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ウクライナ戦争の停戦急げ――戦局拡大と泥沼化の前に 和田春樹、伊勢崎賢治、羽場久美子ら学者・専門家グループがシンポジウム開催

「今こそ停戦を」シンポジウム(6月21日・東京)

 ロシア・ウクライナ戦争をめぐり、4月にG7首脳に対して「今こそ停戦を! Ceasefire Now!」の声明を発した学者・専門家グループは21日、東京・永田町の衆議院第一議員会館国際会議室でシンポジウムを開催し、G7広島サミットを前後した同キャンペーンの成果や国際的な動向、停戦に向けた具体的課題について論議を深めた。呼びかけ人である和田春樹・東京大学名誉教授、伊勢崎賢治・東京外国語大学名誉教授、羽場久美子・青山学院大学名誉教授、姜尚中・東京大学名誉教授、西谷修・東京外国語大学名誉教授、東郷和彦・元外務省欧亜局局長などのパネリストがそれぞれの立場から意見をのべ、日本でもウクライナ支援やアジアでの軍事緊張を口実にした防衛力強化や軍事化の動きが強まるなか、市民レベルで平和世論の構築に向けたキャンペーンを広げていくことを確認した。

 

軍事強化煽る同調圧力に抗して

 

 シンポジウムでは冒頭、4月5日に発表した「Ceasefire Now! 今こそ停戦を」「No War in Our Region! 私たちの地域の平和を」と題する声明(発起人32名)の賛同署名、意見広告の新聞掲載のための募金の集計結果について会事務局が報告した。オンラインを含む署名数は20日現在までに8021筆となり、G7サミット開催前の五月半ばに米国大使館に直接提出したほか、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダの各国駐日大使館、岸田首相にも郵送で届けられた。署名は今後も継続する。

 

 意見広告のクラウドファンディング(5月7日締め切り)の達成額は、435万2400円(343人)にのぼり、声明文を掲載した全面広告を『東京新聞』(5月13日付)に、英訳版の半面広告を『ジャパン・タイムズ』(5月19日付)に掲載した。

 

 続いて、呼びかけ人である和田春樹・東京大学名誉教授(朝鮮・ロシア史)が、G7広島サミットとそれを前後した世界の動向と世論の特徴について基調報告【頁下に別掲】をおこない、広島サミットの評価とともに、米国内での停戦を求める知識人の運動、中国やグローバルサウス諸国が停戦仲介に向けた行動を始めていることを明らかにした。

 

 その後、それぞれの参加者がウクライナ戦争についての見解をのべた。

 

二重基準の善悪二元論 姜尚中氏

 

姜尚中氏

 姜尚中・東京大学名誉教授(鎮西学院大学学長、政治学・政治思想史)は、「この戦争を見る目は、置かれている立場によってさまざまあるが、私自身の経験では、館長を務めている熊本県立劇場でゲルギエフ(ロシア人指揮者)の演奏会を予定していたが、彼は来日すらできなくなった。彼はドイツ・ミュンヘンフィルのマスターだったが、プーチンとの関係について“踏み絵”を迫られ、プーチンと昵懇であるという理由で解雇されたからだ。地方ですらクラシックバレエや音楽祭もできなくなっている」とのべ、文化・芸術活動の分野までロシア排斥の影響が広がっていることへの疑問をのべた。

 

 「イラク戦争のときにマクドナルドの不買運動が起きただろうか? 報道を見る限りプーチンがやっている行為は残酷だと思うが、それを非難するアメリカはイラクやアフガニスタンでどれだけの人を殺したのか? それを是認してきた側が、マッカーシズムの再来かと思うほどの善悪二元論を広げていることに違和感を禁じ得ない」と指摘した。

 

 また「リベラルや人道支援という錦の御旗のもとに、かつてNATOはユーゴを空爆した。ユーゴ紛争も朝鮮戦争も、内戦は共食いのような非常に残酷なものになった。現在のロシアとウクライナの残酷な戦いをみても、帝国の拡大主義というより内戦に近い状態で進んでいったのではないか」とのべ、ロシアや中国などユーラシアの国民国家を「遅れた残虐な東洋的専制主義」と決めつける西側の見方、冷戦後もNATOをロシアに向けて拡大した問題や内戦の要素を無視して、「理解しようとすることは(敵を)許すこと」とみなして戦争の要因を考察しない傾向の危うさを指摘した。

