平昌五輪の開幕式は南北に分断されてきた朝鮮半島において、統一の願いが民族の血流のなかに強く脈打っていることを教えられるものだった。統一旗を振って南北合同で入場してきた選手たちの姿は、全世界の人人が朝鮮半島の歴史やその後も続いている分断の要因に思いをはせ、考えるきっかけをつくった。「五輪の精神は敬意や理解だ。平昌五輪が朝鮮半島の明るい未来の扉となることを願う」と述べたIOCのトーマス・バッハ会長(ドイツ)の挨拶は、そのような大会にするのだというIOCの強い意気込みを感じさせるものでもあった。このことが契機となって南北対話が本格的に動き始め、武力衝突ではなく平和的に物事が進み始めるなら、東アジア地域にとってこれほど望ましいことはない。あの非科学的で反知性主義丸出しのミサイル避難訓練を実施するよりも、はるかに現実的で解決の道筋を探る方向だ。
五輪開催中にアメリカは再び米韓合同軍事演習で挑発しようとしていた。それに対して韓国大統領の文在寅が延期を要求し、1月には長年遮断していた板門店の南北直通電話の回線が復活した。そして高官による南北会談が実現し、「当事者間で平和的に解決する」との共同宣言を発表するなど、南北は民族的な和解と団結を求めて歩み始めていた。今回の五輪には北朝鮮から金正恩の実妹である金与正や最高会議委員長の金永南が訪韓し、今度は文在寅に訪朝を呼びかけるなど、さらに踏み込んだ関係に発展する動きを見せた。世界が注目する五輪を舞台にして、いっきに事を動かした南北両者の手腕は見事で、したたかさを備えていたとも思う。米国が身を乗り出す武力衝突では朝鮮民族にとって再び悲劇を引き寄せることにしかならず、なにがなんでもこれを回避させるという強い意志を感じさせた。
浮き上がっていたのが日米で、米国副大統領のペンスは、レセプションにおいて同席するはずだった北朝鮮代表団とだけ挨拶も握手もせず、五分でそそくさと退席した。目の前で南北が対話に踏み出していくのに対して、居心地が悪かったのか逃げていく行為となった。国際社会が集う場でどっしりと会場に座っているのが北朝鮮代表団で、その場から去って行くのがアメリカなのだった。
「ほほえみ外交に欺されるな」「五輪の政治利用はけしからん」といって、例の如く日本国内でもメディアが難癖をつけている。米政府の気持ちを代弁するかのような忖度報道だ。なぜ彼らは緊張緩和に向かうことが喜べないのだろうか。アメリカの尻馬に乗って南北分断を喜ぶ心境や、ほほえむことを嫌悪し、にらみ合うことを望む心境にこそメスを入れるべきだろう。
安倍晋三は日韓首脳会談で「米韓合同軍事演習を延期する段階ではない。予定通り進めることが重要だ」と求め、文在寅から「我我の主権の問題で内政問題だ」とはねつけられたという。他国に軍事行動を指示する非常識にも驚かされるが、ひょっとして植民地時代のオーナー意識も爺さんから引き継いでいるのではないか? と真顔で考えたりするのだった。 武蔵坊五郎