佐賀空港への陸上自衛隊オスプレイ配備計画をめぐり、現在佐賀県と防衛省(九州防衛局)は空港建設時に県と有明海漁協が結んだ「自衛隊とは共用しない」とする公害防止協定の見直しを漁協に求めている。8月25日から9月1日にかけて、公害防止協定の当事者である漁協内の6支所(南川副、大詫間、早津江、広江、東与賀、諸富)の組合員に対して説明会を開催した。これまで公害防止協定見直しにかかわる協議は一切非公開で、15支所の運営委員長と役員のみで構成されるオスプレイ等配備計画検討委員会と防衛省、県の三者だけの密室でおこなわれてきた。組合員に対する説明は一切なく、防衛省のいいなりとなって海を売り渡そうとする漁協本所と県に対し、どこの説明会会場でも怒りの声が噴き上がるものとなった。
1日には南川副支所の組合員に対する説明会がおこなわれ、組合員65人が参加した。説明会は予定の1時間を大きくこえ2時間半にも及んだ。参加者によると、賛成意見が出たのは1人だけであとは反対の意見が圧倒したという。
漁協は公害防止協定の見直しに関して、防衛省に対して、①計画予定地の工事期間中も含めた排水対策の具体的な考え方、②計画予定地の土地の価格(目安)、③計画予定地西側の土地取得についての考え方、の三条件を示すよう求めている。
防衛省は排水対策として、仮設調整池や貯留槽を設置し水質処理をしたうえで流量を調節し、空港周囲の場周水路を使って空港西側にある国造搦樋門から排出する考えを示した。そして真水を排水することによるノリ養殖への影響対策として、国造搦樋門において海水と混合させる措置を実施し、塩分濃度のある水を海に流すとした。
またコンクリート工事のさいに発生するアルカリ成分はノリ養殖に大きな影響を与える。そのため漁期間中は生コンクリートの打設工事はおこなわないとしている。
そして現在飛行を停止しているアメリカ空軍のCV22オスプレイについて、「米空軍のCV22と海軍、海兵隊が持っているMV、CMV、自衛隊のV22は運用の仕方が根本的に違う。まず自衛隊と海軍、海兵隊、これらは輸送、人や物を運ぶために使うオスプレイだ。一方で空軍のオスプレイは機体は一緒だが、使い方が根本的に違う。特殊作戦といわれる非常に激しいたたかいの場で使われるオスプレイだ。使い方の激しさが全然違う。空軍に関しては非常に激しい使い方をするという特殊な事情がある。クラッチがかみ合わなくなるのが不具合の原因だが、このクラッチにかかるトラブルというのはすでに承知をしている問題で、安全マニュアルもすべてある。その点も踏まえしっかりと点検をしたうえで自衛隊のオスプレイについては順次飛行を再開していきたい」とのべた。
漁業者らの訴え ノリ養殖の被害は甚大
ノリ養殖をおこなっている男性は「これまで私たちは諫早干拓、筑後大堰など有明海に関する国の大きな事業を経験し、国交省、農水省からの説明を受けてきた。影響はないと各省がいっていたが、しかし今現在影響があるどころか西南部の方においてはノリの大不作で生活するのさえ困る状況に陥っている。そして影響があれば補償をするといっていたが、因果関係がないといってその補償すらしない。私たちノリ漁師は今まで有明海でメシを食わせてもらっていた。私たちの時代は終わるが、今日参加している若い組合員たちはあと20年、30年この仕事を続けていかなければならない。今でも西南部の大不作で明日の生活も脅かされる状況だ。それなのに今度は東部地区までが自衛隊の駐屯地によって有明海が汚染され、墜落事故や風評被害などノリ漁民は将来の不安材料を抱えている。われわれは命と生活をかけて今までノリ養殖の仕事をしてきた。やっぱり後々まで引き継いでもらっていくのが私たちの使命だ。防衛省の方も国防のために大事ということはわかるが、そこに住んでいる人間のことも考えてもらいたいと思っている。これから特に若い後継者のために、みなさんもよろしくお願いしたい」と訴えた。