 

 「ナチスドイツを研究せずに“ヒトラーはダメだ”と呪文のように唱えている限り、なんら問題の解決に繋がらない。ドイツ30年戦争後にはウエストファリア体制、ナポレオン戦争後にはウィーン体制、第一次大戦後にはヴェルサイユ体制、第二次大戦後にはヤルタ体制があったが、米ソ冷戦終結後、戦後体制について当事者を交えたグローバルな安全保障体制が構築されなかった。全安保会議が機能しなかったという教訓に立ち、まずは停戦に持って行き、外交交渉による解決を図るべきだ。日本は平和的な問題解決の方向性を示せるはずなのにやらない。韓国もお先棒を担ぎ、軍事化が経済の中にベルトインされて今や世界有数の武器輸出国になってしまっている。日本がその方向に行くことを防ぐためにも、一刻も早い停戦が必要ではないか」との考えをのべた。

 

欧州の境界線巡る戦争 西谷修氏

 

西谷修氏

 西谷修・東京外国語大学名誉教授(政治思想史)は、「第二次大戦後、冷戦が終わり、あらゆる戦争が民族戦争になってから、戦争の主体が国家の軍ではなく民兵に変わり、より動物的なものへと変容した。アメリカが“テロとの戦争”を始めてからは、テロリストという用語が、権力側が殺しても罰されることのない人間、地上から抹殺しなければならないものの代名詞となった。基本的人権を謳った世界人権宣言や国際規範があろうとも、テロリストと認定したものには無条件で攻撃してもよいというレジュームが作り出された。これが戦後の国際秩序を根幹から壊した」と指摘した。

 

 そのうえで、「この戦争を止められるのは誰か。昨年2月にウクライナ自身が、NATOから加盟(軍の投入)を拒否され、“武器は送るから戦え”といわれ、すぐにトルコでロシアとの停戦交渉を開始した。そこで合意文書まで作られていたにもかかわらず、ウクライナは交渉代表団を“敵のスパイ”として処刑してしまった。停戦をいえば殺される――こうなると交渉を蹴って戦争を続ける選択肢しか残されない。だから“武器をよこせ”しかいえない。ウクライナとしては、ロシア本土を攻撃し、ロシア側が戦線を拡大することによって、NATOやアメリカが前面に乗り出してくれることを期待する以外にない状況にある」とのべた。

 

 「西側世界の情報源は、アメリカのネオコンが主宰する戦争研究所とイギリスの軍諜報部が発するものだけになり、ロシア軍の問題は出てくるが、ウクライナ軍について客観的な見方はほとんど出てこない。最近のウクライナ東部でのダム決壊も『アルジャジーラ』の報道を見れば、ロシア支配地域の方が被害が大きく、ロシアを戦術的に有利にするものではないことはすぐにわかる。ノルドストリームの破壊も含めて、誰がしたのかもわからないまま、ドローンによる空爆など悲惨な殺し合いが底なし沼のように続いている」として、次の様に見解をのべた。

 

 「国際的にはG7に従わないグローバルサウスの存在感が増している。だから西側は中国に分断線を設置し、そのネックになっているロシアを経済的に締め上げるが、それはグローバル経済のパイプなので、最も影響を受けるのが南側の諸国だ。これらの国々の多くは、西側先進国が200年間何をやっているのかを知っているし、その残骸のなかから這い上がってきた国だ。だから西側の分断政策にはのらない。利害が一致しないからだ」

 

 「ウクライナ問題は、欧州の境界線の問題だった。冷戦終結後、ロシアは西洋入りを望み、フランスとドイツはNATOを改組してロシアを含む広大な欧州を構想したが、アメリカがそれを認めなかった。欧州の独立を認めなかったのだ。そして、欧州をNATOの強い“かすがい”にして古い欧州を挟み込んだ。その敵としてロシアを設定したため、その境界はどうしてもロシアに迫っていく。ウクライナは独立当時はロシアと対立するような関係ではなく、いろんなものを共有していた。だが2008年にアメリカがウクライナとジョージアを将来的にNATOに組み込むと宣言して以降、それを追い風にウクライナ国内では反露ナショナリズムが台頭していくことになる。そのような歴史を見ず、ただ“強国が侵略して市民が犠牲になっている”という図式だけで見ることは歴史修正主義だ」

