(2025年3月26日付掲載)

長射程ミサイル配備撤回を熊本県に申し入れる市民団体(3月21日、熊本県庁)
防衛省が敵基地攻撃能力として2025年度の配備を計画していた長射程ミサイルについて、地上発射型の先行配備を九州にする方向で検討に入ったことが明らかになった。配備するミサイルは国産の12式地対艦誘導弾の能力向上型で、射程距離は1000㌔㍍。中国沿岸部や朝鮮半島までが射程圏内となることから、東アジアにさらなる軍事的緊張を生み出すことは明白だ。現在、九州では大分の陸上自衛隊湯布院駐屯地と熊本の健軍駐屯地に地対艦ミサイル連隊が配備されており、この長射程ミサイルの配備地となる可能性が高い。配備されればこれまで「専守防衛」として長射程ミサイルを保持していなかった日本が現実に戦争を想定した軍備増強に大きく足を踏み出したことになり、有事のさいには攻撃対象にもなる。住民たちから「絶対に阻止しなければならない」と怒りの声が上がっている。
報復攻撃に備え司令部だけは地下に
2022年12月に閣議決定された安保三文書により、「台湾有事=日本有事」とし、日米共同で対中国軍事包囲網の構築が着々と進められてきている。現在、地対艦誘導弾を扱う連隊は、北海道、青森県、熊本県、沖縄県、大分県にあり、全国で7連隊態勢。この間、防衛省は、当初26年度としていた国産長射程ミサイルの配備や米国の巡航ミサイル「トマホーク」(射程約1600~2400㌔㍍)の取得を1年前倒しして25年度にするなど、敵基地を攻撃できる態勢の構築を急いできた。
今回、中国に近い沖縄県への長射程ミサイル配備は、緊張を過度に高める懸念があるとして先行配備の対象にはしない方向だ。その代わりに長射程ミサイル配備の可能性が高まっている熊本県と大分県は、九州の陸上自衛隊の重要地点となっている。熊本県の健軍駐屯地には、九州・南西諸島を管轄する陸自西部方面総監部があり、その北側に陸自の第八師団(北熊本駐屯地)がある。第八師団は、宮古島、石垣島、先島諸島、八重山諸島も管轄する部隊であり、この二つの駐屯地が、台湾有事や南西諸島有事の場合には後方の戦力の補充基地、部隊の派遣基地にもなる。
健軍駐屯地は、12式ミサイル連隊が日本で初めてつくられたところであり、電子戦部隊もつくられている。12式ミサイルは最新の地対艦ミサイルで、全国にあるミサイル連隊のうち、現在は九州・南西諸島のミサイル連隊だけが、これを所持している。
また、防衛省は安保関連三文書以降、司令部の地下化をおし進めており、健軍駐屯地はそのなかの一つだ。2025年度予算案で主要司令部地下化関連経費は874億円で前年度の約5倍に膨れ上がった。そのなかで健軍駐屯地の西部方面隊の主要司令部を地下につくる本体工事費として355億円を計上しており、25年度中にも着工することを明らかにしている。自衛隊司令部の地下化は、安保関連三文書に盛りこんだ「自衛隊施設の抗たん性向上」「主要自衛隊施設の強靭化」の具体化であり、自衛隊基地が攻撃されても戦闘能力を保持するための措置だ。地下に司令部を造ることは、地上がミサイルの標的や反撃(攻撃)拠点となり、壊滅することを想定しているからにほかならない。
そして大分県では、24年度に湯布院駐屯地に新たに12式ミサイルの連隊が設置され、住宅団地のすぐ隣に大型弾薬庫が建設されている大分分屯地とのセットの運用が始まる。防衛省は2023~2027年度の5年で約70棟、2032年度までにさらに約60棟を整備し、全国で約130棟(陸自約90棟、海自約40棟)もの大型弾薬庫を増やす方針を明らかにしており、全国各地で大型弾薬庫整備計画が動き出している。
日米が想定する「台湾有事」「南西諸島有事」において、九州の自衛隊基地は前線司令部であり、機動運用部隊を南西諸島島嶼(しょ)部へ戦争の前に事前配備し、戦争になった場合に補充していく地点となることから軍事化が強引に進められてきた。また、全国の部隊を南西諸島へ送り出す中継基地、日米共同の出撃基地・兵站基地にもなり、投入前の演習場にもなる。そのため沖縄・南西諸島の軍事化の影に隠れて九州全域の自衛隊基地で着々と軍備増強が進められており、長射程ミサイル配備や佐賀のオスプレイ配備もその一環となっている。
今回の長射程ミサイル配備の動きに対し、北朝鮮は「他国の主権領域に対する先制攻撃能力まで備えようという動きは、北東アジア地域に新たな軍事的衝突の火種を埋め込むとともに、常時的な緊張激化を招く危険千万な挑発行為」だとして強く非難し、「北朝鮮を直接標的とするあらゆる軍事的手段とさまざまな活動が全て排除の対象となる」と強く反発している。
「人と生活の安全保障を」 10団体が申し入れ

