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沖縄・南西諸島を戦場にするな 日本列島を対中攻撃の盾にする米国 煽られる台湾有事

 自衛隊と米軍が台湾有事を想定した日米共同作戦計画原案を作り、年明けの日米安全保障協議委員会(2+2)で正式な計画策定作業開始を決定したことが表面化している。この日米共同作戦計画は有事の初動段階で、米海兵隊が鹿児島県から沖縄の南西諸島に攻撃用臨時拠点を約40カ所設置し、そこから対艦ミサイルで洋上の中国艦隊を攻撃する実戦シナリオだ。辺野古への新基地建設計画も、馬毛島への米軍空母艦載機訓練場建設も、台湾に近い離島にミサイル部隊を配備する計画も、みなこの南西諸島一帯を戦場にするシナリオの具体化である。こうした戦争準備が地元住民の意志を無視して本格化しており、全国でも座視できない問題になっている。

 

 

 昨年末、自衛隊と米軍が台湾有事を想定し、鹿児島から沖縄地域一帯にまたがる南西諸島に米軍の攻撃用臨時拠点を多数設置する日米共同作戦計画原案を策定したことが明るみに出た。

 

 その主な内容は次のとおりだ。

 

▼台湾有事の緊迫度が高まった初動段階で、米海兵隊は自衛隊の支援を受けながら、鹿児島県から沖縄県の南西諸島に臨時の攻撃用軍事拠点を設置する。


▼米海兵隊の攻撃用軍事拠点を置く候補地は、陸上自衛隊がミサイル部隊を配備する奄美大島や宮古島、ミサイル部隊配備予定の石垣島を含む約40カ所(大半が有人島)。


▼米海兵隊が攻撃用軍事拠点を置くのは、中国軍と台湾軍のあいだで戦闘が発生し、放置すれば日本の平和と安全に影響が出る「重要影響事態」と日本政府が認定した場合。


▼米海兵隊の攻撃用軍事拠点には対艦攻撃ができる海兵隊の高機動ロケット砲システム「ハイマース」を配置する。自衛隊に輸送や弾薬の提供、燃料補給などの後方支援を担わせ、空母が展開できるよう中国艦艇を排除する。それは事実上の海上封鎖になる。


▼台湾本島の防衛ではなく、部隊の小規模・分散展開を中心とする米海兵隊の新たな運用指針「遠征前方基地作戦」(EABO)に基づいて共同作戦を展開する。


▼年明けの日米安全保障協議委員会(2+2)で正式な計画策定作業開始を決定する。

 

 この共同作戦計画原案最大のポイントは海兵隊が新編する「遠征前方基地作戦」(EABO)と自衛隊の一体化である。EABOとはミサイルやセンサーを装備した海兵隊の小規模部隊が島々を分散して移動し、対艦ミサイルで洋上の中国艦隊に攻撃を加えた後、すぐに撤収する奇襲攻撃作戦が主な内容だ。それは普通に生活している有人島の住民に紛れ込んで小規模の攻撃拠点を素早く配備し、どこの島から攻撃されるか分からない状態をつくって中国艦船を撃沈していくシナリオである。EABOを担う部隊は「海兵沿岸連隊」(MLR)で沖縄の第三海兵遠征軍に2023年までに新設する予定だ。

 

 米軍はもともと海空軍が中国ミサイルの射程圏外から攻撃する「統合エアシーバトル」で対抗する構想を描いてきたが、ミサイル開発能力は中国の方が進んでいる。そのなかで「中国軍が戦闘初期に南西諸島を占拠すれば台湾周辺海域に空母を展開するのが困難になる」と予測し、中国軍の射程圏内に踏みとどまりながら、米軍の空母や爆撃機が来援できる条件をつくる作戦に転換した。それがEABO構想だった。

 

 そして昨年12月にEABOを想定した初の日米共同訓練「レゾリュート・ドラゴン21」を実施した。訓練実施場所は王城寺原演習場(宮城県)、霞目駐屯地(宮城県)、岩手山演習場(岩手県)、八戸演習場(青森県)、矢臼別演習場(北海道)で東北と北海道が舞台となった。岩手山演習場に沖縄の海兵隊が「ハイマース」を持ち込んでEABO演習を実施し、ここに陸自も対艦誘導弾を持って合流する内容だった。

 

 それは南西諸島のEABOの実動部隊が海兵隊だけにとどまらず、自衛隊も総動員する計画であることを浮き彫りにした。

 

隠し続ける日米政府 日米共同作戦計画

 

