「この道を力強く、前へ」行ってしまうと、崖から転落しかねないのがアベノミクスの現実の姿で、口汚い人は「道半ば(なかば)」を裏返すと「バカな道」なのだと悪口をいっている。気付いた時には金融資産がスッカラカンになっていたともなりかねないからだ。
昨年の中国ショックや今年に入ってからのEU離脱騒動など、世界で何か事あれば日本の株式市場や為替相場がもっとも激しく乱高下し、外資ファンドに弄ばれてきた。日銀ともども官製相場をつり上げるために突っ込んできた燃料(年金、金融資産)は消失しかねない勢いだが、かといって今資金を引き揚げればさらに暴落に拍車がかかり、高値のときに投入した年金資金の焦げ付きを拡大させかねない。水膨れさせ過ぎた弊害がそのまま跳ね返ってくる構造のなかで、進むも地獄、去るも地獄なのが本音だろう。
政府はGPIF(公的年金資金)の運用実績について発表時期を参院選後にずらし、選挙に影響が及ばないように必死だ。しかし、昨年度だけでも5・5兆円の運用損失であることが一部メディアによって報じられ、モルガン・スタンレーMUFG証券は引き続く今年度の4~6月期も4・4兆円を失った模様だと試算を公表した。およそ10兆円が吹き飛んだことになる。
GPIFの資金運用配分比率を変更したのは2014年10月末だった。それまで国内株式には12%としていた運用比率を25%に倍増させ、さらに外国債券を11%から15%へ、外国株式を12%から25%へ、外国証券を23%から40%へと大幅に引き上げた。そうして一方では日銀のマネー供給で円安を作り出し、公的資金を注ぎ込んだドーピングによって株価は上がり、海外で「バイ・マイ・アベノミクス!」(アベノミクスは買いだ!)などといっていた。
しかし、そろそろ量的緩和も限界を迎えた。為替相場も円高に切り替わり、連動して株価も急降下しはじめた。心配なのは株式市場に溶かした年金資金だけではない。円高によって政府の持っている外債すなわち大量に買わされた米国債の日本円換算での価値が減ることも無視できない。半年前と比較して、この為替評価損失だけでも20兆円を超えるという指摘もある。
アベノミクスとは結局のところ高燃費低出力の経済政策で実体経済は何も上向かなかった。喜んだのは金融資本だけだった。そして、青ざめるような結末を迎えようとしている。中央銀行や国民の年金をオモチャにした責任は重く、日銀総裁の黒田東彦と首相の安倍晋三がきっちりと落とし前をつけなければ誰も納得しない。 武蔵坊五郎