64年目の8月6日が近づく広島では、商業マスコミをはじめ、元社会党代議士の秋葉忠利市長、原水禁・原水協や「日共」集団など「革新」を装ってきた勢力が、オバマ米大統領がプラハでおこなった「核のない世界」を提唱する演説を絶賛し、今年の原爆記念日を「オバマ万歳」にとってかえようと大騒ぎしている。また、全国を公演中の田母神元空幕長も8・6に広島で「核武装」を唱えるとしている。この「左」「右」の空中戦に、市民は怒りを募らせている。8・6をめぐる各勢力のキャンペーンを整理してみた。
広島市の秋葉市長は5月にニューヨークの国連本部でおこなわれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議の準備委員会に田上・長崎市長、被団協役員とともに出席し、「オバマ大統領は、核廃絶を実行できるという新たな希望をわれわれ全員に与えた」と、オバマ大統領の演説を絶賛。オバマの名前と「マジョリティー」(多数派)をかけて、「核のない世界を願う全世界の多数派をオバマジョリティーと呼ぶべきだ」と訴えた。核廃絶を願う人はみんなオバマを支持しているという意味であり、被爆地である広島市長の口から飛び出したあまりに軽薄な発想は、広島市民をはじめ世界からも笑いものとなった。
ところが、秋葉市長は、今年の原爆記念日にむけて「オバマジョリティー・キャンペーン」なるものをはじめると発表。
来年5月におこなわれるNPT再検討会議にむけて、広島市及び平和市長会議(議長・秋葉市長)として、この「オバマジョリティ」を広く周知させるために、広島から全国・世界に向けて広報・啓発活動を大大的におこなうというもの。「オバマジョリティーという合言葉を通じ、2020年の核兵器廃絶の実現に向けた大きな国際世論のうねりをつくり出す」としている。
まず、「オバマジョリティー」のウェブサイト、広報紙や市長記者会見用パネルによる広報の強化、ロゴ入りTシャツ、記念品をつくって販売し、PRソングを流す。そして記念撮影用のオバマ等身大パネルを市内中に配置して、「観光客の皆さんが大統領と握手している写真を撮って、そのコピーを集めてオバマ大統領に“これが広島市民が皆さんをいかに歓迎しているかという証拠です”というのを見てもらい歓迎の気持ちを示す」(秋葉市長)など。原爆記念日を前に被爆地である広島から「オバマ歓迎」のお祭りムードを演出するのが主な狙いとなっている。
広島市は、そのために市職員20人からなる推進本部を設け、広島でおこなわれる国際会議や、イルミネーション、各種イベントをはじめ、長崎市にも連携を呼びかけるなど全市を上げてのキャンペーンとなっている。「原爆記念日をオバマ記念日にする気か」「オバマがいったい何をしたのか」と市民の失笑は、怒りへと変わっている。これらは、原水禁・原水協などがとりくんでいるオバマ大統領招請運動と連動しており、八月六日の集会などでも、オバマTシャツを着て、オバマソングを流し、「オバマ万歳」を騒ぎ立てることが予想される。
そもそも秋葉市長が絶賛するオバマ大統領のプラハ演説は、「アメリカには核兵器を使用した唯一の核保有国として行動する道義的責任がある」といいながら、他国に対して包括的核実験禁止条約(CTBT)や核不拡散防止条約の批准を求め、「アメリカは、核兵器が存在する限り、敵を抑止し同盟国の防衛を保障するために、安全かつ効果的な核兵器保有を維持する」としている。また、北朝鮮やイランの核開発を「最も差し迫った大きな脅威」とし、「厳しい国際対応をとるべきだ」と強調した。つまり、アメリカだけが核を保有し、他国には認めず、逆らうものには「制裁を加える」というものである。
ブッシュ大統領が「テロのない世界」「大量破壊兵器の撲滅」といって、イラク、アフガン攻撃をやったように、「核拡散防止」といいながら現実に進行しているのは北朝鮮やイランなどアメリカに抵抗する国への制裁強化である。日本では、広島に隣接する岩国などの在日米軍基地の増強を進め、自衛隊のソマリアでの海賊退治、「北朝鮮」にたいする全面禁輸措置、同国船籍への臨検、日本全土へのミサイル配備など、まさに即戦争という一触即発態勢をつくっている。日本をアメリカの盾として動員し、再び核戦争の戦場にするという露骨な政策を進めている。
市民の中で憤激広がる 米国が核をなくせ
広島市内の被爆男性は、「オバマは実際にはなにもしていないのに、なぜ大騒ぎするのか。あの演説も自分の核は持っていて、他国には持たせないという従来通りの主張にしか聞こえない。これに被団協の坪井理事長などが“生きていてよかった”などと感動しているのは広島の恥さらしではないか」と疑問を語る。また、「オバマを広島に呼ぶというが、謝罪をさせるのではなく、広島をオバマ色に染めるというのはバカげている。あれほど残虐な兵器を使っておきながら謝罪もせず、核廃絶といって信用する市民はいない」と憤りを語っている。
