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「異次元」を乱用する異次元の男

 北朝鮮情勢を巡って「異次元の圧力」などと叫んでいるのは安倍晋三だけだろう。言葉の選択も含めて、もう少しどうにかならないのだろうか…といつも思う。

 

 時間が経つにつれて各国首脳の発言や政府コメントには本音が出始めているが、「核実験を非難する」=武力行使容認、制裁容認ではなく、それでは解決にならないと見なして対話による解決を求めている国が大半だ。安保理の制裁決議は、ロシアや中国など常任理事国が一カ国でも反対すれば成立しない。国際社会の駆け引きはもっぱら当事者の北朝鮮を飛び越え、この米ロ、米中の攻防に移っている。

 

 トランプが顔を真っ赤にしている相手は金正恩なのか? はたまたロシアのプーチンなのか? 中国の習金平なのか? アメリカはこの間、北朝鮮への経済制裁を徹底せよとロシアや中国に圧力を加え、安保理決議への協力を求めてきた。それに対して、中国は北朝鮮への非難を表明しつつ、同時にトランプ政権に対して、「北朝鮮を先制攻撃した場合は北朝鮮を支援し、中国企業への制裁についても報復する」と警告したことが報道されている。韓国へのTHAAD(高高度防衛システム)ミサイル配備についても、中国はそれが自国抑え込みを意図していることから反発してきた。

 

 さらに、シリア問題やウクライナ対応を発端にしてアメリカはじめ西側諸国から経済制裁をくらい、アメリカとは双方の国に滞在する大使館員の追放合戦をくり広げるなど揉めているのがロシアだ。プーチンは北朝鮮対応について「どのようなものであれ、この状況下で制裁という手段に訴えても無駄だし効果もない」「(制裁強化や軍事力の行使について)地球規模の大惨事につながりかねず、膨大な数の犠牲者が出るだろう」と懸念を示し、話し合いによる解決を呼びかけ続けている。そして、「北朝鮮は雑草を食べることになったとしても、自国の安全が保障されない限り(核開発の)計画をやめない」と述べ、ロシアに制裁を科す米国が北朝鮮への制裁でロシアに協力を求めている状況について「ばかげている」と一蹴している。

 

 北朝鮮が要求しているのは、朝鮮戦争を終結させて平和条約を締結することと、朝鮮半島を脅かしている在韓米軍を撤退させること、さらにその後の体制保障である。これにアメリカがどう向き合うのかが、朝鮮戦争以来、何十年と続いてきた朝鮮半島を巡る矛盾の中心問題だ。核ミサイルを製造する“ならず者国家”というだけでは歴史的な文脈が抜け落ちたものにしかならず、きわめて一面的といわなければならない。いわんやそのような理屈に乗って「異次元の圧力」を加え、原発を抱えたままミサイルの撃ち合いすら厭わないというのは、「異次元の馬鹿」しか考えつかないことだ。

 

 冷戦が終結した後も、引き続き米国とどう対峙するかが東アジアにおいて重要な問題になっている。軍事的にも経済的にも、どう各国が連携して東アジアの安定を作り出すかが問われている。対北朝鮮だけで事は動いていないのである。     武蔵坊五郎

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