そして「国際問題も防衛環境もロシアのウクライナ侵攻や台湾問題など、山口祥義佐賀県知事がオスプレイ受け入れを表明した4年前とは大きく変わってきている。沖縄の宮古島や石垣にも次々に自衛隊基地ができている。佐賀空港も沖縄の各諸島や馬毛島、岩国と繋がって、防衛というよりやられる前にやってしまえというような空気が強まっているのを感じる。ウクライナ侵攻を見てもわかるように一番最初に軍事施設がやられる。もし佐賀空港に自衛隊基地ができれば、佐賀空港も狙われる基地の一つになるのではないか。そうなるとノリの話どころではなく、命の問題だ。万が一佐賀空港に基地ができれば逃げるところはない。ウクライナは地続きだからあちこちの国に逃げられるが、日本はどこに逃げるのか」とのべた。
別の漁師も「排水対策といって海水と混ぜて塩分濃度を調節して流すというが、もし水がノリに合わなかった場合、余計に水量が増して被害が増えるということも考えられる。そもそも三条件だけでなく不安要素はいくらでもある。三条件しか話し合わないというのはあまりにも一方的だ」と防衛省に対して指摘した。そして公害防止協定のできた経緯として「6漁協のトップの人たちが身を削って公害防止協定をつくった。自衛隊とは共同運用しないということで佐賀空港ができている。これは先人たちの遺言でもある。公害防止協定を作った先人たちは先見の明があったということだ。それをなんで変更して自衛隊が割り込んでくるのか。佐賀県と漁業者だけでなく周辺自治体や農業団体も加わっている公害防止協定をそんなに簡単に変更してもらっては困る。私たちの生活が奪われるのだ。山口県知事はこれまでまったく説明もコメントもしていない。今ここに山口知事を連れてくるべきだ」と声を上げた。
別の漁師は「これまで出た意見はほとんどが反対で、私もはっきりいって反対だ。排水問題などがいわれているが、それらはすべてオスプレイが来たときの話であって本来ならその話はしたくないのが私の意見だ。三条件といわれているが、組合員は今までこの三条件を満たしたら公害防止協定を見直すことを考えてもいいかと問われたことはない。組合員を置き去りにしてオスプレイ検討委員会が一人歩きをしている。これはどういった経緯で進んでいるのか」と本所から来ていた江頭専務に問いただした。
そして「今日は公害防止協定のことについて話し合おうと思ってここに来ているが、それなのであれば防衛局は関係ない。公害防止協定は県と漁協が結んでいるものだ。防衛局長がいくら排水問題について説明しても公害防止協定の当事者である漁協と県が話さないと話は進まないわけだ。もしかしたら運営委員長レベルでそういった話があっているのかもしれないが、私たち組合員には何一つない。公害防止協定の当時の資料を見ると、第一条に『空港建設地が産業上極めて重要な位置に存することを十分に認識し、この協定に定める事項を誠実に履行し、公害の未然防止に最大限の努力をする』と書いてあり、二条には『現環境の改変を防止するため諸法令の規制遵守はもとより環境基準の維持に努めるものとする』と書いてある。環境基準の維持に努めるのが県の役目であり、それを守っていくうえでは自衛隊と共有しないというのが一つの結論なのではないか。公害防止協定の見直しをいわれるのであれば、県がもう少し組合員と向き合うべきであり、防衛局はここでは関係ない」とした。
公害防止協定見直し 軍事化なら攻撃目標に
ほかの組合員からも「組合員が何も知らないうちに報道によって公害防止協定を見直す方向ということばかりが流れてくる。南川副としてもそろそろどちらの方向で進むのか決めなければならないと思う。常会なりで組合員の意見を拾い上げ、反対ということでまとまるのであれば運営委員長には検討委員会でとことん反対してもらいたい。今のままでは何の意見も拾われないままに見直しの方向ということだけが一人歩きしている。実際検討委員会はいったいどういう雰囲気になっているのか、本所としてはどっちに行くつもりなのか」と問いただす声が上がった。