 

 「この戦争を止められるのは第三国だけであり、一緒になって武器供与をしている限りはそれができない。欧州の境界が問題である以上、ウクライナは独立した中立国として、欧州とロシア双方がサポートする状態にしなければならない。だが、トルコやインドが仲裁に動けば、“ウクライナのNATO入りに反対しているから怪しい”という圧力が働く。中国が仲介に動くと、リーダーシップを奪われることを恐れてアメリカは牽制する。国連のグテーレスが動いても“親ロシア的だ”といってさせない。であれば、あらゆる和平工作を潰してきたG7自身が、今後100年の計のために方針を転換し、第三の立場に立って調停しなければならない。それがG7が調停をしなければならない理由だ」。

 

露の立場理解は必須 東郷和彦氏

 

東郷和彦氏

 外務省外交官としてロシア駐在経験を持つ東郷和彦氏(静岡県立大学客員教授)は、この間、米国で開催された国際シンポジウムに参加した経験をのべた。

 

 そこではウクライナ戦争における米国の責任を問う発言をしているキッシンジャー(元米国務長官)、ミアシャイマー(米政治学者)、ノーム・チョムスキー(哲学者)などの名前を挙げ、「かれらは、ネオコン(新保守主義)の常套句である“プーチンは挑発されていないのに戦争を始めた”という画一的な見方を批判し、少なくともプーチンの立場からすれば刺激された面があり、そのロシアの立場を理解せずして、この戦争を理解することも終わらせることもできないと主張していることを紹介したが、よい反応は得られなかった」と報告。

 

 「ネオコン主導のアメリカの頑固さにどう向き合っていくか――。バイデンは極めつけのネオコンであり、次期大統領選に出るといっている。そうなればこの戦争があと6年続く可能性がある。バイデンはゼレンスキーに要求されると、米国内にある制限さえも少しずつ緩めて軍事支援を広げている。そのどこで間違いが起き、予期せぬ事態のなかから戦争が一つ上の段階に行くかわからない。そうなると代理戦争と明確に認識しているプーチンが一方的に負けるということはあり得ない。これをあと6年続けたら、さらに何人の人間が死ぬのかということだ。これを止めるためにも、声を大きくして停戦を求めることは大事なことだ」とのべた。

 

「これ以上犠牲増やさぬため」 東京空襲体験者も発言

 

 シンポジウムには、「今こそ停戦を」に賛同するジャーナリストや与野党の国会議員、一般市民も傍聴に訪れ、数人が意見をのべた。

 

田原総一朗氏

金平茂紀氏

 ジャーナリストの田原総一朗氏は、「全世界の人が一刻も早い停戦を求めている。それがなぜ実現しないのか。僕が知る限りでは、戦争の途中で停戦が実現したのは朝鮮戦争だ。停戦できるのはアメリカだ。アメリカは何をやっているのか! と怒りを感じる」とのべ、「G7前にアメリカから帰ってきた外務省幹部に聞けば、米国防総省はできる限りロシアを弱体化させたいと考えており、停戦は考えていないという。だが、バイデンの考えもその後変化しているのではないか」とのべた。

 

 同じく金平茂紀氏は、「非道を許すか許さないかではなく、目の前で起きている殺し合いをやめさせ、休戦や停戦という緊急避難の策がなければ、戦争が泥沼化し、どんどん死者が増えていく状況になることは歴史が証明している。6月16日、ベトナム戦争時に国防総省の分析官でありながら内部文書(ペンタゴンペーパーズ)を世に出したエルズバーグが亡くなった。彼が死の直前に発した最後のメッセージが、ウクライナの停戦だった。生前にそのことを伝えられなかったことが悔やまれる」とのべ、「G7広島サミットは、被爆者の核廃絶の声をかき消す壮大なメディアショーだった」と自戒を込めてのべた。

 

 第二部では、沖縄県選出の高良鉄美参議院議員が沖縄の現状とウクライナ問題を重ねて意見【別掲】をのべ、羽場久美子(青山学院大学名誉教授)伊勢崎賢治(東京外国語大学名誉教授)の2氏が、停戦に向けた実務的課題について意見をのべた【詳報次号】。

 