 こうしたなか1月7日に日米政府が発表した日米2+2共同声明は、かつてなく好戦的な内容になった。前回の日米2+2共同声明は中国を名指しで非難し「地域の他者に対する威圧や安定を損なう行動に反対する」と指摘していた。ところが今回は「地域における安定を損なう行動を抑止し、必要であれば対処するために協力することを決意した」と明記した。さらに「日本は、戦略見直しのプロセスを通じて、ミサイルの脅威に対抗するための能力を含め、国家の防衛に必要なあらゆる選択肢(敵基地攻撃能力保有を想定)を検討する決意」も表明した。

 

 そして「日米はこのプロセスを通じて緊密に連携する必要性を強調し、同盟の役割・任務・能力の進化及び緊急事態に関する共同計画作業についての確固とした進展を歓迎した」と明記した。この「共同計画作業」こそ、南西諸島を戦場にする日米共同作戦計画にほかならない。

 

 しかし日米政府はこうした計画の詳細を隠し続けている。日米2+2の後の記者会見で岸防衛相は、「共同発表に“共同計画作業についての確固とした進展”とあるが、台湾有事を想定した作戦の策定作業に合意したという事実はあるのか」と問われると「2015年に策定された“日米ガイドライン”の下で、日米両政府は、“共同計画”を策定・更新することとなっている。その策定状況や具体的内容、詳細については、事柄の性質上、お答えは差し控えさせていただいている」と返答。さらに「文書中の“共同計画”に、台湾有事を想定した共同作戦計画も入っているのか」「文書中に“進展”とあるが、どういった進展が具体的にあったのか教えてほしい」という問いにも「お答えを差し控える」とくり返した。

 

 この共同作戦計画については、昨年12月24日に玉城デニー沖縄県知事が防衛省で鬼木誠防衛副大臣と面会し「台湾の有事で、再び攻撃の目標になることがあってはならない」と表明し、防衛省が計画の詳細を明らかにするよう要求している。しかし詳細はまったく明らかになっていない。

 

 台湾問題をめぐっては1945年に、当時台湾を占領・統治していた大日本帝国が第二次世界大戦で無条件降伏して以後、一貫して「中国の問題」として扱われてきた。中国革命をへて1949年に中華人民共和国が成立した後、旧中華民国政府が米国の後押しを受けて台湾に立てこもり「こちらが本当の中国だ」と主張したため、何度も中台間で軍事緊張の危機に至った経緯はある。だが中国側の主張、台湾側の主張の違いは当事者間で解決する以外になく、中国の内政問題である。そのため日本が1972年に中国と国交を正常化して以後の日米首脳間文書では、台湾問題に言及してこなかった。

 

 ところが昨年4月の日米首脳会談では、こうした歴史的経緯や対応を覆し、日米が共同で台湾問題に介入する意図を共同声明に明記した。そして年明けの日米2+2では国民にはまったく具体的な内容を知らせないまま、沖縄や南西諸島を台湾有事の戦場として活用する実戦シナリオの正式策定開始にゴーサインを出している。

 

自衛隊を動員する態勢

 

 これまで中国も米国も日本を挟んで主要軍事基地の強化を進めてきた。中国は北から旅順、青島、寧波、福州、湛江、楡林等海岸線の都市に軍事拠点を配置し、米軍はそれに対抗して第一列島線上に岩国、佐世保、沖縄等の軍事拠点を配置し、第二列島線上には三沢、横須賀、厚木、座間、グアム等の軍事拠点を配備してきた。

 

 ところが米軍の地上戦要員はアフガンやイラクへの侵攻等たび重なる戦争で犠牲者が続出し、人員不足に陥った。しかも米国の国家財政は巨額戦費がかさんで火の車となり、米軍の維持自体が困難な状態となった。そのため海外の米軍基地再編に着手し、約30年前に217万人(1987年)いた米軍の総兵力が今では77万人減の約140万人体制(2021年)になっている。米軍は空軍の爆撃能力や海軍の攻撃力では中国を凌ぐと見られるが、地上戦をたたかえる力はない。空爆で反米的な国家を転覆しても、壊すだけで統治する力はないのが実態だ。

 

 その一方で中国の軍事予算は年々増えており、その総兵力は約234万人に及び米軍を90万人以上上回っている。陸上戦力(戦車=1万3000両)、海上戦力(艦艇=462隻、空母2隻と潜水艦70隻含む)、航空戦力(戦闘機=1200機)の装備増強は著しい。人口は約14億人で、兵役が2年あるため兵役経験者も多い。いずれにせよ中国の軍事力は、最終的な勝敗を決する地上戦要員が米軍より圧倒的に多いのが特徴である。

