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加計の補助金をiPS細胞研究所に回せ

 京都大学・iPS細胞研究所に所属している助教(36歳)が論文不正をおこなっていたことについて、同研究所の山中伸弥所長(2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞)が深刻な面持ちで謝罪していた。再生医療の発展を願うしかない凡人にとっては、だからといって山中教授率いる研究者グループがつまらないのだと評価を加えたり、助教に目くじらを立て、口の先を尖らせて批判するような気にはまるでならない。不正そのものは残念ではあるが、最先端の研究について訳のわからない者として、ただ科学や医療の発展に期待を寄せ続け、「頑張れ、頑張れ」と温かく応援するしか術はないからだ。

 

 以前騒ぎになった理研のSTAP細胞を巡っては、研究員の小保方氏個人を袋叩きにしたり、その上司である研究者が自殺に追い込まれるほど報道が過熱し、悪のりにもほどがあった。問題の本質は、「なぜ科学を探求するものが、自分でもわかっていて嘘や不正に手を染めなければならないのか」だ。名をはせるため、あるいは立身出世のために目先の研究成果をねつ造したとしても、科学の世界では虚飾など通用しない。真理真実こそがたどりつくべき目的地であり、不正などいずれ見抜かれることはわかるはずなのに、どうして研究者たちは追い立てられているのか、何に追い立てられているのか、である。これを「30代助教や准教授の焦り」だけに矮小化しては構造的な問題は何も解決しない。代償はあまりにも大きいのに、なぜやってしまうのかを問うべきだろう。

 

 大学に対する国の予算配分が毎年のように削られ、研究費が満足に得られない状況がどこでも強いられている。そのなかで論文数だけが求められたり、目先の成果主義に追いまくられるようになったと多くの学者たちが指摘してきた。必然的に研究は浅薄なものになり、日本の学術レベルの低下にもつながっている。再生医療の未来を背負っているiPS細胞の研究とて、山中教授が寄付金集めに奔走したり、クラウドファンディングに頼らなければ研究資金すらおぼつかないのが現実だったようだ。そんなことなら、加計学園の「獣医学」とやらに注ごうとしていた補助金等等の類いをみな京都大学・iPS細胞研究所に投入した方が、日本の医療だけでなく世界の医療の発展のためにも、はるかに役立つではないかと思う。

 

 行き過ぎた成果主義やプレッシャーに追いまくられている状況から解放して、科学者がのびのびと研究にうちこめる環境を確保することが大切だ。少なくともiPS細胞については、山中教授が寄付集めに走り回り、資金繰りを心配しなければならないような状況では話にならない。カネの心配に浪費される科学者の脳味噌をiPS細胞に全力集中してもらい、世界の医療の発展のために国が支えるべきものだろう。文科省も加計とか森友を忖度する前に、iPS細胞研究所を忖度せい! と思う。凡人にできることは、外野席から「論文不正」にヤジを飛ばすことではなく、研究者たちが研究に専念できる環境を求めることなのかも知れない。         武蔵坊五郎

 

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