 質疑応答では、市民活動家やフリージャーナリストなどから「停戦は侵略者を利するもの」「ロシア制裁を強めるべきだ」などの意見もあがったが、東京空襲体験者の男性(88歳)は「私は国民学校3年生のとき、父は空襲の流れ弾に当たって亡くなった。葬式のために帰ってきたときに大空襲にあい、猛火の浅草を家族で逃げ回った。防空壕にいた20人のうち生き延びたのは私の家族5人だけだった。死者は十数万人、重傷は20万人。だが殺された人は後から発言することはできない。彼らは“殺してくれ”ではなく“生き延びよ”といったはずだ。お互いになんの恨みもない相手と殺し合うような戦争はやめろといったに違いない。ウクライナでも、個人的な恨みもなく戦わされ、亡くなった人たちやその遺族は双方の国にいる。そこで“人殺しを容認してはならない”というのなら、まず一番最初に戦争をやめろ、無条件で停戦しろということから始めなければならないと思う」と思いをのべた。

 

◇    ◇    ◇

 

【基調報告】

G7広島サミットと世界潮流の変化 東京大学名誉教授・和田春樹

 

和田春樹氏

 G7広島サミットの中心議題は、ウクライナ問題であった。G7のウクライナ問題についての基本的な協議は、ゼレンスキー大統領の広島到着前までに終わっていた。

 

 その基本路線は、G7広島サミット首脳声明(5月20日発表)に含められた「ロシアの違法な侵略戦争に直面する中で、必要とされる限り(as long as it takes)、ウクライナを支援する」というものであった。「ウクライナに関するG7首脳声明」(5月19日発表)でもくり返された「必要とされる限り」という表現は、両義的なものであり、あいまいなものだ。

 

 さらに、ウクライナ戦争の目的については次のように宣言した。「われわれは、ロシアに対し、侵略を止め、国際的に認められたウクライナの領域全体から即時、完全かつ無条件に部隊及び軍事装備を撤退させるよう強く求める。…ロシアによるウクライナ侵略は、国際法、特に国連憲章の違反を構成する。…われわれは、ロシアの部隊及び軍事装備の完全かつ無条件の撤退なくして公正な平和は実現されないことを強調する」。

 

 これはウクライナをこのたびのロシアの侵攻(2022年2月24日)以前の状態に戻せ、という主張である。極力あいまいにしているが「クリミア奪還」というウクライナの主張は明瞭には支持されていない。そのことは次のパートからも明らかになる。

 

 「われわれは、本年2月に、国連総会の『ウクライナにおける包括的、公正かつ永続的な平和の基礎となる国連憲章の諸原則』決議を改めて想起し、ウクライナの包括的、公正かつ永続的な平和を実現するための具体的な取組を引き続き追求していく。…国連憲章に沿った基本原則を平和フォーミュラにおいて掲げるというウォロディミル・ゼレンスキー・ウクライナ大統領の真摯な努力を歓迎し、支持する」。

 

 ここで論議されているのは、昨年11月にゼレンスキー大統領が提案した和平のための10項目フォーミュラであるが、このフォーミュラを丸ごと支持するというものにはなっておらず、あいまいな表現になっている。1991年のウクライナ独立時の国境の再確立を目指すというのがゼレンスキー大統領の勝利願望だが、それには留保がつけられている。

 

 G7サミットは、ロシアへ武器供与する第三者に対してこれを阻止し、罰する措置をとると威嚇した。東北アジア地域については、中国と北朝鮮に特別の注意を払っている。ただし、中国には、相対的には穏やかな姿勢が示された。これに引きかえ、北朝鮮に対しては、ミサイルの発射を不法な行為と判定し、国際的対処があると威嚇し、北朝鮮の完全かつ検証可能な、不可逆的な核兵器の放棄をめざすと宣言し、日本、米国、韓国からの対話のオファーを受けるように求めて、人権の尊重、国際人道援助団体の入国を認めよ、拉致問題を即時解決せよと促している。だが、新たな制裁措置はとられなかった。

 

 G7は、ウクライナ戦争を推進する体制を世界に拡大するために、グローバル・サウスの国々をサミットに招いたが、この点は成功しなかった。もっとも明確な異議を唱えたブラジルのルラ大統領は、ロシアとウクライナの双方に停戦を呼びかけたいと明言した。

 

