いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

「ガザ地区の即時停戦を」 事態の本質と平和の展望探る 安保関連法に反対する学者の会がシンポジウム

エジプト国境に接するガザ南端のラファには100万人以上のパレスチナ人が逃れてきている(8日)

 パレスチナ自治区ガザ地区でのイスラエルの空爆と地上侵攻が4カ月以上続き、犠牲になるパレスチナ人は増える一方だが、日本のメディアは現地の真実を伝えない。そのなかで、なぜ戦争が起こり、どこに向かおうとしているのか、国際法が機能しないなか世界の平和はどう構築されるべきかを考えるため、安全保障関連法に反対する学者の会は12日、オンラインシンポジウム「ガザ地区の即時停戦を」を開催した。約550人が視聴した。シンポジウムでは、千葉大学教授の酒井啓子氏が「ガザ攻撃から見る中東・国際政治が抱える問題」を、日本女子大学教授の臼杵陽氏が「改めてハマースを考える」を、一橋大学名誉教授の鵜飼哲氏が「イスラエル/パレスチナ紛争と欧米社会のレイシズム」を、千葉大学教授の栗田禎子氏が「ガザ危機と世界と日本の岐路」を、それぞれ報告。その後、東京大学名誉教授の石田英敬氏が加わってパネルディスカッションをおこなった。そのなかから栗田氏と鵜飼氏の報告と、パネルディスカッションの要旨を紹介する。

 

パレスチナ・ガザ危機と世界と日本の進路

 

千葉大学教授 栗田禎子     

 

栗田禎子氏

 イスラエルのガザ侵攻は昨年10月7日に始まり、それから4カ月以上が経つが、いまだに沈静化するどころか現在進行形で深刻化している。ガザの市民全体を標的とする無差別攻撃、侵攻による市民の殺戮で、いまやパレスチナ人2万8000人以上が殺され、その7割近くが子どもと女性だ。病院、学校、難民キャンプなどへの攻撃がおこなわれ、住民の9割近くが住居を失って難民化している。今、最後の人たちが南部のラファに追い込まれた状態で、イスラエル軍の本格的な軍事侵攻が迫っている。

 

 さらに直接の殺戮だけでなく、10月7日直後からのガザの完全封鎖、水や食料、電気、燃料を断つ封鎖のなかで、生活条件全体が破壊され、衛生状態が悪化し、飢餓の危険が迫っている。

 

 こうしたイスラエル軍の攻撃は、コミュニティ全体を殲滅(せんめつ)することをめざしているとしか思えない。コミュニティが生き続けていくための生活条件全体を破壊している。これはまさに、1948年のジェノサイド条約で規定されたジェノサイド(一つの集団を抹殺することを目的とした殺害)の典型例ともいえる事態になっている。

 

 この4カ月間の事態は人道上の大災害といえるが、皮肉なことにその過程で、問題の本質は何なのかが世界の目の前に暴き出された。問題の本質は占領だ。今起きていることは「ハマスvsイスラエル」とか「パレスチナvsイスラエル」といった対等な戦争ではなく、占領者イスラエルによる占領下の民衆の一方的な虐殺だということだ。

 

 イスラエルの側は絶えず、昨年10月7日から説き起こそうとする。しかし、なぜハマスの軍事作戦がおこなわれたかというと、それは過去16年間にわたるイスラエルの隔離・封鎖政策があったからだし、なぜガザが隔離・封鎖下に置かれたかを考えると、1967年の第三次中東戦争以来、イスラエルがヨルダン川西岸とともに国際法違反の占領を続け、度重なる国際社会の撤退要求にもかかわらず今に至るまで撤退しない地域であることが明らかになる。

 

 そして、そもそもイスラエルという国は、1948年に一方的な戦争による領土の拡大という過程で建国した国だということが明らかになる。

 

 それは同時に、イスラエルという国の性格、またイスラエルという国の成立を支えるイデオロギーであるシオニズム(ユダヤ人国家建設運動)の性格も赤裸々に暴露することになった。

 