 

 こうしたなかで米国が真っ先に着手したのは、同盟国の兵員を総動員できるようにし、中国に対峙させる軍事戦略だった。

 

 日本では約23万人規模の自衛隊を米軍が直接指揮するため、自衛隊と米軍の司令部を一体化した。米軍再編計画で首都圏に陸・海・空軍の米軍司令部を配置し、そこに自衛隊の陸・海・空部隊司令部も移転させた。そして2015年の「日米防衛協力の指針」(ガイドライン)改定で、「切れ目ない日米協力」や「地球規模での日米協力」を可能にし、自衛隊がいつでもどこでも米軍と共同作戦を実施する態勢を整えた。同時に「日本に対する武力攻撃への対処行動」について自衛隊と米軍の役割を定め、①空域防衛作戦、②弾道ミサイル攻撃対処作戦、③海域防衛作戦、④陸上攻撃対処作戦、については自衛隊が「主体的」に軍事作戦を担い、米軍が「支援及び補完する作戦」を担うことを規定した。

 

 この日米ガイドラインに基づき、「尖閣有事」や「台湾有事」に向けた軍事配置を本格化させた。まず急いだのが第一列島線上の米軍岩国基地~沖縄基地間に位置する九州地域と、沖縄から台湾を結ぶ南西諸島への軍備強化だった。2016年以後の主な自衛隊新編の動きは次のようになっている。

 

【2016年】
▼空自第九航空団新編(那覇)
▼陸自与那国沿岸監視隊新編(与那国)

 

【2017年】
▼空自南西航空方面隊新編(那覇)
▼空自南西航空警戒管制団新編(那覇)

 

【2018年】
▼陸自水陸機動団新編(長崎・相浦)

 

【2019年】
▼陸自奄美警備隊新編等(奄美)
▼陸自宮古警備隊新編(宮古島)

 

【2020年】
▼空自警戒航空団新編(浜松)
▼陸自第七高射特科群移駐(宮古島)
▼陸自第三〇二地対艦ミサイル中隊新編(宮古島)

 

 こうして台湾や尖閣諸島のすぐそばにある与那国島(沖縄県)では2016年から陸自沿岸監視隊約170人と空自移動警戒隊がにらみを利かせ、戦闘機も艦船も捕捉可能なレーダーで監視する態勢を構築した。さらに陸自ミサイル部隊を宮古島(沖縄県)に約710人、奄美大島(鹿児島県)に580人配備した。今後は石垣島(沖縄県)にも地対空ミサイル部隊(約600人)を配備する計画だ。

 

 それだけでなく沖縄には自衛隊を約8000人規模(陸自=約2480人、空自=4040人、海自=1450人)で配備している。沖縄を含む南西諸島近辺では約1万人規模の自衛隊部隊を配置する計画が動いている。

 

岩国を起点に軍備増強 九州全域で

 

 同時に米軍岩国基地を起点にした九州全域の軍備増強に拍車がかかっている。

 

 米軍岩国基地は2010年に「沖合移設」と称して増設した滑走路(2440㍍)の運用が始まり、滑走路二本体制へ移行した。さらに普天間基地からの空中給油機15機移転(2014年)、厚木基地からの空母艦載機59機移駐(2018年)を経て、現在は垂直離着陸可能なステルス戦闘機F35Bを追加配備している。こうして岩国基地は今や、米軍関係者約1万200人、軍用機約120機と2500㍍級滑走路二本を擁する巨大基地となり、原子力空母、大型強襲揚陸艦、ヘリ空母などを本格展開するために欠かせない拠点に変貌している。

 

 岩国基地増強とセットで米空母艦載機の陸上離着陸訓練(FCLP)基地を馬毛島(鹿児島県西之表市)に建設する計画が国主導で動き出している。地元自治体や住民の意志を無視して勝手に「整備候補地」を「整備地」に決定し、環境影響調査や関連工事の手続きに着手したため、地元の西之表市長も鹿児島県知事も強く反発している。

 

 馬毛島への基地計画は当初、①空母艦載機が陸上滑走路を空母甲板に見立てて離着陸をくり返す出撃前訓練地を整備する、②現在のFCLPは東京から約1200㌔㍍離れた硫黄島で実施しているため、馬毛島に変わると岩国から約400㌔㍍になり出撃しやすくなる、と国側は説明した。

 

