安保法案の強行採決に批判世論が冷めやらぬなか、安倍政府が唐突に“新3本の矢”なる政策を持ち出して人気とりに励んでいる。内閣支持率が下降線をたどり、ますます自民党と公明党に厳しい視線が注がれるものだから、ここは一発デカイ「夢」なり「希望」に目線をずらし、話をすり替えてしまえ! という願望を丸出しにしている。世論に脅えているくせに、心底、国民を愚弄した政府である。
“新3本の矢”では、①希望を生み出す強い経済(GDP600兆円を目指す)②夢をつむぐ子育て支援(現在1・4の出生率を1・8に)③安心につながる社会保障(介護離職ゼロの実現)を掲げ、「一億総活躍社会」を目指すのだ! と宣言した。内閣改造によって、女性活躍大臣、地方創生大臣に加えて、今度は一億総活躍大臣が新設されるようだ。いったい何を仕事にする大臣なのかもわからない。それで「アベノミクスはいよいよ第2ステージに突入した」のだといっている。
ここで思うのは、「新3本の矢」以前に「旧3本の矢」で日本社会はいったい何がどうなったのだろうかという点だ。「アベノミクスの第1ステージ」によって、国民生活は何か一つでも良い方向に向かっただろうか。日銀による異次元の金融緩和で、円安効果もあって株価だけは跳ね上がった。しかし企業がもうかれば下下も所得が上がるという理屈など絵空事で、市場に吐き出されたマネーは外資や金融資本がみな食い物にして庶民の生活には回らなかった。むしろ物価高騰や消費税増税のおかげで負担は増大し、GDPはマイナスに傾いた。拠り所となった株価でさえ、最近は怪しい値動きをくり返し、リーマン・ショックを上回る出来事がいつ起きるのか? 金融爆弾はいつ弾け飛ぶのか? が秒読みである。量的緩和によって実体のともなわない金融派生資本だけが焼け太りして、マグマを蓄積しているからである。
3年前もそうだったが、歯が浮くような言葉をちりばめて平気でホラが吹けるという点で、反知性主義者として天性の才能を持ちあわせている男が首相をやっている。しかし、如何せん言葉や願望だけが宙を舞って、実体がともなわないのである。結果、首相の口から飛び出してくる大きな話に世論が乗らず、「また調子の良いことをいっている」と受け止めているのが今日的な世論の特徴である。
「1億○○」という言葉で思い出すのは、かつての天皇制軍国主義が「進め1億火の玉だ!」と進軍ラッパを吹き鳴らし、戦後は「1億総懺悔」といって権力者の戦争責任を国民に転嫁した記憶である。戦争犯罪人の末裔が自覚しているのか無自覚なのか、「1億○○」という言葉を弄んでいる姿への違和感も強い。 吉田充春