旬に派遣し、2月下旬に現地到着させる方向となった。派遣規模は約260人で護衛艦は4カ月ごとに交代する計画になっている。
また、自衛隊艦船の派遣先については「オマーン湾、アラビア海北部、バベルマンデブ海峡東側のアデン湾の3海域の公海とする。沿岸国の排他的経済水域を含む」とし、ホルムズ海峡への派遣は見送った。その理由は「安全が確保できないから」だった。だが現在の中東情勢はホルムズ海峡のみならず中東海域全体が悠長に「調査・研究」ができるような安全地帯ではないことは誰の目にも明らかである。
そして今回の自衛隊派遣計画は、まったく国会承認を得なくてよい体制をとったことが大きな特徴だ。安倍政府が提示した修正案は活動期間は一年と定め、延長の必要がある場合は再度、閣議決定をおこなうと規定した。活動終了時はその結果を国会に報告する、とした。だが閣議決定をおこなうのは首相に忠実な側近ばかりで計画が覆ることはほぼない。しかも国会に対してはみな事後報告である。
さらに「調査・研究」の名目のままでは「船舶の護衛」ができないため、派遣後に「日本関連船舶が攻撃を受けるなど不測の事態が生じた場合」に「必要な行動」をとる「海上警備行動」(国会承認が不要)に切り替えることも想定している。こうして派遣時の名目は「調査・研究」だが、時期を見計らって「海上警備行動」に切り替え、中東海域における米艦防護や武力行使を常態化させる目論みも露わになっている。
有志連合参加国は減少 孤立する強硬路線
米国が主導する対イラン有志連合結成の動きは、昨年6月にイラン沖で起きた「日本のタンカーを含む2隻への攻撃」が直接のきっかけとなった。だがこの事件は核兵器開発を疑われていたイランと米・英・仏・独・中・ロが2015年7月に結んだ「イラン核合意」から米国が一方的に離脱し、イランへの経済制裁を強めたことと無関係ではない。
イラン核合意はイランの核開発を大幅に制限する一方で、米欧が16年1月に金融制裁や原油取引制限を緩和するというとり決めだった。イランが核兵器に転用できる高濃縮ウランや兵器級プルトニウムを15年間は生産しないことなども盛り込んでいた。しかし米国は当初の合意にはなかった「弾道ミサイル開発の制限」などを主張した。そして2018年5月に「致命的な欠陥がある」と非難し、核合意を一方的に離脱してイランへの制裁を再開した。そのなかでイランは昨年5月、核合意の一部履行停止を表明した。この直後に発生したのが「日本のタンカーを含む2隻への攻撃」だった。
すぐさま米国側は「イラン革命防衛隊がタンカーに機雷を仕掛けて爆破させた」と主張したが、動画や写真は不鮮明なものばかりで、どれも証拠として認められなかった。イラン側は攻撃を受けたタンカーの乗員を救助し、米国の主張には「事実と違う」と全面否定し続けた。
それでも米国は「イランは以前からホルムズ海峡の原油輸送を阻害すると示唆していた」と敵愾心を煽り「有志連合」の結成へと突き進んだ。そしてホルムズ海峡の安全確保で恩恵を受けている国として日本と韓国を名指しし「すべての国国は自国の船を自分で守るべきだ」「アジアの国が役割を果たすことが重要」と主張した。しかし昨年7月下旬に開催した第2回目の有志連合関連会合は、米国が60カ国以上に招集をかけたにもかかわらず、参加国は三十数カ国にとどまった。結局、有志連合は英国、バーレーン、豪州などわずか7カ国で本格始動することになった。
そして昨年12月27日、日本が中東への自衛隊派遣を閣議決定する時期を前後して事態が急展開した。昨年11月下旬にはホルムズ海峡に米軍が原子力空母を投入した。翌12月27日に米軍が駐留するイラク軍施設にロケット砲が撃ち込まれる事件が起きると、米軍は2日後の29日にイスラム教シーア派組織の拠点を空爆。さらに同31日にイランのデモ隊がバグダッドの在イラク米大使館を襲撃すると米兵750人の増派を発表。そして今月2日にイラン司令官を空爆で殺し、3500人の米兵を増派する流れとなった。攻撃や事件をきっかけにして軍事行動を拡大していく米軍の軍事戦略も浮き彫りになっている。
中東地域をめぐる米トランプ政府の対応は、イスラエルの主張にそったエルサレムの首都認定(17年12月)、シリアへの空爆(18年4月)、イラン核合意離脱(18年5月)、ゴラン高原をめぐって「イスラエルに主権がある」という宣言への署名(19年3月)など、ここ数年、露骨な攻撃や挑発を続けてきた。こうして軍事緊張を煽るだけ煽っておいて「ホルムズ海峡の安全確保で恩恵を受けているのは日本だ」「自国の船は自国で守るべきだ」と自衛隊派遣を執拗に迫り、日本を戦争に引きずり込むのが米国の狙いである。このような自衛隊派遣に応じれば「日本のタンカーの安全を守る」どころか、日本全土を戦争に巻きこみかねない危険が迫っている。このような自衛隊の中東派遣をいまだに強行しようとする安倍政府にたいし、自衛隊派遣中止を求める全国民的な意志を突きつけることが待ったなしになっている。
※ソレイマニ司令官を弔うために集まった数百万人の葬列(テヘラン)
This is the funeral procession of Qassem #Soleimani today in Ahvaz, #Iran.
— Sarah Abdallah (@sahouraxo) January 5, 2020
Absolutely massive crowd, with millions of Iranians attending.
Truly one of the most incredible things I’ve ever seen.pic.twitter.com/xfEuCSSNJ9
NO MORE WAR!!!
アメリカの巻き添えなるのはごめんだ。
中東地域からの海上自衛隊の早い引上げを強く望む。