陸自健軍駐屯地前での抗議活動をおこなう住民たち(3月21日、熊本市)
防衛省の動きに対し、21日には配備の可能性が高いとされる熊本県や大分県をはじめ、沖縄県などの住民が一斉に抗議をおこなった。熊本県では、「戦争止めよう! 沖縄・西日本ネットワーク」など10団体が西部方面隊総監部のある健軍駐屯地で石破首相や中谷防衛大臣らに宛てて、長射程ミサイルの九州先行配備の即時撤回と計画の中止を求める要請書を手渡した。集まった市民は駐屯地の正門前で「長射程ミサイル配備反対!」「住宅街のど真ん中にミサイルを配備するな!」「自衛隊は地下に逃げられるかもしれないが、市民はどうなるのか」と声を上げて抗議をおこなった。その後、熊本県庁に市民約20人が赴き、配備計画撤回を求める木村敬熊本県知事宛ての要請書を手渡し、記者会見をおこなった。要請書の要旨は以下の通り。
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政府が他国領域攻撃用の長射程ミサイルを九州に先行配備する方向で検討に入ったとの報道があった。政府は「長射程ミサイル」配備について2025年度予算案に計上しており、年度内の配備開始を想定している。
陸上自衛隊は、湯布院駐屯地(大分)と健軍駐屯地(熊本)に地対艦ミサイル連隊を配置しており、先行配備の可能性が懸念される。25年度内の「長射程ミサイル」配備について、国会でまともな議論もなく、国民に対する説明もないまま配備に踏み切ることは到底容認できるものではない。「長射程ミサイル」配備は、軍備正当化の「専守防衛」の言い訳さえも使えないもので、中華人民共和国や朝鮮民主主義人民共和国など近隣諸国に強い懸念をもたらし、緊張を高めるものである。反撃・攻撃を受けるリスク、住民の命や財産を奪われるリスクを高めるだけで、決して戦争の「抑止力」になどならない。憲法9条を生かした外交、アジアの平和構築こそが、最大の「抑止力」であり、武器である。
主食のコメすらまともに供給できない国がなすべきことは、まず「人と生活の安全保障」であり、「軍備拡大・戦争準備」などではない。
私たちは、九州であれ、沖縄であれ、日本のどこであれ、国民の命や財産を犠牲にする「長射程ミサイル」の配備を受け入れることは絶対にできない。他国領域を攻撃可能とする長射程ミサイル配備計画に断固抗議し、以下を強く要請する。
1、他国領域攻撃用長射程ミサイル配備計画を撤回すること。
2、弾薬庫建設や基地整備、ミサイル運用部隊の配備などについて、各地で住民説明会を開催すること。
西日本ネット立ち上げ 参加団体120
今回、抗議をおこなった「戦争を止めよう! 沖縄・西日本ネットワーク」は2月22日に立ち上げられたばかりの組織で、これまで各地でそれぞれ戦争反対の声を上げ続けてきた人々が、再び戦争への道を進もうとする日本政府に対し、「みんなで立ち上がらないといけない」と発足させた。発足時点で呼びかけ団体は12、賛同団体が30、参加団体が120となっており、現在も増え続けているという。
共同代表を務める熊本県の海北由希子氏は、21日の記者会見で、「南西地域での自衛隊を増強する南西シフトのなかで、戦争反対、軍備増強反対の声を上げても軍事化が進み既成事実化されている。熊本ではどんなに反対の声を上げても記者会見を開いてもマスコミは全然こず、私たちの声はなかったことにされて、そのなかで孤軍奮闘してきた。このような扱いをされている人たちが沖縄や南西諸島、九州など各地におり、バラバラだったものをみんなで繋げようとネットワークを立ち上げた」と語った。
そして「中谷防衛大臣は長射程ミサイル配備の報道後の記者会見で、“まだ具体的な配備地については決定していない。決定して以降に地元自治体に説明をしていきたい”といっていたが、決まってから知らせるというのでは遅い。熊本も湯布院もまちづくりに自衛隊が大きくかかわっており、家族や親戚、友人が自衛隊関係者という人がたくさんいる。市民が反対の声を上げにくいという弱みにつけこんで先行配備しようとしている。私たちの命や暮らしが目の前で奪われようとしているときに泣き寝入りするわけにはいかない。しかしマスコミが私たちの反対の声をなかったことにして、市民に知らせられない間に軍事化が進められている。この私たちの怒りを全国に届けて反対運動を広げたいという思いで記者会見を開いた」とのべた。
熊本市内に住む男性は「敵基地攻撃能力を保持するというのは、日本が戦争に向けて一歩を踏み込んだということであり、熊本がその起点となる。熊本県民としてこんなことは絶対に許すわけにいかない。このままではいつ中国との戦争になってもおかしくないし、間違いなく日本は戦争に突入することになる。敵基地を攻撃する長射程ミサイルが配備されるということは、熊本・大分がミサイルの攻撃対象になるということだ。われわれがその矢面に立たされる。北朝鮮が長射程ミサイル配備について緊張激化を招くとコメントしていたが、まさにその通りだ。ミサイル配備は抑止力ではなく戦争の危険性を招くものだ」と危機感を語った。