 イスラエルという国は、植民地主義の歴史のなかで成立した国家だ。19世紀後半以降、欧米はアジア、アフリカ全域に対して侵略と植民地支配を進めた。中東地域は第一次大戦後、英仏の委任統治領となり、事実上の植民地支配下に置かれた。そのときイギリスが第一次大戦後の植民地経営の都合上、パレスチナの地に入植者国家をつくろうとしヨーロッパの中の一握りのユダヤ系知識人のなかで起きていた政治運動であるシオニズムを利用した。イギリスの委任統治下で入植者国家は準備されたわけだ。

 

 第二次大戦後、旧宗主国のイギリスやフランスの力が中東で衰退していくと同時に、最大の資本主義国としてアメリカが力を持つようになり、イギリス帝国からアメリカにパトロンを替える形でイスラエルは1948年に建国宣言をする。そして第二次大戦後の冷戦期に、アメリカの中東支配の拠点としての役割を果たしてきた。イスラエルは、かつてのイギリス、今のアメリカの利益の代弁者のような国家だといえる。

 

 このような国家の成立過程が、シオニズムの人種差別主義的な性格につながっている。南アフリカは、植民地主義の歴史のなかでつくられたオランダ系白人の入植者国家にルーツを持つが、かつての南アフリカに存在していたアパルトヘイト(人種隔離政策)とイスラエルの支配との共通性が指摘されている。イスラエルが現在、パレスチナ人に対しておこなっているジェノサイドは、そもそも植民地主義にルーツがある。原住民を根絶して入植者だけの国家をつくろうとすることが、ジェノサイドという行動様式につながっている。

 

浮彫りになる米国の責任

 

 第二に、イスラエルを支える先進諸国、とくにアメリカの責任が浮き彫りになってきた。

 

 女性や子どもをはじめ、市民全体を標的とする無差別攻撃、ハマスの軍事行動への報復といって住民全体を罰する集団懲罰――これらはまぎれもない国際法違反であり、国際人道法違反だ。病院や学校、難民キャンプへの攻撃もすべて戦争犯罪だ。イスラエルは日々戦争犯罪を積み重ねている。ただ、この明らかな国際法違反の戦争を、先進諸国が容認し、支持している。

 

 一番責任が大きいのはアメリカだが、バイデン政権は堂々とイスラエルへの武器供与、軍事支援をおこなっている。今の戦争はアメリカが武器供与、軍事支援をしなければ止められると思うので、アメリカ・イスラエル共同の戦争ということもできる。

 

 ハマスの軍事行動の直後にはバイデン大統領がイスラエルを訪問してお墨付きを与え、米空母打撃群を東地中海に派遣してイスラエルの軍事作戦を側面支援し、作戦上も協調しながら戦争に協力している。

 

 さらに国連総会や安保理で何度も停戦を求める決議案が出されたが、アメリカが拒否権を行使して葬り去った。とくに昨年12月8日、国連安保理で人道目的の即時停戦を求める決議案が出され、日本を含む13カ国が賛成、イギリスが棄権するなか、アメリカが拒否権を行使して葬り去ったことはみなさんの記憶にも残っていると思う。

 

 また、アメリカだけでなくG7に代表される先進諸国も、当初は歩調をあわせてイスラエルの戦争を全面支援してきた。先進諸国はイスラエルの「自衛権」支持を強調しているが、国際法上では自衛権は一つの国が相手の国から侵略された場合に応急措置として認められているもので、占領者が占領下の民衆に抵抗されたからといってそれを弾圧することを「自衛権」とはいわない。すでに判例も出ている。

 

 先進諸国のイスラエル支持の背景には、イスラエルという国が建国以来、中東で果たしてきた役割がある。1950~60年代、中東地域でもエジプトをはじめ先進諸国からの独立をめざす革命運動が起こるが、それをつぶす役割をイスラエルが果たしてきた。先進諸国にとってイスラエルは便利な存在であったし、これからもそういう役割を果たすだろうということがわかっているので支援し続けるということが根底にある。

