電撃的だった米朝会談実現の発表に続いて、今度は北朝鮮労働党委員長の金正恩が中国を訪れ、国家主席の習近平と会談して驚かせた。さらに、4月には非核化に向けた南北首脳会談を開催することも発表されるなど、朝鮮半島情勢を巡って急速に事態が動いている。
朝鮮戦争の休戦協定を平和条約に切り替えるためには、協定に署名したアメリカ、北朝鮮、中国が半世紀以上を経たなかでどう動くかにかかっている。このなかで、当事者である韓国と北朝鮮の直接対話を軸にして、東アジアに平和と安定をもたらす方向へ進んでいくことに期待が高まっている。日本社会にとっても、「ミサイルが飛んでくる」といって頭を抱えてしゃがんだり有事の真似事をするよりはるかに望ましいことだ。一連の急展開に日本の外務省や政府、メディアが置いてけぼりになっているのに比べて、北朝鮮、さらに韓国の外交能力やしたたかさの方が際立っているではないかと痛感している。はるかに独立国家としての主体性をもって外交を展開しているからだ。
目下、安倍政府が「圧力外交の成果だ」と自画自賛しているのには、蚊帳の外に置かれながら何を言っているのだろうか? と驚かされるものがある。ただ同時に、この認識から浮き彫りになることがある。それは、北朝鮮が日米の圧力外交に屈服し、恐れおののいたから対話に乗り出してきたと捉えていることである。でなければ「圧力外交の成果だ」という言葉にはならない。アメリカまで届く大陸間弾道ミサイルの開発をやり遂げたということは、もはや一方的な軍事力の展開や恫喝では封じ込めなどできず、米国にとっても対話しか道は残されていないことを意味する。従ってトランプと安倍晋三以外の国はみな対話路線を主張していた。そのような世界情勢の変化に照応して新段階へとステージは移り、さらに韓国国内の情勢も一変しているなかで米朝会談に発展しているのに、まるで認識が取り残されているのである。韓国や中国、同盟国であるはずのアメリカからも情報をもらえずに…。
東アジア情勢に日本政府がまるでついていけていないことは、最強官庁こと財務省のていたらくよろしく「外務省よ、オマエもか…」と思わずにはおれないものがある。この重要な変化をまえにして、独立国としての主体性がないが故に米国や中国、あるいは韓国からも特段必要ともされず、頼りにもされず、それらの国にリアルタイムの動向を教えてくれる独自のパイプや情報源を持ち合わせていないのだろう。そうして、ミサイルだけでなくすべてが頭越しで展開していき、米朝会談が発表されれば「エー!」と驚き、中朝会談を知ると「ウッソー!」と大騒ぎになり、内政では私物化問題ですったもんだしているのが安倍政府である。アメリカの付属物に成り下がった喧嘩腰外交は破綻した。意見の異なる者と対話ができない者に外交など望めないなかで、その面からも衣替えが迫られている。 武蔵坊五郎