親を原爆で失った被爆婦人は、「アメリカが手放さない限り核兵器がなくなるわけがない。オバマは北朝鮮に制裁を強めるといっているが、反発してミサイルが飛んでくるのは日本だ。アメリカのためにまた日本が犠牲になるということだ。岩国基地をはじめ広島にも川上、秋月に米軍弾薬庫があり、核兵器が持ち込まれている。非核3原則といった佐藤栄作がノーベル平和賞をもらったが、裏では核持ち込みの密約があった。核廃絶というのなら、日本から核を全部持ち帰れ」と怒りをあらわにした。
旧社会党の衆議院議員から広島市長となった秋葉市長は、アメリカ留学の経験もあり、「アメリカとの和解」を一貫して唱えてきた。小学校からの英語教育を全国に先駆けて導入し、原爆資料館を運営する平和文化センターの理事長に元キリスト教団体の英語教師だったアメリカ人を起用するなど、そのアメリカかぶれに市民は眉をひそめてきた。「アメリカこそ核を手放せ」の世論が高まる中でこの「革新」市長の「アメリカの代理人」としての姿が浮き彫りになっている。
戦争協力者の姿を暴露 「日共」・志位
これに負けず劣らずオバマにゴマをすっているのが、これまで口先で「対米従属を見直せ」などといってきた「日共」集団である。
「日共」集団の志位委員長は、オバマ演説を歓迎する親書をオバマ宛に送り、オバマからは「あなたの情熱をうれしく思う。私たちは核廃絶の目標に向かって具体的な前進をつくり出すために日本政府との協力を望んでいる」とする返書が届けられた。
これに歓喜した志位は、「アメリカ政府から公式に返書が来たというのは我が党の歴史上はじめてだ。聞く耳をもった大統領が生まれた」と大はしゃぎし、「我が党はアメリカのやることを全部否定的にみることはしない。アメリカは協力を望んでいる。日本政府は核兵器廃絶のための国際交渉に乗り出すべきだ」とオバマ公認の番頭という立場から日本政府をけしかけた。原水協には、オバマ親書の方向で「核のない世界へ」と題した署名活動を開始させた。
また、「日本共産党とアメリカ政府との公式のルートが開かれた。われわれはアメリカの政策に対する批判はもっているが、アメリカと敵対を望んでいるわけではなく、本当の友好関係を築きたい。我が党がアメリカと自由に意見を交換し、相互の立場を理解できる直接の関係ができたことは非常に意義深い」と喜びをかみしめている。
さらに、7月2日にアメリカ大使館が開いた独立記念日レセプションに招待された志位は、鼻息を荒くして馳せ参じ、「アメリカは日本にとって重要な隣国。1番いい機会をとらえてぜひ訪米も実現したい」と、小泉も顔負けの親米ぶりを振りまいている。
この「日共」集団の親米路線は目新しいものではない。終戦後、日本中を焼き払い、原爆を投下して日本を単独占領したアメリカ軍を「解放軍」と規定したことにはじまり、広島・長崎では原水禁運動を党利党略で利用してつぶしてきたことで知られ、両市民からダカツの如く嫌われている。以来、この路線は変わることはなく、全国で独立世論が高まる中でアメリカの核独占を助ける戦争協力者として躍り出たものである。
親米批判装い戦争煽る 田母神や宗教勢力も
一方で、あたかもこれら親米派と対立する「民族派」という格好で田母神元航空幕僚長や、幸福実現党などの宗教勢力が騒ぎ立てている。
田母神は、8月6日に原爆ドーム近くのメルパルクで「ヒロシマの平和を疑う」と題する講演をやる。そこで「核武装こそ真の平和」との持論をぶち上げるとしている。自民党議員などが役員をしている日本会議広島なる団体が主催し、「8月6日は原爆殉難者に追悼の祈りをささげる特別な日。戦後日本の運命を決定づけた象徴的な日をあえて選んだ」と説明しており、被爆市民から総反発を受けている。
市民の中では、「田母神が少しでも原爆の苦しみ、戦争の犠牲の大きさを知っているならまだしも、戦後生まれのボンボンがわざわざ八月六日に広島で核武装の講演会をやること自体、原爆犠牲者をコケにしているではないか」「日本人なら原爆犠牲者に代わってアメリカに抗議するのが当たり前ではないか」「アメリカの核の傘の下でアメリカに反抗しきらないくせに、核武装とはなにか。最近の右翼は、原爆投下の責任すら追及しないが、愛国を叫ぶなら、少しはアメリカにものをいったらどうか」と語られている。
宗教団体「幸福の科学」が立ち上げた幸福実現党は、「北朝鮮をミサイル攻撃せよ」などと宣伝カーを鳴らして回り、公明党・創価学会と並んで、「政教分離などクソ食らえ」の宗教団体のファシズム的体質をあらわにしている。
これら「左」「右」の勢力は、アメリカの庇護のもとでの「平和」という点で根っこが同じであり、市民からはダカツの如く嫌われている。
アメリカが「核廃絶」を唱えるなかで国際的には逆に緊張感が増し、北朝鮮をめぐって「先制攻撃」まで唱えられるという戦争の接近に対して、日本の平和と独立を願う世論はかつてなく高まっている。平和の仮面を付けた「禁・協」の正体が露わとなる中で、峠三吉の時期の私心のない原水禁運動が力強く発展する基盤が大きく広がっている。