 

 また、今イスラエルが「ハマス=テロ」「テロに対する戦争だ」といってガザの住民全体を標的にし、殲滅するまで軍事作戦をやっているわけだが、これはアメリカの戦争のやり方だ。

 

 冷戦終結後、21世紀に入ってアメリカはイラクやアフガニスタンに戦争を仕掛けたが、そのとき相手に「テロリスト」というレッテルを貼り、テロリストなのだから国際法も国際人道法も国際人権法も適用する必要はないといって、無差別攻撃や捕虜の虐待などなんでもありの戦争をやった。イスラエルはそれと同じやり方をガザでやっているわけで、それはアメリカの「対テロ戦争」のミニチュア版であり、今後もやっていこうと考えている戦争の雛形だ。だから、イスラエルがやっていることを全力で擁護して守り抜こうとしている。「反ユダヤ主義」といっていかにもホロコーストに反対しているように装っているが、それは戦争に反対する運動を封殺するためのレッテル貼りにすぎない。

 

変わりはじめた世界の潮流

 

国際司法裁判所公聴会に出廷した南アフリカの代表団(1月)

 一方、この4カ月で見えてきたことは、欧米先進諸国政府の立場とは裏腹に、即時停戦を求める国際世論が高まり、世界の潮流が変わり始めたことだ。中東アラブ諸国はもとより、アジア、アフリカ、ラテンアメリカを中心に即時停戦を求める声が早い時期から上がり始めた。まさにこれらの国々は、欧米の植民地支配、戦争と占領、人種主義的抑圧という苦難をなめ続けてきた諸国で、今のガザの事態が即座に認識できる。その代表例が南アフリカで、イスラエルのやっていることはジェノサイド条約違反だといって国際司法裁判所(ICJ)に提訴するという画期的な行動に出た。

 

 さらにこうしたグローバルサウスの国々だけでなく、欧米や日本の市民、とくに若い世代が、今の事態の本質に気づき、即時停戦を求める声を上げ始めた。この30年間、経済的には新自由主義、政治的軍事的にはアメリカによる戦争の時代を経験してきた若い世代は、新自由主義が格差や貧困を引き起こし戦争を引き起こすものだと痛感している。そういう問題意識のなかで、アメリカではブラック・ライブズ・マター(BLM)運動が起こり、背景に奴隷貿易の問題があるとしてコロンブス像を引き倒す運動に発展していった。日本の若者も、ガザの問題を自分たちの問題だと思って「占領・虐殺をやめろ」と声をあげている。それが各国政府にも影響を与えている。

 

 その結果、ガザの即時停戦だけでなく、占領の終結に光が当たり始めた。第三次中東戦争(1967年)の全占領地からの撤退、パレスチナ人の民族自決権の擁護、パレスチナ国家の実現を求める声が世界中から沸き起こっている。イスラエルが葬り去ろうとしたものが、国際世論の中で復活している。

 

 このなかでイスラエルと欧米諸国は追い詰められ、少数派となって孤立している。孤立するなかで、あの手この手でなんとか戦争を継続しようと動いている。その一つがUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)への資金拠出停止だが、それはICJが南アの提訴を受けて、ジェノサイド防止のためのすべての措置を求める命令を出した直後で、いかにICJ命令がイスラエルや欧米諸国にとってショックだったかを示している。それへの反撃としてアメリカなどが資金拠出を停止し、日本まで迎合したわけだが、こうして食料や医薬品を止めること自体がイスラエルのジェノサイドへの加担であり、ICJ命令違反であって、これもICJで裁いた方がいいと思う。

 

 今ではUNRWAそのものを解体し、パレスチナ難民問題自体をなかったことにする動きもある。さらにイラン脅威を煽り、イエメンやイラクを空爆して、イスラエルの占領問題から人々の関心を意図的にそらそうとしている。

 

 日本は小泉・安倍政権以来、アメリカの対テロ戦争支持を表明し、自衛隊の海外派遣を拡大し、それが恒常的にできる安保法制をつくり、安保関連三文書までつくって、アメリカの軍事・外交政策と一体化した軍拡路線を歩みつつある。

