日本政府が27日に国連総会に提出した核兵器廃絶決議案が、例年に比べ大幅に後退していることが国際的な失望と批判を集めている。日本の核廃絶決議案は1994年から24年間提出し、唯一の被爆国の提案として採択されてきた。ところが今年は、今年採択された核兵器禁止条約に対抗する形で、核保有国の論理にたって大幅な修正した内容となった。それにより共同提案国は30カ国以上減り、賛成国も昨年の167カ国から144カ国へと23も減るなど、近年では最小規模となった。
被爆国の尊厳棄て米国に隷属
日本政府の提案は、今年122カ国の賛成で採択された核兵器禁止条約に言及せず、「さまざまなアプローチに留意する」との表現に留めてその存在を無視した。この条約に対しては、米国を筆頭に核保有国が反対し、日本政府も「核兵器国が参加しておらず、実効性がない」と批判して交渉参加をボイコットしている。提案は、核兵器禁止条約に対抗する日本政府の立場から、おのずと世界的な核廃絶世論に対立する内容となった。
文章の表現では、「核兵器の全面廃絶に向けた共同行動への決意」をうたった本文第一項で、昨年の「核兵器なき平和で安全な世界を目指して」との文言を全面削除し、「国際的な緊張関係を緩和し、NPT(核不拡散条約)で想定された国家間の信頼を強化」へと矮(わい)小化させた。
また、昨年まで「核軍縮につながるような核兵器の完全な撤廃を達成するため」としていた「核兵器国の明確な約束」を求める部分も削除し、「核不拡散条約を完全に履行するため」へと変更した。
核不拡散条約(NPT)は、米英仏露中の5カ国に限定して核保有を認め、それ以外は認めないという核保有国に有利な二重基準で、核の使用を禁じてもいない。この二重基準が核保有国と非核保有国との「国際的な緊張関係」を作り出してきたといえるが、その解決のために再検討会議が開かれるたびに米国は自国の核戦略が規制されることに反発し、合意を決裂させてきた。日本政府も常に同調してきた。
NPT未加盟のインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮などの核保有によって前提が崩れているにもかかわらず、米国はみずからが関与する国の核保有や開発は黙認している。日本政府も、核兵器保有が公然化しているインドと日印原子力協定を結び、原発の輸出、技術提供を約束する行為に及んでおり、みずから前提を崩しておきながら各国に「履行」を求める支離滅裂な態度が世界の不信を買っている。
また提案では、「壊滅的な人道的結末」につながる「核兵器のあらゆる使用」の部分を「核兵器の使用」へと弱め、「平和で安全な核なき世界の達成への誓約」からも「達成」を削除し、「平和で安全な核なき世界に向けた誓約」へと後退させた。
核兵器の「あらゆる使用」を禁止対象としない決議は、部分的な使用や、国によって使用を認めることを意味しており、およそ核兵器の禁止・廃絶を目指す決議とは見なされない。「いかなる場合の核兵器使用の禁止」に常に反発してきたのが米国であり、その意向に沿った文面となった。唯一の被爆国である日本政府が、それを投げつけて数十万人の国民を焼き殺した原爆投下国に抗議するどころか、率先して配慮・忖度する恥ずべき姿を世界に晒すものとなっている。
被爆国が核使用を容認 各国から厳しい批判
昨年まで108カ国だった共同提案国は70カ国程度に減り、逆に米英などの核保有国が加わっていることも「核保有国の代弁者」としての立ち位置を暴露している。採択では、オーストリア、ブラジル、ニュージーランド、コスタリカ、インドネシア、南アフリカなど昨年まで賛成していた14カ国を含める27カ国(昨年から10増)が棄権。一方、昨年まで棄権だった英国、フランスなどの核保有国が賛成に回った。
昨年までの共同提案国であり、核兵器禁止条約の制定を主導したオーストリアの軍縮大使は、「核軍縮より各国の信頼強化を優先するとしており、核兵器を禁止する歴史的な合意(核兵器禁止条約の動き)を反映していない」と批判した。
同じくコスタリカの代表は、「2017年は核軍縮の転換点だ。核禁条約ができたことは、無視できない画期的な出来事のはず。今年は賛成できない」と不支持を表明。
スイスやスウェーデンの代表は「再解釈や書き直しのいかなる試みにも断固として反対する」と日本の態度を牽制した。ブラジルの軍縮大使は演説で、「今年の決議案には熱意がなく、残念ながら核兵器廃絶のための努力を後退させるものだ」とのべ、南アフリカの大使も「去年と比べて多くの変更点があることに不安を隠しきれない。これは核兵器禁止条約のとりくみを弱体化させるものだ」と日本政府の二重基準を批判した。
日本政府は、北朝鮮の核開発を理由に「安全保障上の懸念に向き合わずに核軍縮だけを進めるのは非現実的」(河野外相)と釈明しているが、核保有国の核独占とその使用を認める立場を世界に宣言するだけの決議となり、被爆国としての国際的地位と信頼を失墜させるものとなった。
一方、7月に採択された核兵器禁止条約への署名国は、発効に必要な50カ国をこえ、各国議会での批准を受けて早ければ来年にも発効する見通しだが、安倍首相は広島・長崎での原爆慰霊式典でも国連総会でも一切触れず、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)のノーベル平和賞受賞にもコメントしないなど、憎悪ともとれる態度に終始している。被爆によって奪われた自国民の生命の重さや、国際的な信頼を構築してきた被爆国としての尊厳よりも、米国への忖度を最重視する姿に日米同盟の本質がにじみ出ている。