本所の江頭専務は「一番ベースは6支所の判断だ。各支所で議論し判断を出していただけたらと思う」とのべた。
若手漁師からは「公害防止協定の見直しの三条件というのは誰がどうやって決めたのか。そしてどうやってこの三条件をクリアしたというジャッジをするのか。今日は排水に関しての説明を受けただけだが、このオスプレイ問題に対し僕たち組合員がどのように考えているのかというのを組合の上の人たちが理解しているのかが疑問なのだ。それを伝えられるような場はもうけられるのか」「オスプレイが来ることによってノリの生産をしている僕たちにどのようなメリットがあるのか。こっちも生活がかかっている」と声が上がった。
また漁協本所に対し「オスプレイ問題について真剣に考え、たくさんの人の意見を拾い上げるのなら、各支所の運営委員長だけでなく若手など検討委員会の人数を増やすべきだ」との意見も上がった。
そして防衛省に対し「どれだけ反対すればよそにオスプレイを持って行ってくれるのか。何年反対したら諦めるのか」「漁協が公害防止協定の見直しをしないと決定すれば防衛省はこの計画を打ち切るのか」との質問もおきた。そして防衛省と漁協本所に対し「これで説明会を終わりにするのではなく、組合員同士の話し合いが必要だ」との要請が上がった。
そしてすでに佐賀空港が建設されて以来、排水がおこなわれている国造搦樋門の付近では、低塩分海水や食害によってノリ葉体が消失するバリカン症と呼ばれる被害が増えていることが訴えられ、諫早干拓や筑後大堰の国策を経験してきた漁師は、「空港ができて24年間、バリカン症でどれほどの被害が出ていると思っているのか。私の実感としては24年間一組合当り100億円、計600億円ほどは被害が出ていると思う。新たに駐屯地を建設する話を持ってくる前に、このバリカン症に関する補償が先だ。これ以上排水が増えれば樋門の沖にある南川副が種付けをおこなっている海域にまで影響が出る可能性もある。そうなればノリ養殖は終わりだ。オスプレイは米軍では飛行停止になっているし、墜落したらいろんな物質がまき散らされるかもしれない。ノリは嗜好品で絶対必要ではないため、なにか事故があったさいのイメージダウンは想像以上だと思う。知事がこのオスプレイの駐屯地について勝手に受け入れを表明したのだから知事にしっかりいっておいて下さい。公害防止協定は県と漁民の話し合いで決まるものであって防衛省はその次だ」と話した。
説明会の様子を見守っていた川副町に住む自治会関係者の男性は「漁協が公害防止協定を見直す方向で動いているという報道ばかりで不安になっていたが、どこの会場でも反対意見が圧倒しているようで安心した。絶対に佐賀空港を軍事基地にしてはいけない。防衛局長が米軍は来ないということを明文化してもいいといったと報道で見たが、そもそも“自衛隊とは共用しない”と一筆書いているのに強引に見直しをさせて無効化させようとしているのが今の公害防止協定だ。明文化したところで何の当てにもならないし、日米地位協定があるかぎり、アメリカが佐賀空港を使いたいといえば日本は断ることができない。空軍が飛行を停止するようなオスプレイを住民の頭上で飛ばすなどあまりにも横暴だ。山口県知事はオスプレイの安全性が確認されたといって2018年に受け入れを表明しているのだから、その安全性が崩れたときには説明をする責任があるはずだ。オスプレイ配備の問題は自治会も何度も住民説明会を求めているのにまったく耳を貸そうとしない。知事が住民に対して説明をおこなうべきだ」と憤りを語っていた。
6支所の説明会を終えることで漁協は近日中におこなうとしていた「オスプレイ等配備計画検討委員会」で協定見直しの可否を判断する見通しとなっていたが、各会場で反対意見が圧倒したことでその見通しは難しくなっている。
南川副支所は検討委員会開催前に漁協6支所の運営委員長らで会合を持つことを本所側に要請した。