 

 ただパレスチナ問題については、日本は良識ある外交をおこなってきた実績があり、第三次中東戦争の全占領地からのイスラエルの撤退を求める二階堂官房長官談話(1973年)を出したこともある。

 

 このままアメリカの戦争に加担し、明らかに少数派になりつつあるアメリカ・イスラエルの側について身を滅ぼすのか、それとも植民地主義や戦争や人種主義を克服しようとしている世界の新しい動きに加わるのか、その分かれ道に日本は立っている。鍵を握るのは私たち市民や若者の動きだと思う。

 

イスラエル/パレスチナ紛争と欧米のレイシズム

 

一橋大学名誉教授 鵜飼 哲

 

鵜飼哲氏

 今回のガザの事態を受けて、フランスの変化を中心に、欧米社会がどのような激動に見舞われているかを話したい。

 

 12月初めにフランスを訪れた。フランスでは2015年1月にシャルリ・エブド社の襲撃事件が起き、イスラム原理主義=暴力的=一般市民を襲撃する、という図式が定着していたこともあり、イスラエルと一体化した側から10月7日の事態を見るということが起きていた。

 とくにフランス大統領のマクロン氏は昨年10月24日、イスラエルのネタニヤフ首相との会談時に、ハマースと「イスラーム国」は同じだという短絡的発想から、「ハマース掃討を目的とした多国籍軍事行動」を提唱した。数日後にこの発言を撤回したが、現代政治のもっとも深刻なパレスチナ問題をなにも学んでいないことが世界に暴露された。

 

 イスラエル・パレスチナ紛争の歴史を振り返ると、イスラエルの側からの「アラブ、パレスチナはユダヤ人を虐殺したナチスと同じ」というプロパガンダは、1948年のイスラエル建国以来ずっとおこなわれてきた乱暴な政治的類比だ。現在、その果てに「ヒトラーにユダヤ人絶滅を提案したのはアラブ人だ」という珍説をネタニヤフ首相が公然と主張することまで起こっている(2015年、世界シオニスト大会)。

 

 このアラブ人とは、エルサレムの大ムフティ(イスラム教指導者)、アミーン・アル・フサイニー(1936~39年のパレスチナ大ストライキのリーダー)のことだが、彼が亡命先のドイツでヒトラーと会ったのはホロコーストが始まった後のことで、これは歴史的事実ではない。

 

 一方、イスラエルの占領政策とアパルトヘイト時代の南アフリカの類比は根拠のある歴史的類比で、国際人権団体の多数が認定している。南アフリカ政府によるイスラエルの国際司法裁判所提訴は勇気ある行動だったが、その背景にはこの認識がある。ネルソン・マンデラをはじめ反アパルトヘイト運動の主軸を担ったアフリカ民族会議(ANC)には、黒人とユダヤ人の多数の弁護士が参加した。黒人とユダヤ人がともにたたかってきた、この反レイシズム(人種主義)闘争の歴史を思い出すことが重要だ。

 

 そしてこの二つの類比を峻別する作業こそ、人文・社会科学系の学問・研究の重要な役割だということを確認したい。

 

 さて、フランスでは内務大臣ジェラール・ダルマナンが10月12日、パレスチナ連帯デモは「反ユダヤ主義」挑発の恐れありとして禁止命令を出した。これに対してパリの行政裁判所が昨年10月19日、「デモの自由の侵害」として禁止命令を無効と判断し、デモは合法的にできた。

 

 フランスではパレスチナ連帯デモは、2014年のイスラエルのガザ空爆に対する抗議行動があったとき以来、行政命令による禁止→司法判断による許可(事後判断を含む)がくり返されている。政府は人権規範の侵害であることを承知のうえで、政治的判断から禁止を乱発し、「パレスチナ連帯は反ユダヤ主義」とのメッセージだけは残している。

 

