トランプ米政府は1月29日、アフガニスタンから米軍を完全撤退する方針を明らかにした。昨年12月にはシリアからの撤退も表明しており、軍事力によって覇権を広げてきた米国がそれを維持する力を失い、抵抗を続けてきたアラブ地域から追い出される趨勢が強まっている。約20年にわたる戦闘によって深い傷痕と混乱を残しながら、安定化に向けた戦後処理や復興についても、ロシアや中国を含めた力に頼らざるを得ない状況が露呈している。
トランプ米政府は、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンとの戦闘停止を目指して、中東カタールで通算4度の協議を続けてきた。即時停戦を求める米国側に対し、タリバン側は米軍撤退後の停戦を主張し、交渉は難航していたが、トランプ米政府は早ければ今年前半にも、駐留する米軍約1万4000人の撤退を完了させたいとの意向をタリバン側に伝え、タリバンは米軍撤退が始まると同時に停戦に応じる意向を示したと伝えられている。在アフガニスタン米大使館は1月28日に声明を出し、米国政府とタリバンが「主要議題(米軍撤退)」について大筋で合意したことを示唆した。
アフガニスタンでは、2001年の9・11同時多発テロ後、当時のブッシュ政府が「テロとの戦い」を宣言し、タリバンが国際テロ組織「アルカイダ」の戦闘員をかくまっているとの口実で先制攻撃して以来18年間、主要な統治組織であったタリバンとの間で激しい戦闘が続いてきた。
米軍は「不朽の自由作戦」と称して無差別爆撃をくり返して街を廃虚にし、09年に犠牲者数に関する公式統計が始まって以降、毎年3000人前後の民間人が殺され、累計死者数は3万5000人以上に上っている。米国は、米国石油業界との癒着が指摘されるカルザイ政権(当時)を擁立して政治的関与を強めたが、2011年のビン・ラディン殺害後もタリバンは勢力を拡大し、米軍と米国が支援する政府軍は追い詰められた。
オバマ前大統領は、選挙公約だった米軍撤退をとり消して増派せざるを得ず、特殊部隊やドローン(無人機)による爆撃など最新鋭兵器を投入して挽回を図ったが、事態はますます泥沼化した。米軍側の死者は2400人に上ったが形勢は変えられず、駐留経費だけが膨れ上がる結果となった。多国籍軍から各国が撤退するなかで、タリバンの最大勢力としての力は増し、昨年末には米中央軍の次期司令官が「このままではアフガン政府軍は持続不可能」と発言するに至った。停戦交渉は、弱体化した米軍側が白旗をあげたことを意味している。
米国は「テロとの戦い」を叫びながら爆撃と無差別殺戮によって政権を転覆したが、中央アジアにおける石油資源を巡るパイプライン利権のための侵攻であったことに反発は強まり、みずからつくり出した出口のない泥沼のなかに米軍自身が釘付けにされる状態となった。
米国が「テロ支援国家」と名指しして政権転覆を狙ったシリアでも、米国が支援していた武装勢力の残滓がIS(イスラム国)となって無差別テロを頻発させたが、これを鎮圧したのは米国と対立するシリア軍やそれを支援するロシアやイランであった。
中東からの米軍撤退を主張したトランプの大統領就任は、アラブでの反発の強まりとともに、軍事覇権を維持できないほどに米国内の疲弊が進み、国内での撤退要求が強まっていることを反映している。トランプ政府も一昨年9月には米兵3000人の増派を発表していたが、昨年末にはシリアからの全面撤退とあわせてアフガン駐留軍の半数にあたる米兵7000人に撤退命令を出し、今年に入って全面撤退を表明するに至った。
2月5、6日には、アフガニスタン和平に関する国際会合がモスクワで開催され、ロシアの仲介で米国とタリバンとの和平交渉がおこなわれる。
また、アジアでの「一帯一路」経済圏の確立を目指す中国もアフガニスタンの安定化に関与を強め、積極的な地下資源の貿易を展開しつつ、大規模なインフラ建設に乗り出している。米国が支えてきたガニ・アフガニスタン政府は、米軍撤退とともに崩壊する局面を迎えており、中国やロシアの関与を歓迎せざるを得ない。米軍の軍事覇権衰退にともなって中央アジアから中東における力関係も変化し、再編に向かっていることを示している。