そして3月24日には、陸海空の自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」が発足することや、アメリカのトランプ大統領が在日米軍の強化中止を検討していることともかかわって「このまま日本の軍事化が進められれば、米軍にかわって自衛隊が対中国戦争の矢面に立たされるのではないか。今日本が中国とミサイルを撃ち合うような戦争をしても勝てるはずもない。アメリカの代わりに日本が中国と戦争をさせられる。戦後80年が経ったが、再び日本が戦争に突入するのを許すわけにいかない。熊本が長射程ミサイルの配備を認めれば、日本はどんどん戦争の方向に進むことになる。絶対にこれを阻止したい」と訴えた。
50代の女性は「健軍駐屯地は地下司令室を建設しており、熊本市内はミサイル攻撃を受けて焼け野原になっても健軍駐屯地だけは司令室が地下で助かって戦争を続行できる。市民が殺され焼け出されても戦争だけは続行できる体制というのは、一体誰を守るための戦争なのか。守りたいものは一体何なのか? 司令室を地下に移すということは、攻撃されることを想定しているということだ。大丈夫じゃないから地下に司令部をつくるのだ。戦争になったときに住民はどれほど被害を受けるのか。私は平和で人が死ぬことのない世界を守りたい」とのべた。
元教師の女性は、学校で平和学習をとりくむ子どもたちの「もう日本は戦争をしないんだね」という嬉しそうな顔が忘れられないと話し、「絶対に子どもたちを戦争に巻き込むわけにはいかない。健軍駐屯地の軍備強化が進められるなかで戦争反対を訴えてきたが、熊本ではマスコミは一切とりあげない。米軍基地問題や軍事化が進められている沖縄を見て“大変だね”という人がいるが、熊本も他人事ではないのだ。今私たちの目の前で戦争が進められようとしている」と語った。
また熊本県では昨年10月に、日米合同演習のキーン・ソード25で航空自衛隊の主力戦闘機であるF15やオスプレイが熊本空港に着陸し、訓練をおこなっている。それに先がけて同年8月に県内の熊本空港、熊本港、八代港の3カ所が国によって有事のさいに自衛隊や米軍が利用する「特定利用空港・港湾」に指定されており、これによって熊本空港が初めて軍事的に利用されたことになる。F15は宮崎県新田原基地の所属で、新田原が攻撃を受けて使えなくなることを想定した熊本空港での訓練だ。
記者会見に参加した男性は、これらのことを含めて「安保三文書改定以来、この2年間で急速に日米共同の訓練がおこなわれており、民間空港である熊本空港での日米合同訓練など戦争の準備は確実に進められている。さらに自衛隊は敵から攻撃されることを想定して訓練をおこなっている。つまりこのあたり一帯の地域は焼け野原になるということだ。陸上自衛隊健軍駐屯地の隣には市民病院があり、学校や保育園、住宅地もある。自衛隊は地下に逃げ込めばいいかもしれないが、市民は一体どこに逃げればいいというのか。戦争を起こさないための政策をおこなってほしい」と切実な思いをのべた。
別の女性は「ベトナムなどは、中国にもアメリカにも与しないという全方向の外交を進めている。日本もアメリカにだけ付き従うのではなく、独自の外交をおこなうべきだ。外国からすれば日本はアメリカと一体のものとして見えている。いったん戦争になれば、長射程ミサイルを配備している熊本は標的となり、焦土と化すことになる。健軍駐屯地の周辺に住んでいる住民はどうなるのか。日本政府は中国との緊張を煽るのではなく、今こそ真剣に平和外交をすすめてほしい。日本はアメリカの好戦的な姿勢を諌めなくてはならない立場ではないのか」と語った。
いまだ戦火が収まらないウクライナでは、ロシアを敵対視する米国・NATOのてこ入れで対ロシアのミサイル配備を進めたことが、軍事的に隣国ロシアを刺激し、自主外交チャンネルを閉ざしたことで武力行使を誘発したことは記憶に新しい。アジアの安定は、相互の安全保障を確立することなしには為し得ず、相手を脅かす戦力配備は、軍拡競争と挑発の連鎖へと引きずり込むことになる。中国本土沿岸部や北朝鮮を射程圏内に収める長射程ミサイルの配備は、アジアでの戦争の危機を煽るものにほかならず、日本が再び戦争の道へ突き進もうとする動きを阻止するためにも必ず配備を阻止しなければならないという声が強まっている。

12式地対艦誘導弾の発射車両