 私は2014年7月19日の禁止されたデモにも行ったが、禁止に従う者は誰もいない。みんな続々と集まってきて、沿道からもクラクションを鳴らしたり自宅から声援を送ってくれる。このようにしてフランスのパレスチナ連帯デモは継続されてきた。

 

 さらに今回はデモだけでなく、講演会も禁止された。昨年12月6日、アメリカ・ユダヤ人の哲学者ジュディス・バトラーによる「反ユダヤ主義およびその政治利用に反対しパレスチナにおける革命的平和を求めて」と題する講演会が、会場を管轄するパリ市の決定で中止された。「公共秩序を乱す性質の論争が生じることは必至」との判断によって。

 

即時停戦要求するユダヤ人コミュニティ

 

在米ユダヤ人団体の呼びかけで「即時停戦」を求めてグランドセントラル駅を占拠する人々(2023年10月27日、米NY)

 今回のガザの停戦を求める世界的運動のなかで注目すべき点の一つは、多くのユダヤ人が停戦要求の運動に参加していることだ。これはめざましい動きになっている。とりわけジュディス・バトラーも参加している「平和のためのユダヤの声」は、アメリカで駅を占拠したり、さまざまな形で停戦を呼びかけている。

 

 昨年10月19日、バトラーを含む43人のユダヤ系アメリカ人の作家、アーティスト、研究者がバイデン大統領に書簡を提出した。書簡はこう訴えている。

 

 「アメリカ政府は、無実のガザ住民を人間とみなさず殺戮することに、“道義的”かつ物質的な支持を差し出しています。私たちはイスラエル政府がアメリカ政府の支援を得ておこなっていることに公式に反対を表明します。私たちはアメリカ政府に、即時停戦の道を探り、私たちが持つ手立てを、人質が無事帰還するための支援に振り向け、平和に向けた外交的な道を建設するために用いることを求めます」

 

 「ユダヤ人として、アメリカ人として、私たちは、イスラエルに対するアメリカの明白な支持によってではなく、私たちの圧倒的多数が当然のことと考える人権の普遍性を、私たちの政府が強調し続けることによってこそ、私たちのコミュニティの中で、そして世界の中で、自分が安全であると感じられるようになるでしょう」

 

 イスラエルは全世界のユダヤ人に帰還権があることを国家の構造の根幹に据えているが、この書簡の意味をひと言でいえば、いまやイスラエルこそが世界のユダヤ人にとって最大の危険になっている、ということだ。これをとり除くことはアメリカ政府はできるわけだから、私たちはそれを要求する権利がある、といっている。

 

 一方、米国ハーバード大学学長のクローディン・ゲイが1月、辞任をよぎなくされた。マッカーシズムの再来ともいわれるこうした傾向はフランスでも顕著で、研究者にはメディアで発言を控えるよう、学生には論文のテーマを変えるよう、大学ないし研究機関から公然、隠然の圧力が加えられている。「発言の自由」「学問の自由」の明白な侵害がおこなわれている。

 

 フランスのある研究者は、「自決権、植民地史に関する言説を発することはすべて、今日文字通り不可能になった。そしてこうした言説を検閲するために、反ユダヤ主義のような、このうえなく深刻な非難が持ち出される。しかし、中立公正とは、イスラエル極右政権の側に立つ支配的な言説に、人文・社会科学を落とし込むことではないはずだ」といっている。

 

 政治地図の大変動も起こっている。親パレスチナ=反ユダヤという構図のなかで、イスラエル支持を表明すれば、反イスラーム・アラブ人差別をこととする極右も支配的政治勢力の中にはいってしまう。

 

人種差別反対運動との結合

 

 では、どうしたらいいのか? 問題はある意味鮮明で、19世紀以降の植民地主義に起源を持つレイシズム反対運動と反ユダヤ主義反対運動を再結合することだ。

 