 結局、G7広島サミットが果たしたことは、岸田首相がキーウで結んだウクライナ・日本グローバル・パートナーシップ(反ロシア同盟)を、広島サミットのオブラートにくるんで日本国民に支持させることであった。

 

米国で停戦求める動き

 

「ニューヨーク・タイムス」に掲載された意見広告(5月16日付)

 サミットを前後した世界の新たな動きの一つは、米国で「今こそ停戦を」の声が広がったことだ。私たちの意見広告に続き、5月16日の『ニューヨーク・タイムス』に意見広告「米国は世界の平和のための力であるべき」が掲載された。

 

 それは「ロシア・ウクライナ戦争は、完全なる災害だった。数十万人が死亡し、負傷した。何百万人もの人々が避難している」の言葉に始まり、「アメリカ人および国家安全保障の専門家として、私たちはバイデン大統領と議会に、特に制御不能になる可能性のある軍事的エスカレーションの重大な危険性を考慮して、外交を通じてロシア・ウクライナ戦争を迅速に終わらせるために全力を行使するよう要請する」とのべている。

 

 また「ウクライナでのこの悲惨な戦争の直接の原因は、ロシアの侵略である。それでも、NATOをロシア国境にまで拡大する計画と行動が、ロシアの恐怖を引き起こした」とのべ、「ロシア・ウクライナ戦争がウクライナを破壊し、人類を危険にさらす前に、この戦争を終わらせるための外交が緊急に必要」として、次の様に主張した。

 

 「ウクライナを『必要とされる限り』支援するというバイデン大統領の約束は、明確に定義されておらず、最終的には達成不可能な目標を追求するためのライセンスになると考える」「いかなる失格条件、禁止条件を伴わない即時停戦及び交渉を提唱する」。

 

 この意見に署名しているのは、デニス・フリッツ(アイゼンハワー・メディアネットワーク責任者、元米空軍司令部部長)、マシュー・ホー(同ネットワーク副責任者、元米海兵隊将校、国務省・国防総省官吏)らイラク戦争に強い批判をもつ退役軍人情報将校たちに加え、コロンビア大学のジェフリー・サックス教授、レーガン時代の駐ソ大使マトロックである。

 

 さらにG7広島サミット後、ワシントンの雑誌『Hill』(5月24日付)には、バイデン、プーチン、ゼレンスキーに戦争を止めて交渉してほしいと求める運動、「ウクライナに平和を連合」が意見広告を出した。

 

 中心になったのは、女性平和運動団体「CODE PINK」。これは2002年11月に、ジョディ・エヴァンスとメデア・ベンジャミンという2人の女性活動家がつくった草の根市民の平和運動組織で、イラク戦争に反対した。この団体が他の多くの団体組織に呼びかけて、3首脳に対する訴えを出す運動を開始した。すでにノーム・チョムスキー(哲学者)、ダニエル・エルズバーグ(軍事アナリスト)、ジェフリー・サックス、ロックバンド「ピンク・フロイド」のベーシストであるロジャー・ウォーターズ、黒人牧師ジェシー・ジャクソンなどが署名している。エルズバークは6月16日、92歳でこの世を去った。この訴えへの署名は、彼の生涯最後の行動だった。訴えは次のようなものだ。

 

 「人殺しと全面破壊をやめるときだ。今こそ停戦と平和交渉を。ウクライナの戦争は数万のウクライナ人とロシア人の命を奪い、数百万の人々を故郷から追い出し、大地と空気と水を汚染し、気候危機を悪化させました。戦争が続けば続くほど、螺旋状に高まるエスカレーションの危険は大きくなり、戦争、環境破壊、核戦争へ広がっていきかねない。全面的な軍事的勝利はロシアもウクライナも勝ちとることはできない。法王フランシス、国連事務総長グテーレス、ブラジル大統領ルラ・デ・シルヴァ、トルコ大統領エルドアン、中国の習近平らの人々が呼びかける停戦と合意による終結を、この破滅的な戦争にもたらすように支援する時だ。殺しをやめ、停戦に合意し、交渉を始めよ」。

 

 この呼びかけへの賛同と一般紙に意見広告として発表するための募金が呼びかけられ、6月10日現在で3800の署名を得たと発表されている。米国でもわれわれとほとんど同じ厳しい状況の中からの運動であることが伝わってくるが、ついに米国でも「今こそ停戦を」の市民運動が始まったのだ。

 