 ところが現在提示している計画は、通常滑走路と横風用滑走路二本を備え、多種多様な訓練施設(連続離着陸訓練、模擬艦艇発着艦訓練、不整地着陸訓練、機動展開訓練、エアクッション艇操縦訓練、水陸両用訓練、PAC―3機動展開訓練、空挺降投下訓練等)も完備した自衛隊の拠点基地整備だ。しかも同基地には自衛隊員が約200人常駐する予定で、西之表市に隣接する中種子、南種子両町にも物流倉庫や自衛隊へリポート、自衛隊宿舎を設置する予定だ。これは馬毛島に米軍訓練場を設置すると欺いて種子島を丸ごと自衛隊基地に作り変え、いずれはEABOの臨時攻撃拠点として米軍に差し出すものだといえる。

 

 さらに空自築城基地(福岡県築上町)と空自新田原基地(宮崎県新富町)を「普天間基地並み」に増強する計画も動いている。築城基地は現滑走路(2400㍍)の海側を約25㌶埋め立て、普天間基地の滑走路と同じ2700㍍(約300㍍延伸)にし、駐機場、燃料タンク、火薬庫、庁舎、宿舎、倉庫も新設する計画だ。すでに2700㍍の滑走路がある新田原基地には弾薬庫等を新設しF35B部隊を配備する方向だ。築城も新田原も「いずも」等国産空母との連携を見込んだ基地機能強化が進んでいる。

 

 あわせて自衛隊の地上戦要員を投入する態勢作りも進行している。2018年には、陸自相浦駐屯地(佐世保市)に地上戦専門部隊である水陸機動団(日本版海兵隊)を発足させ、昨年3月には熊本県の陸自健軍基地に電子戦部隊(80人規模)を新設した。この電子戦部隊は水陸機動団とともに前線へ緊急展開し、レーダーや情報・通信を妨害する部隊である。この水陸機動団や電子戦専門部隊を迅速に戦地へ送り込むために、佐賀空港へのオスプレイ配備計画も動いている。九州地域や南西諸島一帯で進む個別パーツをすべて組み合わせると、南西諸島を舞台にした危険極まりない日米政府が策定した戦争シナリオの全貌が浮かび上がってくる。

 

第二列島線も軍備増強 「オーカス」具体化

 

 こうした対中国を想定した軍備増強は日本国内だけにとどまらない。象徴的なのは昨年9月に、米・英・豪三カ国が発足させた軍事同盟「AUKUS(オーカス)」の動きだ。豪仏間の交渉をキャンセルさせ、米英が強引に豪州の原子力潜水艦導入を支援することを決定し波紋を呼んだ。

 

 これもインド太平洋地域に展開する中国軍の潜水艦(56隻)より米軍の潜水艦(10隻)の方が少ないという事情が背景にあった。原潜は燃料補給がないため通常潜水艦より長期間航行が可能だ。豪州に原潜を保有させれば、豪州から南シナ海や東シナ海に原潜で応援に駆けつけることができる。オーカスは門外不出の原潜技術を提供してでも対中国の援軍を増やしたい米国の軍事戦略の具体化だった。

 

 さらに米国防総省は昨年11月末、「グローバル・ポスチャー・レビュー」(GPR・地球規模の米軍再編)の概要を公表した。これは「中国の軍事的進出に対処する」ため、グアムと豪州の米軍基地を増強することが中心的な内容である。そこでは豪州に戦闘機や爆撃機をローテーションで配備し地上部隊の訓練を実施すること、グアムなどの太平洋地域では燃料や弾薬の貯蔵庫建設や飛行場改修を進め、兵站機能を強化する計画を盛り込んでいた。それは日本列島を軸にした「第一列島線」の軍備増強に加えて、いよいよ「第二列島線」の軍備増強まで本格化させ始めたことを意味している。

 

 米国と中国の覇権争いが軍事面にとどまらず経済面でも先鋭化していくもとで、日本全土、とりわけ南西諸島、九州全域の軍備増強に拍車がかかり、戦争の危機が絵空事では済まされない事態になっている。しかしこれは中国側につくか、米国側につくかというような問題ではない。同時に台湾問題をめぐって中国を支持するか、米国を支持するかという問題でもない。

 

 もっとも危険なことは、日本列島が盾にされて他国にミサイルを向けるという軍事配置が国民の意志に反して進行し、その結果、日本列島がミサイル攻撃の標的になるということである。この現実的な危機に総力で立ち向かい、日本の国益と平和を守る全国的な力の結集が待ったなしの課題になっている。

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