 社会学者のミシェル・ヴィヴィヨルカは、「レイシズムと反ユダヤ主義は、隔離、差別、暴力、偏見、ステレオタイプ、あらゆる形態における他者の排斥という点では同じ家族に属する。この点でアメリカの黒人とユダヤ人の歴史は大変興味深いものだ。アメリカでは1950年代終わりには民主主義者のユダヤ人が公民権運動に参加した。近年、ユダヤ人がブラック・ライブズ・マター運動を支持したことで、二つの世界の接近が芽生えている」とのべた。ここに彼は希望を見出している。

 

 また、アンジェラ・デイヴィスは、アメリカにおける黒人差別反対運動の歴史的な存在であると同時に、「平和のためのユダヤの声」の支持者でもある。彼女は1970年代はじめ、カリフォルニア大学バークレー校の哲学教員だったとき、黒人解放運動の運動家の救援運動に関与して逮捕され、死刑になりかけたが、世界的な釈放要求運動で自由を回復した。2019年には、BDS(イスラエル・ボイコット運動)に参加したという理由で、出身地のバーミンガムで受賞予定だった人権賞がとりやめになったりした。

 

 そのアンジェラ・デイヴィスが、昨年11月20日のインタビューでガザについてこうのべている。

 

 「この紛争がどう決着するかは私たちがなにをするかにかかっています。平和を求める行動を続けていかなくてはなりません。南アフリカの反アパルトヘイト運動にとっても、国際ボイコット運動は大きな役割を果たしました。停戦を求めガザ住民の虐殺に反対する運動には多くのユダヤ人が参加しています。私たちが求めているのは、レイシズムも反ユダヤ主義もない平和な世界です」

 

パネルディスカッションより

 

 4人の中東研究者の報告の後、パネルディスカッションがおこなわれた。

 

 酒井氏は、「イスラエルがおこなっているのは入植者植民地主義で、パレスチナ人を追い出してそこを自分たちの土地にしないと安心して生きていけないという戦闘になってしまっている。イスラエル国内のアラブ系住民も西岸のパレスチナ人もすべて追い出して100%ユダヤ人の国をつくる、という方向に踏み出してしまった。その帰結はアメリカのインディアンであり、オーストラリアのアボリジニだ。私が恐れるのは、パレスチナ人が抹殺されてもそれを世界はいずれ忘却する、ということがイスラエルの頭の中にあるのではないか、ということだ」とのべた。

 

 栗田氏は、「安保三文書をめぐって敵基地攻撃能力だとか、自国の安全を守るためには相手の指揮系統を破壊することも必要だと論議されているが、それはイスラエルがガザでやっていることとほとんど同じロジック(論理)だ。“日本はならず者国家に囲まれて、いつミサイルが飛んでくるかわからない”といういい方で正当化し、自国の安全のためには国際法を無視し、他国の領土で軍事作戦をやってもいいというところに踏み込んでいる。アメリカの世界戦略のなかでの位置を考えると、昨日のイスラエルは明日の日本になる可能性がある。そういう道に引き込まれないためにも、国内でもっと平和を守る運動をやっていく必要があるし、それがパレスチナの人々と連帯することにつながると思う」とのべた。

 

 司会を務めたエッセイストの是恒香琳氏(大学院生)は、「私はイスラエル兵に対して“なんてひどいんだろう”と他人事のように思うと同時に、かつて日本もアジアで同じことをやったし、私たちも同じ歴史の上に立っていることを忘れてはいけないと思った。酒井先生が“忘却”といわれたが、関東大震災のときの朝鮮人に対する虐殺をなかったことにしたり、群馬で朝鮮人労働者追悼碑を撤去したりして、かつての占領や虐待を忘却していく動きがあるし、それは外交にも影響してくると思う。中国とアメリカとの緊張関係のなかで私たちはどのような関係を切り結んでいくか、考えないといけない」とのべた。

 

 また、ICJのジェノサイド防止命令の波及効果として、日本でも若者たちが伊藤忠商事にイスラエルの軍需企業との覚書を破棄させる運動を起こし、成功を収めたことも紹介した。

関連する記事

この記事へのコメント

  1. アメリカ、イスラエルによる占領。何の罪もないパレスチナ人の虐殺が行われていることが、良くわかりました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。