グローバルサウス諸国が仲裁へ

 

 グローバルサウスを中心にした停戦の動きについて見る。

 

 【中国】 すでに知られているように、中国の王毅外相は2月14日から22日までフランス、イタリア、ハンガリー、ロシアを歴訪し、ウクライナ危機の政治的解決という立場を表明して回った。最後のロシアでは、王毅の発言は歓迎された。2月24日には、中国の和平提案の概要が報道された。以下の12項目である。

 

 ①国の主権を尊重する。②冷戦思考を棄てる。③衝突を停止、戦いを休止する。④平和的対話を開く。⑤人道の危機を解決する。⑥民間人と戦争捕虜を守る。⑦原子力発電所の安全を守る。⑧戦略的リスクを減らす。⑨食糧の対外輸出を保障する。⑩一方的な制裁は停止する。⑪産業チェーンとサプライ・チェーンの安定の確保。⑫戦後再建の推進。

 

 これをウクライナは拒否し、ロシアは好意的であったことは知られている。ロシア軍の撤退が入っていないことを批判する人もいるが、停戦を提案する側としてそれに慎重になるのは当然のことだと思われる。

 

 【インドネシア】 6月3日、第20回アジア安全サミット(シャングリラ対話=国際戦略研究所IISS主催)で、インドネシアのプラボウォ・スビアント国防相が、ウクライナ・ロシアに即時和平交渉を開始するよう促す宣言を求め、次の「和平プランのアウトライン」を提示した。

 

 1、現場での停戦。現在地点で両衝突者が現場で敵対行為を停止する。
 2、両者が前進地点から15㌔後退し、そこに新非武装地帯をつくる。
 3、国連のモニター監視部隊を編成し、この新非武装地帯に沿って即時配備する。
 4、国連が紛争地域で、それらの地域の大多数の住民の願望を客観的に確認するために住民投票を組織し、実行する。

 

 国防相は、「インドネシアは国連が主宰する平和維持活動の枠内で軍事的監視団と軍部隊を派遣する用意がある」と発言。朝鮮戦争休戦の先例を見習うべきだと指摘した。

 

ウクライナ戦争の停戦案と監視団を送る意志を示したインドネシアのプラボウォ国防相(3日)

 【アフリカ諸国】 6月16日、G7広島サミットにも参加したアフリカ連合(AU)議長国コモロの大統領アザリ・アスマニと、南アフリカ連邦共和国大統領ラマポーザなどのアフリカ7カ国首脳がウクライナとロシアを訪問し、独自の和平提案を説明した。

 

 ①外交による終結。②交渉の早期開始。③緊張緩和。④国連憲章による主権尊重。⑤全当事者の安全保障。⑥穀物・肥料の安全輸送。⑦人道支援。⑧捕虜交換と子ども帰還。⑨戦後復興支援。⑩アフリカとの協力。以上の10項目だ。

 

 G7広島サミットにも参加したアフリカ諸国の首脳がサミット後にこのような動きを始めていることは注目に値する。ゼレンスキーは「占領者がわれわれの土地にいる今、ロシアと交渉を認めることは、戦争を凍結し、痛みと苦しみを凍結することだ」として、これを拒否。一方のプーチンは「交渉しないと宣言しているのはウクライナの方だ」とのべた。

 

 【アメリカ】 先日、ブリンケン米国務長官が中国を訪問した。その目的についてはさまざまな見方はあるが、6月19日の記者会見でブリンケンは、ロシアのウクライナ侵略を巡り、中国が他の国々と建設的な役割を果たすことを歓迎すると表明した。つまり、ブリンケンは、中国にウクライナ戦争停戦の仲介を進めるよう要請しに行ったのではないか。アメリカの中にもそのような考え方があることが顕在化したといえる。

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この記事へのコメント

  1. 鈴井孝雄 says:

    この記事を読んで、とても分かりやすく集約されていて、ありがたく感じました。
    姜尚中さんの話を興味深く聞きました。また、伊勢崎賢治は、このウクライナ戦争がはじまったころ、ロシア派と見られて批判する人がいましたが、それは全く違う、伊勢崎賢治さんの主張が正しい、と改めて思いました。東郷和彦さんは、同じくウクライナ全面支持の人たちからは批判された方だと思いますが、やはり、停戦を求めることが正しい日本の在り方だと思いました。

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