米軍FCLP基地計画に揺れる島
米軍空母艦載機陸上離着陸訓練(FCLP)基地の建設計画に揺れる鹿児島県馬毛島--豊かな漁場であることから「宝の島」とも呼ばれてきたこの島を丸ごと基地にして米軍に提供する計画をめぐり、目と鼻の先にある種子島では根強い反対運動がおこなわれている。住民の声や地方自治を無視して防衛省が強行する基地計画の過程を記録し、地元発の情報や問題点を全国的に共有するため、同県屋久島に住む夫婦がドキュメンタリー映画の自主制作に挑んでいる。現在、クラウドファンディングで資金協力を呼びかけている。
種子島市街地から12㌔西方に浮かぶ馬毛島は、無人島であったことから、2007年に硫黄島にかわる米海軍の空母艦載機の訓練基地に利用する案が浮上し、11年には日米安全保障協議委員会(2プラス2)の共同文書にその計画が明記された。地元自治体である西之表市は一貫して計画に反対し続けているが、国は民間所有者から島を買収し、種子島全域にアジア有数の大規模演習場を作る計画を策定し、地元の頭越しに手続きを進めている。
映画化にとりくんでいる川村貴志氏(51歳)は、北海道から屋久島に移住して19年。2007年に馬毛島に生息するマゲシカ(絶滅危惧種)の生態調査にかかわるなかで、変わり果てた島の状況を見てから問題意識をもった。「自然豊かな島は開発で無残に荒れ果て、上空から見てもすでに十文字の滑走路の姿がくっきり浮かび上がっていた。現地の人々の暮らしに多大な影響を与える計画でありながら、地元も知らないうちに基地化が進められていたことに衝撃を感じた」という。
2018年10月に種子島でおこなわれた日米共同軍事訓練。美しく静かな砂浜に、迷彩色のホバークラフトや水陸両用車などの武装車両が次々に上陸し、公園には軍用ヘリが着陸する。「基地でも演習場でもない、民間地での共同軍事訓練は全国初のこと。たまたま妻が借りていた家庭用ビデオカメラで撮影し、屋久島で動画を上映すると、若いお母さんたちの反応が強く、映像が持つ伝達力や影響の強さを感じた。それ以来、住民集会や防衛省の説明会、抗議活動、住民の生活や漁業者の声などを記録として撮り始めた」という。
長年撮りためた動画は、地元住民の間で活用され、情報を共有するだけでなく、住民の追及のなかで防衛省の説明が日々変化していくいい加減さや、地位協定によって米軍特権だけが守られる沖縄や他の軍事施設の現状など、問題の本質への理解を深め、論議するための材料となった。
現在、地元の種子島では「騒音などによる暮らしの阻害」と「経済の活性化」を天秤に掛けた対立と分断が持ち込まれ、防衛省が漁協幹部(自衛隊OB)を抱え込み、「賛成派の漁師のみを高額で雇いあげる形で漁協と提携したことから、極端な漁民の分断が進んだ。馬毛島を漁場とする組合員の多くが、基地化反対の姿勢を表明しているのに現状では少数派として黙殺されている。もっとも影響を受けるはずの馬毛島で操業する漁師への補償は今でも明示されていない」という。さらに「個人的に交付金をもらえる」「交付金が250億円」「税金が全額免除される」などの真偽不明な噂が垂れ流されて住民同士を混乱させている現状もあり、「これはおそらく、米軍基地を擁する沖縄や山口県岩国市の人々が、かつて歩んできた道だと思う。私たちは、いくつもの現場を見てきたことから真実を伝えることが使命と考え始めた」と貴志氏は語る。
馬毛島を中心にして地元の人々を描いたドキュメンタリー映画『島を守る』の制作を着想。アルバイトや画家としての創作活動の傍ら、妻の未菜氏(34歳)とともに、種子島に渡って撮影を続けてきたが、赤字が膨らむ厳しい資金難を補うため、全国の人々にも支援を募るオンライン上でのクラウドファンディングを立ち上げた。
「昨年8月に防衛副大臣が来島してからは動きのスピードが上がり、コロナ禍で集会や抗議行動ができない条件に便乗するように急速度で計画が進んでいる。作品を通し、全国の人々に馬毛島の豊かさと美しさを、そこに潜む基地の問題を知ってほしい。なにもない生地を日本政府が買収して軍事基地として開発し、アメリカに提供することは戦後初めてのこと。もしこれを許してしまえば、日本中のあらゆる土地に米軍基地をつくることを容認することになる。“国防のため”といわれるが、それを主張する人たちは戦争の前線には行かない。まず現場で起きていることを知り、そこで暮らしている人たちの生活の実態や声を聞いてもらいたい。きっと馬毛島や南西諸島だけでなく、日本の将来にかかわることだとわかってもらえると思う」と意欲を語っている。
クラウドファンディングの支援額は一口3000円からで、目標金額は250万円。締め切りは5月24日。インターネットで「クラウドファンディング 馬毛島」と検索して表示される専用ページから寄付ができる。寄付者には金額に応じてオンライン鑑賞券などのグッズを進呈する。映画は2023年公開予定で、それまでにユーチューブで短編動画を随時公開していくという。
クラウドファンディングサイトはこちら↓
https://motion-gallery.net/projects/mageshima